第十四話 僕の昔話と後日談
目が覚めるといつのまにか自分のベッドの上だった。
「………あれ?なんでだ?え~と…昨日は確か学校に行って、放課後に御主人様の家に行って、トランプでボコボコにされて、帰り道で変なおっさんに絡まれて、速攻で負けて……」
そこで記憶がぷっつりと途切れている。
「おや?起きたんだね。随分気持ちよさそうに眠っていたね?」
掃除機をかけながら部屋に入ってくるマイファーザー。
「父さん。僕昨日どうなった?」
「うん?昨日はなんか知らないおっさんにぼこられて肩に担がれてたよ?喧嘩はいけないなぁ。暴力は何も生まないよ?平和的に解決しなくちゃ。」
いつの間に掃除を終わらせたのか部屋を出て行こうとする父。
「そうだ、わんこに言っておくことがあるんだけどね?女性関係は気をつけないといつか背中刺されるよ?」
捨て台詞を吐いて部屋を出て行きやがった…
「ていうか、女性関係に気をつけなきゃいけないのは僕じゃなくて御主人様だと思うんだけな。」
とりあえず学生服のままだったので私服に着替えて携帯電話を見るとメールが来ていた。
FROM 御主人様
昨日の事で話しがある。すぐに来い。もうみんな来ている。
やばい、非常にやばい。何がやばいってメールが来ていたのが午前九時、ただいま午後一時。
「まずい、これはまずい。鬼畜な御主人様の事だから絶対に何かされる。それに昨日の事ってことはカロン関係ってことだよな。」
とにかく急いで家を出てダッシュで屋敷に向かう僕。
家の前のコンクリートが砕けていたのは気にしない。どうせ母さんがまた自殺未遂でもしたんだろう。
十分後・・・
僕は今御主人様の部屋の前にいる。
なんで入らないのかは心の準備ができていないからです。すいませんチキンで…。
今の気分を例えるなら学校で何か問題を起こして先生に呼び出されていたのにその情報が僕に伝わらず、次の日の朝早くに職員室に向かう時の気持ちかな。
………よし!覚悟は決まった。今の僕なら敵と一緒に高速で走っている電車から飛び降りるくらいの覚悟はできている。
ドアノブを握って、扉を開けるとそこにはいつものメンバーが居た。
ただし、それ以外も何人かいる。しかも状況が把握できない。
亀甲縛りで縛られて椅子に座らされているメイドさん。
それを黒い笑みを浮かべながら尋問?をしている御主人様。
それを止めようとしている瑠歌。
どんなプレイだよ。というツッコミはしない方がいいだろう。
そして見たことのない女性と手錠で繋がれている翔。
翔に手錠で繋がれたまま翔に抱きついている女性。
背中から黒いオーラを出しながら翔を問い詰めている蛇神さん。
なにこの修羅場…
最後に、なんか知らないおっさんに対して神の素晴らしさを語っているローラ。
聖書を読みながら難しい顔で頷いているおっさん。
ひどい空間だ・・・
「お?やっと来たかわんこ。とりあえず座れ。簡単に説明すると、昨日俺たちはお前の元御主人様からの刺客に襲われてこれを返り討ちにして捕虜にすることに成功した。そして今尋問をしているところだ。」
とりあえず全員が無事だったことに安心した。
ん?ということは負けたのは僕だけってことかよ。ウソだろ?御主人様とか絶対に負けると思ってたのに期待を裏切られた気分だ。
「まぁ、まずは自己紹介でもさせようか。おい、美玖。わんこに挨拶しろ。」
そう言うと縛られているメイドさんがこっちを向いて笑顔で話し始める。
「初めましてわんこさん。私は今日からこのお屋敷で雇ってもらうことになった恋結美玖です。今後ともよろしく。」
「よろしくお願いします。………ん?恋結?いやまさかそんなことが」
「・・・んです。」
「は?」
「私の実のお姉ちゃんです!最近まで無職でふらふらしていたのに毎月どこから持ってきたのかお金を家に納めていたのでおかしいとは思っていたんですけどこんなことをしていたなんて!」
俯く瑠歌。
兄妹なのかよ!しかも無職だったんだ!
