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第5話 おっぱい襲来

「うーむ……うーむ……うーむむむ……」

 自室に籠もり唸り声を上げながらベッドをゴロゴロする、見るも麗しい漆黒の闇夜でも誰もが振る向くであろう銀髪の美少女は一体誰でしょう。そう、我だ。


 この発展途上な辺境の街、パエデロスの治安をぶっ壊すための画策を練っているのだが、てんでいいアイディアが出てこない。


 というのも、早々にこの街に駐在する勇者に目を付けられているようだからだ。


 ヤッバーイ連中をかき集めてトンデモ集団の集う連合みたいのを結成させたりとか考えてみたりしてもみたのだが、我がそういう行動を起こすと真っ先に勇者どもが現れて、最悪の場合、我の首がスパポーンと飛ぶかもしれん。物理的に。


 誰だ、こんなドデカい家を建てようとか思った奴は。そう、我だ。

 かといって今さらこの家を潰すわけにもいかんし、折角作った理想の拠点を手放すのも惜しい。


 こんなに目立っておきながら目立たないように行動するには……。


 そうだ、逆転の発想だ。我はいくらでも目立てばいい。

 そして、その水面下で事を動かすのだ。いわゆる意識誘導って奴。


 一方を注視していれば、そちらに意識が向かない。

 なんだ、簡単なことではないか。我、やはり天才か。


 大体、勇者どもも三人足らずではないか。

 我の城に攻め込んできたときはもう少し多かった気もするのだが、たかだか三人がどうこうしているだけならそこまで目が足りているとは思えん。


 となれば、話は早い。パエデロスで暇そうにしてる輩を何人か金で捕まえて暴れさせてやろう。無論、我、匿名でな。


 さしあたって、秘密裏に活動するためにも我が我だとバレないように変装をせねば。その結論に至り、我はボディガードをつけて、変装グッズ探しにパエデロスの市場へと繰り出すことにしたのだった。


 ※ ※ ※


 昼下がりのガヤガヤと賑やかな市場の通り。

 ここは相変わらずも人通りが多く、難儀する。悔しいことに今の我は身長まで縮んでしまっているせいで、酷く視界も悪い。全然前が見えん!


 おのれ、人間どもめ。弱小のくせしてこの我を見下ろすとは。これでは肝心の露店が何処にあるのか分かりづらいではないか。


「フィー様、お手を離さぬように」

 手を取るボディガードも保護者面しておる。


 いや、確かに我を保護してもらっておるからそれも間違いではないのだが。これではまたしても我は子供扱いではないか。

 傍から見たら親子か? 父と娘の日常か? うぅ、虫唾が走る!


