思わぬ遭遇
抹茶フェスを堪能した翌日──俺は読んでいるラノベの新刊の発売日なので、大きめのショッピングモールに行く事にした。
ショッピングモールは電車で二駅先にある。駅前にも本屋はあるのだが、ショッピングモールにある本屋の方が品揃えがいい。何か掘り出し物が見つかるかも知れないので、インドア派の俺は頑張ってショッピングモールまで行く。
彩音は洗濯物を干しているのと掃除があると言う事で家にいるらしい。
綾音が来てからは生活も楽だし、家が綺麗に保たれているので感謝している。
電車に揺られて3分程して電車を降りると、今度は歩く。5分程すればショッピングモールに着いた。
「何買おうかな……」
ラノベの新刊はまだ残っていたので真っ先に取った。そして俺は他に面白そうなラノベが無いか表紙を見る。
「あっこれ面白いって呟かれてたやつだ」
俺はSNSアプリで面白いと呟かれていたラノベを見つけた。表紙を見ても確かに面白そうなので、買う事にした。
その時に、隣りにいた人が同じラノベを取ろうとした。その姿は帽子をかぶっていて、髪は金髪、キリッとした目に大きな胸に胸元の空いた服。
「……あれ? 立花か?」
スクールカースト上位のグループにいる立花。同じクラスで毎日目に入る為、見間違える訳が無い。
「……えっ、安田!? 何でアンタがこんなところにいんの!?」
やはり立花だったようだ。と言うかそれは立花にそのまま言いたいんだが……。ギャルでラノベに全く興味の無さそう立花がラノベを買うとは思っていなかった。
取り敢えず何でと聞かれたので、
「いやラノベ買いに来たんだけど……」
「そ、そうなんだ……」
立花はバツの悪そうな顔をしている。確かにギャルでラノベと無縁に見える立花がラノベの買っていたと噂になってしまうと、馬鹿な連中が立花はラノベを読む陰キャと学校で言われる可能性がある。
俺はラノベ読んでたら陰キャって言う謎の考えが本当に嫌いだ。そもそも何故陰キャと陽キャで差別されなければならないのかが全く理解出来ない。
「終わったぁ……」
ほらぁ……何かバレたからかこの世の終わりみたいな顔しちゃってるよ。俺別に言わないから。いちいちそんな事言って陽キャと陰キャでマウント取ろうとしてくるやつ嫌いだから。
「何で終わりなんだ?」
思ったよりバレた時の反応が面白かったからイジって様子を見る事にする。
「だってぇ……私がラノベなんか読んでるってバレたら」
「積み上げていた地位が一気に下がるって?」
「えっ……いや……何でわかったの?」
図星だったようで、立花は驚いた表情をする。
俺は立花を何となく見ていたが、確かにギャルとしてグループに入って一緒にいるところはよく見るが、積極的に話そうとはしていないし、何処か行動が控えめなのだ。
誰かに高圧的に話すと言うこともないし、ただフレンドリーに誰にでも話そうとしているのだけを見かけるだけ。だからこれはあくまで俺の考えだが、わざわざ立花がグループに入っているのには何か理由がある筈。
俺は何でも思い通りになると思ってそうなギャルが嫌いだが、立花は嫌いじゃない。寧ろラノベと言う素晴らしい物を立花も好きだと言う事で、かなり好印象だ。
「わかるよ、ラノベ読んでるだけで陰キャって言われるもんな」
「……そう! そうなの!」
立花は共感してくれる人がいて嬉しいと言っているかのように目を光らせて
近付いてくる。
「ラノベ読んだだけで陰キャとか言われるからバレないようにしてたけど、分かってくれる人もいるんだな!」
「何か苦労してそうだもんな」
「そう、いちいちグループで雰囲気悪くならないように合わせて話さないと駄目だし……」
やはりこの言いようだと、わざわざギャルの格好をしてまでスクールカースト上位のグループに入り込んだのには訳がありそうだ。
「ねえ、ちょっと話さない?」
