燃えよ拳、吠えろ咆哮
「グルルルルルッ! ヌガァァァァァァッ!」
吹っ飛ばされた黒龍の覇者は即座に起き上がって私を食べようとする。
大型の魔物にとっては人間なんて敵じゃなくて餌なんだね。涎を撒き散らしてるから、かからないように気を付けなきゃ。
「リアナさん! 逃げて下さい!」
「ここまで来て逃げられないって! うらぁ!」
「また吹き飛ばした……、あんなにデカイの……」
よし。精霊魔術で強化した身体はあのデカイのに力負けしないぞ。
とにかく殴る、蹴るを繰り返して、何とかして倒さなきゃ……。
「うらぁ! うらららららららららららら! うらぁああああああああッ!」
「ゴボァ……!」
「よしっ! 効いてる!」
「バスタードソードをもへし折ったあの分厚くて硬い鱗の上から拳でダメージを通しただと……!」
アブソリュートドラゴンの鋭い爪や牙を躱しつつ、頭を顎を、腹を背中を、脛を膝横を、眉間を、股下を、肩甲骨の辺りを、鳩尾っぽい所を、殴ったり、蹴ったり、と暴力の限りを尽くす。
巨大な体躯のいたる所を殴られたり蹴られたりしてるアブソリュートドラゴンは痛そうな顔してるから多分効いてるんだろう。
口が利けたらその辺もハッキリするんだろうけど分からないものはしょうがない。
さて、次はどうしようか――
そんなことを考えて動きを止めたら、アブソリュートドラゴンはすかさず大きな口を開けて――
「ガウァ! グラルルルルッ!」
「――っ!?」
全てを燃やし尽くす火炎を吐き出され、私は火の海に飲み込まれる。
熱い、熱い、熱い! 全身が熱くて、私は堪らずジャンプして空中へとエスケープした。
いや、待てよ。あんな炎の中に飲み込まれて熱いで済むのかな? よく見たら服もちょっと焦げ付いただけで済んでるし……。
『精霊強化術の一番すげぇのは攻防一体型ってとこだ。圧縮された魔力は物理だろうが魔法だろうが、あらゆる攻撃に対する圧倒的な防御力を誇る』
そういえばエルヴィンが言ってたな。身体が硬くなるだけじゃないって。
全然、理屈とかよく分からないから忘れてた……。
「何でもありかよ、あいつ……!」
「これなら、やれます! アブソリュートドラゴンを倒せます!」
「でも、アブソリュートドラゴン、ダメージをあまり受けてない……」
メリッサの言うとおり。あんだけ、タコ殴りにしてもアブソリュートドラゴンったらピンピンしてるんだもん。
いや、どうしたもんかな? うーん。ちょっとは頭を使わないと難しそうだぞ……。
「リアナ! お前、切断系の魔術は使えないのか!? 俺らへの依頼は血を手に入れることだ! あいつの皮膚を切り裂いて血を手に入れさえすれば倒す必要などない!」
カインがそもそも倒さなくても良いということを思い出させてくれた。
でもね。カインには悪いんだけどさ。私って魔力を分けることと、身体を強化することしか出来ないんだよね……。
極めればあらゆる属性の魔術とか色々と出来る事が多いらしいんだけど、私って本当に不器用だから……。
だけど、あいつの皮膚を切り裂くことは出来ないけれど……良いことを思い付いたよ。
私だって頭を使うことくらい出来るんだ。頭脳プレイってヤツを見せてやる――!
「うらぁ! うらららららららららららら! うらぁああああああああッ!」
私は拳の弾幕をアブソリュートドラゴンに向かって放った。
十発でも、二十発でも浴びせてやる。これが私の作戦の第一段階だ――。
「無駄だっ! リアナ! どうして、殴り続ける!? そんなことをやっても!」
「いや、リアナさんには何か考えがあるように見えます」
「腹を……、腹ばかり狙って殴ってる……」
うん。私は今、アブソリュートドラゴンに腹パンしまくってる。
それはもう、とにかく腹をガンガン殴ってる。
さっき、色んな魔物を殴って気付いたんだ。腹を思いきり殴ったら生き物って吐血するってこと。
つまり、私はアブソリュートドラゴンに吐血させるために腹パンを続けているのだ。
もちろん。簡単にはいかないのは分かってる。
ある程度、殴り続けてアブソリュートドラゴンの腹がヘコんで来たらアレを使うつもりだ。
実は精霊強化術を使っているとき、ほんの僅かだけ魔力の蓋を開いてる。つまり、常に少しずつ魔力を放出しているのだ。
そうしないと全身に魔力が溜まりすぎて身体が保たなくなるらしいから。
だけど、一時的に蓋を全て閉じて魔力を極限まで高め超圧縮すれば――更に身体能力を向上させる事が出来る。
生憎、私はそれをまだマスター出来ずにいた。
出来ることは王立ギルドの入試の時にやった、右の拳にのみ魔力を極振りするあれだけ。
でも、アブソリュートドラゴンに吐血させるだけならそれで十分だ――。
拳が熱い。燃えるように、灼熱で炙られるようにグツグツと熱くなるのを感じながら私は、憎いあん畜生に拳を叩き込んだ。
――大隕石拳撃ッ!!
エルヴィンが命名したダサい名前の私の必殺技。
轟音と共にアブソリュートドラゴンの断末魔のような咆哮が鼓膜を刺激する。
手応えあり、だ。きっとアブソリュートドラゴンの口からは血が吐き出され――。
あれ? 顔に、いや全身に生暖かい液体が降り注いでいるような……。
「し、信じられん……! あの女、鋼鉄を遥かに凌ぐ硬度のアブソリュートドラゴンのどてっ腹に風穴を開けやがった――!!」
カインの声で私は気付いた。
アブソリュートドラゴンの腹に大きな穴がぽっかり空いて……、私は大量の血をそこから浴びてしまったことを――。
頭脳プレイだと思ったけど、何か思ってたのと結果が違うんだけど――。
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