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マイペースな銀髪少女 6

わたしはパメラの横で眠りにつく。時計が無いからわからないけれど、もう夜の12時は回っていると思う。

「あと4時間もしたら、パメラを探しにたくさんの人が押し寄せてくるんだよね……」

周囲はシンと静まっていて、綺麗な虫の音も聞こえる。静かな外の雰囲気からして、そんな大騒動が明日にでも起きるなんて信じられなかった。


「ねえ、パメラ。本当にエフィ様が来るの?」

当の本人がスースーと気持ちよさそうに眠っているし、パメラが疑心暗鬼に陥ってしまっているだけで、本当は来ないのではないだろうか。そんなことを思っていると、突然パメラが大きな悲鳴を出した。


「や、やめてください!! エフィ様!!! 助けてください!!!」

「ど、どうしたの!? わたしはエフィ様じゃないよ!」

慌てて起き上がって座ってから、息を荒げているパメラを見た。綺麗な顔に冷や汗をかいて、大きな目をグッと見開いていた。


「ゆ、夢ですか……」

そのまま、わたしにギュッとパメラが抱きついてくる。サラサラとした長い髪の毛がわたしの頬に触れていた。

「ご、ごめんなさい、サーシャさんのこと抱きしめて眠っても良いですか……?」

「別に良いけど……」


再び横になって、パメラに抱きしめられながら眠る。小柄なわたしは背の高いパメラにとって、抱き枕みたいなサイズでちょうど良いみたい。気持ちよさそうに再び寝息を立てていた。パメラの寝息がわたしの前髪にかかるから、その度にくすぐったくなった。


パメラが優しく抱きしめてくれるから、安心感があるけれど、その代わりちょっと暑くて寝苦しかった。わたしを抱いてからは、さっきよりもは落ち着いているけれど、それでもパメラは時々うなされていた。

「よっぽど怖いんだろうな……。ここにはエフィ様はいないんだから、今くらいゆっくり眠れたら良いのにね」

そんなことを呟きながら、ソッと髪の毛を撫でてあげ瞬間に、パメラの汚れたワンピースの胸元あたりで何かが一瞬だけ光った。

「な、何!?」


一瞬だけランタンの光で照らしたみたいに明るくなってから、また元通りの暗闇に戻る。明らかに異常なことが起きたけれど、パメラは何も気になっていないみたいで、むしろさっきよりも眠りは深くなっている気がする。まるで何事も無かったかのように、元の暗闇の中にはパメラの寝息と外から聞こえる虫の声だけが響いていた。

「今のなんだったんだろ……」

そうやって、またパメラの髪の毛をソッと触りながら眠っていたら、わたしもいつの間にか眠りについていた。


それからしばらくして、わたしを起こしたのは、外から聞こえてきた無数の足音だった。

「ほんとに来たんだ……」

体が揺れるような振動ではないから、巨大な人が歩く時の振動ではない。わたしたちと同じくらいのサイズの人がたくさんやってきているのがわかる足音。怖いくらいの数。それが間違いなくこちらに向かってきている。わたしは息を呑んでから、慌ててパメラに声をかける。


「ね、ねえ、パメラ」

眠っているパメラの体を思いっきり揺らした。

「どうしたんですかぁ。まだ眠たいんですけど」

パメラが呑気に大欠伸をしている。この子、ほんとにピンチの真っ只中にいるんだよね……? なんだかわたしだけ慌ててるみたいで恥ずかしいんだけど。


「この音……。来てるんじゃない?」

わたしが言うと、耳を澄ませて外の音を聞き出したパメラの表情が一瞬で青ざめた。そして、小さく頷く。

「サ、サーシャさん、何とかしてください」

わたしの手を、両手を震わせながら握ってくる。

「何とかって言われても……」

音だけ聞いても軽く100人はいるし、撃退なんてできないよ。わたし喧嘩めちゃくちゃ弱いし。1対1でも負けちゃうと思うから。


「と、とりあえず逃げよ!」

わたしたちは群勢がこちらにやってくる前に小屋の外に出て、駆け出す。駆け出したわたしたちの姿は、たくさんの視線からは逃れることはできなかった。

「あ、パメラお嬢様が逃げましたよ! あっちです!」

追手は全員ドール人形に着せるようなパステルカラーの可愛らしい服を着ていた。みんな服は汚れてしまっているから、まるで年季の入ったお人形さんみたいだった。女の子しかいないのは、多分エフィ様の趣味なのだろう。


「は、早く逃げなきゃ!」

わたしは慌ててパメラの手を握って走り出す。とにかく追手を撒かなきゃ。幸い距離にして追手との距離は200メートルほどあったし、追手たちが履いていた靴が厚底で、機能性を完全に無視していたおかげで、走るのが速い人もいなかった。エフィ様は来ていないみたいだったから、余裕を持って撒くことができた。そうしてしばらく走って、完全に見失ってもらった頃に、木々に囲まれた川のほとりで息を整える。


「お水、美味しいですね」

両手で川の水を掬って勢いよく飲んでいるパメラに思わず見惚れてしまう。川に反射した光がパメラを照らしている。暗闇の中で見た時にも綺麗で驚いたけれど、今の微笑むパメラはそのまま透き通ってしまいそうなくらい透明感に溢れている。そんな彼女を見ていると、先ほどの追手の声を思い出す。

『パメラお嬢様』

わたしたち一般市民は基本的には対等である。けれど、この子はお嬢様と呼ばれていた。でも、今の彼女の姿を見ていたら、確かに間違いなく気品溢れるお嬢様である。やっぱりこの子は只者ではなさそうなんだよね……。


「サーシャさん?」

わたしがぼんやりとしてしまっているから、パメラがまた声をかけてきた。

「え?」

「なんだかぼんやりしてましたけれど、どうしました?」

覗き込んでくるパメラの表情にドキッとしてしまった。言動は子どもっぽいのに、彫りの深い顔つきが芸術品みたいに美しくて、息が止まってしまいそうだった。


「こんなの、パメラお嬢様じゃん……」と小さく呟いた。

「え?」

「ううん、なんでもない」

お嬢様の敬称は、確かにこの子によく似合うと思う。

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