不思議なペンダント 4
エフィ様がブーツの先でツンツンとパメラのことを恐る恐る突くと、その度にパメラから苦しそうな声が聞こえた。パメラは大きさが戻ったのと同時に耐久性も戻ってしまっていた。
「パメラ……! 大丈夫?」
わたしは慌ててパメラの方に駆けたけれど、それなりに距離があったからすぐには駆けつけられない。それより先にエフィ様が安堵の表情を浮かべる。
「な、なんだ。脅かすんじゃないわよ……」
エフィ様が大きく息を吐いた。そして、高笑いを浮かべる。
「よくわかんないけど、さっきの大きさになるのはもうできないみたいね!」
エフィ様は靴を大きく掲げて、パメラの上に影を作った。
「このエフィ様をびっくりさせた罰よ。あんたはエフィの靴でペチャンコになっちゃいなさい」
そう言って、勢いよく踏み潰そうとする。
「やめてよ!!!」
わたしがそう叫んだのほとんど同時に、「やめなさい、エフィ!」と地区中に響き渡るはっきりと大きな声がして、エフィ様の足が止まる。慌てて何もない地面にブーツが下ろされた。
「エフィ、あなた何をしているのですか?」
急ぎ足で、ドスンドスンと地響きを立ててやってきたのは、わたしたちを管理するメイドだった。
「フィ、フィオナお姉ちゃん、違うのよ……。その……、このパメラって子がエフィのこと虐めてきたから、ちょっとだけ脅かそうとしただけで、本気で踏み潰そうと思った訳じゃないのよ……?」
わたしたちを管理しているメイドがフィオナさんということも初めて知ったし、エフィ様がフィオナさんと姉妹なことも初めて知った。
おそろおそるエフィ様は自分よりも大きなメイドであるフィオナさんのことを上目遣いで機嫌を伺うようにして見上げていた。
「殺してしまうと、一線を越えてしまうと、そう言いましたよね?」
「だ、だから、エフィ、ちょっと揶揄っただけだよ? 本気で踏み潰すわけないよー!」
エフィ様が泣きそうな声でフィオナさんのことを見上げていた。
「なら、エフィの言葉を信じますが、もし本当に殺してしまった時は、わたしはエフィのお姉ちゃんをやめますからね?」
「わ、わかってるわよ!」
エフィ様がポロポロと涙を流すから、川の上に落水したエフィ様の涙が、次々と水柱を立てていた。よくわからないけれど、とりあえず、パメラは踏み潰されずに済んだみたい。わたしが急いでパメラの元に駆け寄ろうとしたのに、次の瞬間、わたしの体がふわりと浮かんだ。地面の上を走っていた足が宙を蹴っていた。何か大きなものに摘み上げられている
「な、何!?」と困惑するわたしの後ろから、殺気を纏った声が聞こえる。
「見〜つ〜け〜ま〜し〜た〜よ〜」
背中側からフィオナさんの声がしたということは、わたしを握っている謎の手はフィオナさんのものか……。恐る恐る後ろを振り向くと、怖い笑みを浮かべたフィオナさんがいた。
「ひいっ……」
「持ち場につかない子は厳罰、そう言いましたよね?」
「いや、その……」
怒っているフィオナさんを見て、エフィ様が恐る恐る「エ、エフィ、もう帰るねー」と言って、気を失っていた足元のパメラをを摘み上げて、ポケットの中にしまってしまった。
「さ、あんたたちも早くついてきなさい。遅くなった子は、今日はエフィの足の掃除させるからね」
そう言うと、また足元のエフィの管轄の一般市民たちが、揺れる地面を転ばないようにしながら、必死に走ってエフィ様についていくのだった。どんどん離れていくエフィ様に向かって、わたしは大きな声をだした。
「ま、待って、パメラを返して!!」
わたしは宙で必死に手足をバタつかせるけれど、服の襟元を摘まれているせいで、まったく動けなかった。
「あまり動くと落ちますよ」
「なら地面に置いてよ! パメラが連れて行かれちゃう!!」
「あの子は元々エフィの管轄の子なのですよ。なら、エフィがきちんと面倒を見るべきです」
「パメラはわたしの友達なんだから、そばにいさせてください!」
「できませんよ。わたしもあなたも、エフィも、そしてそのパメラって子も、みんな等しくエルフ様たちのために生きているのです。だから、エルフ様の意向に逆らって、管轄間の移動を勝手にさせることはできません」
フィオナさんに融通を効かせてもらうことが無理なことは理解しているつもりだったのに、エフィ様からパメラを守ってくれていたみたいに見えたから、つい頼ろうとしてしまった。わたしとしたことが……。そう思ってがっかりしていると、フィオナが「そういえば……」と切り出す。
「何ですか?」
「労働をサボった罰を受けていただく必要がありますので、そのつもりにしておいてくださいね」
「うぅっ……」
目の前が一気に暗くなった気分だった。