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第6話 アホの子登場

 ようやくしてあの説教おっぱい、もとい女僧侶のマルペルを振り切り、市場の方へと引き返した。


 無駄に時間を食ったせいか、さっきより幾分かは人混みが捌けており、幸いにもラッシュタイムを避けられたようだ。


 パエデロスの市場は多くの露店が出てきており、その中にはかなりの遠方から流れてきた商人も混じってきている。大きな都市ともなれば取り締まられるような怪しい品々も何食わぬ顔で売ってる輩もいるくらいだ。


 それは我にとってかなり好都合な話で、顔が割れたり足がついたりといったことを上手いこと回避できるということだ。


 あいにくと、このパエデロスでは我も不本意ながら目立ってしまったし、何処の馬の骨とも分からぬ商人相手ならばその心配も無用なのだ。


 ああいうのは金が入れば逃げ足も早いし、ものが非合法なものばかりだから同じ客を相手することもそうはない。

 我も最近そういう人間の動きも分かってきた。


「……ぃ、いりましぇんかぁ……、ま、魔具……珍しぃの、ありましゅよぉ~」


 何やら小声で囁きながら商品を広げているソレが目に入った。

 なんだ、あの小娘は。ちゃんとモノを売るつもりがあるのか?

 緊張でガチガチになって声も張れてないし、今にも掻き消えてしまいそうだ。


 その両隣の露店と比べるとまるでままごとだ。通りがかる客も全く意にも介さない様子で素通りしていってる。本当に子供の遊びと勘違いされてるんじゃないか?


 どれどれ、どんなものを売っているんだ。

 ボディガードの腕をちょいちょいと引いて、その露店に足を向ける。


「あ、いらっしゃいまっ! あだぁ!」

 近くに寄ったら客と思われたのか商人小娘はバッと立ち上がろうとして、前のめりにコケる。座りっぱなしで足が痺れていたのかもしれない。

 それはそうと、あやうく自分の商品を踏みつぶすとこだったぞ。本格的に不安しかない露店だな。


「えへへぇ~、すみましぇん。どうぞ、お嬢さん。お好きなものとっていってね」

 分厚いレンズのメガネをくいっと直しつつ、にへらと笑う。何がおかしいんだ。

 そんで直したそばからズリッと落ちているが、それはいいのだろうか。


 というか、お前も我を子供扱いするのだな。一体、我は人間どもにはどのくらいの年齢に見られているんだ。


「ふ~む?」

 見るからに歪なデザインをした品ばかりだが、どれもこれも魔力が込められている。しかも組まれた術式も複雑な構造をしている。


 丁度手頃な手鏡があったので手に取ってみる。取っ手もなく、装飾も奇抜で、輪郭の歪んだ円になっていて鏡として使うには難がありそうだが……。


「あ、そちらの鏡はぁ、現実の反射板(リアルミラー)っていうんでふ。覗き込んだ人の能力を見定めて、それを数値として見せてくれる優れものなんでしゅよ!」

 何やら息遣い荒く舌噛み噛みながら比較的饒舌かつ早口で説明されてしまった。

 ちょっと覗き込んでみた。


 ≪LV:1≫

 ≪HP:12/12≫

 ≪MP:3/3≫


 鏡の表面が波打ったかと思えば、ぽわぽわぽわぁんと何やら文字列と数字が浮かび上がってくる。なんだこれ。一体何を指し示しているんだ。


「ええとー、ええとー、LVというのはその人の身体的な状態の程度、です。この数字が高いほどよく鍛えられてたり、強かったり、その凄い人ってことで、あ、あとHPというのは生命力のことで、MPは潜在魔力なんですぅー」

