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「倒さなきゃいけない魔王であり、たった一人の家族である父親」みたいな葛藤とかないの?

 帝王歴648年。

 この世界では、帝王歴の始まりからずっと魔族と人族が争ってきた。

 血で血を洗う苛烈なる戦争は幾度となく続き、数えきれない程の屍が両種族で生まれた。

 魔族側も人類側も軍事力に注力し、国々は兵力向上や魔法開発などを日々勤しんでいた。それは何十年も、何百年も。

 だが、その戦いが終幕に辿り着く兆しは見えずにいた。

 ——2年前までは。


 帝王歴646年、その者は突如として誕生した。

 帝国の郊外に属する小さな集落にいた平凡な少年。

 ユーディン。

 彼が15の夜、けたたましい雷鳴が鳴り響き、世界の終焉とまで思われた大災害の中、一筋の雷がユーディンに直撃した。

 しかし彼は無傷だった。それはまさしく神の奇跡だ。

 ——そしてもたらされたのは、帝王歴以前から語り継がれていた伝承にある、勇者の紋章だった。


 手の甲にその紋章が浮かんですぐ、集落の者たちはユーディンを連れ帝国の王都へと向かい、王に彼を献上した。

 彼は王の御前にて、勇者の力を披露した。

 天変地異をも操る魔術に、大地さえも両断する剣術。

平凡だった少年が見せた非凡なる力。

 その力を見た者の全てが驚愕し、こう例えた。

神の奇跡、と。


 国から勇者としての役割を承ったユーディンはそこで様々な戦闘訓練を受け、半年後には魔族の王たるジグリードを倒すため冒険へ出たのだった。

 仲間を引き連れ、魔族へと侵攻するユーディンは数多の魔族を薙ぎ倒し、均衡していた両種族の兵力をたった一人で大きく傾けた。

 着々と魔族への進撃を続けた勇者は僅か一年という期間で魔族の王都以外の国を半壊滅状態にさせた。


 そして、それから半年後のこと。

 ユーディンとその仲間は、魔族の王都へと侵攻を開始した。

 幾多の戦いを乗り越え向かう先は、——魔王城。

 立ち塞がる強大な敵を前に、勇者とその仲間は退くことなく勇猛果敢に立ち向かった。

 しかしいくら勇者と言えど、その侵攻に困難は付き物であった。

 瀕死状態になっては回復魔法で無理やり体を動かすことの連続で、勇者一行は満身創痍であった。


 だが、それでも彼らが足を止めることはない。

 軋む体を動かしながら、前へ前へと前進し、辿り着いたのは——魔王の玉座。

 撤退を余儀なくされた仲間の想いを背に、ユーディンはたった一人で魔王と対峙するのであった。


 両種族の存続を懸けた聖戦。

 勇者と魔王による正真正銘の一騎打ち。

 世界の行く末が決まるこの戦い。

 延々と続いた争いに終止符を打つ、——決戦。


 その時が、訪れたのだ。


そして現在、魔王の玉座。

 そこでは、壮絶なる、




「普通に無理だから、そんなの」

「いやあのね? 無理とかじゃなくてね? ここは戦わなきゃいけないとこなのよ」

「だって父さん相手じゃん」

「でも父親である前に、我魔王だしさ? そっちの肩書優先してくんない?」

「無理」

「……いや無理って、そんな即断即決しないでくんない? せめてさ、もっとこうさ、ないの? 「倒さなきゃいけない魔王であり、たった一人の家族である父親」みたいな葛藤とかないの?」

「ない。微塵もない。父さん相手だったら普通に戦わないから」

「う、うぅ~ん……」


 そこでは壮絶なる——「説得」が行われていた。


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