第十話 僕とラブレター その結果
朝、学校に行き下駄箱を開けたら手紙が入っていた。生まれて初めてのことにロマンティックが止まらない。こんな僕でも人に愛されてるんだと今日ほど思った日はないだろう。そこまで考えて自分の中の冷静な部分が言う。
落ち着け、これはおそらく孔明の罠だ。
そうだよ、僕みたいな凡人にこんな嬉しいイベントがあるわけがないじゃないか!現実を見ろ、起きないから奇跡!きっと御主人様が面白半分で僕をからかっているか、場所に行ってみたら瑠歌がいるとかそんな事になるにきまってる。とりあえず御主人様を縛りあげよう!
「というわけで、なんでこうなってるかわかりますね?御主人様。」
目の前には両手両足を縛られて転がっている御主人様がいる。
「わんこよ、これはどういうことだ?謀反なのか?俺が何をしたんだ。」
言いながらどこに隠し持っていたのか、手に持っているナイフで縄を切ろうとしている
「はぁ、この期に及んでまだとぼけるんですか?前々から御主人様は性格が悪いと思い何故こんな男を周りの女性たちが好きになるのかと不思議でしたが、あまりふざけているとその顔に焼きを入れますよ?」
軽い嫌味を言いながら手を踏みつけ手からナイフを離させる
「俺の体から溢れ出るオーラに女が群がってくるんだよ。とりあえず説明を求める。」
このやろう!まだとぼける余裕があるというのか。
「朝僕の下駄箱に手紙を入れたでしょう?まったく…僕も男なんですから変な期待を持たせないでください。そして、謝罪をしてください。」
「なんのことだ?・・・まて、落ち着け。まだあわてるような時間じゃない!だから火を顔に近づけるな!」
「大丈夫ですよ。顔を少し焼くだけですから。」
「やめるんだわんこ!俺の顔が傷ついたら悲しむ女がたくさんいるぞ!?」
「幕末に全身包帯だらけで刀から火とか出しちゃう人にもいつも女の人が居たんですから御主人様ならきっと大丈夫ですよ。」
流浪人って今だとニートなんだよなぁ。あんなに恰好いいのに…
「まてまてまて!本当にまずいから!あれは漫画の世界だけだから!いやホントすいませんでした!自分が何したかは知らないが謝りますんで顔は勘弁してください!」
待てよ?この反応は本当に知らないのか?ふむ、じゃあこれは瑠歌の方だったか。
そう思いとりあえず御主人様の拘束を解く
「ふぅ助かった。まったくどうしたんだわんこ?悩みがあるなら聞くぞ。」
「いや実は朝下駄箱にこんな手紙が入っていましてね?てっきり御主人様のイタズラかと思ってしまいまして。」
「どれ、貸してみろ。…ふむふむこれは俺じゃないぞ?俺はこんなイタズラはしないしな。」
「じゃあ瑠歌ですか。まったくとりあえず拉致って来ますんでここにいてください。」
・・・数分後、瑠歌を体育倉庫に呼び出して縛りあげた
「さて、瑠歌?言い訳を聞こうか。もしくは遺言でもいいんだぞ?」
「うぅ、わんこさんに体育倉庫に呼び出されたのでついにきたと思っていたのに…騙しましたね!?しかも赤井君まで一緒になって!はっ!?ま、まさか二人で身動きの取れない私を辱める気ですか!?駄目ですそんなの!思いとどまってください!」
「落ち着けわんこ。話しを聞いてからでも遅くはないだろ?だから火を出すのをやめてくれ。軽くトラウマになりかけてるんだ。」
御主人様に言われたので仕方なく瑠歌を燃やすのを思いとどまる
「瑠歌、朝学校で貴様は何をしていた。」
「朝はわんこさんのことを考えながら学校に来てわんこさんの椅子に座って温めてました!」
「ふむふむ、こいつは嘘は言ってないぞ。朝確かにこいつはお前の席に座って机の匂いを嗅いでた。こいつはなんにも知らないな。」
「それはよかったんですけど、とりあえずこいつは燃やします!」
