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「いやそれは無理」

四コマ漫画を読むような、そんな気軽な感じで呼んでくれると嬉しいです。


「よくぞここまで来たな、我が息子よ」


 魔王城、その玉座の間。

 壁面にずらりと並べられた蠟燭の灯が揺蕩う薄暗いその一室に、人骨で装飾された気味の悪い椅子に腰掛けるのは、人類を滅ぼさんとする魔族の王。

しかし、そこに佇むその者の姿は間違いなく、


「……父さん」


僕の父親だ。

男手ひとつで僕をここまで育ててくれた、僕の父親だ。

旅に出るまでの15年間、ずっと一緒に暮らしてきた家族だ。2年の時を経ても、全く変わりない父の人相。

 手入れが大変だと毎朝愚痴をこぼしていたあの癖毛も、威厳も何も無いダサい無精髭も、何一つ変わらない。


「ずっと、黙っていたのか」

「……」

「魔王であることを黙って、勇者である僕を今まで育ててきたのか」

「…………ああ」

静かに、魔王は、――父さんは頷いた。


「お前を森で拾ったあの日から、魔族である私は人族に姿を変え、お前の父親として人間界に紛れ込んでいたのだ」

「……」

「――そして、――これが我の本当の姿だ」

パチンッと指を鳴らすとたちまち父さんの顔は黒炎に包まれ、次に視界に現れた時には皮膚も肉もない髑髏へと変貌していた。

顔だけじゃない。全身の骨が露出し、黒を基調とした王の服から覗くその身体にもはや人の要素はない。

それは紛れもなく、人ではない魔族の姿である。


「我は魔王だ。……そしてお前は勇者だ」

玉座から立ち上がり、息子としてでは無く、勇者として僕を見下ろす。


「いずれこの日は来るだろうと思っていた。15の誕生日、お前が勇者に選ばれたその日から。……もしかすると、お前と出会ったあの日からこうなる運命だったのかもしれぬ」

「……」

「残酷な因果だ。……こうなるとわかっていたなら、お前を拾ったりすることは無かっただろう」

「父さん……」

表情もわからないドクロの人相から哀愁が漂う。

 顔も肩書きも何もかもが違うのに、今でもいつもの父さんに見える。


「済んだことを嘆くのは時間の無駄だ。つまらないことを言ってしまったな」

感傷に浸るのをやめ、再び僕と相対する父さん。

そこには確かな敵意が存在し、親子ではなく敵対する勇者と魔王としての対峙する。

父さんは魔族の繁栄を目論む王として、僕は人類の存続を守る勇者として、戦わなければいけない。


「さぁ勇者よ! 剣を抜け!」

父さんは勇者である僕を鼓舞するように声を上げ、マントを翻す。

そして、父さんは、――魔王は続ける。


「決戦の時は来た! 今こそ我と戦うのだ!!」


世界の命運を懸けた戦いが、今




「いやそれは無理」




「…………………………へ?」



始まりそうになかった。


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