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抹茶ラテと無口な美少女

見てくれたら嬉しいです。

 俺は集団に所属することを嫌う。

 何かしらグループに入ってしまえば、そのグループに合わせようとしなければならない為、行動が制限されてしまう。

 現に昼休みの今、教室内で、


「学食今日も行くだろ?」


「ああ、腹減ったし早く行こう」


 と、何人かで相談している会話が聞こえてくる。

 こんなふうに、「行くだろ?」と聞くことによって自分の意見に合わさせようとする。

 こんなふうに半ば強制的に行動させられるのは御免だ。

 俺は別に所属欲求は無い。一緒に行動するにしても俺は2人が限界だ。


 いつも一人の俺は、そんなどうでもいい事を考えながら学生食堂に向かう。

 彩音に弁当を作ってもらうことも考えたが、そこまで負担を強いる訳にもいかない。

 朝食を作ってくれているだけで充分だ。


 学生食堂につくと、昼食を食べに来た生徒が沢山いる。

 これはいつもの事で、あまりこうした騒がしい所で食べるのは遠慮したいところだが、今日はガッツリ食べたい気分なので仕方が無いのだ。

 人間欲望にはあまり逆らえないように出来ている。

 食券を買って席につくと、食堂の入り口に見知った顔があった。


「拓海、席空いてる?」


 俺の数少ない友達の村本康介が、急いでこちらに向かって来ながら話しかけてくる。


「ああ、まだ空いてるぞ」


「悪い、席取っといてくれ」


「了解」


 席を取っておくというのも今じゃ当たり前のようにある事だ。

 俺は持ってきていた財布を隣の空いている席に置いて、席を取っている事をアピールする。


「オッケー、買ってきたからもういいぞ。サンキュー」


 すぐにメニューを選んで戻ってきた康介。

 俺でもメニュー割と考えて選ぶ方なのだが、康介は一緒に食べる時はすぐに戻ってくる。

 多分毎日食べるメニューが決まっているのだろう。


「拓海、またそれ飲んでるのか」


「飲まなきゃやってられない」


「いや酒じゃないんだし……」


 俺は今、抹茶ラテを飲んでいる。

 勿論朝も高校に来る前に飲んだのだが、昼休みも当然飲む。

 流石に家から持ってくると昼休みになる頃にはぬるくなるので、高校にある自動販売機で購入する。


 抹茶ラテを飲みながら雑談していると、料理ができたようなのでそれを取りに行く。

 今日の昼食は唐揚げ定食。

 ガッツリ食べたいときたら大抵の人はこれを頼むんじゃないだろうか。

 確かに丼物のメニューもあるのでそれでもいいのだが、この学生食堂の唐揚げ定食は1人前辺り唐揚げが5個入っており、そのサイズもデカい。

 味噌汁もインスタントではなく食堂のおばちゃんが作った特性の味噌汁なので、満足度が高い。


「おっ、拓海も唐揚げか」


「今日はガッツリ食べたいんだ」


 康介が持っている食券を見ると唐揚げ定食も書かれているので、どうやら俺と同じメニューを頼んでいるようだ。

 康介の方の料理もすぐに出来たようで、康介は急いで料理を取りに行った。


「……思ったより多いな」


 改めて見るとここの唐揚げ定食の唐揚げはデカい。

 俺は今まで唐揚げ定食を頼んだ事がなく、康介が美味いと言っていたので、それなら食べてみようと思い、唐揚げ定食を選んだ。

 部活動をしている生徒が多い為、その生徒の事を考えて大きいサイズにしているのだろう。

 食べられない事は無いだろうが、普段はせいぜい筋トレぐらいしかしない俺には少し多い。


「ふぅ~、じゃあ食べるか」


 康介も戻ってきたので、まずは食べてみることにしよう。

 俺はこのデカい唐揚げにかぶりつく。サクッとした心地のいい音が鳴り、鶏の旨味が口の中に広がる。


「美味いな」


「だろ? これ毎日食ってるけど飽きないんだよなぁ」


 えっ……これ毎日食ってんの?

