第五話 僕の家族 その環境
恋は盲目
久方ぶりの休日、僕はいつものように日向ぼっこを満喫しているときだった。
「ま〜た日向ぼっこかい?良く飽きないね。できれば家事を手伝ってほしいんだけど?」
洗濯物を庭先で干しながら僕に声をかけてくるこのエプロンが激しく似合っていない男性が僕の父親だったりする。ちなみに職業は専業主夫。うちの収入は小説家である母親が一人でなんとかしている。なんとかしているといっても他の家庭に比べればまぁまぁ裕福な方なのだが。
「はいはい、今手伝うよ。それより、母さんは?」
「ありがとう。今小説のネタが切れたとか言って部屋でゴロゴロしてるよ。そろそろご飯にするから海ちゃんを呼んできてくれるかな?」
言われたとおりに母親の部屋に向かうのだがドアの前でノブを握る僕の耳に部屋の音が聞こえてくる。
カタカタ・・・ゴシャ!・・・
「うわぁ〜ん・・・しくしく」
うわぁ・・・また発作かよ。入りたくねぇなぁ・・・そう思いつつドアを開ける。
「母さん。もうすぐごはんだ…よ・・・」
そこには首にカッターナイフを突き立てている母親の姿があった・・・
「あ!わんちゃん。どうしよう?締め切りに間に合わない。ネタを頂戴?」
「オーケー分かった母さんとりあえずそのカッターをしまおうか?」
「うぅ…締め切りに間に合わないなんて死んだ方がマシよ!?」
「どうせ死ねないんだから無駄だよ?」
「う〜馬鹿にして!死んでやるんだから!?」
そういってカッターを自分の首にブっ刺す母親。折れるカッターナイフ。降りる静寂。
母親の守護はレヴィアタン・・・能力は絶対防御・・・
なんとか泣きじゃくる母親をキッチンまで連れてきて三人で食事をとる。母親はみてのとおり家事のスキルが絶望的なまでにないので料理は父親が作ったものだ。今日のお昼ご飯はチャーハンだった。
「いいかげんその癖直した方がいいよ海ちゃん。」
「誠治くんがそういうならやめます!」
このバカップルは・・・
「それよりなにかネタを頂戴!」
こっちみんな・・・しょうがないなぁ
「力になれるかわからないけどいいよ。なんでも聞いて。」
そういいながらお茶を飲む。
「やった!じゃあねぇ〜・・・わんちゃんの恋話!!」
「ぶっ!!!」
え?なにこの公開処刑・・・
「こら!きたないことをしない!掃除が大変だろう?」
ごめんなさいお父様。でもその前にいろいろ言うことがあると思う。
「ねぇねぇ!何かネタになるようなことないの?」
「ありません!」
「なんだぁ〜。つまらない青春を送っているのね。」
母親じゃなかったら今すぐ燃やしたいようなことを言ってくれるな。そう、母さんは恋愛小説家である。しかも小説家になった理由が自分と夫のラブラブっぷりをみんなに知ってほしいとかいうふざけた理由で書いたノンフィクションが偶然どこかの会社の目にとまり出版され、なぜか大ヒットをしてしまったのだ。
「わたしと誠治くんなんかものすごくドラマチックな出あい方をしたのよ?」
「へぇ〜それは聞いたことがないなぁ」
「ふっふ〜ん教えてあげましょう!あれはまだ私が若いころでした・・・」
某国、紛争地帯・・・飛び交う弾丸、崩れる建物、そんな中弾丸を受けても平然と歩いてくる女性。
「はぁ。かったりぃ、なんでわたしがこんなことしなきゃならないんだ?それもこれも。」
腕の一振りで歩兵をなぎ倒す。
「お前たちのせいだー!!!!」
その時のことを見ていた中尉は語る
「人がね?こう、飛ぶんですよ。十メートルも。えぇ、信じられませんでしたよ。いや今でも信じられません。圧倒的な力にこういっちゃなんですが・・・憧れますよね、男として。」
数時間後。軍隊は一人もいなくなり、廃墟と化した街に人影が二つだけ残っていた。
「なんであんたは逃げないんだ?あんたの仲間は一人残らず逃げちまったのに。」
「いや、あいつらなんかどうでもいい。それより君、名前は?」
「あん?」
「いや、名前なんかどうでもいい。・・・よし!結婚しよう!!!」
「は?」
「だから結婚しよう!!君に惚れた!一生ついていこう!!」
「・・・ぷっ・・・あははははははは!!!面白いなお前!目の前であれだけの事があったのに私に惚れたって?こいつは愉快だ!!腹がよじれる!いいだろう!かかってこい!私にもし勝てたら考えてやるよ!」
「これが私と誠治くんの出会いだったわ・・・」
いろいろおかしいな。
「父さん。これはほんと?」
「うん。本当だよ、あのころはお互い若かったからねぇ・・・」
いや若いってレベルじゃねーよ。キャラ変わってんじゃねぇか。
「ちなみにあの時私は丘の黒船って呼ばれてたわ。」
「どんなだよ。で?どっちが勝ったの?」
「三日三晩殴りあったんだけど決着が着かなかったわ。ただしこのままだと地形が変わっちゃうから結局ジャンケンで決めたんだけど。」
おい・・・決着の着け方しょぼいな。
「僕が勝って付き合う事になったんだけど、大変だったよ?付き合ってからはなぜかすぐにデレデレになっちゃってね。すぐに結婚してさ、子供はめんどくさいから作らないつもりだったんだけどねぇ・・・」
息子の前でそんなこと言うな。なんか泣きたくなってきたぞ。
「それより私はネタをさがしに外に行ってくるから。あとはまかせたわよ?」
「いってらっしゃい海ちゃん。」
その後、僕は日向ぼっこをして過ごし、父さんは家事をして過ごし、母さんは近くの中学校でネタを探すため不法侵入したところを警備員に捕まり、警察署で過ごした。