「え、いや……」
「別にいいじゃん、あそこのカフェ行こうよ」
俺は行かないと言おうとしたのだが、立花は腕を掴んで密着してくる。こうやって自然とボディタッチができるところはやはりギャルそのものだ。
俺の腕は2つの柔らかい物で挟まれている。まるで餅のように柔らかい感触に惑わされた俺は、本を買った後に立花が言っているカフェに連れて行かれた。
「ここは私が奢るから」
「いや、でも」
「いいから!」
立花は鋭い目つきで俺を睨んでくる。
やっぱり俺ギャル苦手かも……しかも立花目がキリッとしてるからか睨まれると余計に怖い。
「……わかった、お言葉に甘えるよ」
この雰囲気で反対する程俺には度胸が無いので、素直に奢ってもらう事にした。
俺と立花はカフェオレを頼んで席に座った。
そこからは色んな話をした。特に好きなラノベとアニメでは話題が広がった。立花もかなりのオタクで、俺が見ているラノベのアニメは殆ど知っていた。
それにギャルはギャルなんだろうが、話しやすく、コミュ障の俺でも普通に話させた。
そして話の中で、立花が何故ギャルになったのかも聞いた。
聞けば、中学の時までイジメにあっていて、高校ではそんなことが無いように見た目もギャルにして少しでも強く見せようとした。口調も変えてクラスに溶け込めるようにコミュニケーションを積極的に取っていたら、いつの間にかスクールカースト上位のグループに入れたらしい。
「大変だったんだな」
「ほんとそれ、ファッションもいちいち調べないとだし面倒くさくて。どうせ皆は表面上の私しか知らないからね」
ファッションに関しては俺は全く分からないが、立花は胸元の開いた服を着ている為、かなり目のやり場に困る。
それに表面上しか知らないと言う言葉には共感が持てる。所詮人付き合いとはそんなものなのだ。内面が分かり、それが気に食わないと思えばすぐに捨てる。それだから俺は出来るだけ人付き合いを避けるのだ。
「けどバレたのが安田で良かったぁ……クラスの誰かにバレたら終わりだから……」
立花は安堵の表情を浮かべる。余程バレたく無かったのだろう。
「俺がバラすかもよ?」
「そんなことしたらマジで潰すから」
やばい、この目はマジだ。冗談で言ったんだけどなぁ……。
「言わないって、冗談だから」
「当たり前。言ったらほんとに知らないからね」
別に話したところで俺にメリットは全く無いので言う訳がない。無論、メリットがあったとしても、その人が困る情報なら俺は言わないつもりだ。
少なくとも自分が言われたり言いふらされたりして嫌な事ぐらいは理解している。
「でも以外だね、安田がこんなに喋る奴とは思わなかった。いつも一人でいるじゃん?」
「……まあ、そうだな」
「でも安田話合うし面白いよ。ねぇ、連絡先交換しない?」
「……まあいいけど」
これがギャルの行動力か……初めて喋ったのにもう連絡先聞くのか。
確かに俺も立花と話してて嫌な感じはしない。別に連絡先を交換するぐらいならいいだろうと思い、俺はスマホを立花に渡した。
「そんな簡単に渡すんだ……」
「自分で登録するの面倒くさいし、困るような内容はない」
彩音と連絡先を交換した時も俺は彩音に携帯を渡して登録してもらった。
確か調べた履歴はちゃんと消した筈……なので多分問題は無い。
立花は慣れた手付きでスマホを操作し、
「はい、登録できたよ」
「ああ」
まさか俺の携帯に異性の連絡先が2つもあるとは……人生とは分からないものだ。
「あ、もう帰らないと……じゃあね、また明日」
立花は最後にニコッと微笑んで帰って行った。
俺はギャルが嫌いだ。その事実は変わらない。しかし立花のような奴は嫌いじゃない。
……目のやり場に困るからあの格好はやめてほしい。
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