宮廷鑑定士
「すっごく高そうなお店……」
「このオレがレディを飯に誘ったんだ。それなりの店には連れて行くさ。王都だったら、もっといい店に連れていけたんだけどなぁ。取り敢えず、好きなモン頼めよ」
「す、好きなもの……? ええーっと、どうしようかなぁ」
「ったく、じれったいなぁ。おーい、このメニューのここから、ここまで順番に持ってきてくれ」
エルヴィンは終始気さくな感じで私に話しかける。そして、高そうなレストランの中に入るとメニューの上から下まで全部頼んでしまった。
私ってそんなに大食いに見えたのかしら。それとも二日間何も食べてないことがバレているのか……。
あはは、流石にそんな訳ないか……。
「二日も何も食ってないんだろ? 年頃のお嬢さんが不眠不休で動き続けて移民とは只事じゃない事情があったんだろうが、まぁそれはいいや。とにかく食べな。お腹いっぱいになれば、それなりに幸せな気持ちになれるもんだ」
あれ? なんでこの人は私がご飯食べてないこと知ってるのかな?
運ばれてきた料理は美味しいんだけど、それが気になって食事に集中できないよ……。
「どうして、飯食ってないこと知ってるのかって顔してるな? 簡単さ。それはオレの右眼が答えだ」
エルヴィンが真っ直ぐに私の顔を見ると、彼の瞳に青白い炎が宿った。
あれは確か、鑑定眼というやつだ。スキルとか能力値とか測定する鑑定士の特有の青白い炎。
でも鑑定士って何日食べてないとかそんなのを調べられるものなの? ウチのギルドの鑑定士はそんなこと出来なかったけど。
「オレの神眼は全てを見通すことができる。そこらの鑑定士と違うから宮廷に召抱えられているんだ。ちょっと魔力を食われるが、本気を出せばお嬢さんのことは何でも分かってしまうのさ」
彼の瞳の炎が青から金色に変わった。
こんな鑑定士は見たことがない。ついでに何を言っているのか殆ど分からない。
「二日動き続けて何も食べてないことも分かったが、やっぱり気になるのはその右手の刻印だ。お嬢さん、あんた凄い才能を持ってるぞ。世界でも滅多にいないとされる“精霊魔術士”になれる才能を」
「精霊魔術士……? 何それ? あっ、……これ美味しい」
エルヴィンは黄金に輝く右眼で私の右手の悪魔の刻印を興味深そうに眺める。
いやいや、これって私の人生の足を引っ張り続けていた悪魔だよ。このせいで私って父親のギルドを追放されたんだから。
私が飲まず食わずで歩き続けたことを見破ったことから凄い鑑定士だってことは分かったけど、この右手を褒めるなんて……正直あり得ないって思った。
「ご飯美味しかった。ありがとう。私の右手のことを聞きたくて話しかけたのだと思うけど、何か誤解しているよ。これは悪魔の刻印と言って、私が聖女になることを阻んだんだ。大層なモノじゃない」
食事を終えて私は自分の右手の甲に刻まれている禍々しい形をしている紋章に語った。
この右手は全ての属性の魔法の精製を阻み、私を魔法士に絶対にさせない原因。
それはウチのギルドの鑑定士が診断したから間違いないし、実際にそうだった。
「悪魔の刻印……? なるほど、な。普通の鑑定士が見たらそう見えても仕方ないかもな。お嬢さん――」
「私、リアナっていうの。自己紹介遅れたけど」
「そっか。リアナっていうのな。ええっと、リアナ。お前さんの右手の刻印は確かに魔力の波動を乱している。だから、どんな属性の魔法も使えない。だが、しかし……何で魔力の波動が乱されているのか知っているか?」
エルヴィンは黄金に光る右眼で私を見据えながら、魔力の波動が乱されている理由を聞いてきた。
そんな理由なんて知らない。知ったところでどうにもならないし。
父もそう思ったから原因なんて探らなかったのだろう。
「リアナのその悪魔の刻印だっけ? その刻印は周囲から自然界に流れる“マナ”と呼ばれる精霊の魔力をずっと吸収して、排出し続けているんだ。とんでもない量の魔力の出入り口になってしまってるから、お前さん自身の魔力コントロールはおぼつかなくなり、結果として魔法の修得は困難になっているのだろう」
「マナ? 精霊の魔力? 魔力の出入り口? 全然、言ってること分からないんだけど」
「要するにリアナは歩くパワースポットになってるんだよ。半永久的に大量の魔力を自然界の精霊から吸収し続けて、体に貯めておけない分は排出して周囲の人間に分け与えているんだ。その証拠に、こうして話してるだけでオレも少しだけど魔力が増えている。お前さんの周りでそんな現象って起きてなかったかい?」
わ、私がパワースポット? 私が魔力を吸収し続けて周りの人にそれを分け与えている?
そんなバカな……、と言いたいけれどパワースポットなら心当たりがある。
確かに私が生まれてから直ぐだったと聞いた――実家のギルドがパワースポットと呼ばれるようになったのは……。
「どうやら、心当たりがあるようだな」
「ええーっと、あると言えばあるかも。私がパワースポットって言われてもよく分からないけど」
宮廷鑑定士エルヴィンは私のキョトン顔を見てニヤリと笑った。
この人はどうして私にそんなことを言ってきたのだろう? ご飯まで奢ってくれて……。
「オレは宮廷鑑定士として、王立ギルドの未来を担う新しい才能を探している。リアナ、お前さんにはとんでもない才能がある! リアナの力をこの国の為に使ってくれないか?」
私の力が必要だと言われたのは初めてだった。
エルヴィンはその黄金に光る瞳で私の何の変哲もない瞳を真っ直ぐに見て、力を貸してほしいと声をかける。
この人の鑑定眼を以てしても分からないだろうなぁ。私がどんなにその言葉が嬉しかったのか――。
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