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すっごい否定するじゃん!!

ユーディンは比較的手のかからない子だった。

物分りもいいし、無鉄砲じゃないし、家事とかも率先してやってくれたし、人族の家庭事情に詳しい訳では無い私でもユーディンはいい子であると認識していた。


でもユーディンだって年頃の男の子だし、いつか反抗期とか来るのかなー、なんて寂しくもあり実はちょっとだけ楽しみにしていたりもしていたのが本音だったりする。

だってほら、反抗期を迎えるのだって一種の成長じゃん? おかしな願望かもしれないけど「うるせぇジジイ」とか言われてみたかったんだよ。ユーディンいい子だしそんなこと絶対言わないだろうけど。

ちょっと憧れちゃうよね、だって我お父さんだもん。一度くらい息子に反抗されたい複雑な父親心なのよ。

……え? 共感しづらい? ——ま、まあそれはいっか。


 とにかく、ユーディンは超絶ウルトラ級でいい子なんだけど、そんな我が息子にも父である我に反抗的な態度を取るようになってしまったのだ。

 あの、先も言ったようにね、反抗されたこと自体は嫌ってわけじゃないんだよ、うん。

 我としては夢が叶ったというか、まあそれなりに嬉しかったりもしちゃうわけですよ、はい。

 ……けど、…………けどなぁ。


 タイミングが、………悪いんだよ。


 よりによって決戦の時に反抗期迎える!? 絶対このタイミングじゃないよね!?

反抗期どころかイヤイヤ期さえなかったユーディンが、こんな断固反対の姿勢を見せるなんて思いもしなかったわ!

 いやまあ、すんなり魔王の正体が我であることを受け入れて、飛びつく勢いで斬りかかられてもそれはそれですごくショックなんだけど……。

 だとしてもそんなすぐに即断即決します!? 勇者としての責務とか、仲間の想いとか、そういうのないの!? それでも勇者かよ我が息子!?


——確かにユーディンの気持ちは父さんもそれなりにわかっているつもりだ。我だって愛息子と対峙するのは断腸の思いだったし……。

 けどこの場面だけはちゃんとやって欲しかったなぁ。あれだけ大見え切って開戦の決め台詞まで言っちゃったのに、「無理」の二文字で一蹴されちゃったよ。

 我すっげえはずいじゃんかぁ。ユーディンと再会してからの一連の会話、一週間徹夜して考えたのに……。


 いや戦えないにしてもね、情緒ってものがあるじゃん。

 クライマックスで止めをさせない、とまでは欲張らないけどさ。例えば振り上げた剣を振り降ろせないとか、唇を強く噛むとか、握った拳が震えるとか、そういう「葛藤している感」の描写は欲しかったよね。

 だって、ただ淡白に「無理」だったもん。ちょっとそれはお父さんも無理だよ。




 それに……、



 やはり、ユーディンがいいのだ。



「あのさ、我が息子よ。ここはしっかり戦うべき——」

「嫌だ」

「……。そ、そのね、嫌な気持ちもわからないわけじゃないけどね——」

「戦わない」

「…………。だ、だけど——」

「絶対に無理」


 すっごい否定するじゃん!!

 えっ、聞く耳すら持ってくれないとかある!? 仮にも父の言葉をこうも遮りますか!? あのユーディンが!? 超絶いい子のあのユーディンが!? そしてお父さん結構胸が痛いよ!?


 ちょっとだけ楽しみにしていた反抗期で、想像以上の精神ダメージを受ける。

 まずい……。このままではユーディンの貧困な否定ボキャブラリーだけで討伐されてしまいそうだ……。

そんなことになれば魔族の面汚しとして墓に石を投げられてしまう。それは魔王的に絶対NGである!


 と、とにかく今のままじゃダメだ!

 戦いを促すような説得ではダメなら、他の要素で諭すしかあるまい。

 ならば、ここは人類を引きでに出すとしよう。


「戦いたくなくても、ユーディンは勇者であろう?」

「……まぁ、そうだけど」

「であろう? そして勇者は人類を守るのが使命だ」

「うん」

 事実に対してユーディンは頷く。

 うむうむ、良い感じだ。

相手が一方的に否定してきたら、何に対してでもいいから肯定させることが交渉のコツ。否定一貫のユーディンに少しでも肯定の姿勢を引き出す必要があるのだ。


「それに対して魔王である我は人類を殲滅するのが使命だ」

「……うん」

「いわば平行線なのだ。ユーディンが勇者であり、我が魔王である以上、その線が交わることはない」

「…………」

「だから戦うのだ。戦わなければいけないのだ」

「…………」

 ユーディンは俯き、何かを熟考しているようだった。

 

きっと、ユーディンは迷っているのだろう。

 戦うのか、戦わないのか。

 しかし我は、戦わずに撤退するのも今ではよいのではないかと思っている。

 ユーディンにだって時間が必要なのだ。

 辛い定めだ。それをまだ17の子供に背負わせるには重すぎる。

 魔王失格かもしれないが、ここは父としてユーディンの撤退に目を瞑るべきである。


 ——しかし、いずれ時は来る。

 更なる研鑽を経て、勇者であるユーディンは再びここに訪れるであろう。

 その時に、ユーディンは覚悟を決めて、父ではなく魔王の我と対峙することになる。

 ……なら、我は待ってやるのだ。

 魔王として、父として。


 ユーディンが勇者である限り、その時は必ず来るのだから。





「なら僕勇者辞める」




「…………………………はへ?」


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