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よん


 俺は今、馬車に乗っている。


「尻が痛い……」


 いかに自動車という物が優れているのかを再確認した俺の隣で、


「うぅ……グスッ。う、うええええ……」


 美少女が泣いていた。

 それもただの美少女ではない。彼女の額には二本の白い角が生えているのだ。


「「「「…………」」」」

「うっ、ヒック……ぐすん……」


 周りの誰も俺と目を合わせてくれない。

 何でこんな事になったんだ……。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 俺は長い時間森を彷徨い、馬車が通ったであろう跡を見つけた。

 この跡に沿って進んで行けば街──とはいかずとも村あたりには辿り着けるとふんで、意気揚々と歩いているのだが、


「どこまでも森じゃねえか……」


 村はおろか、人すら見かけない。一応〈気配察知〉スキルで周囲を探りながら歩いているんだけどなぁ……。

 このままじゃ今日は何も食べられないかもしれないし、なんならこの森のどっかで寝るにしても魔物に食われるかもしれない。

 俺は完全に八方塞がりの状況に陥っていた。


 と、その時。


 ガラガラという音が俺の背後から聞こえた。そして、それと同時に俺の〈気配察知〉スキルが反応した。


「おう、兄ちゃん!こんな森の中でどうした!」


 俺が振り返るのと同時に、御者の厳ついオヤジさんが声をかけてくれた。


 ………ん?あれ?何かこのオヤジさん、キラキラしてる。

 えっ、いやいやいや!おかしいって!何でこんな厳つい人が爽やかイケメンに見えるんだよ!?


「ちょっと迷ってしまってて……」


 そんな内心の動揺は一切表情に出さずに返事をする。


「迷う?何言ってんだ?」

「え?」

「兄ちゃんがどっから来たか知らねえが、こんなにわかりやすい道があんだろ。どうやったら迷うんだよ」

「あっ……」


 そりゃそうだ。俺が目印にして歩いている跡は、おそらく多くの馬車が何度も何度も通ったのだろう。もはや道と言っても過言ではないくらいに整っている。

 確かに迷う方がおかしいわ、これ。


「っていうかよお、そんな格好で大丈夫なのか?随分な軽装だがよ」

「大丈夫なように見えます?」

「全く見えねえな」


 俺の今の格好は薄手の半袖半ズボン、もちろん日本で寝間着として使ってたシンプルなデザインのやつだ。

 防御力は皆無。何せペラっペラなのだから。


「兄ちゃんも色々大変なんだな……」


 特に何も言ってないのになぜか同情してもらえた。


「兄ちゃんもエルステの街に行くんだろ?」

「え、あ、はい」

「……お代はいらねぇ。乗りな」

「え?」

「気にすんなよ。若者の未来を守んのが大人の仕事だろ」

「オヤジさん……!」


 男前すぎる!何なのこの人、こんなに優しくされたらうっかり惚れちゃうだろ!


「ありがとうございます!」

「おう、どういたしまして」


 俺は深々と頭を下げてオヤジさんに感謝を伝えてから、馬車に乗せてもらった。


 ──ところまでは良かった。


「っ!危ねえぞ、しゃがめ!」


 突如、馬車に乗っていた一人の男が叫んだ。

 その声は馬車に乗った全員に向けられてい──


「──っぶねえ!!」


 俺の〈気配察知〉スキルが反応する前にその場に伏せた。

 その瞬間、俺達の頭上をナニカが通り過ぎる。


「何だ……?」


 顔を上げて確認すると、


「……嘘だろ」


 グオオオオオオオオッ!!


 ()()()は天に向かって咆哮をあげた。


「戦えるヤツは武器をとれ!少しでも気を抜いたら死ぬぞ!」


 真っ先に危険に気づいた男が大剣を構えつつ、全員を鼓舞する。

 その声で動けたのは二人ほど。残りは俺含めて動けない。動かないんじゃない、動けないんだ。ヤツの放つ圧倒的な威圧感に俺達は恐怖を植えつけられたのだから。


「危ない!」


 誰かが俺の腕を引いて、ヤツの攻撃から逃してくれた。ヤツは俺に攻撃が当たらなかった事に腹を立てたのか、空中に飛び上がった。

 そして、空から俺達を見下す。


 やっぱアニメと本物は違う。実際に対面したらこんなに絶望を感じるのか。


「ドラゴン……」


 ヤツはその巨大な翼をはためかせ、俺達に向かって口を開く。

 おいおいそれって……!


「ドラゴンブレスが来る!全員森に逃げ込めぇ!」


 オヤジさんの声を皮切りに全員が一直線に森に入っていく。もちろん俺もだ。


 だが、


「嗚呼……ついに見つけたぞ……!」


 まだ馬車に残って震えた声で何かを言っている少女がいた。彼女の顔は見えないけど、どこか嬉しそうな雰囲気が俺の方まで伝わってくる。


 いや何やってんだよあの人。死ぬ気か?相手はドラゴンだぞ?


「フッフッフ……どれほどこの機会を待ち望んだ事か!」

「おい何してる!死ぬ気か!?」


 オヤジさんの忠告を無視して少女は手をドラゴンに向ける。


「その力、もらうぞ!〈強奪(ロゥバリ)〉!!」


 少女がスキル名っぽい名詞を叫んだ瞬間──


 グギャアアアアアアアアアア!!


 ドラゴンが断末魔のような悲鳴をあげて、地面に落ちた。まるで、飛ぶ能力が失くなってしまったかのように。



ちなみに頭上を通りすぎたのはドラゴンが殺した熊の魔物の死体です。3メートルぐらいあります。

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