に
「まずは、改めてごめんなさい!!」
「………」
「わざとじゃないんだ。暇だったから簡単そうなこの仕事の担当をちょっと代わってもらって、人間に威張り散らかしたかっただけなんだ」
「ちょっとそこに土下座しろ」
少しだけ申し訳なさそうな表情をしたクレッツは、とんでもない事実を暴露した。
コイツ、マジでどうしてやろうか……!
「ち、違うんだ。誤解だよ。わざとじゃないし……ハッ!そ、そうだ!それよりもお詫びの印に君の異世界転生に少しイロをつけさせてもらうよ!」
「……ほう?」
少しだけ溜飲が下がった。本当に少しだけだけど。
イロをつける、ねぇ。チートを大量にくれるとかだろうか。そしたら異世界がイージーゲームになるけど、安全を優先するならアリか。
「具体的には?」
俺が質問すると、希望を見つけたという様子でパアァと表情を明るくして早口で説明を始める殺人神。
「まず異世界転生する時に僕達が与えるギフトだけど、これは本来、君たちに合ったものを神が選んで与えるから君たちは選べないんだ」
「……マジか」
「何せ与えられるのは一つだけだからね。昔、選ぶのにめちゃくちゃ時間をかけたヤツがいたから、こんなルールになったんだよ」
そいつはどんだけ悩んだんだよ。神のルールを変えるなんて相当だろ。
「話を戻すけど、君は特別にそのギフトを選んで良いとも!」
「おお!」
「そして異世界転生する人に絶対与える〈インベントリ〉スキルも容量を10倍の100にしてあげよう!」
「おおお!」
気分がノッてきたのか、クレッツは興奮した様子で告げる。
「さらにさらに!君には僕の加護まであげちゃう!」
「おぉ………」
「ちょっと!?なんで嫌そうな顔をするのさ!僕の加護を与えた人は今までいないから、君が最初で最後なんだよ!?ちょっとは喜んでもいいだろうに!」
間違えて人を殺す神の加護はちょっと……。
クレッツはプリプリしながら、分厚い本を一冊取り出して、俺に渡した。
「ん!」
「これは……」
「欲しいスキルとか、武器とかはこっから選んで!」
「おお!スッゲェ!」
「……なんか僕が負けたみたいになるから、そんなに喜ばないでもらってもいいかな。っていうか君、日本にいる時とキャラ違いすぎない?ねぇってば」
なんか敗北神がごちゃごちゃ言ってるけど、無視して読み進めてみる。
リストには色々と大量にある。聖剣だとか聖槍だとか、おっ魔銃なんてのもある。
ものすごく厨二心くすぐられる言葉の羅列に思わず興奮してしまう。さて、どれにしようか。
「………ちなみに僕が今ここで欲しいスキルを創ってあげる事も出来ちゃうんだけどなぁ」
「〈暴風魔法〉もあり──今なんて?」
俺の興味を引けた事がよほど嬉しかったのか、クレッツは顔を輝かせて、説明してくれる。
「僕は神の中でもえっらーーーい神様だからね。スキルを創るなんてお茶の子さいさいなのさ!」
そう言って胸を張るクレッツ。“ドヤッ”っていう効果音が一瞬見えた気がする。
にしてもスキルを創る、か……。
「どんなスキルでも良いのか?」
「君が求めてるギフトがそのリストの中に無いのならね」
「ふむ……」
俺は暫く熟考した。
「……創れるのはスキルだけか?」
「もちろん君が望むなら武器でも良いとも」
「なるほど……」
俺は更に熟考した。そして決めた。なんかの漫画で読んだチート能力に。
「決まったかい?」
「ああ、決まったよ」
クレッツの問いに俺は頷く。
「それじゃあどんなのにするのか教えてもらおうか」
「俺が望むのはスキル〈無限〉だ!」
「………ほう、面白い。なかなか良いじゃないか!」
自信を持って告げた俺が考える限り最強だと思うスキルは、クレッツから肯定された。
具体的な説明もしてないのに言葉だけで理解してくれるなんて、こいつもなかなかわかってるじゃないか。
クレッツは目を瞑って手を俺にかざす。やがて、クレッツの手から光が生まれ、俺の中に吸い込まれるようにして入った。
「すご………」
なんというか、クレッツがものすごく神々しく見えた。
日本にいた時から溜まってたストレスとか、怒りとかが爆発して思わず怒鳴ったりしてしまったけれど、こいつやっぱり神様なんだなぁ………。
「さて、終わったよ」
「あ、ああうん。ありがとう」
「ギフトも与えた事だし、君が今から行く世界について話しておこうか」
クレッツは説明を始めた。
要約するとこうだ。
その世界は剣と魔法のファンタジー世界。
様々な魔物と人類が生存戦争をしている。
その魔物の王が魔王で、俺のような異世界人を送る事でパワーバランスをなんとか平等に保っている。
とまあ、そんな感じ。まあ王道だわな。
「言葉とかは神様パワーでどうとでもなるから安心してね。それと、とりあえず街に送るからそこで冒険者登録でもして稼いでね。あと、初期装備としてナイフと軽装備、それから他の人よりそこそこ多いお金を〈インベントリ〉に入れておくから」
「お、おぉ……至れり尽くせりなんだな……」
「君の場合は僕がやらかしちゃったからね。あ、あとステータスの確認の仕方だけど──」
俺はクレッツに色々と一から十まで教えてもらってから、送り出されることになった。
「だいたいは教えたかな?」
「ああ、ありがとうな」
「うん。それじゃあ──ってちょっと待った!一番大切なのを忘れてたよ!」
「え?」
まだあるの?なんか高校生にもなって未だに親に甘えちゃってる感がハンパないから、罪悪感が沸いてきたんですけど。少し申し訳なくなってきてるんですけど。
そんな俺の本音に気づく事なく、クレッツは話を続ける。
「僕の加護をまだあげてなかったね」
「え、あっ」
俺が何か言う前に、俺の体が光に包まれた。
……あったかい。
「僕の加護の性能とかは向こうに行ってから確認しといてねっ☆」
パチッと華麗にウインクを決めるクレッツ。
ヤバい、これ以上一緒にいると性癖が破壊されそうだ。
「それじゃ、行ってら~」
「え、あ、うん」
クレッツの気軽な挨拶に見送られて、俺の視界が光に染まる。
なんかしまらない感じだけど、まあいい。
これから俺の華々しい異世界生活が幕を開けるんだ!
誤字や内容に矛盾などがありましたら優しく教えていただけると嬉しいです!