第11話 勇者からは逃げられない
やばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばっ!!!!
アイエエエ!? 勇者!? 勇者ナンデ!?
これは一体どういう状況だ。
そうだ、いったん状況を整理しよう。
ここ、パエデロスの市場。
露店、何軒かボロボーロ。
傷だらけのミモザ、気を失ってる。
そして、勇者が駆けつけてきている。
ついでに、さっきの冒険者ども、逃亡済み。
あかんこれ。どう考えてもヤバい状況やないかーい。
なんで我、こんなところで魔法なんて使ってしまったのだ!?
ついうっかりっ! てへぺろ☆ で許されるのか?
あ、そうだ。我、たった今通りすがったことにすればいんじゃね?
我、何があったのか知りませ~んっ!
「勇者さま! そこの銀髪の女の子が突然魔法を……」
はいアウトォォーーーーーーッ!!!!
てめぇこの、ただの通りすがりがバカ正直に目撃証言すんじゃねぇ!!!!
「キミは……フィー、だったね」
勇者ロータスが真っ直ぐ我を見据えて一歩、また一歩と近づいてくる。まるで我の寿命のカウントダウンのように聞こえてしまう。あばばばばばばばば……。
「ロータス、何があったの? 露店がボロボロじゃない」
「穏やかじゃないですね……これは一体」
あぐぅ……チェックメイトか。
女魔法使いのダリアと、女僧侶のマルペルまで現れてきた。
周囲のザワザワが一層やかましいくらいに膨れあがってくる。
我を中心にして、人だかりができてしまっている。完全に注目の的だ。
どうすんのこれ、どうすりゃいいのこれ。逃げ場がないやんけ。
「マルペル、来ていきなりで済まないが、この倒れている子を頼む」
「え? あっ! はい!」
言われて気付いたのか、そう返事し、マルペルは我の横を素通りして、前のめりに倒れ込むミモザに駆け寄り、そして治癒術らしきものを唱える。
すると、マルペルの手の中から放たれた光のオーラのようなものがミモザの全身を包み込んでいき、ハッと気付いたときにはミモザの傷が癒えていった。
さすが回復速度が早い。我もソレには手こずらされたからなぁ……。
「さてと、キミには話を聞かせてもらわないとね。フィー」
あわあわあわ……。
勇者の顔が近い。怖い。助けて。殺されるっ!
「キミがやったのかい?」
「ええと……」
「フィーしゃんは、わたしを助けてくれたのれす!」
我の背後からフォローを入れてきたのは、ミモザだった。
傷口は塞がってはいたが、散々冒険者どもに踏まれて蹴られてボロボロになった衣類はそのままで、鼻血も顔からべっちゃりだ。
当人も気付いたのか思わず袖で拭うものだから、袖が血で汚れてしまう。
「キミは?」
「はい、わたし、ミモザっていいましゅ。フィーさんの、おと……親友れす!」
バカ、よせ。今この場で我との関係なんて明かさなくていい。
下手したらお前まで勇者に殺されてしまうではないか。
「これ、フィーがやったのかい?」
これというのは、まあこの露店の惨状を指しているのだろう。
「はいっ」
元気よく返事してくれたのはいいけれど、そのままだとストレートに我がこのパエデロスの市場でトンデモ騒ぎを起こした犯人だと告発しているようなものだぞ。
しかも、我がまともに魔法が使えることまでバラしちゃってるし。
「フィーさんは、悪い人たちに襲われていたわたしを助けるために、魔法で追っ払ってくれたのでしゅ」
バカ正直にペラペラと丸ごと全部告白してくれちゃってまあ。これで完全に我、逃げようがないではないか。
対するロータスも、不審そうな顔をしている。
よもや、こんな魔法を少女が使えるなんて怪しいと思っていることだろう。
「ねえ、ちょっとロータス。これ、見て」
何をしていたのか、ダリアがミモザの露店に転がっていたソレを拾い、ロータスに差し出していた。その手にあったのは、冒険者どもに踏みつぶされて原形も留めていない破片にしか見えない。
「水晶……の破片?」
注意が逸れたのか、我やミモザから視線をズラし、ダリアの方へと向く。
ソレが何なのか分からないようで、いぶかしむ顔をしている。
「これ、魔具よ。それも結構な魔力を秘めてる」
「あ、ソレ、わたしが作りました」
せっかく注意が逸れたというのに、敢えて目立つ方向に持っていくなミモザ!
