なな
最初は目立たないようにしようと思ってた。生活できるだけ稼いで、マイホームを買って、穏やかなスローライフを送れれば良いかなって思ってた。なのに……っ!
「いつまで逃げれば良いんだよ……!」
「疲れたなら座って休めば!?わた──朕は逃げるから!」
「本来その役はお前のだろうが!」
こいつと出会わなければ……ッ!俺にはなんて運が無いんだ……。
……ここまで来たらしょうがない。まずは逃げきって作戦を立てよう。そして仕切り直しだ!
「リノ、そこの角を曲がったら俺の手をつかめ!」
「やだ!」
「よしっ、その返事を求めてた!」
「えっ?」
俺達は角を曲がって──
「〈仮面演舞〉!」
「はいぃぃ!?」
俺はギルドに行く途中で見た老人に姿を変えた。
追ってきたヤツからは、俺が一瞬で消えたように思えるだろう。もしバレても動揺は誘えるはずだ。
俺は立ち止まり、男が来る方を向く。
ここで勝負を決める!来いッ!
「逃げんなぁぁぁ!」
あれ?
男はあっさりと俺を無視して目線の先のリノを追いかけた。つまりバレなかった──
「そこの老人がトモヤです!スキルで変装してます!」
あいつ絶対許さん!
俺は変装を解いて、リノと反対方向に駆け出した。幸いにも男はリノを追いかけてくれたので、俺は助かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そもそもあいつは何を盗んだんだよ」
よくわからない場所に腰を降ろし、ぼやきつつ息を整える。
いきなり始まった逃走中のせいでもうクタクタだ。あいつ後で絶対に泣かしてやる……!
「だいたい、今日会ったばっかりのヤツに押し付けんなよな……」
あいつ無駄に逃げなれてたし、何回か似たような事してきたんじゃないか?マジで鬼だな。鬼畜のほうの。
「これからどうすっかな~」
誤解を解くにしても、何があったかすら知らないし張本人であるリノのヤツに上手く押し付けられる可能性も否定できない。ていうかあいつは絶対にやる。
となると、だ。
何があったのかをしっかりと把握してから、行動を起こすべきか……。
………いやそもそもこんな事してる場合じゃなかった!早く稼がないと今日の飯すら食えない。
「はぁ、ギルドに行ってお姉さんを味方につければなんとかなるかな?」
俺は重い腰を上げてギルドに向かう事にした。
森の中じゃないし、人に聞けばすぐに着くだろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「すまなかった少年!」
「いやいや、そんなに謝んないでくださいよ。悪いのはあいつなんで」
「それもそうだな。まあでも君に迷惑をかけた事は事実なんだし、何か困った事があったら言ってくれ。可能な限り力になろう」
俺は今、ギルドにいる。
あの後、通りすがりの老婆にギルドまでの道を聞き、ギルド内にいた冒険者全員に事情説明。その上でリノを捕えて戻って来た男に一応頭を下げて、無事に俺の潔白は証明されたのだった。
「さて、リノつったか。テメエどうやって落とし前つけるつもりなんだ?ああん?」
「い、いやだって……」
「俺はお前にスキルを奪われたんだが?」
「そ、それはその……」
「お前がユニークスキルを持ってんのも気づいてんだよ」
「えっ!?」
「なんだ図星かぁ?」
「う……」
気持ちいいぐらいにリノが追い詰められている。これであの高圧的な態度も直るだろうか。そうだったらありがたいな。
……ってかあいつユニークスキル持ってんのか。すげぇな。ただの変なヤツじゃなかったのか。
そんな事を思いつつ正座しているリノを眺めていたら、
「──それはお前が言える事じゃねえだろ。ヘセイ」
ギルドに入ってきた男がそんな事を──あれ、オヤジさん?なんでここに?
「ッ!だ、団長!?なぜこの街に!?」
男──ヘセイが顔を青ざめて狼狽した。
団長?オヤジさん、もしかしなくてもスゴい人なのか?
……おや、なんか冒険者も受付のお姉さんもウエイトレスも全員がざわつき始めたぞ?
「テメエを追ってきたに決まってんだろうが」
「バカな!どうやって!」
「テメエに教える筋合いはねえな」
「ぐっ……!」
オヤジさんはヘセイを視線で威圧する。その威圧でギルド内は静まり返った。
「ヘセイ、テメエが手に入れたスキルも奪ったモンだろう。なに文句言ってやがる」
「そ、それは……!」
「テメエがしたことは死んでも赦されねえ事だ。それは理解してんだろ」
「俺は……!」
「ヘセイ、自首しろ」
「ッ!」
ヘセイはオヤジさんの一言で全身の力を失ったように膝から崩れ落ちた。そしてオヤジさんに連れられて、ゆっくりとギルドを去っていった。
……どうしよう。まったく話に着いていけない。
それはリノも同じのようで、正座したまま固まっている。
「皆さん、ご迷惑をおかけしました。ヘセイはこの街で優秀な冒険者なのかもしれませんが、それはすべてあいつの努力ではなく、とある禁忌を犯して手に入れた偽物の力によるもの。あいつは罪を償わねばなりません。パーティーを組んでいた方々には賠償金も支払いますのでどうかご了承ください」
オヤジさんの仲間であろう知的な顔立ちの壮年がそう言って頭を下げた。
それからリノに目線をあわせると、
「リノさん、よくぞヘセイのスキルを奪ってくれました。その力は貴女が存分に奮ってあげてください」
そう言って微笑んだ。
一方リノは、
「ま、任せるが良い!わた──朕が責任持ってこの力を奮わせてもらおう!」
キャラをしっかりと作って返事をしていた。
やっぱキャラ作ってないリノの方が良かったなぁ……。実に残念だ。
壮年もギルドを去り、だんだんとギルドに雰囲気が戻ってきた。
「なあ、リノ」
「どうしたトモヤ」
「お前わかっててヘセイとやらからスキルを奪ったのか?」
少し気になったので聞いてみた。
「なわけないだろう」
「うん、知ってた」
信じてたぜリノ。安心したぞ、ちょっとでも評価をプラスにしないで。これで心置きなくお前と距離をおけるな。
オヤジさん、実はめちゃ強。