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番外編二話 教会組の幸せ

昔から自分は不幸だということは自覚していた。

それは正月に神社でおみくじを引いたら普通は抜いておくであろう凶を引いてしまった事。

両親が交通事故で死んでしまい高校を中退してしまった事。

仕方なく就職活動をして一番最初に入った会社がめちゃくちゃブラックだった事。

その後普通の会社で働いていたら倒産させられた事。

挙げていたらキリがないくらいあるのだが、それでも人生で一番の不幸はなんだったかと聞かれたらすぐに答えられる。


「おーい!わたしは掃除しなくちゃいけないから、懺悔室おねがい。」


この女に出会ってしまったことが多分今までの人生で一番の不幸だ。


「懺悔室なんてどうすりゃいいんだ?」

「とりあえず相手の話を聞いて適当にアドバイスして頂戴。」

こんな適当な奴がなんでシスターなんてやってるんだと思ったがよくよく考えれば自分も神父なんて柄じゃないなと思いなおし懺悔室に入る。


「今日はどうなされましたか?大丈夫です。ここでの話は私とあなたと神しか聞いておりません。」

自分でも似合わない口調だと思うが教会の神父がタメ口はまずいだろう。

「神父様、聞いてもらえますか?実は私には好きな人が居るのですが、久しぶりにその人に逢ったら自分の知らない女性と一緒にいたんです。どうしたらいいのでしょうか?」

聞こえてきた声は若い女性の声だった。

「ふむ、その人達が付き合ってるかどうかは聞いたのですか?」

「いいえ、怖くて聞いてません。もし二人が付き合っていたらと考えると怖くて・・・」

「まずは話してみる事です。」

「いいえ、できません。もし付き合っていたら……………斧を赤く染めてしまうかもしれません。」

黒いオーラが木でできた格子の向こう側から伝わってくる。

(俺の出会う女はなんでみんなこうも危ない奴ばかりなんだ!)

「いいですか?暴力はいけません。何事も話しあいで解決させるのが一番です。そう、あの時も話しあいで解決できたらきっとこんなことにはならなかったんだろうな・・・」

なんであの時に普通の会社員だった俺が犯罪者紛いの事をやろうとしてしまったんだろう。そうすればこんなことしなくてすんでいたのに・・・

「あのぅ…神父様?どうなさったんですか?いきなり黙り込んでしまったりして。」

話しかけられて一気に現実に引き戻された。

「いや、なんでもない。昔の事を思い出していただけだ。それよりもその好きな人はあなたと同じ学校か?」

「いえ、兄の友達でよく家に遊びに来ていたのですが最近あまり来なくなりまして久しぶりに来たと思ったら知らない女の人と仲よさそうに話していて、くそ!あの女狐ビッチが!」

「落ち着け!いや、落ち着いてください。まずは話しあってみて付き合ってないのなら告白してみなさい、もし付き合ってるのであったらあなたが誘惑してなんとかしてみなさい。私は恋愛などにはあまり関係のない人生を送ってきたのでアドバイスはこれくらいしかできません。」

「むぅ、わかりました。今日はありがとうございました。」


ふぅ、終わった。

「大体掃除なら俺がやって懺悔なんてローラが聞けばいい事だろう。」

「自分の事で精一杯なのに人の懺悔なんて聞いてる余裕があるわけないだろう?それに章はわたしの願い事は全部聞かなきゃいけないんだぞ。」

「ふざけるな!俺はお前の奴隷じゃない!」

「私にあんなことしておいて私を捨てるのか甲斐性の無い奴だなお前は。」

「それ以前に俺にあんなことをさせておいてなぜ平然としてられるんだ貴様。」

愚痴をこぼしても軽くながされてしまう。

くそ!めんどうだ。



「何を買うんだ?」

街で一番のデパートに着き色々見て回っている。しかし、二人とも教会の正装で買い物していると人目を引いてしょうがないな。昔からあまり目立つ事は好きではない。

目立つという事はそれだけ危険に巻き込まれる可能性が増えるからな。

「とりあえず食料と日用品ぐらいかな。他に必要なものがあれば買っていくが、何か欲しいものでもあるのか?」

「いや、特にないが。」

そんな会話をしていると向こうから俺がこんなことしなければいけなくなった元凶が来た。

「あら?あなたは確か…ローラさんだったかしら?そして隣にいるのは章じゃない。どうしたのかしら、デート?」

「カロン、あまり章さんを挑発するなよ。こんにちはローラ、章さん二人してそんな目立つ格好をして買出しかな?」

俺の人生を狂わせた男と女がよくそんな言葉を吐けたものだな?

