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第十九話 僕と屋敷に迫る黒い影

ただ目の前にあるモノだけを




海から帰ってきて三日目。

カロンに忠告をされたけど今のところ何も起きてはおらず、僕はいつものように縁側で漫画を読みながら日向ぼっこに勤しんでいた。

そういえば最近父さんが旅行に行ってしまったせいで家事を僕とミーシャで分担することになっているのだが、ミーシャに洗濯機や電子ジャーの使い方が分かるはずもなく家事のほとんどを僕がすることになってしまった。当然母さんはしてくれない、というかできない。

「いいなぁ、やっぱりこのひとときが僕の心を癒してくれる。漫画は人間の創った文化の極みだよ」

「おーい!わんこ、電話来てるぞ?」

自分では受話器を取ろうとせずに映画「ヘラクレス」を観ながら僕を呼ぶミーシャ。

ほう?僕の自由時間を邪魔するとはいい度胸だ。どこのどいつだ?

「もしもし?犬飼ですけどどちらさまでしょうか?」

「あ!わんこちゃん?どうも、智和がお世話になっております」

この声から溢れ出んばかりの母性!

「どうも久しぶりです!おばさん」

「いやだわおばさんなんて、私の事は黄莉きりちゃんって呼んでって言ったじゃない」

「すいませんでした黄莉ちゃん。今日はどうしたんですか?」

「あらそうだったわ、誠治さんいるかしら?」

「今旅行に行っていていないんですよ、母さんに変わりましょうか?」

「あらあら、いないの?う~ん、どうしましょう?他に頼れる人もいないし」

「何かあったんですか?工房が爆破したとか」

前にお屋敷の工房で試作品の暴発が起きて父さんが後片付けをしに行ったことがある。

あれは凄かったなぁ…なんせ屋敷の三分の一が消し飛んでたし智和の奴も生死の境を彷徨ってうなされながらひたすら『武器や防具は装備しないと意味がないぞ?』って呟いてたし…

あの時の事をあいつに聞いてもひたすら涙を流すだけで教えてくれないしね。

「今回は爆破はしてないんだけどちょっと不味いのよねぇ。あの人も仕事でいないし」

「手伝えることなら僕が行きますけど」

「本当!?助かるわ~。それじゃお願いしようかしら?」


「お屋敷が襲われてるのよ~助けて♪」


そんな事を高校生に頼むなよ……

「え~と…僕んちよりも警察に連絡した方がいいんじゃないですか?」

ていうか僕じゃ解決できないし

「ん~警察は色々と困るのよね~。法律的な意味で」

「あ~確かに不味いですね」

工房とか見られたら絶対に捕まるもんなあの屋敷

「智和君や舞火ちゃんはどうしてるんですか?」

主に後の人を心配してかけた言葉だけどね

「智和は部屋に避難してるわ、舞火は……そういえば見てないわねぇ~。大丈夫かしら?」

「今すぐ援軍連れて向かいます!」

「おねがいね~」

電話を切り頭に思いつく限りの人に連絡を取る。

「もしもし!瑠歌、今暇か!?」

「わぁ!!わんこさんから電話が来るなんて!?どんな御用ですか!?デートですか!?デートなんですよね!?」

「ああ、最っ高のデートだよ。とりあえず智和の家まで来い!」

「はいっ!喜んで!!」

まず一人GET!次!

「もしもし翔、今暇か?」

「えっ!?わんこくん?ごめん今取り込み中なんだ。愛と嬰螺さんとゲームをしてたんだけど気付いたらリアルファイトになっちゃって」

「そっか、じゃいいやまた今度」

くそっ!仕方ないか、次!

「ローラ!今何してるんだ?」

「おぉ!今掃除中だけどどうしたんだ?」

「それが智和がキリスト教徒になりたいから洗礼してくれって言ってるんだよ。悪いけど今から智和の家に章さんと来て二人で洗礼してやってくれないか?」

「おおお!!ついに私の心が通じたんだな!?分かった!今すぐ行く!」

これで三人だ!

