穢れた血
「やはりエルロンの名を持つお前が聖女でないのはどうにも体裁が悪い。ティナも聖女としての洗礼を受けてギルド入りを果たした。穢れた血のお前をこれ以上置いておくわけにはいかん」
ギルドマスターである父、バルバトス・エルロンは私をギルドから追放すると宣告した。
エルロン家の血を引く女は代々光属性の魔法適性に優れており、聖女としてギルドを支えていた。
しかしながら、私は例外である。生まれてきた日より右手に刻まれている禍々しい形をした紋章。
これは悪魔の刻印と呼ばれており、全ての属性の魔法適性を最低値に貶めていた。
故に私は聖女にはなれない。並の魔法士にすらなれないでいた。
私こと、リアナ・アル・エルロンはエルロン家の穢れた血の落ちこぼれだと言われているのである――。
父は穢れた血の私が許せなかった。実の娘である私を毎日のように虐げ続けていた。
それもそのはず、私が生まれてからこのギルドはパワースポットとしても有名になり、何故かウチで仕事をすると魔力がアップして困難なクエストも成功すると話題になったのだ。
パワースポットとしての評判は年を追うごとに真実味を帯びて、今ではこのギルドは国でも屈指の評価を受けるようになったのである。
本来ならエルロン家の娘である私が聖女になっていて、ギルドの看板になっていたはず。もしもそうならば、このギルドは屈指どころか国一番のギルドになっていた――これが父の主張である。
しかし、私は聖女には決してなれない。それどころか並の魔法士として活躍することすら絶望的だ。
父はそんな私を、ゴミを見るような目でずっと見ていた……。
そんな私は基本的には雑用を一日二十時間ほどさせられる毎日で……、聖女だった母が亡くなってからはより一層扱いが酷くなっている有様である。
今日、妹のティナが聖女になった。彼女は私と違って光属性の魔法の素養が存分にあったから……。
「ティナは明日、聖地より帰ってくる。これからは我がギルド、“エルロン・ガーデン”の看板として頑張ってくれるはずだ。あの子は何故かお前みたいな無能者でも慕っているから、お前が追い出されると知られれば色々と面倒だ。今日中に出ていって欲しい」
「そんな、私は給金も貰っていないのですよ。お金も無いのに、そんなの無理です」
「金……だと? ふざけるな! お前が居なければ、国一番のギルドになっていたはずなのだ! 逆に損害賠償を請求してやりたいところを我慢しているのだぞ! 出ていくが良い! 穢れた血でエルロンの名を傷付けた無能者が!」
「――っ!?」
父の指先が緑色に光ったかと思えば突風が私の腹に直撃してギルドマスターの部屋から力ずくで追い出されてしまった。
父はハイレベルの魔法士であると共に、このギルドで絶対的な存在。彼が私に敵意を向けた以上、ここにいることは許されない。
「関所を越えるための手形だけは与えてやろう。この国で変なことをされると我がエルロン家の迷惑になるやもしれんからな」
◆ ◆ ◆
「つまり、国外に出ろってことね」
ギルド内にいる数少ない友人を頼ろうと思っていたが、あの父親は私がこの国にいることすら気に食わないらしい。
運良く国内で仕事が見つかって食えるようになったとしても、それを知られれば全力で妨害してきそうだ。
つまり、一文無しの私はさっさと隣国に行って仕事を見つけるしかない。
これは、二日か三日は歩き続けることを覚悟しなくては。毎日、二十時間くらい働いていたから体力には自信があるけど、何も食べられないとさすがにいつかは死んじゃうし急がなきゃなぁ。
そんなことを思いつつ、私は歩く。隣国の関所を目指して休むことなく、不眠不休で歩き続けた。
「あー、疲れた。それにしても、エルトナ王国ってこんなに簡単に移民を受け入れてくれるんだ。リヴァリタ王国とは大違いね」
二日間、歩き続けて関所についた私は、入国管理所で手形を見せてあっさりと入国を許された。
私の故郷であるリヴァリタは結構厳しめの審査とかあるから割と驚いている。まぁ、ヘトヘトだったから、助かったんだけどね。
「エルトナは国を大きくしようって頑張ってる最中だからな。能力のある人材を一人でも多く確保するために来る者拒まずでやってるんだ。お嬢さん、珍しいな。女一人で移民かい?」
頭にカーキ色のターバンを巻いた男が私の独り言に反応した。
そんなに大きな声で独り言を言ってたかな? ちょっと恥ずかしいんだけど。
「ふーん。お嬢さん、面白い右手を持ってるんだな。オレは宮廷鑑定士のエルヴィンっていうんだが、お茶でもどうだい?」
「……宮廷鑑定士? いえ、初対面の男の人とお茶っていうのは……」
ターバンの男はエルヴィンと名乗り、私をナンパしてきた。面白い右手って、私の悪魔の刻印のことかな?
うーん。何か胡散臭いし、こういうのについて行くなと妹のティナからも言われてるし、どうしたものか。
「なんなら、飯も奢るぞ。美味い店知ってるし」
「是非ともご一緒させてください!」
ご飯に釣られてしまった。
だって食べないと死んじゃうし。仕方ないじゃない。
これが私と宮廷鑑定士エルヴィンの最初の出会い。
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