 確かに康介はサッカー部だからガッツリ食べるのは頷けるが、毎日は飽きるだろ。

 しかも康介はご飯も大盛りの方を頼んでいる。


「ん? どうした?」


「いや、なんでもない」


 多分康介はサッカー部で特に頑張っているから胃のでかさも他のやつと違うのだろう。

 実際俺が覚えている範囲でスポーツ系の部活に入っているやつでも唐揚げ定食の大盛りは頼んでいない。

 康介は別格、そういう事にしておこう。


「たく……安田君、ここ座ってもいい?」


 前から声がしたのでそっちの方を向くと、俺の名前をうっかり呼びかけそうになった彩音がいた。

 どうやら彩音も学食を食べに来たようで、料理が置かれたトレーを持っている。


「ああ、いいぞ」


 うっかり名前を呼びそうになってて俺は少し冷や汗をかいてしまった。

 何の関わりも無さそうな俺と彩音が名前で呼び合っていれば、他の生徒に注目されてしまう。

 今でも他の生徒は、「見ろ、雪野さんがいるぞ」「うわぁ……やっぱり可愛いな」と声が聞こえてくる。


「雪野さんも学食なんだ」


 康介が爽やかスマイルで彩音に声をかける。

 康介は同じクラスの女子は勿論、他のクラスの女子からも評判がいい。

 康介は確かにイケメンなので、この爽やかスマイルに心奪われる女子もいるだろう。


「うん……今日はガッツリ食べたい」


 当然彩音は康介の爽やかスマイルを見ても表情を変えない。

 彩音はトレーを置いて俺の前の席に座った。


「ブフッ!」


「おい、どうした?」


「いや……なんでもない」


 普通学食を頼めば、殆どの生徒は食堂にあるセルフの水を持ってくる。

 しかし彩音のトレーに置かれていた飲み物は、俺と同じ抹茶ラテだった。


 ……完全にハマってるじゃん。

 俺も人の事は言えないが、昼食に抹茶ラテを持ってくるということは相当気に入っているのだろう。


「雪野さん抹茶ラテ飲むんだ、美味しいの?」


 康介はこんな美味しい飲み物を飲んだ事が無いとは……人生の8割は損をしている。


「うん……好き」


 これは抹茶ラテに向けられた好きなのだが、何故か他の男子生徒は好きという言葉に反応して、「好き!? 誰に言ったんだ?」「もしかして前にいるやつか?」「てか前にいる奴誰だよ!」と興奮気味に会話をしている。

 てか誰だよって言ったやつ俺と同じクラスなんだが……やはり俺はクラスでも空気みたいな存在という事だ。


 康介は彩音が美味しそうに抹茶ラテを飲んでいるのを見て、


「俺も飲んでみようかなぁ」


「……これを飲まないのは人生の8割損してる」


 ……マジで考えてる事殆ど一緒なんですけど。

 やっぱり波長が合うのだろうか?

 もしかすると山崎先生はこうなる事を予想していたのかもしれない。


「でも飲んじゃ駄目」


「えっ? 何で?」


「……私の飲む分が減る」


 いやどんだけ飲むつもりなんだよ!

 俺でも日本中の抹茶ラテ飲み尽くそうとは思わない。

 

「……勿論冗談」


「……あははっ、雪野さんって結構喋るんだね」


 確かに学校で俺以外とこんなに話しているのは見た事が無い。

 余程珍しいのか、周りも雪野彩音が喋っていると結構な話題になっている。

 俺といる時は普通に話していて、今も違和感なく話していたが、雪野彩音と言う人間は学校では全く喋らない、これが周知の事実なのだ。

 しかし今はどうだろう、周りの生徒はここまで喋っていると彩音を見て驚きを隠せていない。


「……私だって喋る」


「けどいつもは誰とも話してないじゃん?」


「……色々ある」


 彩音は少しバツが悪そうな顔をする。

 言っていた通り、彩音は話そうとは思っているのだろうが、考えてから喋る為周りに合わず順応できない。

 それなら喋らないでいれば、周りに合わせようとする必要も無く、自分のペースで生活できる。

 コミュニケーションが苦手でも話そうとしているが故の彩音の悩みなのだろう。


「そうなんだ、まあ深くは聞かないけどさ」


「……」


 ……何か喋り辛い!

 俺が心配なのはいつボロを出さないかと言うことだけ。

 周りに俺が彩音と一緒に生活している事がバレたら、モブの俺は男子の妬みの視線と圧力と言葉の暴力で押しつぶされてしまう。

 正直彩音も俺がいるから多少は話せているのだろうが、いつもの感じであまり喋らないでほしい。

 ただでさえいきなりボロを出しそうになった彩音が、いつボロを出すのか心配で唐揚げの味が全く分からない。


「……どうした拓海、全然喋らないけど」


「いや、なんでもないんだ。まあ……その……」


 これは駄目ですね、完全にコミュ障が発動している。

 何で見知った顔にコミュ障を発動しなければならないんだ!


「本当に大丈夫か?」


「お、おう、大丈夫だい」


 ここは早く食べてしまって退散するに限る。

 俺は残りの唐揚げを口の中に押し込み、それを抹茶ラテで流し込む。

 これに関して、普通は水で流し込むのだろうが、俺はご飯を食べる時にどんな飲み物でもいいので問題はない。

 結局何も話せないままご飯を食べ終わり、逃げるようにその場を後にする。


「あ……」


 彩音が少し悲しそうな顔をしている。

 お前がいなくなったらどうすればいいんだ、と言っているような顔だ。

 これはごめんとしか言えない。

 俺も何故かコミュ障が発動してしまうので、彩音も早めに食べて退散してくれという思いを視線で送る。

 彩音も何かを感じ取ったのか、急いでご飯を食べている。


 これなら康介が家に遊びに来ようものなら、綾音との関係がバレるのは時間の問題。

 俺はどうするべきかと教室に帰りながら悩むのであった。

 

 

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