 しかし、我の目当てのものを探すとしたらここいらしかない。

 なんだったら最初から使いの者を出して買ってこさせればよかったのでは、と思ったが、今となってはもう遅いだろう。


 今の我の屋敷にある衣類の類いはよく目立つような高いものばかりだ。

 我に似合うものを見繕ってこい、と命令したら渡した金をありったけ使って何かそんなんばっかり買ってきた。


 仮に使いの者を出したとして、変装に向いた安物を買ってくるとは到底思えん。

 わざわざ安物を買ってこいなどと命令した日にゃ、手当たり次第に買い占めてきそうだし、変に怪しまれて、最悪バレてしまう可能性だって考えられる。

 噂の屋敷のご令嬢様は安物を買い集めて何かをしようとしている、とかな。


 融通が利かないのだからこうやって我が直々に出向くのが妥当なのだ。


「あら、あなたは……」

 人混みの少ない開けた場所に出たと思ったら、市場を抜けて広場に出ていた。そして、そこに待ち構えていたのはあろうことか、あの女僧侶、マルペルだった。


 どうしてこんなところにコイツが……と思ったが、よくよく見てみると広場には大きな教会が建っていた。教会、即ち僧侶がいる。何の違和感もない。


「確か、フィーちゃん、でしたよね」

「う……」

 とはいえ、気まずい状況ということには変わりない。向こうは勇者の連れ。ついでにいえばもう完璧に我のことを見知っている。


「ああ、すみません。まだお互いに名乗っていませんでしたね。私は僧侶のマルペルといいます。あなたのことは噂で知りました。あのお屋敷に住んでいるとか」


 本当に申し訳なさそうに顔を伏せつつも、我と距離を詰めてくる。

 我と目線を合わせるように軽く膝を折り、真っ直ぐこちらを見てくる。


 こいつ、一体何のつもりだ。

 よもや、我がこの街で企んでいることを察しているわけじゃあるまいな。


「今日はそちらの使用人の方とお買い物ですか?」

 にっこりと微笑んでみせる。ついでにボディガードの方にも優しく目配せする。おい、ボディガード、お前はニヤけるな。この童貞め。


「う、うむ。そうだ。自分の目で見て、自分の手で買い物がしたくてな」

 ここで変なことを言うと間違いなくロータスに報告が行くだろう。とんでもなく緊張感が走る。そうでなくとも、どうもコイツには勇者並みに苦手意識がある。


 神職者ということもあるだろうが、おせっかい焼きオーラが滲み出ている。


「自分でって、あなたのお父さんやお母さんはこの街にいないのですか?」

 なんでそんなにずいずいと距離を詰めて質問ばかりしてくるんだ。


 やはりコイツ、我のことをとんでもなく子供扱いしている節がある。下手なことは漏らせないが、ここは一つガツンと言っておいた方がいいのかもしれない。


「我の親などとうにおらん。心配など無用だ。我は一人でも今日こんにちまで十分生きてきているのだからな」

 実際、何千年前に死んだのかも覚えておらんわ。


 我がその言葉を言い終えるや否や、マルペルの表情が一変した。


「な、なんということでしょう……フィーちゃんはずっと独りだったのですね」

「ぬわっぷ!」


 目をうるうると潤ませたかと思えば、突然我に抱きついてきた。しかも身長差的な都合により、我の眼前がマルペルの乳房に覆われ、視界が遮られる。


 着痩せしていて気付かなかったが、昨日の女魔法使いのダリアなんかよりもずっとぷよんぷよんのふわんふわんではないか。

 もはや凶器。コイツ、我を窒息させるつもりか。


「こんなに幼いのに、このような治安の悪い土地を訪れるなんて。なんという運命の巡り合わせでしょう。しかし安心してください。ここには私が、私たちの仲間がいます。決してフィーちゃんに辛い思いはさせません!」

「むぐぐぐぅ……」

 今まさにお前のおっぱいで我、押しつぶされて辛いのだが。


 というか、我に対する当てつけか!!!!

 ダリアといい、コイツといい、何故そこまでおっぱいをアピールしたがる……。

 我だって……我だってなぁ……、もっとこう……だなぁ……くすん。


「今までフィーちゃんがどのようなところで過ごしてきたのかは分かりません。ですが、ここはあなたのような可愛く、か弱いお嬢さんが出歩くには危険な場所なのですよ?」

 説教するのか、おっぱいで締め付けるのかどちらか片方に、いやむしろどっちも勘弁してほしい。この女、母性オーラをこれでもかというくらいに放っている。


 おい、我のボディガード、なんとかしろ!


「ええと、あのその、マルペル、さん? フィー様をどうか、その……」

 そこでたじろぐな! お前のご主人さまがピンチなのだぞ!

 引きはがすぐらいできんのか!


「ああっ! 申し訳ありません、私ったら……つい」

 ようやく我はおっぱいから解放される。こわい、おっぱい、こわい……。


「フィーちゃん。困ったことがあったら何でも言ってくださいね。私のことは気軽にママと呼んでもいいのですよ」


 誰が呼ぶかっ!!!! この説教おっぱいめが!!!!

 もぉー、こいつ嫌いっ!!!!!! 我、嫌いっ!!!!!!

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