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「じゃあ父さんと一緒に人類滅ぼす」

「……い、今なんて?」

「勇者辞める。辞任する」

 そんな役員みたいな辞めかたされてもお父さん困っちゃうんだけど。

 我一応魔王だし、宿敵いなくなっちゃうのはいろいろ困っちゃうんだけど。


「いやでもまだ任期残ってるし」

「でも任期って僕が死ぬか父さんが死ぬかまでだよね。じゃあ辞任するしかない」

「いやいやいやいやいや。えっ、じゃ、じゃあ人類のことはどうする?」

「ほっとく」

「ほっとく!? 勇者が!? 人類ほっとく!? ちょっ、お父さんそういう責任放棄はどうかと思うんだが!」

 何の躊躇いもなくユーディンがあっさりというため、魔王として常に冷静沈着であった我が思わず取り乱してしまった。

 いやでも取り乱しもするぞ! だって勇者がバイトぶっちするノリで勇者辞めちゃうんだもん!

 勇者が人類放置したら人類滅んじゃうよマジで! いや滅ぼす我が危惧することじゃないんだけどね!


「——そうだよね。やっぱりほっとくのはよくないか」

「お、おお。わ、わかってくれたか、息子よ」

 あ、あれ? なんか唐突に物分かりが良くなった?


 ——ああ、きっと我の叱責が効いたのだろう。

 元は聞き分けの良く、いい子なのだ。

 頼まれ事もしっかりこなす、責任感がしっかりある子なのだ。

 勇者の銘を受けてからというもの、2年足らずで魔王城に辿り着くことができる優秀な子なのだ。なんせ我の自慢の息子だし。

 だからユーディンが無責任なことするわけ——。




「じゃあ父さんと一緒に人類滅ぼす」




「ハァアアアアアア!?!?」

 絶叫した。

 冷静沈着のれの字も無いような絶叫が魔王城の王室に木霊する。


「な、な、何故そうなるのだ!?」

「ほっとくぐらいなら滅ぼしちゃおっかなと思って」

「そんな「この食材余しちゃうくらいなら使っちゃお」みたいなノリで人類滅ぼさないでくれぬか! 我も一応真剣に人類滅ぼそうと思ってるから!」

「じゃあ真剣に滅ぼす」

「勇者が真剣に人類滅ぼすな!!」

「父さん言ってることおかしいよ」

「それに関しては激しく同意だが、お前には言われたくない!」

勇者の「人類滅ぼす宣言」に比べれば、我の支離滅裂な言葉など可愛いものだ。



「——ねえ、どうして父さんはそんなに反対するの?」

 我の行動を訝しく思ったユーディンが尋ねる。

「そ、そりゃあ、反対するのは当たり前であろう。我は魔王で、お前は勇者なのだ。我々の関係は宿敵であって、仲間ではない」

「でも魔族側に僕が就くのは、魔族にとってメリットしかないよね」

「いや確かにメリットがある事実は否めないが、我にも魔王としての面子というものがある。そう易々と同胞の仇である勇者を仲間に加えるのはちょっとアレなのだ」

「魔王の面子を考えるならむしろ僕を引き入れるべきだと思う。こう見えて僕人類最強だし、多分戦ったら父さんにも勝てるし、戦力的にはかなり大幅な増強になるよね」

「いやそうであったとしてもな——」

「魔王なら何より、人族の殲滅と魔族の繁栄を考えるべきだと思う。その思想に則るなら父さんがすべきは「僕との対峙」ではなく「僕への勧誘」だと思うんだ」

「……」

「そして現に僕は勧誘される前に、父さんの仲間に加わりたいって言っている。なら父さんは突っぱねるんじゃなくて迎え入れるべきだよ。そうすれば「勇者を懐柔した魔王」という成果を得られて、魔王の面子は保たれるどころか株上昇になる。そう考えれば魔王としての最適解は「僕を仲間に引き入れる」の一択だよね」

「…………すっごい喋るね。我が息子よ」

 気迫に呑まれ、我後半黙ってしまったぞ。


 まさか、ユーディンがこんなに饒舌に喋るとは……。

 普段そこまで口数の多い子じゃないのに、この瞬間に限ってはラッパーレベルで舌の回りが良かった。

 

 しかし、……この口論は分が悪いな。

 損得で話しているユーディンに対し、我は感情論が基で話している。

 台座が一個人の感情で決められた意見には必ず大きな穴がある。そこをユーディンは的確についてきている。

 そうすればもう言いくるめることはできない。なぜなら正しさはユーディンにあるのだから。


 ——こうなれば、会話を放棄して実力行使で行くしかないのか。

 良識ある種族として最も忌むべき愚行であるが、我の願いを突き通すにはこうするほかあるまい。

 我が本気で相対すれば、ユーディンも本気を引き出すしかあるまい。

 そうすれば……、必ず——。


「でも、こんなの建前でしかないんだ」

「……? ユーディン?」

 微かに聞き取れるような小声で、ユーディンは本音に近い言葉を呟く。

 そうするユーディンは俯き何かを食いしばっているようだった。


「メリットがどうとか言ったけど、僕は結局——」

 面を上げ魔王である我を見る。

金色の髪がふわりとなびかせながら見える表情。

歯型のついた唇は震え、碧眼は潤んでいる。

 勇者が他人に見せるはずない、弱々しい姿。

 父であった我にも稀にしか見せない泣きじゃくりそうなその顔に、思わず言葉を失う。


 ……こんな時に思うことじゃないかもしれないが、やはり我の息子マジ天使。

 ユーディンの可愛さに見惚れながら、震える唇が開くのを待つ。

 そうして、息子は必死に涙を堪えながら言葉の続きを発する。



「父さんと、……戦いたくない……」



「…………………と」

 そんなの……。そんなの……!



「父さんも戦いたくないいィィィイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!」



 我の涙が滝のように流れ、魔王城にその叫びが響き渡る。


 こうして、息子の感情に流され、勇者であるユーディンを魔族側へと引き入れたのだった。



——我って、実は親バカなのだろうか?



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