後は……

「ミーシャ?なんか智和の家で腕試し大会やってるらしいんだけどどうする?」

「マジでか!行くに決まってんだろ?案内してくれ」

「わかった。少し待っててくれ」

次は二階だな

「母さん、仕事どんな感じ?進んでる?」

「わんちゃ~ん!全然だめよ…なんかいいネタない?」

「智和の家が今凄いことになってるらしいから何かネタになるかもよ?」

「ほんと!?行ってくるわ!」

よしよし、後はあいつだな。

あいつが一番の問題なんだよなぁ…

「もしもし?カロン、智和の家がなんかヤバいらしいんだけど力貸してくれないかな?」

「い・や・よ!そんな面倒くさいこと何で私がしなきゃいけないの?」

「そうか…カロンはそんな冷たい主人だったのか。智和はもっと優しかったのになぁ…」

「……………」

もうひと押しってところかな?

「あ~あ!僕の人生で最悪のバッドエンドになりそうだなぁ…」

「それは聞き捨てならないわね。いいでしょう!全身全霊を掛けてそのバッドエンドとやらを打ち滅ぼしてやりましょう。行きなさい!京!」

『俺ですか!?』

「あら?文句があるのかしら?」

『っ!?わかりました、御命令は?』

命令オーダー唯一オンリーワンつ、見敵必殺サーチアンドデストロイよ」

「ありがとう」

さて、これで全員かな?この人材(特に母さん)なら一個大隊が相手でも殲滅出来るだろう!




さて、屋敷の近くまで来たのは良いけれど………

「えっ?なにあの武装集団、こわい」

屋敷を覆うようにしてなんかSAT隊員みたいな完全武装してる人達がいる。なんでこれで通報されないのかが不思議なんだけど。とりあえず見つかると厄介なことになりそうだから近くの塀に身を隠す。

「なぁ、あいつらと闘えばいいのか?見た所腕試しをするような格好に見えないんだけど?」

僕をそんな疑いの目で見るなよ、確かに嘘を吐いてるけどさ。

「あれは……あれだよ………予選?」

「腕試しって銃火器の使用ってありなのか?」

見ないようにしてたんだから現実を突きつけないでよ。

「あれは……ほら………モデルガンだよ」

パンッ!パンッ!

「………壁に穴が空いてるんだけどモデルガンってあんなに威力あるのか?」

「……………改造してあるんだよきっと」

ちなみにモデルガンの改造は違法です。良い子は絶対にしないように。

それよりもどうやって屋敷まで行こうか………




俺が一体何をしたって言うんだ?

本当ならば今日は午前を仕方なく雇うしかなかったメイドとギルティ〇アをやって午後から近くのマンションに住んでいる佐々木ささらちゃん(23歳)とデートをして過ごすはずだったのに……

朝に大慌てで美玖が入ってきたからどうせまた壺かなんかを壊して給料から差し引く作業をしなきゃいけないと少し真剣にこいつを雇ったことを後悔していたのに、こいつの口から出た言葉は俺の予想をぶっちぎったものだった。