「いや~弟に好きな人が居る事は知っていましたけどわんこさんだとは知りませんでした。弟とこれからも仲良くしてやってください。」
「はぁ、分かりました。」
自己紹介はこれで終わったのか今度は翔に抱きついている女性が話し始めた。
「私の番かな?私の名前は観遣嬰螺というんだ!覚えておいてくれると嬉しい。歳は二十四で昔マジシャンをしていて現無職!いや、違うな。翔くんの妻だ!よろしく頼むよ?わんこくん。」
「よろしくお願いします。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?僕は別に嬰螺さんと結婚するわけじゃないからね!?」
「いいんじゃない?せいぜい幸せにしてあげなさい。」
「愛!?そんな!?ぼっ僕たち付き合ってるんだよね?」
「行きずりの女と一緒に夜を過ごすような彼氏は私にはいないわ。消えて頂戴?」
「そっそんなぁ。」
「ふふふ、彼女もこう言っていることだし私たちは幸せになろうじゃないか!ね?あ・な・た。」
うわぁ、御主人様のせいで修羅場には慣れていたと思っていたけどやっぱり女の人って怖いなぁ。
御主人様の時は相手も半ばあきらめていたからそんなでもなかったけど、今僕は確信したよ。
漫画みたいなハーレムはありえないってことが頭ではなく心で理解できた。
ていうかこの修羅場に巻き込まれたくないからさっさと次の人に紹介してもらおう。
「え~と、初めまして。僕がわんこですけど、お名前は?」
「むっ、源章だ。そうか、お前がわんこか。よし、とりあえず殴らせろ。」
拳を握りしめて僕に殴りかかる途中でローラに殴られる章さん。
「暴力は駄目だ!お前は教会の神父なんだからな?もうどっかのサラリーマンみたいに屋上で殴り合いとかしていい身じゃないんだ。」
「ぐっ!?…くそ!分かった。暴力はやめよう。」
また聖書を開いて座る章さん。つか僕何かしたかな?
「あの、僕あなたに何かしましたっけ?」
「いや、お前は何もしていない。ただ俺の会社が潰れ、教会に住むことになり、ローラに人生を捧げなければならなくなった元凶を見つけたから八つ当たりしたくなっただけだ。」
「………いや、あの、その、すみませんでした。」
「謝るな。泣きたくなってくるだろうが。」
まさか高校二年生にしてここまで人の人生を狂わせることになるなんて思わなかった。
泣きたくなってくると言っておきながら開いてる聖書が濡れてるんですけど…
「よし!自己紹介は終わったな?そんじゃお前ら捕虜組に聞きたいんだが、なんで俺たちを襲った?なんで元御主人様とやらはわんこを狙う?組織は何が目的だ。」
部屋の空気が一気に重くなる。
「私は雇われて雑用をしていただけなので詳しく知りません。智和様を襲ったのもここが私の地元だという理由でしたから。」
「俺もこの前入ったばかりだから良く知らん。会社倒産させられて仕方なくやっていただけだ。」
ふ~ん。二人は知らないのか。うまくいけば色々と隠し通せるかもしれない。
できれば昔の事は恥ずかしいから知られたくないしね。
「私は結構前から組織にいたから知ってるよ!」
ジーザス!くそっ!いや待て。問題は何処まで知っているかだ!
「まず襲ったのは保険だよ!もしもわんこくんを取り逃がしてしまった時に人質にするためだね。正規のメンバーはくじ引きとジャンケンで決まったよ。」
結構でかい組織のはずなのにやってることがおかしいだろ!
「組織の目的は簡単に言うと世界征服だね。いろんな考えの人が集まってるから一概には言えないけれど大体似たり寄ったりだよ。」
なんだろうなぁ。いい大人が真面目な顔して世界征服とか言ってると頭を怪我してるようにしか思えない。
「わんこくんを拉致ろうとしたのは指揮官殿がどうしても会いたいとかほざき始めて仕事を放棄し始めたのが原因だね。二人がどういう関係なのかまでは知らなかったけど。」
うわ!みんなの視線が一気にこっちにきやがった!
