漆黒の姿! 夜闇に沈む奇怪な強敵!! 27-B
咆哮を上げて構えを取った黒甲冑は、打って変わって沈黙する。
すわ、様子見かと思いきや。
だん、と地を蹴り急加速。
かなり低い体勢のまま、こちらに向けて飛び込んでくる!
言っても私もオセロも背は高い方ではない。
頭二つは高いであろう体躯が、こちらの腰より低い位置まで頭を下げて超低空での体当たりを仕掛けてきた。
「ほおぁ!!」
突進を抑えるための足裏突き蹴り!
だが黒甲冑は私の蹴り足が触れる直前で方向転換、狙いをオセロへと切り替えて飛び掛かる!
「しゃあぁっっ!」
オセロとて油断はしていない!
突進してくる黒甲冑の頭に向けて、小太刀の一刀を振り下ろす!
しかし相手は意に介さず。
狙い違わず打ち下ろされた刃を、あの奇怪な防御力を生かして頭部で受け止めた。
「キアアアァァアッッ!!」
そのままの勢いでオセロの下腹部へと肩口から体当たり!
右手でオセロの左太腿を、左手でオセロの腰を抱え込み、そのまま抱え上げからの背面投げ!!
高々と担ぎ上げられたオセロの頭部を、地面目掛けて真っ逆さまに投げ落とす!
「させない!!」
落とされるオセロの後頭部と地面の間に爪先を差し込み、彼女の頭を足の甲にて受け止めて投げ落とされる勢いを殺し!
更にその脚で踏み込んで身体をくるりと半回転、背面体当たりを黒甲冑に向けて叩きつける!
打撃が効かないのは承知の上。
相手の身体を押しのけさえできればそれでいい。
「がぅっっ!!」
オセロが背中から地面に叩きつけられるのと、黒甲冑が押されてよろけるのがほぼ同時。
投げの衝撃で息を詰まらせるオセロ。
だが、これで投げからの寝技や追撃を行う暇を与えず。
相手の攻め手を一旦切る。
「オセロ! 場所替え!!」
私の声に彼女は地を転がって距離を取り、私は相手と対面する位置へと滑り込んだ。
目前で構えを取る私を次の獲物と見定めたか、感情の見えない紅眼でこちらを見つめながら体勢を下げる黒甲冑。
「打撃を受け付けない組技格闘ですか。
その理に適った闘法は確かに驚異……ですが!!」
私の言葉を無視して、先程同様の超低空で飛び掛かってくる黒甲冑。
脚を取りに来た右腕を、半身になって脚を引き下げることで引き手を切り。
下げた脚で大地を踏み締め、相手の上から覆いかぶさる。
腰下へ体当たりしようとする相手の身体を、体重を掛けた両腕で上から押し潰すように地面へと沈める。
「打撃だけが私の全てではありません!!」
倒れた相手の背中に素早く跨り、脚を取り損ねて宙を掻いた右腕を掴んで捻りあげ。
その捕縛した腕に体重を乗せて抑え込む!
「キアアァァアアッ!!」
みしりと軋む音と共に、黒甲冑が倒れたまま仰け反って暴れ出す。
しかし、相手の右肘及び右肩の関節は曲がらない方向への腕挫脇固によって極められており、私の身体の下から逃げ出す事は出来ない。
「暴れないでください!
無理に動こうとすれば腕が折れますよ!!」
尚もじたばたと拘束から抜け出そうともがく黒甲冑。
その足掻きを封じ込めようと、更に逆方向へと関節を捻りあげる。
その時だった。
押さえていた相手の右腕が、まるで捩じり編まれた太縄がほどけるかのように、螺旋状にずるりと広がり展開してゆく。
中から溢れでたのはヒトの腕か。
白魚のような細い腕は女性のものに見える。
力なく地に落ちるその細腕とは裏腹に、広がった甲冑が鎌首をもたげて私の腕へと絡み付く。
それはまるで昆虫のよう。
複数の黒鉄の体節を持ち、小さな金属片の節足がびっしりと並ぶ。
体表は、艶やかな黒い光沢からは想像し難い水風船のように柔らかい感触。
キシキシと多節脚が蠢く擦過音を立てて、私の腕先から這い上がってくるモノ。
悪意あるデフォルメで描く、極端に長く醜く拡大解釈したダンゴムシを模した金属アート……といえば多少はニュアンスが伝わるだろうか。
まるで手枷縄のように私の腕に絡みつくそれは。
見たこともない『蟲』であった。
◇◇◇
次回!
蠢く異形の金属蟲。闇夜に紛れる黒甲冑。
逃走果たした行先に姿を見せるは帝国将軍。
謎の黒甲冑の正体とは。
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