「はわわ、御主人様!敵が来ちゃいました~!」

「お前また人のパソコン勝手に使ってゲームしただろ!!ふざけんなよ!?お前いくらお袋に俺の面倒みる事を頼まれてるからってやって良い事と悪い事があるだろうが!!」

「それ以前に高校生がR-18のゲームをやってることが問題だと思いますよ?」

真顔でしかも冷たい視線で俺を見る美玖の表情はよくわんこが俺を見ていた時の表情に似ている。

部下に恵まれない事を嘆きながら今回は何を壊したのかを聞く。

「それで?また壺を壊したのか?それとも皿でも割ったのか?」

「今回は何も壊してませんよ?これから多分色々壊れると思いますけどね」

「どういうことだ?」

スッと無言で窓の外を指さす美玖を怪訝な目で見ながら窓の外を見る。

そこにはまるでどっかの軍隊が戦争でもしに来たのかというくらいに武装した集団が屋敷を取り囲んでいた。

「ネコは何をしてる」

「庭をご覧ください」

そこには変な機械から噴き出るガスに悶え苦しんでいるように身をよじるネコ達がいた。

「まさか……」

俺の頭には一瞬にして毒ガスという最悪の言葉が浮かんできた。

そして武装集団は遠目に見ても解るくらいに恍惚とした表情を浮かべていた。

「そうです、そのまさかです。まさかこんな方法で屋敷に侵入してくるとは予想をしていませんでした」

「クソ野郎どもが!ヤツらに倫理ってもんはないのか!」

「?何を言っているんですか?」

「戦場で毒ガスの使用は禁止されてるだろうが!それなのにあいつら嬉しそうに使ってやがる!しかもだ、動物に対してだぞ!!」


「あれは粉末のマタタビですが?」


「・・・・・・・・・・・・・・・なに?」

「だからマタタビです、さすが百獣の王ライオンですら骨抜きにする粉ですね。凄い効き目です。そしてあの軍隊を一瞬で骨抜きにしたネコさん達もさすがですね」

何か感心するように頷いている美玖。

「おい、このさいネコはもうどうでもいいが結局あいつらは何しに来たんだ?」

「さぁ?」

可愛らしく首を傾げてんじゃねぇよ、少しときめいたじゃねぇか。

とりあえずお袋に相談した方がよさそうなのでお袋の所まで行こうとしたら外の軍隊に動きが見られたので庭を見る。

なんか隊長らしき人が拡声器を取り出して話し始めた。

『えー抵抗するな、お前らは既に包囲されている!いいなこれ、一回言ってみたかったんだよ。ぐあっ!?』

なんか知らんけど部下に撃たれとる。あいつも部下に恵まれてないんだな。

『分かった分かったから!?真面目にやるからこっち向けるな!!えーっとこちらはあなた方が大人しく投降してくれるのならば危害は加えない。今から五分待つ、その間に出て来なかった場合抵抗の意志ありとみなす。以上』

どうしたものか。うーん、とりあえず避難した方がよさそうだな。

「おい、俺はとりあえず地下室に避難すっけどお前はどうする?」

「えっ?ここは物語のヒーローみたいにあいつらを撃退するんじゃないんですか?」

「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇよ。俺にできるのはネコと話しをすることだけだ、漫画やアニメやましてや今ヒットしてる恋愛モノなのにアクションシーンがある映画の登場人物みたいに特別な力があるわけじゃない。勝算のない戦いはしない主義なんだよ。で?どうすんだ?」

「う~ん、とりあえず奥様の所に行ってみようと思います。雇い主の身の安全は守らなければまた無職になってしまいますから」

すごいな、あいつは。

人の命よりも自分の収入の方を優先しやがった。

まぁいいか、さぁ!難攻不落の地下室に逃げるとしよう!




「ねぇ?ミーシャ?お前なにやってんの?ほんとになにやってくれてんの?」

屋敷への道を全力疾走しながら一緒に隣を走るミーシャに問う

「いや、とりあえずだな?予選を突破しないといけないと思ってだな」

こいつが本物の馬鹿だってこと忘れてたよ。

まさかあの武装集団の前に踊り出て闘いを挑むなんてね。しかも援軍を呼ばれた揚句一人で逃げてくれればいいのに僕の方に走ってくるとは予想してなかったよ。

「そっか、じゃあさアレ全部倒してこいよ。一人で」

「いいかわんこ、あたしとお前は一人一人じゃただの『火』だ、でも二人合わせれば『炎』になる」

「ああ確かに炎だな、僕のこれから先の未来設計図がドンドン炭になってくもん。つーか前に偉そうに『人間最強』とか言ってただろ!なんとかしろよ!」

ギャーー!かすった!今耳をかすっていった!!

「確かに言ったな。しかしだわんこ、つまりこの場合武器は人間では無いわけであって以前『人間最強』なわけだ。うぉ!?脇腹かすったぞ!?やばい!死ぬ!」

「やばい!このままだとマジで死ぬ!おいっ!もうこのまま屋敷に入ろう!次の角で右だ!」

「あいよ!」

よし!このまま角を曲がってそのまま屋敷に逃げ込もう!・・・・・・・・・・・・中が安全とは限らないけどね!