「はぁ、分かりました。説明しますからこっち見ないでください。どこから話せばいいのかな、初めてカロンと出会ったのは小学校でした。僕はまだ御主人様がいなくて能力を何も使えなかったせいで虐められて毎日喧嘩してました。そんな時に彼女が僕の前に来たんです。」
「どうしてあなたは喧嘩をして、いつも負けて、それでもそんなに普通でいられるの?」
そう言って僕を見る彼女はとても不思議そうな眼をしていた。
「これが僕の普通の日常だからだよ。」
殴られて痛む体を気にしてないようなふりをしてそう答えた。
「それは私から言わせてもらうと異常なのだけれど?」
「普通なんて人によって違うんだ。今はこれでいいんだよ、もう少し大人になればこういうこともなくなるさ。」
やばい、鼻血が出てきた。
「喧嘩で勝ちたいとは思わないの?能力を使えるようになりたいとは思わないの?」
「そりゃ少しは思うさ、男の子だからね。でも僕の能力は誰かに仕えなければ使えない。誰かに仕えるなんて嫌だ。自分の自由に生きられないなら能力なんていらない。」
「なら、私に仕えなさい?簡単なことよ、毎週日曜日に私とデートしてくれるだけでかまいませんわ。」
「へ?」
頬を赤らめながらそう言い放った彼女は僕から見てとても綺麗なものだった。
「これが僕とカロンの出会いでした。」
ん?なんでみんな顔をしかめてるんだろう?
「おいわんこ!なんだそのストロベリーな展開は!?確実にそいつお前の事好きだろ!」
「体がかゆいです!なんでしょう?私の心が汚れているせいでしょうか?」
そんなに恥ずかしいような内容だったかな?
「ここから長いので省略しますが、なんやかんやありカロンは世界統一の為に組織を創ってそれに反対した僕は主従の関係を切られてしまい連絡しないままこの街に引っ越してきたんですが…まさか今更僕を連れ戻そうとしていたとは思いませんでした。」
一気に話しを終えて周りを見ると僕に非難の視線が集まっていた。
「ふーん、つまりだわんこ。お前の過去の尻拭いの為に俺たちは襲われてあまつさえ無関係の男の人生を滅茶苦茶にしたわけだな?しかも主である俺になにも相談しなかったと。」
漫画とかではよくあることだけど完璧な笑顔ってすごく怖いんだな。
あきらかに怒ってるのにそれを表面に出さずに内側に溜めてるっていうのが簡単に分かるだけ性質が悪い。
まぁ、身から出た錆なんだけどね。
「えーと…すみませんでした。皆様にはご迷惑をかけてしまい誠に申し訳なく思っています。御主人様には主従の関係を切られてしまっても仕方ないので残念ですが」
「何言ってんだ?」
「へ?」
「いや、誰も主従の関係切るとか言ってねーし。答えろわんこ、俺がお前の主人になるときに出した条件はなんだ?」
「……絶対に裏切らないこと、です。」
「お前は確かに秘密にしていたことがあったしそのせいで俺らに迷惑をかけた。でも裏切っちゃいないだろう?それにな、俺は自分の所有物に手を出されるのは大嫌いなんだよ。そのカロンって奴は何処にいるかわかるか?」
そう言って準備を始める御主人様。
「全く知りません。でも多分近々僕に直接会いに来ると思います。」
「そうか、なら今度会った時に迷わずぶっ飛ばしてやる!」
そう啖呵をきった御主人様はとてもかっこよかったのだが…
「うわぁ…女の子の顔殴るとかないわぁ。就職すんの辞めた方がいいかな?」
「赤井君はただのたらしかと思ってたけど暴力まで振るうんだね!最低だね!」
「だっ駄目だよ!平和的に行こうよ!?ね?わかりあえるよ。」
「私今まで男女平等って素晴らしいものだと勘違いしてたわ。」
「この人はいつもこうなのかい?だったら私はもうこの人に関わりたくないな。ところで翔。この書類にサインをしてくれ。」
「ふむ、男としてそれはないな。女性には優しくするものだ。」
「暴力は駄目だな。愛があればきっと分かり合えるさ。神もそう仰っている。」
総駄目だしを食らっていた。
御主人様カッコイイ事言ったのに涙目だよ!ホームなのにアウェーだよ!やばい。部屋の隅で泣き始めた!いつもの御主人様じゃ考えられないほど追いつめられてる。てか心よわっ!
