帰還命令
「ふひぃ~~。何かこう……、エルヴィンも含めて変わった人たちだったよ」
「誰が変わってるって? まぁ、Sランクになるような連中は自分の力に絶大な自信がある奴らばっかりだからな。どうしても我が強いのさ。周りの連中もリワードっていう結果を残してるから何も言えねぇし」
Sランカーと呼ばれる三人のSランクギルド員とちょっとした交流を済ませた私は率直な感想を口にした。
温和な感じのお爺さんのゼノンを除いて、エルヴィンもレイスもアリシアもみーんな自信満々で言動にもそれが現れていた。
『精霊魔術とやらを見せてもらえる日を楽しみにしているよ。まぁ、その前に僕の華麗なる魔術に自信喪失しないことを祈るが』
『あたし以来のSランクスタートとか期待の新人とか呼ばれているんだったら、最低でもレイスには勝って欲しいものだわ。……それがあたしと目線を合わせる最低条件よ』
お互いに火花をバチバチと散らしながら、レイスとアリシアは最後にそんなことを言ってきた。
レイスは五億も稼いでるし、アリシアに至っては十億ラルド……。トホホ、私が太刀打ち出来る存在じゃないよ。
お爺さんのゼノンだって二億ラルドも稼いでいるんでしょう? こんな私がどんなに頑張ってもさ――。
「楽しみだな。リアナの年間報奨金が幾らになるのか。お前さんなら、あのシオンも超えられるかもしれないからなー」
「シオンって、今日来てなかった人でしょう? アリシアよりも上って本当?」
「勿論だ。普通の人間をちょっと下に見ているハーフエルフのアリシアだって、シオンだけは認めている」
「ふーん」
年間報奨金トップのシオンについて私はこれ以上聞かなかった。
既にレイスやアリシアのことだけでお腹いっぱいになっていたので、覚えられる自信がなかったのだ。
そのうち会えるだろうし、そのときに話せば良いだろう。
「エルヴィン様! リアナ様に面会したいという方がいらっしゃったのですが」
エルヴィンの屋敷に着くと、セバスチャンっていう料理の上手いお手伝いさんが慌てたような口調で話しかけてきた。
私にお客さんって誰だろう? 新しいケーキの発売日を教えてってお願いしたケーキ屋さんかな?
「へぇ、リアナに客ねぇ。俺も同席していいかい?」
「えっ? あ、うん。別に良いけど――」
エルヴィンが私の客に会いたいみたいなことを言ったので、構わないと首を縦に振った。
何か難しい顔してるけど、どうしたのかなぁ……。
◆ ◆ ◆
「お久しぶりです。リアナお嬢様……。少し見ない間に大きくなられたように見えます」
「あれ? ポールじゃん。別に身長は伸びてないけど」
「たはは、大きく見えるというのは、リアナお嬢様が成長されたように見えたということを伝えたかっただけですよ」
実家のギルドであるエルロン・ガーデンで会計などの雑務もしている古株のBランク魔法士、ポールが私の客人だった。相変わらず立派な鼻髭だ……。
わざわざ、エルトナ王都にあるエルヴィンの家まで追放された私に会いに来たなんて何の用事だろう? いや、その前にさ――。
「ポール、何かいつもと喋り方違うね。いつも、私のことを父さんと一緒に“おい、そこの無能者”って呼んでたのに」
「……無能者?」
「いやー、あっはっはっ! 相変わらずご冗談を仰るのですね。精霊魔術士になるほど才能豊かなリアナお嬢様が無能なはずが無いではありませんか」
ポールは引きつった笑顔で大きく笑ってみせた。
いやいや、この人は私にだけご飯を無しにしたり、父と一緒に結構な意地悪したのを覚えてる。
急にお嬢様とか言うんだもん。びっくりするよ。
「で、ポールさんよぉ。うちのリアナに何の用事だ?」
「し、神眼使いの……エルヴィン・ノーティスさんでしたかな? 怖い顔をしないで下さい。リアナお嬢様はエルトナのギルドに短期留学をしていたのです。ですから、そろそろ我らがエルロン・ガーデンに帰還してほしいとギルドマスターであるバルバトス様が――」
なんとびっくり。ポールの用事というのは私にエルロン・ガーデンに戻ってきて欲しいという話だった。
嘘でしょう? だって、父は私のことを穢れた血だと毛嫌いして追放したんだよ? 無一文で放り出して、隣国であるエルトナ王国に。
「おい。ポールっつったな? 俺の名前を知ってるのなら、噂も知ってるだろ?」
「そ、それはもう。エルヴィン様の噂はリヴァリタにも届いていますとも」
「挨拶代わりに、その汚い鼻髭を綺麗にしてやった。次に嘘を吐くと許さねぇぞ」
「ひっ、ひぃ――!? ひ、髭が――」
み、見えなかったんだけど……。ポールの髭が綺麗さっぱり剃られていた。
めっちゃ、ツルツルじゃん。どうやったのか、武器すら分からない。
「す、すみません。リアナお嬢様の活躍を聞いて、お嬢様の父……バルバトス様が追放したあなたに全てを水に流してやるから特別に戻って来ても良いと。戻ってきたら、手間代として十万ラルド払う用意があると申しているものですから。それを伝えに参りました」
「いや、別に良いよ。戻らなくても。私、こっちの方が楽しいし」
ようやくエルトナでの生活に慣れてきたし、口うるさくて怖い父がいる実家に私は戻りたくない。
なんだ。そんな用事だったら、諦めて帰って貰おうっと。
ということで、タイトル通りの話でした。
もしも、少しでも【面白かった】【続きが気になる】という方は
↓にある広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると嬉しいです!