第九話 僕らと転校生 ファーストコンタクト
神の御加護があらんことを
「わんこさんわんこさん!ビッグニュースです!」
なんかデジャブを感じるな・・・というか朝から本当にテンションが高いなぁこいつ、少しでもその元気を僕に分けてほしいよ。
「今度は何があったんだ?通り魔の次は脱獄犯かなにかか?この前みたいなことはもういやなんだけど。」
「ちがいますよ!このクラスに転校生が来るらしいです!」
「ふーん、もうすぐ夏なのに今更転校生ねぇ。ちなみにどこから仕入れた情報なんだ?」
「いいでしょう!他ならぬわんこさんの頼みなので特別に教えてあげましょう!あれは昨日放課後に一人教室に残りわんこさんの机の匂いを嗅いでいた時でした!」
「よし!話しはもういい。とりあえず殴らせろ!」
「ふと気配を感じて窓の方を見ると知らない人がいるんです。こんな時間におかしいなぁ、と思って声をかけたんですよ。すると、明日からよろしくね?って言って消えてしまったんです!きっとあれは転校生ですよ!」
「ふーん・・・ん?ちょっと待て。どこにいたって?」
「だから窓の外だって言ってるじゃないですか!人の話をちゃんと聞いてくださいよ!」
「・・・・・・あれぇ?」
おかしいぞ?窓の外って・・・ここ三階なんだけど。
「それ転校生ちがう。幽霊かなんかだよ、よし瑠歌お祓いに行こう!」
「ちがいますもん!本当に転校生ですってば!!」
「瑠歌、君はきっと疲れているんだよ。もしくは憑かれているんだよ。」
「う〜!じゃあもし本当に今日転校生が来たらどうしますか?」
「もし本当に瑠歌の言うとおりに来たら何でもしてやるよ。そのかわり、来なかったら今日から一カ月僕のそばに近寄るな。」
「ぐっ!?・・・分かりました、ちゃんと約束守ってくださいね!」
「はいはいお前こそ守れよ?あと二分後が楽しみだ。」
ああ、やったこれでしばらく平穏に過ごすことができる。そう安堵して今か今かと先生が入ってくるのを待っていた。その後に起きる事も知らないで。
「おーし。お前ら席に着けー。今日はこのクラスに新しい仲間が増える。」
なん・・だと・・・ばかな。こんなはずではないのに。そう思い瑠歌の方を見るとこっちを指さして大爆笑している。お前覚えておけよ?
「入ってきていいぞー。」
「失礼します。」
入ってきたのはきれいな顔をしている女の子…のはずなんだけど。・・・なんで修道服?ちなみにこの高校は私服での登校が認められている。まぁ認められてはいてもほとんどの人が学生服で来ているんだけど、それにしたって修道服はないだろう。そう思っていると転校生が自己紹介を始めた。
「初めましてお前ら。今日からこのクラスに世話になる。ローラ=カルンスタインだ。気軽にローラと呼んでくれたら嬉しい。・・・ところでお前ら、お前たちは神を信じるか?」
何この人怖いんだけど!?いきなり勧誘してきやがった!
「そういう話しは休み時間にしろー?とりあえず今席がないから、あそこの空いてる席に座ってくれ。」
うわっ空いてる席って御主人様の席じゃん!つーか僕の前。できるだけ関わりたくないんだけど。
「よろしくな。」
「うん・・・よろしく。」
できるだけ関わらないように休み時間等は寝たふりをしてやり過ごしたのだが、昼休みについに話しかけられた。
「ところで、私は君の事を何て呼べばいいんだ?」
「好きに呼んでいいよ、みんなはわんこって呼ぶけどね。」
「そうか。じゃあわんこ!宗教に興味とかない?」
いきなり話題がクライマックスすぎる!
「いや、特にないかな。」
「なんとそれはもったいない!実は分からなかったと思うが私の家は教会なんだ。」
「服装で大体わかってたけどね。」
「そういうわけで君も」
「そんなことよりさ!昨日瑠歌に会ったんだよね?」
「ふむ?あぁ、あのかわいらしい女の子のことだろう?いやぁびっくりしたぞ。誰もいないと思っていた教室に人がいるんだからな。しかも、机の匂いを嗅いでるし。さっき気付いたんだがわんこの席だったんだな。あんなかわいい女の子に好かれてるなんてまったく、わんこは幸せ者だな!」
ん?・・・ああ!そうか、あいつ私服でしかも女装してるから気付いてないのか。これは早めに誤解を解いておいた方がいいな。
「その瑠歌なんだけどさ、実はあいつ男なんだよ。」
「は?ははは、そんなわけがないだろう?あんなにかわいい子が男なわけがないじゃないか。」
「おーい!瑠歌!ちょっとこっち来い。」
「なんでしょうか!わんこさん!ついに私と添い遂げてくれるんですか!」
「ローラさんにお前が男だということを教えてやってくれ。」
「わんこさんがそういうのでしたら!」
そういって教室で上着を脱ぎだす瑠歌。恥ずかしがって顔を逸らす女子、裸の上半身をみて驚いているローラ、顔を赤らめて興奮している男子・・・ちょっと待て!男ども何考えてんだ!?
