不思議なペンダント 3
「王女様じゃん……」
あまりの神々しさに、わたしはぼんやりとパメラを見上げたまま固まってしまっていた。ていうか、わたしだけでなく、たくさんの追手の子たちや、エフィ様まで呆然と見上げていたし、パメラ自身も突然大きくなってしまったことにまだ困惑していた。まるで時間が止まったみたいにみんなの動きが止まる。そんな中、一番に口を開いたのがパメラだった。冷静に状況を理解してから、小さく息を吸った。
「さあ、踏み潰されたく無かったら、今すぐ道を開けてください」
足元に群がるエフィ様の追手の子達に向けて、パメラが話しかけた。ジッと見下ろすパメラの神々しさに固まっていた足元の子たちがサッと左右に分かれて道を開けようとした瞬間に、エフィ様も震えながら声を出す。
「か、壁をつくりなさい! パメラがエフィに近づけないようにして! エフィのところにパメラを近づけたら、タダじゃおかないわよ!!」
エフィ様の声を聞いて、またみんながパメラの道を塞ぐみたいに前方に集まってきた。
「わたしに道を開けてくれたら、エフィ様はやっつけてあげます。今わたしとエフィ様のどちらを信用したら良いかはわかりますよね?」
「パ、パメラからエフィのことを守りなさい! 逃げたやつはみんなエフィがこの場で丸呑みしてあげるわ」
上空から見ている二人は気づいていないだろうけれど、足元ではかなりの混乱が起きていた。パメラにエフィ様を倒してもらいたい気持ちと、エフィ様が怖くて逆らえない気持ち。悲鳴をあげている子も多かったし、中にはパニックになって泣いている子たちもいる。彼女たちはどちらを選んでも怖い思いをさせられかねない、嫌な2択を迫られているのだ。
「さあ、今すぐパメラに攻撃してしまいなさい!」
エフィ様の声が響いた。追手の子たちが束になっても、今のパメラには敵わなさそうだけど、みんな震えながらパメラの足元に集まってきた。
「ちょ、ちょっと、来ないでください! 間違えて踏み潰してしまいそうですから!!」
パメラは逃げるようにして、慌てて背後にあった川に入った。わたしたちの背丈くらいの深い川でも、今の巨大化して綺麗なガラスのヒールパンプスを履いているパメラなら、くるぶしのあたりまでしか、水は浸かっていなかった。
「そっか、ここからなら誰も踏まずに渡れますね」
一度川に入ったパメラは、わたしたちなら流されてしまいそうな速い流れの中を簡単に上流まで移動すると、もう追手の子たちは着いていけなくなってしまっている。そうして陸に上がったパメラは地面にヒールの穴を開けながら、先ほどとは逆方向、追手が一人もいない方向からエフィ様に近づいていく。
「パメラがんばれ!」
何もできないわたしは少し離れた地面からパメラを見上げて応援をした。
「く、来るな! こっちに来ないで!!」
エフィ様が怯えた声でパメラに背中を向けて逃げ出そうとした。多分、そのまま進めば追手の子たちを踏み潰してしまうような方向に足を踏み出そうとしたから、足元からはものすごい悲鳴が上がっていたけれど、それより先にパメラの長い腕が簡単にエフィ様のことを捕まえてしまった。
「痛いから! は、離してよ!」
握られた手首を振り払おうとブンブン振っている。その風が地面まで届いているから、多分あのエフィ様の手が当たったら、わたしたちはみんなまとめて吹っ飛ばされてしまうだろう。けれど、パメラは何ら苦もなく掴んだままにできていた。今のパメラなら、本当にエフィ様のことを簡単に倒せてしまいそう。今のエフィ様は、パメラから聞いていた意地悪な暴君と言うよりも、歯医者を嫌がる子どもみたいにしか見えない。少なくとも、今のエフィ様に怖がる要素は無さそう。
「エフィ様、今すぐわたしを見逃して逃がしてくれればすべて無かったことにしますよ」
「わ、わかったわ! 見逃すから。もうパメラのことは追いかけない」
「なら、今すぐあなた一人で花園へ帰ってください」
「一人でって、この子たちも連れていくわよ!」
「一緒に帰っても意地悪しないって約束できますか?」
「する! するから! 早く離して!!」
「仕方ないですね……」
パメラはあっさり離してしまった。多分、こういう詰めの甘い優しいところはパメラの長所であり、弱点なのだと思う。だから、エフィ様との交渉を完全に終わらせる前に、また窮地に陥ってしまうのだ。
次の瞬間、パメラの体が軽くふらついた。
「あれ……?」
大きな影がフラリと揺れてから、わたしたちを覆っていたパメラの影がどんどん小さくなっていく。日陰になっていたのに、また太陽の元にわたしたちは出された。
「えっと……」
わたしも追手の子たちも困惑している中、一人エフィ様だけが安堵の表情を浮かべていた。せっかくエフィ様よりも大きくなっていたパメラの体がみるみる小さくなっていく。そうして、あっという間に、元のサイズに戻ってしまった。エフィ様の厚底ブーツのすぐ目の前に、簡単に踏み潰されてしまいそうな、ボロ布を着たパメラが力無く横たわっていたのだった。