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偽令嬢魔王 ~魔王軍を追放されてしまったので悪役令嬢として忍び込むことにしました~  作者: 松本まつすけ
<6-5> 魔王、もう一人

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第157話 もう一人の魔王?

「さあ、フィー! 吐きなさい!」

「ぐえー」


 パエデロスの教会に強制的に連行されてきたかと思えば、なんで我はダリアに締め上げられているのだろうか。あえなく中断された臨海学校から帰ってきてまだ一日も経っていないのだぞ。


「だから、我は知らんと言っておるだろうに」


 病み上がりの状態で魔法をバカスカ使った反動で、また身体中ボロボロになってしまったから今日一日は屋敷に籠もっているつもりだったのに。


「新生魔王軍なんて何処から沸いて出てきたのよ」

「我も知りたいわ。残党は狩り尽くされたと言ったのは貴様らだろう!」


 例のネルムフィラ魔導士学院生徒襲撃事件。まさかあのセバスチャンが噛んでいるとは思わなかった。しかも、新生魔王軍とかいうのまで結成して。

 我には全てが寝耳に水だ。もちろん、それはダリアにとってもだろう。


「ダリアさん、そんなに掴みかかってはフィーちゃんが可愛そうですよ」


 横から本人の意思とは関係なく乳房を強調してくる女僧侶が顔を覗かせてくる。

 この際、マルペルでもいいから助けてほしい。一体全体何が起こっているのやら。


 とりあえず、マルペルの顔に免じてか、ダリアの腕から解放された。


「――ゲホッ、ゲホッ。第一、我が関係していたとしたら何でわざわざ学院の生徒を危険に晒すような真似をするのだ。コリウス王子を暗殺するだけならもっと別な手段もあるだろうが」

「まあ、それもそうよね。下手したらミモザちゃんも怪我どころじゃ済まなかったかもしれないんだし。でもアンタ、王子のこと嫌ってるところあるし……」


 冗談じゃない。確かにあの小僧と関わるといつもロクな目に遭わないし、なんだったら臨海学校でも巻き込まれたようなものだしな。

 だからといって、ミモザを危険に晒してまで命を狙うものか。


「じゃあ、なんなのよ。あの新生魔王軍って。アンタの知り合いもいたんでしょ?」

「セバスチャンか……知り合いなんてものじゃないのだが、正直アイツが何を考えているのかは我にも分からん。先代のときからいたしな」


 我を魔王軍から追放したのもアイツだとまでは言うまい。


「その、セバスチャンさん? 不死者アンデッドとのことですが、魔王軍幹部でも実力者なのでしょうか」

「お前らが名前すら知らないこと自体がアイツの実力の全てだ。隠れることと逃げることに関しては誰にも負けないだろうよ。そうやって魔王軍の舞台袖から知将として暗躍するのが奴だからな」


 そもそもセバスチャンという名前も本名じゃないし、我も本当の名前知らんし。

 謎にまみれたしたたかな男よ。


「確かにあのホネ男、直ぐに逃げていっちゃったわね。それどころか、私とキッキバルの魔法もあっさり躱してくれちゃって」

「え? ダリアさんたちの魔法を回避したんですか?」

「掠りもしなかったわ。悔しいことにね」


 まあ、そのくらいやってのけなかったら我が勇者に殺された後も、魔王城でのうのうと活動なんてできないだろうしな。残党狩りの冒険者たちが面倒くさいみたいなことを言いつつも、我が不在だった三年間を持ちこたえたわけだし。


「じゃあさ、新生魔王軍の構成員くらい分からないの?」

「分かるか! 馬車を襲撃してきた連中すら顔も分からなかったし、なんだったら向こうも元魔王の我の顔さえ知らなかったではないか」

「あ、そういわれてみれば。アンタって意外に知名度ないのね」

「いやいや、今はこんなちんちくりんな姿をしておるからだろう……かつての姿なら一目見て我だと分かったはずだ」


 そこでダリアはハッとする。マルペルに至ってはきょとんとしているぞ。

 もしかしなくても、かつての我の姿を忘れてたのではないだろうな。


「セバスチャンがいたことは驚いたが、我の旧魔王軍の大半はレッドアイズ国にとっ捕まって魔導機兵オートマタの材料にされておったではないか。何処から人員を確保してきたかなど分かるわけがない」