ところでみんなはこんな経験はないだろうか?急いで走っていて角を曲がったら可愛い子とぶつかってしまった事は。


ドン等という擬音では表現できない。そりゃもうゴシャッ!という音がした。

「イタたたたた!誰ですか!ちゃんと前を見て走ってくだ・・・・・・・・・わんこさん!?こんな所にいたんですか!?捜しましたよ!?」

「瑠歌か!?助かったよ!ここでお前に会えた事は運命だろうね!」

「そんな!ルカとっても嬉しいです!それでは早速デートを」

「いやーこれはきっと運命だよ!きっとそうだ!そうに違いない!だから後ろの人たちは任せた!もしまた五体満足で会えたらジュースを奢ってやろう!行こうミーシャ」

「合点!じゃあな瑠歌!生き…てたら…また・・・グスッ・・・・・・また会おうな!!」

「えっ?なんでミーシャちゃん泣いてるんですか?あれ?なんでわんこさん行っちゃうんですか?デートは?」

さようなら、瑠歌!君の分までしっかり生きるから!化けて出るなよ!





運命的な出会い方だった。

それなのに愛しの彼は私を置いて走って行ってしまった。

中学生くらいの女の子と一緒に。

どうして?呼び出したのは彼なのに・・・

いつ以来だろう?こんなに頭にきたのは。

いつ以来だろう?こんなに悲しい気持ちになったのは。

後ろからたくさんの足音が聞こえてきて私に向かって何かを話している。

でもそんな言葉も私には届いてこない。雑音としか感じない。

こんなにどうしようもない怒りはどうすればいいんだったか。

「・・・・・・・・・・・・・・・邪魔だ、塵芥が。末代なんて言わない。お前たちの代で最後だ」

八つ当たりをしよう。




「さて、それでは赤井を探そう!」

腰に手を当てて元気良く言い放つ相方

「それはいい、あの小僧を捜すのには賛成しよう。しかしだな、少しは周りを警戒したらどうなんだ?」

明らかに普通の状態じゃない。

なぜか割れている窓ガラス、崩れかけている壁、庭に転がっているネコ、立ち込める火薬の匂い。

「絶対におかしいだろう。ここに来る間に変な奴らに六回襲撃されるってどういう事だ?」

まぁ、霧になって全員スルーしてきたが。

「おそらく神の試練だ、改宗させるにはそれだけのリスクが必要だという事を主は私たちに教えてくれているんだろう」

「確かに改宗されるにはリスクがいるな。内側から爆ぜるとか」

「とりあえず洗礼する為の聖なる水はあるから後はあいつを見つけるだけでいいんだが・・・」

「途中のコンビニで買ったヤツだけどな、ソレ」

思いっきり『アルプスの天然水』って書いてあるぞ?