とりあえずフォローしといたほうがいいな。
「御主人様すごくかっこよかったですよ?僕の心にすごく響きました。だから大丈夫ですよ。」
「いいんだ…俺なんて、いろんな女性に手を出しておいて本命の女の子に告白すらできないチキン野郎は死んだ方がいいんだ。」
これは重傷だなぁ。ん?それよりも…
「御主人様に本命の女の子なんか居たんですね。いつもなら色んな女性と付き合ってはすぐに別れるような御主人様がどうして告白の一つもできないんですか?僕は応援しますよ!」
「…………それが法律に触れるようなことでも応援してくれるか?」
予想の二段階上くらいの覚悟が必要だぞ?それは。つーか御主人様ロリコンだったんだ。
「頑張りますからとりあえずいつもの御主人様に戻ってください。」
「…うん。」
ふぅ、御主人様はなんとか立ち直ったけどこんなめんどくさい人だったっけ?
「よし!もう大丈夫だ。話しはこれで終わりだが折角集まったんだ。なにかみんなで遊ぼうじゃないか!」
あれ?この流れどっかであったような…。あれ?いつだっけ。すごく最近な気がするんだけど。
「人数が多いからトランプじゃすぐに終わっちまうな。どうするか…そうだ!みんなの友情を深めるためにテレビゲームでもしようじゃないか!」
御主人様が取りだしたのはパーティゲームの王道といっても過言じゃない『桃〇』だった。
分からない人に簡単に説明すると日本を舞台にしてプレイヤーが社長となって会社を大きくしていくゲームである。が、結構人間性が出るゲームでこれによって友達との友情が壊れる事まであるという中々にシビアなゲームである。他にもドカポンなどが挙げられる。
「御主人様?それで友情を深めるというのは中々きつくないですか?つーか人数どうするんですか?」
「ん~仲のいい奴同士で組んでやればいいだろ。」
そうして組み分けが始まり。決まったチームがこちら。
御主人様・僕の主従チーム
瑠歌・美玖の姉弟チーム
翔・蛇神・嬰螺の修羅場チーム
ローラ・章の教会チーム
期間は二十年。そして勝負が始まった!
結果だけ言うと酷いものだった。
ゲームをするのが初めてのローラと章さんがお話しにならないくらい弱かったのとびっくりするくらい運がなかった。ゲーム終了の時点で持ち金マイナス2兆超えてるし、ゲーム中一度も貧乏神が彼らから離れたこともなかった。
翔たちのチームはゲームどころの話じゃなくてなんか蛇神さんと嬰螺さんがリアルファイトしてたし瑠歌と美玖さんのチームは運だけは異常に良かったのに御主人様が序盤にいろんなところの物件を少しづつ買ってたせいで独占がまったくできなかった。
結局僕と御主人様の一位独走だったのだが、なんだろうこの虚しさは。
「ふー楽しかったな。やはりみんなでやるゲームといったらこれだな。」
そう満面の笑みを浮かべる御主人様だがそう思えるのはあなただけです。
結局その日は他にやることがなくお開きになった。厄介な人たちが増えたなぁ。
「で?あなたたちは作戦に失敗してしかも部下を何人か失って逃げ帰ってきたのね?情けないわ、本当にあなたは悪魔の軍団長なのかしら?」
「面目ない。この失敗はいつか挽回します。それと主に一つ彼の父親から言伝があります。その…大変申し上げにくいのですが…」
「さっさと言いなさい、私は次の策を考えなければいけないのよ。」
「はっ!彼に会いたいのなら自分で会いに来い、その勇気が無いのなら息子に手を出すな。と、言われました。」
「………………マジで?」
「えらくマジです。」
「…分かったわ。父親がそういうのなら仕方ないわね。京、準備をなさい。」
「は?いったいなんの準備でしょうか?」
「決まってるじゃない、あの駄犬に逢いに行くのよ。いや、ただ逢いに行くだけじゃ駄目ね。あいつの学校に行くわよ。」
今日も変わらずに世界は動く。