「えっ!? これ、キミが作ったの? 本気で言ってる?」
「どういうことだ、ダリア。そんなに凄い代物なのか?」
これはこれとしてまずいのでは?
ミモザの魔具の完成度は我も認めるところであり、もしソレが危険物として扱われようものならば、勇者たちの采配によって禁止令を敷かれる可能性すらある。
「ぇーと、あのだな……」
「えへへ……それは魔力をギュッとさせる術式を組み込んだ魔石なのれす。制御機構の調整は苦労したのでしゅが、質の高い素材が手に入ってぇ、いい具合に仕上がったのれしゅ。それでぇ、簡単な魔法なら魔力なくても使えちゃうのですっ!」
えっへん、とでも語尾に付きそうなくらい、自信たっぷりとセールストークを付け加える。なるほど、こちらの方も大分レベルが上がったではないか。
って、そういうことではなくてだなっ!
「ちょっと壊れちゃってるけど、これなら……」
そういって、ダリアはミモザの魔石を空に向けて構える。
詠唱を省略したのか、一瞬凄まじい集中力を見せたかと思いきや、魔石を持ったダリアの手の先から、ドゴオオォォ-ンという炎の柱が吹き上がる。
さっき我が使った奴の数倍デカいじゃないか……ちょっと自信なくすぞ。
「おぉ、すごい。さっきそこの女の子が使ったのよりずっとデカイ!」
通りすがりの人間よ。その発言は我に効く。率直に言葉にするでないわ。
「ひぇぇ……しゅごいれしゅぅ……」
ミモザも驚いている。そりゃそうだ。自分の作った魔具でこれだけの魔法が放てるとは思ってもみなかったのだろう。
「ね? ちょっと見栄え悪いけど、この魔石使いようによってはかなりのものよ」
そういって手のひらの中で魔力を失い、砂と化したソレをさらさらと捨てる。
いくらミモザの魔石が優れているからと言って、そんな欠けた破片みたいな奴でそこまでの魔法が出せるわけがないだろう。
ほとんどはダリア自身のポテンシャルによるものだ。鍛え抜かれたオーガ族に棍棒を持たせて全力を振り回させたようなもんじゃないか。
「なるほどな。これを……」
ダリアの話に聞き入っている間に、こっそり逃げだそうと思ったが、ロータスは我の方へと視線を戻してくる。残念、勇者からは逃げられない。
さすがにそこまで抜けているはずもない。
「キミには少し反省してもらわないといけないな」
ひぅっ。ロータスの手が我の頭を撫でる。
「だけど、今日のところは許してあげるよ。大切な友達を守るために、キミも必死だったんだね」
なんだ、なんだその笑顔は。白い歯まで見せやがって。
一体どういう解釈をしたんだ。
……ああ、そうか。
この騒ぎの発端となった魔法は我自身のものではなく、ミモザの新作である魔法を使える魔具によるものだと思われたのか。
さすがに我に繋がらなかったか。
確かにさっき我が使った魔法は、ダリアが使った魔法と似たような属性ではあった。実際には火力が段違いだったわけだが……。
「それで、ミモザちゃん……だったっけ。ちょっとキミの魔具について、いくつか話を聞かせてもらってもいいかな」
「ふぇ?」
と、ロータスが今度はミモザの方にまた向き直る。
あれ? もしかしてコレって結局まずいのでは?