 食いついてくるように説明を迫ってくるが、正直うざい。

 こいつはこいつで一所懸命商品の説明をしているつもりなんだろうが、あまりにも下手くそすぎてこれじゃ客が逃げるぞ。


「貸してみてください、わたしだとこんな感じです」

 そういって我の手から鏡をとると、自分を映し込む。


 ≪LV:9≫

 ≪HP:31/52≫

 ≪MP:0/0≫


 鏡の文字列を見せながら、ほらね、とでも言いたげな笑みでこちらを見ている。


 我の時と全然数値が違うんだが、これじゃ我がザコザコのよわよわのヘボヘボだということがバレバレということではないか。

 こんな小娘よりも我は貧弱なのか……悔しい。


 しかしこれはなかなか便利なものだ。この数値が正常なのだとすれば十分に利用価値はあるだろう。


「おー、お嬢さんには潜在的な魔力があるようでしゅね。わたしはそういうのないんれふよねぇ。いやぁ、うまらやすいです」

 うらやましい、と言いたいのか?


「でもでもでもですよー? 魔法を使ってみたい! って思っても魔力足りないの、あるじゃないですかぁ。そういうときにはこんなのも!」

 なんかわざとらしいくらいに、がんばって覚えてきました感のある説明ゼリフを添えながら、何やら水晶玉の失敗作みたいな歪な形をした白い小石を手に取る。

 見るからに魔力がパンパンに詰まっている。常人に見えるかは知らんが。


「これ、これでしゅね。普通の石っころに見えるんでふが、魔力の蓄積石(パワージェム)といいましてぇ、この中には魔力が詰まっているんです! すんごいですねー、すんごいでしゅよねー! これを使えば魔力が足りなくても魔法が使えちゃうんです!」


 るんるんと目を輝かせ、商売の口上にも力が入る。やっぱりちょっと下手くそなところは否めないが、しかしそれでも商品は本物っぽいな。


 ただ、この商人小娘は潜在魔力がないせいか勘違いしているようだ。別に魔力があるからといってそのまま魔法が使えるわけじゃない。


 魔法というモノは魔力を練って発動させるものなのだ。術式を構築させるまでにはそれなりの技術がいる。それが人間ともなれば尚更で、一朝一夕ではない修練を積まなければならぬだろう。


 つまり、魔力がなく、魔法の使い方を知らないものにとっては結局こんなものはただの石ころにすぎないということだ。


 逆に魔法が使えるものだったとしても、こんな石ころは要らない。何故って、わざわざ石ころから魔力を取り出すのも面倒だからだ。


 魔力を取りだし、魔力を置換して、術式を構築して、となると実際に魔法を発動するまでに時間が掛かってしまう。


 せいぜい、魔力を使い果たしたときに使えるくらいだろう。まあ見たところ、この石ころも使い捨てのようだし、一回使えば本当にただの石ころだ。


 だが。だがだ。これは今の我にピッタリだった。

 丁度今の我は勇者の聖剣でグサリと貫かれ、持っていた魔力もシュバババッと消滅させられてしまい、こいつの鏡によれば3程度の魔力しかないらしい。


 こいつみたいな魔法の使い方も理解できておらんアホ娘ならいざ知らず、我ならば、魔王たる我ならば、いかようにでも使いようがあるということよ。


「気に入った、この鏡と石をもらうぞ。いくらだ」

 我の横に立ってたボディガードが「えっ?」と漏らす。

「本当れすか? ひゃい! 6ブロンです!」


 ……えーと、我もちょっとはお金の単位は勉強したぞ。

 この辺の地域では銅貨のブロン、銀貨のシルバ、金貨のゴルドが流通していて、ブロン硬貨が20枚で1シルバ、シルバ硬貨が20枚で1ゴルドだったはず。

 で、なんといった? たったの6ブロンだぁ?


「いくらなんでも安すぎるのではないか? 6シルバの聞き間違いか?」

 魔具は材料の調達も容易ではないが、何より製造工程が大変なはず。特に、鑑定機能を付与した鏡なんて素人には手が出せない代物。

 こいつ、ひょっとして我よりもものの価値の分からぬアホなのか?


「えへへ、これわたしの手作りなのでぇ」

「て、手作り? これ全部か?」

「そ~ですよぉ~」


 我、ひょっとしてとんでもない奴に出会ってしまったのでは?

 このアホ面娘、とんだ金の卵だ。

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