「とりあえずあいつの部屋に向かうか」

「この有様なのに部屋でのんびりしてるっていうのは相当の大物か馬鹿だけだと思うがな」

こいつがこんなに上機嫌になったのを見たのは初めてだ。

スキップし始めたし。

「あぁ~これでまた一歩天国に近づいたな!洗礼名はどうしようかなぁ~!ありきたりな奴だと嫌がるかもしれないし・・・章はどんなのがいいと思う?」

「知らん、好きにしたらいいんじゃないか?」

「なんだ?章は嬉しくないのか?」

「いや、なんというかだな、言いにくいんだが、その、なんていう電話を受けたんだ?」

「わんこが赤井が教徒になりたいから二人で来て欲しいって」

確定した。騙されている。

そしてこの満面の笑顔の少女は何も疑っていない。

真実を告げるのはあまりにも酷に思える、というか言えるわけがない。

幸せの頂点にいる人間を絶望の底に叩き落とすような事はしたくない。

「やはりアンデルセンの方がいいか?いやでもゲーニッツも捨てがたいし・・・」

一人でブツブツ呟きながら満面の笑顔でスキップする少女。はたから見たら危ない人にしか見えない。

そんな少女を見ながら溜め息をついていると部屋の前に着いた。

「あっかい~ウェルカムトゥーファミリー!」

元気よく扉を開ける。

「え!?え~と・・・こんにちは?」

それは酷い光景だった・・・

本棚はグチャグチャにされ押入れの中のものは引きずり出されゲームと思われるディスクは床一面に広がりパソコンから流されるボイスは舌っ足らずな声の女の子の『お兄ちゃん』・・・

「お前は一体何してるんだ」

彼に仕えているはずのメイドの姿がそこにはあった。

「いや、こんな機会滅多にないんで今のうちに御主人様の弱みを一切合財全部纏めて手に入れておこうと思いまして・・・」

会話をしながらもこっちを見ないでゲームを続ける美玖。

『お兄ちゃん、だーいすき!』

「そうか、まぁそれはいいとして赤井はどこにいる?」

『お兄ちゃんは?』

「地下室に逃げるとか言ってました、酷いですよねぇ~大事な妹と可愛いメイドを置いて一人で逃げるなんて」

  はい

→いいえ

『えっ!?そんな、酷いよお兄ちゃん・・・』

「わかった、できれば案内してもらえるとうれしいんだが?」

男の子の腹から生える包丁

『ふふふふふ、これでお兄ちゃんは私だけのものなんだよ?あはははは』

「うわっ!?どこで選択肢を間違えたんでしょうか?まぁ所詮はクソゲーですね。やっぱりゲームは格闘ゲームに限ります。ちょうどゲームも終わりましたんで案内しましょう」

主人の物であろう床のディスクを踏み砕きながら部屋を出ていくメイド。

少しだけ、ほんの少しだけあの小僧を憐れんだ・・・




屋敷になんとか侵入し(なぜか正門には誰もいなかった)現在舞火ちゃん捜索のために一階廊下を疾走中である。

「なぁわんこ、なんで腕試し大会なのに屋敷の中ボロボロなんだ?」

「さぁ?よく分からないけど屋敷の中でドンパチやったんじゃない?」

「なるほどな、室内戦があるとは本格的だな!」

こいつアホの子すぎるだろ。

お菓子を上げるから着いて来いって言われたら着いて行きそうだな。

「っ!危ない!わんこ!」

急に飛びついて来たミーシャのせいで顔面を床に摩り下ろされる。

「ぎゃぁぁあぁぁぁあ!!鼻が無くなる!!何すんだこのクソガキ!!」

「助けてやったのにその言葉はないんじゃないか?」

指さす方向にはそのまま走っていたらおそらく僕の頭がある位置に刺さっている斧。

「・・・・・・・・・・・・ありがとう」

もう少しで僕の首から上にザクロが咲く所だった。

「ふふふ、さすがわたしですね。これで五人目です。あれ?わんこさん?すっすみません!勘違いしちゃいました!」

君か、舞火ちゃん。

まさか助けに来たのに助けるべき相手に返り討ちにされるとは思いもしなかったよ。

「一応聞くけど五人目って事は前の四人はどうなったの?」

「運よく柄の部分に当たって気絶したので外に放り出しておきました」

「うん、そう、よかったね」

刃の部分じゃなくて。

「それよりもどうしてわんこさんとミーシャちゃんがここにいるんですか?」

「おぅ!腕試し大会に来たんだ!」

「腕試し?」

「え~と、舞火ちゃんの手助けがしたくてさ」

「あぁ、そういうことですか」

危ない危ない、ミーシャに嘘ついてる事がバレたりしたらどうなるかわかったもんじゃない。

「でも、みんな急に慌てて帰っちゃいましたよ?」

「あ~そっか、心当たりあるからとりあえず黄莉ちゃんの所に行こうか。何処にいるか知ってる?」

「たしか、工房に入っていったはずです。案内しますね?」

そう言って僕の手を握る舞火ちゃん。

なんで手を握る必要があるんだろうか?やっぱり不安だったのかな?