「な?男だろ?」
「・・・同性愛者は死ねばいいんだが?」
おお!まともな反応だ!ローラの好感度が30上がった
「そんな!?さっきまで応援してくださったじゃないですか!」
「悪いが、同性愛者を愛せなどという教えはないんでな。すまん…できるだけ離れてくれ。」
「いきなり冷たくなった!わんこさんもさりげなく距離を取らないでくださいよ!」
「な?わかっただろう?僕が普段どれだけ苦労しているか。」
「わんこに神の御加護がありますように。こいつに神の裁きがありますように。」
「そんなぁ!う〜、もういいです!」
そういって教室をでていく瑠歌。
「ところで、ローラ。聞いた話によると君は昨日そこの窓の外にいたらしいけど本当?」
「ああ、窓の外から変態を見ていたな。」
「ここ三階なんだけど?」
「ああ、私は空が飛べるからな。」
「ふーん、なんの守護?」
「吸血鬼のカーミラだ。」
「…吸血鬼?」
「そうだが、何かおかしいか?」
「教会に住んでて教徒なんだよね?」
「さっきそう言ったではないか。わんこは忘れっぽいんだな。」
「いや、なんでもないよ。でも吸血鬼って空飛べたんだね。」
「吸血鬼と同じ行為はほとんどしてないせいで能力はかなり弱いんだけどな。なぁに、できるだけ体を霧にすれば蝙蝠の羽でも少しの間なら飛んでられるんだよ。かなり疲れるからほとんどしないんだけどね。」
「吸血鬼ってニンニクと日光が駄目っていうのが常識なんだけど?」
「あぁ。身体能力が高いせいでニンニクはすごく臭いし、太陽がめちゃくちゃ眩しいから嫌いだな。」
「そんな理由なんだね。」
「でもすごくつらいんだぞ?それに能力が弱いから別に木の杭なんていらないし別に銀の武器じゃなくても傷がつくし…」
「逆に弱点増えてるじゃん。」
「強い力を使う時は前もって葡萄酒とパンを食べないと大したこともできない。私は落ちこぼれなんだよ。」
そう言って俯く彼女は・・・とても寂しげだった。
さて、放課後になったわけなんだが、僕はまだこの街のことがよくわからないというローラを案内している・・・のだが。
「あそこがお洋服屋さんで!あれが小物が売っているお店です!」
「ふむ、そうなのか。できるだけ離れてくれ。」
「あっあれがデパート、あっあそこに行けばっだっ大体のものは揃う、よ?」
「ふむふむ、あそこがね。ありがとう翔。」
なんでこいつらが一緒にいるんだよ!!
「なんでだ!?何でお前らがいるんだよ!?」
「わんこさんと女性を二人っきりになんか絶対にさせません!!」
「えっ!?ぼっ僕はただ、ろ、ローラさんと友達になろうと思って。」
「翔はいいんだよ?ただし瑠歌、お前は駄目だ。」
「そんなこと言わないでくださいよぅ!」
ああくそ、めんどくさいなぁこいつ。
「それにしても、翔が進んで人と話すなんて珍しいな?」
「えっ!?いっいやそれは・・・」
「そうなのか?」
「何か理由でもあるのか?」
「…ろっローラさん、寂しそうな目をしてたから・・・」
こいつ、こういう事には鋭いな。
「そうなのか、すまない。気を遣わせてしまったね。」
「そっそんな!ローラさんが謝るようなことじゃないよ!ただ僕が勝手にやってるだけだから!ああっ!?べっ別にローラさんを馬鹿にしてるんじゃないんだよ?本当だよ?」
あいかわらず翔はめんどくさいな。
「わかってるよ、ありがとう翔くん。でもめんどくさいな、きみ。」
「面と向かって言うなよ…」
「いやぁ、それにしても今日はいい日だ!転校してきていきなり友達が二人もできたし、入信してくれた!」
「さりげなく僕らを教徒にするな!!」
「私が友達に含まれてない!?」
「まぁ瑠歌はどうでもいいとして、教会なんかあったっけ?」
「新しくできたんだよ。なんなら見に来るか?」
「いや、めんどくさいからいいよ。」
「そうか、残念だよ。では私はそろそろ教会の掃除があるんで帰らせてもらう。今日は色々助かった、感謝するよ。じゃあ明日学校であおう!」
そういうと体を霧にして消えてしまった。…能力を使うと疲れるからしないんじゃなかったのか?
「行っちゃいましたね!じゃあ私も帰ります!家でメタ○ギアが待ってるんで!」
「ぼっ僕も愛に呼ばれてるから。」
そういって二人とも帰ってしまった。一人だけ残された僕は明日からまた賑やかになりそうだと思いながら御主人様のお見舞いに向かったのだった。