「じゃあさ、せめて向こうの首謀者の候補くらい分からないの? アンタの後釜狙ってる次期魔王みたいなのだっていたでしょ?」


 そんなことを言われても旧魔王軍の連中は軒並みいなくなってしまったわけだし、その中でセバスチャンのような残党がいたとしても思い当たるものは少ない。


「というかだな。そんな奴がいたら我がロータスに敗れた後、真っ先に名乗り出ていそうなものだが。逆に訊くが魔王軍残党の中に魔王はいなかったのか?」

「さすがにそんな情報は入ってきてないわね」


 その時点で新生魔王軍が結成されていないのなら、旧魔王軍が新生魔王軍を設立させたとは考えづらい。セバスチャンを含めた残党たちが新生魔王軍に吸収合併されたと思うべきだろう。


「もし旧魔王軍以外に魔王の素質を持つものがいるとしたら――たった一人だけ心当たりのあるものがいる」

「え? いるの?」

「まあ、一応な。だが、我の後釜を狙って魔王になるという野望は抱いてなかったと記憶しているし、あくまで素質があっただけの話なのだが――」


 アイツが本当に、新生魔王軍にいるのかどうかなんて定かではないし、そう思いたくもないのだが、その名前が頭を過ぎる。


「――リコリス・ルキフェルナ。かつての我と同じく、月の民だ」

「リコリス……? それが魔王の素質を持っているの?」

「実力だけなら全盛期の我に引け劣らぬ女だ。ただし、さっきも言ったが野望を抱くような奴ではなかった。何せ、この我が直々に魔王軍に引き入れようとしたのに断ったのだからな」


 淡い月明かりの如く麗しき乳白色の髪を持ち、燃ゆる炎の如く朱色の瞳のあの女は、野心とは無縁の、何処までも自堕落的で無気力な奴だった。


 どの記憶を振り返っても、儚げで、いつ消え入ってもおかしくない姿ばかり。

 あんななりで、今も生きているのかどうかさえも確信がないほど。


「……今は少しでも情報が欲しいわ。そのリコリスのこと、もう少し詳しく教えてくれない?」

「憶測の混じる余計な情報は混乱を招くだけだと思うが?」

「それでもよ」


 熱意があるのは結構なことだ。なんといっても、既に戦争の火種は灯っている。

 コリウス王子の命が危ぶまれている現状、敵組織の正体は知らなければならない。


 未だ向こうの目的すら明瞭ではないし、新生魔王軍などという勢力がどの程度の規模なのかも分かっていないのだ。事と次第によってはパエデロスどころか、レッドアイズ国の問題を超えて、世界規模の脅威にもなりかねない。


「……まあ、折角の学園生活を壊されるのも癪だしな。我の知っている限りの話くらいはしてやろう」


 ようやく魔法の使い方を取り戻しつつあるのに、中途半端なまま終わらせてしまうのも不完全燃焼というものだ。平穏な生活を望むためにも、やはり協力するべきか。

 これも一応、ロータスとの約束に含まれるわけだしな。


「ロータスさんも、このことを知ったら血相を変えるでしょうね」

「そういえば、ロータスの奴は何処にいるのだ?」


 臨海学校にも引率に来ていなかったようだし、何だったらここ数日は顔も見ていなかったような気がする。


「ロータスならレッドアイズ国よ。今頃帰りの馬車かもね。みんなが驚く吉報を持って帰ってくると思うわ」

「吉報だと……? それはひょっとして、パエデロスが国になって、ロータスが国王になるとかいう話じゃないだろうな?」

「あら、察しがいいわね」


 分からいでか。

 そうなるとマルペルの言う通り、ロータスは血の気が引くだろうな。

 魔導士学院の襲撃に、新生魔王軍とは。狙ったようなタイミングではないか。

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