金色の咆哮! 獣の影が襲い来る!! 4-A
ムカつくままに帝国兵をぼこぼこにしてやった。
まぁ師匠の教え通りだから、悪いのは全部師匠ということで。
むしろ師の教えを従順に守っている私えらい!!
「リリィ大丈夫?? ケガは……なさそうね」
「もちろん大丈夫。スキル頼りで自己研鑽を怠った輩なんかに傷ひとつ付けられるもんですか」
これも師匠の教えだ。
とかくスキル頼りの者はそれ以外の選択肢を放棄しがちだ、と。
確かにスキルは強力だ。
幼子でさえ一端の攻撃スキルを授かっていれば、そこいらの獣にすら勝つことが出来る。
あるいはそれは生まれた時より持っている天賦の才と言ってもいい。
先天的に強力なスキルを持っていれば、努力をせずともある程度はそのスキルで何とかなってしまう。
その為、後から新たなスキルを習得しようとする者はさほど多くはない。
特に教育を受けスキル習得ができるような環境にない人間は無理してまで覚えようとはしない。
戦争孤児、地方民、出自の判らぬスラム住人などなど。
高いお金を払って、スキル保持者に師事を受け、己が物とするまで練習し、それでも習得できなかったり、習得しても元々持っていたスキルの方が利便性が高かったり。
そこまでしてわざわざ新しいスキルを覚えるよりは今あるスキルを使い熟す方が有効なのだ。
だが。
得てして強力なスキルを持つものはそこに傲りが生まれる。
先ほどの3人がいい例だ。
確かにスキル名を声に出すことによって、よりイメージしやすく、より発動を確かなものにする。
しかし、「スラッシュ」といえば斬撃、「ハンマーフォール」といえば打ち下ろし、とある程度動きがばれてしまう。
「フェイクアタック」なんてのは論外。これからフェイクかけますと自ら宣言しているのだから。
ならばどうすればいいのか。
スキルを使わなければいいのだ。
強力な斬撃を放ちたいのであれば、剣の振り方、体重の乗せ方、斬りつけるまでに至る駆け引きを鍛えればいいのだ。
所詮、剣で致命傷を負わせれば相手は倒せるのだ。
スキルで斬ろうが技術で斬ろうがそこに変わりはない。
スキルはあくまで選択肢のひとつであり、それ一本に絞ってしまうのは愚行と言える。
特に一定以上のレベル同士の戦闘では致命的な隙を晒す弱点と成りかねない。
だから師匠はスキルを教えるのではなく、己が身体を己が物にする修行を私にさせた。
頭頂から爪先一指に至るまで気を行き渡らせ、自分のイメージと寸分の狂いもなく身体を動かせるようになるまで。
繰り返し、繰り返し修行を行った。
そして身体全てを己が物としたときには、すでに「龍鉄拳」は私のものとなっていたのだ。
そう。
「龍鉄拳」はスキルではない。
近接戦闘の技術なのだ。
「……幾らスキル頼りの攻撃だからって、一度に2つも3つも避けるのは普通難しいでしょ……」
「そうでもないのよ? スキルを見るんじゃなくて、その前の予備動作や視線の向きを観ていればさほど難しくないのよ」
はぁ……とため息をつきながらモリーは呆れ顔。
「あなたがトンデモないのはよく分かったわー……一体何者?」
「あはは……ちょっと護身術を齧った只の田舎娘だよ」
「齧った程度でこの強さならリリィの田舎ってどんだけ魔境なのよ! ……まぁ詳しく聞かないけど」
「……ごめんなさい。あまり人に語る話では無いの。」
モリーはぱたぱたと手を振って了承の返答とした。
どう思ったのかは分からないが、このご時世だ。
人に言えない話の一つ二つは誰にでもあって不思議はない。
「さて。じゃあこいつらの身ぐるみ剥いでさっさと逃げちゃいましょ」