好きだった彼女にばらされた日僕は僕になった。
長編は別サイトで投稿予定です。
まずは短編で腕を慣らしています。
まだ薄いビスケットのようにサクサクと読めるものしか出来ませんが、評価・感想お待ちしております。
僕が好きな吉野さんは、同じクラスの成績優秀、運動神経抜群、イケメンで三拍子揃っている田中と付き合った。吉野さんがこちらを見るとにこっと笑ってくれていたから、気があると思っていたのに、あの笑顔は一体何だったのか。
これは、僕の気持ちを弄んだ吉野への復讐の物語である。
「今日も一緒に帰る? 昨日借りた漫画面白くて一日で全部読んじゃったよ。また新しいの貸してほしいな? 今日もお家に行ってもいいよね?」
「あの漫画が面白いって感じるなんて、吉野さんは悪趣味かもしれないね」
嘘告されたから復讐した。スカッとざまぁというジャンルの新しい恋愛漫画としてベストセラーになった一冊。規制版は万人向けに作られているが、貸したほうのR-18版は無規制で、グロテスクで体制がない人は読めないと言われている。
そんな漫画を面白いと即答できるから吉野は悪趣味だ。
好きだ。そんな悪趣味な吉野も好きだ。
今日で彼女を射止めたい。
気づいたら吉野をベッドに倒していた。
「へえー君もこういう趣味の持ち主なんだね。部屋に上がり込んだ女の子を押し倒して襲うつもり? いいよ? その代わり、何があっても君は後悔しないって誓える? やめるなら今のうちだよ。やめるなら誰も言わないから安心して」
「ご、ごめん良からぬ考え事をしてたら押し倒してた。本当にごめんなさい」
「いいよ。気にしないで、ただ君がこんなことをする人だと思ってなかった。今日でこの関係も終わりにしようね。私実は田中と付き合うことにしたんだ。だからもう一緒には帰ることもできなくなるね。バイバイ」
いつもの満点の笑顔は消えて、悲しげな表情をしながら部屋から出ていく。僕の初恋が終わる。しかも、吉野は他の男の物になるなんて許せない。香水の匂い、肌の匂い、全部! 全部僕の物にしたい。
翌朝登校の最中、吉野の横には田中がいた。二人共幸せそうに会話しながら笑っている。昨日までは目を合わせるとニコっと顔の表情を変えてくれていたのに、今日はゴミを見るかのような見下した目つきで逸らされた。女の子のはここまで切り替えが早いのかと学びを得ながら、本当に他の男のものになったんだねと実感して心がチクチクと痛み始めた。そんな憂鬱な朝は全ての始まりに過ぎなかった。教室へ着くと周りからの冷たい視線が刺さる。なにかやっちゃいましたー? という平然とした態度でいると田中が僕の席にやってきて詰めてきた。
「おい、お前。吉野さんから話は聞いたぞ? 好意のない女の子をいきなりベッドに押し倒して襲おうとしたんだってな? そんなことをやるような奴には見えなかったが、最低だな。謝ったのかよ? 犯罪だってこと分かってんのか?」
『本当最低よね、屑だと思ってた、やっぱり静かな人ほど怖いね。どの面下げて学校来てるの?、退学しないかな』
「ほら、皆お前の事を怖がってんぞ? 何かいえねえの? 大体R-18本をおすすめするなんて神経おかしいだろ。これだからオタクは困るんだよ」
きゃははははと馬鹿にするよな笑い声、吉野は無表情で予習をしている。昨日黙っていると言っていたのに、何でこんなことにならないといけないんだ。それに、こいつは僕の気持ちも知らずに正義を振りまくクソ野郎だ。クラスの連中も口々に好きなことを言いやがって、全員許さない。こうなれば落ちるところまで堕ちてやる。
「神経がおかしいとか屑だとか好きなように言っていいけど、異性の部屋に通うのってどうなの? それに僕は吉野とヤッたんだから未遂じゃないよ? 田中くんは嘘つかれてるのに信じ込むなんて最低だね。それに高林さんだってパパ活やってるのに退学しないかなとか言い出すのおかしくない? 君が先に退学するべきじゃん。 吉野さんなんて、そのR-18本を面白いとか言ってたんだから同類じゃん。そもそも君たちは、表に出してないだけでロクでもない塊なんだから黙ってればいいんだよ」
カバンからそっと刃物を取り出す。嘘告の最終巻、主人公の広野はナイフを取り出し次々にクラスメイトを殺める。
あの場面ずっと憧れだったんだ。あの本は僕を人間として成長させてくれた。
白い床が真っ赤に染まる。クラスメイトは恐怖で腰を抜かして動けなくなる人、対抗してこうと無謀にも死んでく人、廊下へ逃げる人、クラスメイトを盾にする人で溢れかえっている。さっきまでの、同調はどこへいったのだろうか。
「すごいね。広野くん! 君が最終巻で見てた景色はこんなにも鮮やかで、愚かな人間を観察できたんだね。みんな、無力で抵抗せずに死んでいくよ。はははははっははっはははははっはあは」
これは、僕が僕になった日の記録だ。
それではまた次回!