されど私は拳を握れない
『これより、神捧聖戦の儀、二回戦第一試合! エルトナ王立ギルド所属! リアナ・アル・エルロンVSエルトナ王立ギルド所属! ティナ・ネル・エルロンの試合を開始します!』
新たな会場にも多くの人たちが観戦に来ている。
ざわざわして、うるさいはずなのに妙に私たちの周りだけ静かに感じられた。
「真・精霊強化術」
私は精霊魔術士として全力で戦う為に、全身を強化する。
ちょっと前まで自分の魔力に身体を侵食されていて、使える時間が極端に短かったけど今は随分と長く使えるようになったものだ。
自分の魔力で、自分の魔力をガードするのは相変わらず苦手ではあるけれど。
「リアナお姉様、ありがとうございます。本気を出していただけて、わたくしは感謝しております」
「嫌だけどね。ティナがそうしたいって言うから――」
「――っ!?」
私は一気にティナを場外まで吹き飛ばそうと距離を詰める。
この試合は早く終わらせたい。そんな思いが働いて、まっすぐ彼女に向かったのだ。
「うっ……! 何も見えないけど、これはさっきティナが……。だけど――」
ティナは目にも止まらないスピードで私に魔法を当ててきたらしい。
でも、私は止まらない。痛いけど、バランスも崩れるけど、我慢して前進する。
「お姉様、さすがですわ。ずっと、まっすぐに止まらないお姉様だからわたくしは――」
「うらぁっ!」
私はティナに拳を放つ。
今まで喧嘩もしたことがなかった。
この子に手を上げようなんて考えたこともなかった。
そんなことを考えていると、思わず目をつむってしまっていた。
「――っ!? あ、あれ?」
「お姉様の拳はそんなに軽くないはずですわ。聖光の息吹ッ!」
「うぇっ!? うわあああああああっ!」
気付いた時には私は背後からティナに両腕を押し当てられて、彼女の魔法の直撃を受ける。
マナバーストで強化していたおかげで、痛みはほとんど無かったけど、危うく場外近くまで吹き飛ばされそうになってしまった。
そうだった。ティナはテレポートが使えるんだった……。
「優しいままでは、駄目です。わたくしを傷つけることを恐れて拳を引っ込めるようでは、お姉様はこの先――」
「わっ! 会話の途中で攻撃して来るの!?」
「敵は攻撃を待ってはくれませんから。この先、もっと狡くて、怖い人たちが、反則覚悟でえげつない凶刃をリアナお姉様に突きつけるかもしれません。甘さはそれを回避する足枷になるのです!」
ティナはジルノーガにしてみせたように、見えない魔法の連撃で私を場外へと押し出そうとする。
マナバーストでガードしていても、それを貫く程のスピードで放たれる衝撃は驚異的だった。
ティナ、優しいままじゃダメってどういうこと? 何を考えて、本気で戦わせようとしているの?
「さぁ、リアナお姉様……! わたくしを全力で、その拳を握りしめて、攻撃するんです!」
いつの間にか、ティナは私の目の前にいた。
テレポートを自在に操り、その場から消えたように錯覚させることすら出来る彼女。
私の攻撃なんて簡単に避けられるというのに――。
「嫌だ! やっぱりティナは殴れない! 甘いとか、足枷とか、知らないけど、私はそれでもティナを殴るなんてしない!」
「――っ!? 分からずやですわね。甘いままの精神だと、お姉様の身に危険が及ぶのですよ!」
「だとしても、それを克服するのに妹を殴るなんて結論――私には出来ないよ! ううううっ!」
波状攻撃が始まった。
ティナはテレポートの連続でこの場から姿を消しつつ、私の全身に魔法で連撃を加える。
どこから来るのか分からないし、こちらから攻撃しようにも姿が見えないから攻撃出来ない。
「リアナお姉様! このままだと負けますわよ! あなたなら勝てるはずです! 非情にさえなれば!」
「……精霊憑依・風神の衣!」
「――っ!?」
両手を広げて私は風の衣を身に纏う。
この闘技場の広さくらいなら、シルフの力に私の魔力を上乗せして――。
「回避不能の暴風――!」
「――っ!? エレメンタル・コネクト!? そ、それは、エルヴィンさんから禁止されていたはず……! お姉様の身体が保たないって……!」
また、エルヴィンに怒られるなぁ。
だけど、大丈夫だっていう力を示すには――ティナを殴るよりもずっと気楽なんだ。
私の身体を熱くする、この魔力の業火に身を焼かれていた方が――。
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