なに朝から勝手に人の席に座ってんだ?・・・先生に言って机と椅子変えてもらおう。
「燃やそうとしないでください!人の命は重いんですよ!?」
「命?はいはいワロスワロス」
「扱いがすごくぞんざいなんですけど!?いや、本当にやめてくださいよ!?赤井君も見てないでわんこさんを止めてください!」
「すまん・・・今のわんこを止められるだけの力も知恵もないんだ。ネコ達は今有給取ってるし。」
「あのネコって雇ってたんですか!?」
「週休二日三食昼寝付きでな。それよりも心の準備をした方がいいぞ?」
「ひゃあ!わんこさんホント勘弁してください!」
「わんこよ。後片付けがめんどくさいから火はやめろ。」
その後、瑠歌をぼこって放置し、教室に帰る時に大事な事に気づく。
「あれ?じゃあこの手紙はなんでしょう?」
「ラブレターだろ?いや~ついにわんこにも春が来たか。」
そう言ってなんかほっとしている御主人様。なにこれ?殴っていいのかな。
そんな事を考えつつも急速に頭が冷えていく
「あれ?ど、どうしたらいいんでしょう。美人局とかじゃないですよね?うわぁ、やっぱり、つ、付き合った方がいいんでしょうか。」
「落ち着け、しゃべり方が翔みたいになってんぞ。別に好きなやつがいないんだったら付き合ってみるのもいいんじゃないか?いいぞぉ、女の子は!」
そう言って両手を広げ話し始める御主人様
「世の中の女の子は不細工であれ美人であれ全ての女性はどこか可愛いところがあるんだ!問題はそこに気付くかどうかだ。付き合ってみて初めて分かることもあるんだぞ?」
「いや、そんなことをいわれても…」
「特にだな、普段は人に見せないような仕草を目の当たりにした時なんかもうたまらないぞ?それは現在でいうツンデレだったりヤンデレだったりするわけだがつまり俺が言いたいのはだな。ギャップが大事だという事だ。最近の女の子で言うと…」
両手を広げ廊下の真ん中で一人で演説をしだした御主人様を放置して教室に戻る。なぜか瑠歌の方が先に教室に着いていたのだけれど今はそんなことよりも放課後にどうするか考えよう。
結局何も考えが浮かばなかったので待ち合わせ場所の体育館裏に来た。そこに他校の制服を着ている女の子がいる。知っている、僕はその女の子に見覚えがある。できれば二度と会いたくなかった。
見なかったことにして帰ろうとしたのだが、
「わたくしを待たせるなんて、いい度胸をしてますわね?犬畜生風情が。」
逃げるコマンド失敗!回り込まれた!
「久しぶりね?随分と逃げ回ってくれたじゃない。もういい加減気が済んだでしょう?私のところに帰ってきなさい。」
そう言いながら僕に近づいてくる。それに合わせるように僕は距離をとる。
「僕は戻らない!・・・です。」
「あらら。随分と嫌われているわね。わたくしはこんなにもあなたに会いたかったのに。あんまりつれない態度を取っているとわたくしも手段を選ばないわよ?」
「僕はもう嫌だあんなくだらないことしたくない。それにもう僕には御主人様がいるから。」
「くだらない?くだらないねぇ。本当にそうなのかしら、わたくしは素敵なことだと思うけれど。それにもう人に仕えているのね。まぁいいわ。あなたの席は空けておくからいつでもいらっしゃい?それじゃ、わたくしはピアノのレッスンがあるから帰るわ。ごきげんよう、わんこ。」
捨て台詞を言って帰っていく少女に僕は反応できなかった。
彼女の名前は死守カロン
僕の元御主人様にして企業のお嬢様。そして・・・この平和な時代に世界征服なんてとんでもなく馬鹿らしいことを本当に実現しようとし、またそれだけの力と人望を持ち合わせ、ソロモン血盟軍なる組織の創始者にして多分この世界で(頭が)一番危ない人間である。