黒龍の覇者《アブソリュートドラゴン》
「リアナさん……、凄いっ! あんな身体強化魔術初めて見ました……。これが伝説の精霊魔術!!」
「魔法士が苦手とする近距離戦でもあの強さか……。エルヴィンが惚れるわけだ……」
魔物ぶん殴って、蹴飛ばして、ふっ飛ばして、魔法じゃないじゃんって、自分にツッコミを入れてたら、クラフトとメリッサが褒めてくれた。
えっと、これを魔術だと認識してくれるの? どう見てもゴリゴリの脳筋戦法だと思うんだけど。
「おいっ! 終わったんだったら、こっちを援護しろっ!」
「あー、ごめんごめん。すぐに――」
「僕に任せて下さい。初級火球魔術ッ!」
感慨に浸っていたら、カインが援護しろと怒鳴る。
すっかり忘れていて申し訳ないと思いつつ、カインの元に向おうとするとクラフトが初級火球魔術を使おうとカインと戦っているワーウルフに手をかざす。
ああいう、炎とか氷とかの魔法が使えるって良いなぁ。
ファイアボールは拳くらいの大きさの火球をぶつける初級魔術――のはずなんだけど。
「うわぁっ! か、カインさん! 危ない!」
「なっ!? 馬鹿野郎! こんな至近距離で中級火炎砲魔術を使うな!」
クラフトから放たれたのは腕を広げたくらいの大きさの巨大な火球だった。
カインは咄嗟に躱したからワーウルフが丸焼けになるだけで済んだけど、一歩間違えたら彼も怪我をするところだ。
クラフトはファイアボールを使ったけど、確かに今のはギガ・フレイム級の大きさだったね。何でだろう……。
「あっ、そうか。リアナさんに魔力を強化されているからか。いつもの感覚で魔術を使うと威力がとんでもなくアップしてしまうんですね。ごめんなさい、リアナさんがせっかく強化してくれたのにヘマしてしまって」
「ああ、そういえば。えへへ、私もすっかり忘れてたよ」
「リアナさんって、天然……?」
魔力強化術を使ったことを忘れてた。
それで、クラフトの魔力が急上昇して加減を間違えたということか。
メリッサ、私のこと天然とか認定するのはやめて……。
◆ ◆ ◆
「ったく、精霊魔術ってのは反則だろ。ここまで、ノーダメージでずっと戦っていて、その上で魔力が無尽蔵にあるなんて」
「Sランクの方って全員人外の領域に足を踏み入れてますよね」
「エルヴィンと同格なんだから、当たり前……」
Sランクが全員人外……。
エルヴィン以外ではレイスには会ったことあるけど、あの人も凄いんだろうなー。
私ってそんな人たちと同じくらいって思われているんだよね? 気を引き締めないとなぁ。
「しかし、中々見つかりませんね。黒龍の覇者」
「ねぇ、みんなはアブソリュートドラゴンってどんな見た目なのか知ってるの?」
「馬鹿野郎! そんな事も知らないのか!? アブソリュートドラゴンってのは、真っ黒な鱗にだなぁ」
「黒い鱗って、こういうの?」
「そうよ。まさに、これはアブソリュートドラゴンの足ね」
なるほど。こんなに黒光りしてるのか。結構硬そうだなぁ……。
うわぁ、触ってみるとやっぱりゴツゴツしてる……。
「グルルル」
「あはは、カインのお腹の音って猛獣の唸り声みたいだね」
「「…………」」
私がカインのお腹の音に笑うと三人は青ざめた顔をしてこっちをみた。いやこっちというより、その後ろなんだけど……。
何が起こったのか大体わかった。恐ろしい話だけど――。
「ねぇ? もしかしてさぁ……」
「グルルルル!」
「クラフト、初級氷槍術式だ。あれの目玉を狙え!」
「わ、分かりました!」
カインは私の後ろを指差して、初級氷槍術式を使うように指示する。
や、やっぱり後ろにいるんだね? 普段は眠そうな顔しかしてないメリッサが目を丸くしてるし……。
――私はゆっくりと後ろを振り返ってみた。
「ガアアアアアアアッッ!」
目に氷の槍が突き刺さった黒い巨龍は、咆哮と共に炎を吐き出して、辺り一面を火の海に変える。
こ、これが超危険指定生物――黒龍の覇者。
で、でかい。少なくとも十メートル以上はある。
そして、間違いなく強い。さっきまでの魔物がもれなく可愛らしい小動物に見えるくらい。
「落ち着け。大丈夫だ。依頼は血を少しだけ拝借すること。倒す必要などないのだから、冷静になれ」
私たちがパニクっていることを察したカインはベテランらしく冷静な言葉を、静かに発する。
そう、だよね。血を持ち帰るのが仕事だし。あいつをやっつける必要はないんだ。
流石はカイン。リーダーは頼りになる――。
「足の先を狙って! 秘剣! ネオ・グランブレード!」
そして、カインは上段にバスタードソードを構えて、少しだけダサい必殺技名を叫びながら、見事に黒龍の脛辺りを切り裂――
「なっ――」
「何ていう硬さ――」
「これはダメなやつね……」
ポッキリと折れるバスタードソード。
愕然とするカインを踏み潰そうとする黒龍の覇者。
「精霊強化術ッ!」
だから私は必死だった。必死で何とかあの黒いトカゲ野郎に腹パンをして――
「――ッ!? グガアアアアッ!」
ふっ飛ばして仰向けにしてやった。
殴る蹴るだけで何とかなるか分からんけど、泣くまで殴り続けてみる――!
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