はち
「リノてめえ何やってんだ!」
「うるさ~い!朕のやることに文句を言うなぁ!」
「原因がお前じゃなきゃ言ってねえよ!」
「ち、ちち朕のせいじゃにゃいもん」
「噛んでんじゃん!おもっくそ噛んでんじゃん!ああちくしょう、やっぱお前を信じるんじゃなかったあああああああああああ!!」
遡る事少し前。
俺は掲示板で今日受けるクエストと選んでいた。
「どれにすっかなぁ……」
「おい」
何か簡単そうなのはないだろうか。とりあえず今日の晩飯を食えるだけでも稼げればいいんだ。そうなったらそこまで難しいのはないだろうし……。
「やっぱ討伐系か……」
「おい」
「でも武器が無いしな……」
「おい!」
「うるっせえ!耳もとで叫ぶな鬼モドキ!」
「鬼モドキィ!?き、貴様ぁ!誇り高き鬼族である朕に向かってなんと言う暴言を!」
「知るかそんなもん!俺さっき言ったよな、角があっても討伐されたりはしないからここで別れようって!」
「……聞いてなかった」
「じゃあ今言った通りだ。俺は忙しいんだよ。ほら行った行った」
俺はしっしっと手を振ってリノを追い払う。こいつと一緒にいたら明日の寝床は牢屋の中だ。関わらないのが正しい判断に違いない。
俺に邪険に扱われたリノは暫く何か考えて、
「朕の体をこんなにした責任を」
「よぉぉぉしわかった!話を聞こう。だからちょっと黙ろうか!」
俺は慌ててリノの口を塞ぐ。
こいつ大声でなんて事を言いやがる!今の発言で俺に向けられる視線が一気にゴミを見る目に変わったぞ。マズい、初日にこれはマズい。
「最初からそうすれば良いのだ」
「はぁ……。んで、何の用だよ?」
「フッフッフ。光栄に思うが良い。朕がトモヤとパーティーをく「いらないです」待て!ちょっと待て!話ぐらい聞いても良かろう!?」
「いや、デメリットしかないじゃん」
「よく朕の前でそれが言えるな!?」
「採取系もありだな……」
「……トモヤは朕の体をこんなにした責任から逃げ」
「これからよろしくな、リノ!頼りにしてるぞ!」
チクショウ!こいつ嫌いだ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「にゃるほろ、ホモヤもらいへんにゃのらな」
「わかったんなら飯を食う手を止めろ。誰がホモヤだ、誰が」
俺は酒場でリノに転生の事はふせて、ざっくりと身の上話をしていた。
話を聞いたリノは旨そうにリザードワールの足の唐揚げを食べほす。
コノヤロウ、ちゃぶ台返ししてやろうか。
「そもそも、お前が俺に話をするんじゃなかったのかよ」
「そうだったな、忘れとったわ」
「じゃあパーティーは解散でいいか?」
「じょ、冗談に決まっておろう?大丈夫だ、ちゃんと覚えとる」
「じゃあできるだけ手短に頼むぞ」
「うむ。朕とトモヤは晴れてパーティーになった訳だが」
「実に嘆かわしい事だがな」
「現在の所持金はゼロだ」
「そうだな。……そうなの!?」
なのにこいつは今、全財産を使って飯を食べたのかよ!もっと節約しろよ、金がないならさぁ!
俺の顔がどんどん訝しげになっているのに気づいたのか、リノは少しぎこちなくなった。
「と、ともかく!これで朕とトモヤは一心同体、運命共同体となったのだ」
今からでもキャンセルできないだろうか。
「それで早速今からクエストを受けに行こうと思う」
「それは賛成だ。出来れば早めに飯を食べたい」
「そして受けるクエストだが──」
リノは掲示板のもとへ駆けていき、一枚の依頼書を持って戻って来た。
「これを受けよう!」
「なになに……ブルーコング一体討伐、報酬50万クレッツ……50万!?」
「なかなかいい報酬だろう?二人で分けても一人25万だ」
お、おお落ち着け、落ち着くんだ山田智哉。高い報酬って事は難易度も桁違いに高いに決まってる。レベルの低い俺が受けてもワンパンで頭を割られて終わりだ。
手汗と手の震えで依頼書がくしゃくしゃになってきているのも無視して、しっかりと内容を確認する。
……ほ~らやっぱりそうだ。
「却下だリノ」
「なぜ!?」
「なぜじゃねぇ。難易度Bってどう考えても初心者が手を出しちゃダメなヤツだろ」
受付のお姉さんから聞いたのだが、クエストの難易度はF~Sまであるらしい。
そして受けるクエストの難易度はどれでも良く、初心者がSを受けてもいいし、上級者がFを受けてもいいという。
なんでそんなシステムなのか。
理由としては、そんな無謀な事をするアホはめったにいないからだそうだ。
ここにそのアホがいるのはたぶん俺の日頃の行いが悪いからだろう。……明日からゴミ拾いでも始めるか。
「フッフッフ、それは問題ない。朕は一度ヤツを倒した事があるからな」
「は?マジで?」
「これが証拠だ」
リノはドヤ顔で自分の冒険者カードを俺に見せてくる。
………嘘だろ。マジで名前が載ってんじゃん。冒険者カードは偽造できないし、ガチのマジで討伐経験あんのかよ……!
これは期待できるっ!
冒険者カードという何よりの証拠があるのだから、今回はリノを信じても良さそうだ。
「やれるんだな?リノ」
「もちろんだ。朕に任せておけ!」
「ああ!これで俺らも小金持ちだ!」
俺達は笑った。俺達の未来を確信して。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「覚えてろよリノォォォ!」
「ち、朕は悪くないもん!」
「うるせえ!説教は後だ!今はとにかく逃げろぉぉぉ!」
俺達は今、三体のブルーコングに追われている。なんで一体じゃないの?とかいろいろ言いたい事はあるけど、これだけは先に言わせてくれ。
「こんなにキショイとは聞いてねえよ!!」
ブルーコング。ヤツの正体は、
デカイGだった。
ブルーコングの名前の由来はわかっていません。
デカイゴキブリって想像しただけでゾッとしますね。