わたしたちの日常 1
灼熱の太陽が降りしきる中、わたしたちは小さな体で一列になって穀物の入った重たい袋を背負って歩いた。監視をしているメイドの機嫌を損なわないように、150センチに満たない小さな体のわたしも、200センチ近い大男も同じように必死に穀物を運んでいた。
監視役のメイドの視点から見れば、小さなわたしたちは働き蟻のように見えているのだろうか。この国では、巨大なエルフ様たちの広大な胃袋を満たすために、一人一人が毎日死に物狂いで働くのだ。
この世界は、たった20人程のエルフの少女たちの為にある。わたしたちは生まれながらにして、彼女たちが快適に生きるための労働の手駒になるのだ。
だから、わたしは今日も炎天下、作物の収穫をして、荷馬車まで運ぶ。ただでさえ小柄なわたしにはとても過酷な作業だけれど、そうしなければ、食事をすることができない。朝の6時から夜の9時まで、きちんと労働をすることで、ようやく2食の食事が与えられるのだ。
わたしたちの収穫した作物の大半はエルフとそのお付きのメイドのためのものになるから、わたしたち一般市民に回ってくる食糧なんてほとんどない。彼女達が食べなかった余り物が、辺境の街まで届けられ、夜の10時頃から配給され、その余ったものが翌朝の食事になる。
そんな嫌なことを考えていると、ボーッとしてしまっていたらしい。
「こら、サボってちゃダメですよ」
監視役のメイド服を着た少女がしゃがんで、わたしの方に腕を伸ばしてくると、そのままピンッと人差し指で体を突いてくる。あまりに強い衝撃に、3回ほどくるくると地面を転がってしまった。遠くにいたはずの彼女が、一歩も動くことなく、一瞬にしてわたしのことを触れられる距離にやってくるのだ。その遠近感のバグに、狂わされそうになる。身長30メートルを超える巨大なメイドの背丈からなら、わたしたちが真面目に働いているかどうかは一目でわかるらしい。
「お嬢様たちのためにきちんと食糧を届けることが、あなたたたちの、そして、わたしたちメイドの義務なのですから、頑張らないと行けませんよ」
巨大なメイドはしゃがんでいるから、綺麗な長い髪の毛を地面の畑に垂らしたまま注意をしてくる。髪の先の方につく砂は、彼女には小さすぎて気にならないみたいだ。
あのメイド一人で、きっとわたしたち一般市民100人分くらいの労働力にはなるだろう。あのメイドが運ぶのを手伝ってくれるだけでとても効率は良くなるのだけれど、あくまでも彼女の役割は監視だけ。元々はわたしたちと同じ一般市民の出身らしい彼女たち巨大メイドは、エルフたちに認められて魔法で体を大きくしてもらったらしい。
見上げる彼女の姿は大きすぎるけれど、そんな巨大なメイドたちすらも指先で潰せてしまいそうな、巨大なエルフ様たちが今も楽しそうな笑い声を交えて談笑している。本来はとても遠くにいるはずなのに、はっきりと見えるその姿を見ていると、遠近感がおかしくなる。
いくつもの街を超えた、遥か遠くにいるはずなのに、しっかりとその姿は見えていた。その大きさは推定身長1300メートルから1800メートルほどだと言われている。あまりに大きすぎるから、わたしたちには正確に彼女たちの背丈を測る術がないし、そもそも彼女たちに近づく術もないから、周囲の山々と比較して、推定で考えるしかない。
当然、わたしたちが気軽に近づいて良い場所ではないけれど、それでもわたしは一刻も早くあの巨人たちが歩き回る危険な世界に行かなければならない。ただ、行き方がまったくわからない。そもそもあの恐ろしい、わたしたちの管理者である30メートルの巨大メイドからすら逃げられる気がしないのだった……。