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「おいおい、こりゃあどういう事だ?」


 最初に危険を察知した男が呟いた。

 気持ちはわかる。目の前の少女が屈強なドラゴンを倒したのだから、そんな反応をしてしまうのが当然だろう。


 ちなみにドラゴンスレイヤーの少女は馬車の上で倒れて、何かぶつぶつと言っている。


「素晴らしい……!これがドラゴンのスキルか……!」

「…………」


 呆気なかったが助かって良かった。俺の異世界生活はまだこれからなんだ。色々とやりたい事がある。とにかく助かって良かっt


 ──グオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 ……………誰だよフラグ立てたの。


 俺ですね。本当にすんません。


「今だ!ドラゴンは弱ってるぞ!」

「たたみかけろぉ!!」


 え、弱ってるの?あれで?明らかに俺達を殺す目をしたバーサーカーにしか見えないんだが。




 ───なんて思っていた時がぼくにもありました。


「よっしゃあ!」

「素材は山分けだぞ!」

「オイ!こっそり牙を採ろうとすんな!」

「街に行ったら祝杯だぁ!」


 え、皆強くない?わざわざ日本から勇者を送る必要無くない?待って、もしかしてこの世界のドラゴンってあんまり強くないの!?

 俺が呆然と立ち尽くしていると、


「そこの男、おい呆けた顔をしているそこの男!」

「……ん?」


 未だ馬車に倒れている少女に声をかけられた。


「俺になにか……?」

「なにかではない!早くわたし──じゃなくて朕を起こせ!」

「……は?え、朕?」


 こいつ一人称のセンス欠片も無いだろ。そんな可愛らしい容姿で“朕”は似合わないわ。せめてもうちょっと成長して、クールな美女になってからじゃないと。


「なんだ、朕が朕と言って何が悪い」

「いや、悪くは無いけど……」


 あんまり連呼しないで欲しい。


「いつまでも呆けておらんで、さっさと朕に手を貸さんか!」

「それがお願いする態度かよ……」

「フン、朕はドラゴン討伐の立役者ぞ?感謝はされても文句を言われる筋合いは無い!」

「うっ……」


 まさしく正論。ちくしょう、こんな変なヤツに論破されるなんて……。


「チッ、わかったよ。ほら」

「わかれば良い」


 俺は少女の手を掴んで引き起こす。

 なんて高圧的なヤツなんだ。……あ、手柔らかい……。いや違う、そうじゃない!……あれ?めちゃタイプなんだけど……。いやだから違う!


 俺は頭をふって、気持ちを切り替えるためにも少女に話しかける。


「んで?立役者様は素材を採らなくて良いのか?」

「フフン、朕は素材よりもっと素晴らしいものを手に入れたからな!」


 そう言ってわりとある胸を張る少女。

 思わず視線が引き寄せられそうになったが、理性と意思を総動員してなんとか引き戻す。


「ところで男、名前は?」

「智哉だ」

「トモヤか、良い名だな」

「そりゃどうも。あんたは?」

「朕は鬼族最強の戦士、リノだ!よろしくな!」

「ああ、よろし──え、鬼なの?」


 リノの額には角が無い。綺麗な白髪に隠れている──という訳でもなさそうだ。


「なんだ?朕を疑うのか?」

「いや、だって角無いし」

「失礼な!角が生えてるのは魔物の“悪鬼種”であろうが!誇り高き鬼族を侮辱する気か!?」


 リノは怒髪天を衝く勢いで怒り出す。

 この世界の常識は知らないけど、鬼族って角があるもんじゃないのかよ!?

 侮辱も何も、知らなかったんだって!


「悪い、気分を悪くしたなら謝る。俺は常識に疎いから知らなかったんだ」


 内心、めっちゃ焦りながらも顔には出さずに謝罪する。


「問答無用!母上から止めるように言われていたが、鬼族全員を侮辱するその発言はそんな安っぽい謝罪では許さん!くらえ!」

「え、ちょっ待っ……!」


 俺が何か言うまでも無く、リノは俺に向かって手をつきだし、攻撃を──


「……あれ?」

「……ふぇ?」

「なんともない」

「はあ!?」

「お前、俺に何したんだ?」

「ッ!」


 リノは絶句した様子で口をパクパクとさせる。

 ……やっぱり黙ってりゃ可愛いのになぁ。


 と、その時。リノが慌てた様子で自分の額──おでこを触りだした。目もどんどん真剣なものに変わっていく。

 本当にどうしたんだろうか。やっぱり角が欲しくなったとか?いやでも誇りがどうとか言ってよな。


「なあ、どうかしたのか?」

「ハア、ハア……!嘘……!なんで……!」

「うん?………え!?」


 いきなり、リノの額に白い角が生えた。それも二本。

 ワナワナとリノは震える。

 そして俺が驚く間もなく、


「うわあああああああああああああああああん!!」

「えっ?」


 大号泣してしまった。

 ヤバい、どうしよう。素材を採り終わったであろう皆さんの視線が痛いのですが。


「鬼族に角、だと……っ!」

「バカな!?」

「角は魔物にしか生えないのでは……!?」


 素材を採っていた人達は俺達のやりとりの一部始終を見ていたようで、鬼族に角が生えるというイレギュラー(?)な状況にとても驚いている。


「待て。おい皆あの子の角の色は白いぞ!」

「マジだ!魔物に生えてる角は全部黒かったよな?」

「ってことは魔物になった訳じゃないのか……良かったぜ……」

「ああ、あんなに可愛い子を討伐するのはさすがに気が引けるからな」


 なんか勝手に結論に達してません?ねえ、なんで誰も俺と目を合わせてくれないの?助けてよ、ドラゴンの時みたいにさあ。


「……よ、よしっ!素材も採ったし、街に行くぞ!」

「「「お、おう!」」」


 このままなの?俺、このまま街に行くの?なんか怖いんだけど。嫌な予感がするんだけど。


「…………」

「「「………………」」」


 オイ全員して俺から目を逸らすなよ。頼むよ。こんな気まずいままで街まで行くなんてあんた達も嫌だろう!なあ頼むよ!


「……出発だ!」


 オヤジさん、あんたもか。あんたも俺を助けてくれないのか!



 こうして俺は街に着くまで地獄のような空気の中で過ごす事になった。



実はオヤジさんやリノ以外の馬車に乗っていた人達は冒険者の中でも上位のパーティーなので、今回の飛べなくなったレベルそこそこのドラゴンなら弱っていれば簡単にボコれるんですよね。


ちなみにリノに角が生えた理由はクレッツの加護の影響です。

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