不思議なペンダント 2
死に物狂いで追いかけてきているエフィ様の追手たちとの距離はどんどん近づいていく。このままだと、追いつかれてしまうのも時間の問題であった。
「ねえ、この川渡って逃げようよ」
「こんな流れが早くて深い川を渡るなんて労力と結果が合いません。エフィ様が数歩で渡り切れる川をわざわざ体力を大幅に消耗してまで渡る必要性がありませんから」
たしかに、パメラの言う通りだ。わたしたちが入ったら頭まで浸かってしまいそうな深い川だもんね。
とはいえ、そうなるとわたしたちに残された選択肢は川沿いを走る以外にない。だから必死に走ったけれど、エフィ様からのお仕置きを避けるために、エフィ様の起こす振動に耐えながら必死に追いかけてくる追手にはすぐに追いつかれてしまった。背中側には幅15mほどの川。そして正面には半円状に100人近くの追手にグルリと囲まれてしまった。もう逃げ場はない。
「パメラお嬢様、お願いですからエフィ様の元に戻ってください……」
追手の一人が体を震わせながら懇願するように頼み込む。
「どうしよう……」とパメラは小さな声で呟いている。万策尽きてしまった。もうここから逆転できる方法なんてないだろう。
群勢がわたしたちを囲み、その後ろから、わたしたちのことをひと蹴りで蹴散らせてしまえそうな、厚底のブーツを履いたエフィ様がこちらを見下ろしていた。
「面倒だから、さっさと捕まえてしまいなさい」
その声を聞いて追手の少女たちは怯えたようにパメラの方を見た。無数の視線がわたしの横にいる綺麗な銀髪少女の元に向かっている。
「あ、あの、なんとか見逃してもらえませんか……?」
パメラが泣きそうな声で言うと追手の中でも一番前でリーダー的な振る舞いをしていた人物が苦しそうに首を横に振った。
「気持ちはわかりますけど、わたしたちも見逃してしまえばエフィ様に何をされるかわかりませんから……」
その声に続いて、彼女の後方から文句の声が聞こえる。
「パメラだけ逃げるなんてずるいわ!」
「エフィ様にお仕置きされるわたしたちの身にもなりなさいよ!」
「裏切り者!」
堰を切ったようにみんなが声を出す。一番前にいた彼女がまた申し訳なさそうな声を出す。
「すいません、パメラお嬢様。こういうことですので、見逃すわけにはいかないんです。大人しくわたしの手を取ってくれれば、痛くないように捕まえますから……」
「嫌! 嫌よ……!」
パメラがギュッとわたしのことを胸に埋めるみたいにして、抱き締めてきた。
「ねえ、サーシャ、助けてよ。わたしを救ってよ!」
無茶言わないでほしいなぁ。こんな100人近くの子たちに取り囲まれている上に、その奥にはその子たち全員で立ち向かっても到底敵わない巨大なエフィ様がこちらを見下ろしているんだから。
「せめてわたしたちがエフィ様より大きければなぁ……」
そうしたらパメラを助けることなんて簡単にできるのに。せめてパメラだけでも大きくなれば、もうエフィ様に怯えなくても済むのに……。そんなことを思っていると、パメラの胸元から眩い光が生み出される。
「今の……」
昨晩暗闇で光ったランタンみたいに明るい光と同じだ。
「何、今の……」
パメラも光の正体がわからないらしく、慌ててわたしの体から離れて呟いたのと同時に、信じられないことが起きた。
「ねえ、パメラ……」
元々わたしよりパメラの方が背が高いから、普段からパメラのことはほんの少し見上げていた。けれど、今はそんなレベルの見上げ方ではない。パメラも驚いた顔でわたしのことをジッと見下ろしていた。
「ねえ、サーシャ、わたしどうなってるの……?」
「大きくなってるよ……」
なぜかわからないけれど、パメラの体があっという間にエフィ様と同じくらいまで大きくなった。いや、まだ幼いエフィ様と、元々高身長なのに、いつのまにか、先ほどまでは履いていなかった高いヒール靴を履いているパメラが並んでいるから、パメラの方が圧倒的に大きく見えた。
汚れ切っていた衣服は綺麗なドレスになり、靴は綺麗なガラス製のヒールパンプスになっているし、知らない間に手にはオペラグローブまでつけて、頭には宝石の散りばめられたティアラが付いていて、太陽に反射して煌めいていた。わたしはパメラのヒールパンプスのヒール部分にも満たない体で、パメラのことを見上げた。その姿は、どこからどう見ても神々しくて綺麗な巨大お姫様だった。