なんかミーシャが歩きながら僕の靴のかかとを異様に踏んで嫌がらせしてくるし。

仕返しに空いてるほうの手でミーシャの腕を抓り、その仕返しにミーシャに腕を抓られるというループを繰り返しながら歩いて行くと工房に着いた。

「お母様、わんこさんが来てくれましたよ?」

「くふふふふふ、いい機会だわぁ~。あの人が作って欲しいって資料片手に言ってきたものを何とかしようとして苦節三年。今まで対象がいなくて試せなかったこの『拠点防衛用超長距離砲撃兵器ハルコンネンⅡ』の出番ね。うふふふふふふ」

「お、お母様?」

そこには目を輝かせて大きいよく分からない兵器を撫でている綺麗な御婦人がいた。

「あら?無事だったのね舞火、よかったわぁ。ちょうどいいからこれ運ぶの手伝ってくれないかしら」

「いえ、お母様。よく分かりませんが相手はみんな撤退していったみたいですよ?」

「え?なぁ~んだ、いい機会だと思ったのに。わんこちゃんも来てくれてありがとう」

少しだけだけどカロンの言ったようにこの人たちと関わるのは避けた方がいいのかと真剣に考えた僕なのでした。





少年と少女が目的地に来る少し前


元々俺はこんな仕事乗り気じゃなかったんだよ。

最初にこの話しが来た時から疑ってたし襲撃する相手も相手だったしな。

それでも自分に着いてきてくれる部下を食わしていくためにこの仕事を選んだんだ。

ここまで準備するのは大変だった、すごく大変だった!

まずこの割と平和な国にこれだけの銃火器や装備を運びこむ事。

普通の住宅街にこれだけの人員と装備で集まり警察にばれない事。

これだけで普通に暮らしていても部下を三年は食わしていける金がかかっている。

それでもこの仕事を選んだ理由は報酬だった。

この仕事をやり遂げた暁には部下たちと毎日遊んで暮らせるほどの金が手に入る。

あまり気は進まなかったが部下全員に土下座で頼まれたらやるしかなかった。

それでも成功する自信はあった。


あったのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その死神はやってきた。

右手にシャープペンシルを持ち左手に手帳を持ち背中に『海人』と書かれたダサいTシャツを着てホットパンツにスニーカーを履いてやってきた。

死神だという事に気付いたのは俺と副隊長だけ、実際に死神を目にした事があるのは俺たちだけだったから。

知らない人なんていない、この国で映像になっているはずの人間だから。

ただ、実際に本物を見たこと無い人にはヒロインに見えただろう。

俺と副隊長には死神に見えた。

その死神は俺たちみたいな戦争屋の間では伝説として語り継がれこう呼ばれていた。

どこからともなく現れて好きな方に味方をして嫌いな方を叩き潰す。

天災ストームブリンガー


この瞬間、包囲戦は撤退戦に変わった・・・






「で?結局あなたは何をしてきたのかしら?」

目の前で紅茶を飲みながら少女漫画を読んでいる主人が問いかけてくる。

「はい、えーそのですね、何もしてません」

既に土下座モードに移行している俺。

「ふーん?私は命令をちゃんとしたはずなんだけれど?」

「は、はい。しかしですね?現地に着いた時にはもう事は片付いた後でして」

「言い訳なんて聞きたくないわ。問題は、一番の問題は、彼に頼まれて格好つけて命令をしたのに実際私たちが何もしてないことよ!」

「は、はい!」

「どうするの?私は今週の日曜日にどんな顔をして彼に会えばいいの?これは大事なことよ、今回のこの失敗で彼の好感度が下がってしまったらどうするの?」

「申し訳ございませんでした」

「この失敗、ちゃんと責任を取ってもらうわよ?」

「と、言いますと?」

「屋敷の修繕費はあなたが借金をしてでも払いなさい」



俺は首を吊ることになるかもしれない・・・・・・・・

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