「あぁ、日用品を買いにな。わんことカロンは買い物か?」

「いいえ、デートよ。毎週日曜日はデートの日だと契約しているの。」

「まぁ、それもあるんだけどさ。実は家に新しい住人が増えることになってね?必要なものを買いに来たんだよ。」

こいつもこいつで厄介な人生を送っているのだな。

同情する気は微塵もないがな

「ふむ、お前の家はアパートでも経営していたのか?」

「いや、父さんが厄介事を引き受けちゃいましてね?それで人を預かることになったんです」

厄介事で人を預かるってどんな仕事をしているんだ

「失礼だが、御両親は何の仕事をしているんだ?」

「父さんは専業主夫で母さんは小説家です。大海原おおうなばら地平線ちへいせんって名前で恋愛小説を書いてるんですけど知りませんか?」

ひどいペンネームだな。もっと他にあっただろうに

「それってもしかして今度映画化される奴か!すごい!サインとか頼めるか?」

「・・・そんなに有名なのか?」

「知らないのか章!今この国で一番流行っている小説だぞ?アニメ化もされてるし!」

映画化やドラマ化よりも先にアニメ化される恋愛小説なんてあるのか?

時代は変わったな

「・・・大丈夫なのか?この国」

「ん?どうしたんだ?」

何でも無い、としか言えんな

「それじゃ、僕たちはそろそろいくよ。買うもの買ったし、それじゃローラに章さんまた今度」

仲良く手を繋いで行ってしまった

なんというか青春してるんだな、と頭の片隅に浮かんだが深く考えると過去の事を思いだしそうなのでやめておこう

「あー、サイン貰えないかな?一生大事にするのに」

「お前恋愛小説とか読むんだな」

「いや、あたしはアニメで知ったんだ。赤井が前に貸してくれてな?」

あの坊ちゃんは普段何をしているんだ?

「章も見るか?すごく面白いんだぞ!特に終盤の主人公の軍人とヒロインの三日間の激闘とか!」

「・・・いや遠慮しておこう、俺には必要ないからな」

恋愛小説で主人公とヒロインが激闘を繰り広げるのか?

最近の流行は良く分からんな

「なるほど!章にはあたしがいるからな!」

「ほざけ」

満面の笑みでしかもデパートの中で言うセリフじゃないだろう

しかもそれは女が言うセリフでもない

「ほら、さっさと買い物を終わらせるぞ」



「最近よく思うんだがブロッコリーとカリフラワーってどう違うんだろうな?」

「色だろ」

「いやそうじゃなくてさ?味とか特に変わらないのに何でだろうと」

こいつは意味のわからんことに興味を持つな

「さぁ、俺にもよく分からんが・・・薔薇も赤とか白とかあるからあれと同じじゃないか?」

「あ~あれも意味分からんな。最近は青とかもあるらしいし」

「そんな色もあるのか?」

「らしいぞ?そのうちねずみ色とかも出たりしてな」

誰が買うんだそんな色、プレゼントされてもまったく嬉しくないだろ

「そういやそれ以外にも気になることがあるんだが、あ!そこの豆腐とって木綿の方な?酢豚にパイナップルを入れる意味もよくわからないんだ」

「普通入れるんじゃないのか?」

「えっ?いや入れないだろ、私の所じゃ入れてないんだが」

そうだったのか・・・

「意外とうまいぞ?」

「ふぅん、じゃ今度料理してくれ」

それよりも今日の夕飯が果てしなく不安なんだが・・・

なんでカレー粉が入ってるのに豆腐がいるんだ

「そうだ、章に聞きたいんだけどさ?」

「なんだ、いきなり真面目な顔をして」

嫌な予感しかしないな

「私は章を幸せにしてやるって言って教会に引き込んだよな?」

「無理矢理な」

「その、まだそんなに時間が経ってないから答えられないなら答えなくてもいいんだけどさ・・・章は少しでも幸せになれているか?」

なんだ・・・こいつでも不安になったりするのか・・・

「正直なところよくわからんが、お前との出会いは俺の人生で一番の不幸だったな」

「っ!そう、か」

「だが、これから俺を幸せにしてくれるんだろう?」

「!!?あぁ!当然だ!世界で一番の幸せ者にしてやる!!」

「ふっ、期待してるぞ?」

昔からなにかと不幸だったがこれからも不幸とは限らない

人生のどん底にいてもふとした事で幸せになれるかもしれない

こんな俺でも幸せになれるかもしれない

そのためにも

こいつに頑張ってもらわないとな?



きらきら瞳を光らせて喜んでいるローラの脇で、少しでも自分の不幸を回避するために豆腐を気付かれないように元の場所に戻す俺だった・・・

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