無礼千万!異種族差別は許さない!! 2-B
モリーのいう面倒な相手というのは、帝国兵の事を指していたのだろう。
その帝国兵達もこちらに気が付いているようで、なんというかにやにやした笑みを浮かべこちらに向かってくる。
まだ街まで随分距離があるはずだけど、何でこんなところに集まっているのかしら?
程なく声かけできる程度の距離まで近付くと、その方達が誰何の声を挙げる。
「憲兵だ! 馬車を止めろ!」
はぁ、とため息を一つつくと、視線も顔向きも変えずに小声でモリーが囁いた。
「とりあえずリリィは気にせず静かにしていていいよ。私が相手するから」
言うが早いかさっと営業スマイルを浮かべ、憲兵を名乗る男達に会釈を返すモリー。
私も右に倣えで頭を下げた。
「お仕事お疲れ様です。ずいぶんと街から離れておりますが何か事件でもありましたか?」
「フン……いいから馬車を止めろ亜人風情が。積荷の検閲だ」
「こちとら極秘任務中だ。黙ってろモグラが」
ぴくっとモリーが肩を震わせた気がしたが、すぐに笑顔のまま了解の旨を伝え馬車を停める。
……しかしこの下郎達は言うに事欠いて「亜人風情」とは。
ドワーフ族は岩のような頑強な肉体と細密な作業を行う器用さを併せ持つ、生まれながらの戦士にして誇り高き職人だ。
礼を欠くような真似をしてどうするというのか。
彼等とは対等な立場で共存するべきであって、決して見下すような相手じゃない。
私の父は亜人という言葉ですら、彼等の尊厳を無視した呼び名だと憤慨していた。
人に似た何かではない。
いち種族として確固たる尊厳の元、手を取り合う仲間なのだと。
あまりの物言いに正直イラッとしたが、モリーに任せて言葉は発しない。
「積荷は巻き煙草1木箱と果実酒5樽。あとは保存のきく根菜が3箱です。通商許可証はこちらに」
「フン……確かに本物の許可証のようだがな。中身を検めさせてもらうぞ」
モリー懐から鉄製のメダルを取り出し見せたが、ろくに確認もしないで馬車に乗り込もうとする帝国兵。
「いやいやちょっと待ってよ。許可証があるんだから問題ないでしょう?」
「口答えするなモグラが! 人間様に逆らってんじゃねぇ!」
またも「モグラ」だ。
詳しくは知らないけど、まず間違いなくドワーフ種に対する悪口よね?
モグラというワードが出るたびに、モリーの肩が小さく反応するのが判る。
耐えかねたのか、少し語気を荒くしたモリーが無礼な兵士へと言い返した。
「私はドワーフ! モグラなんて呼び方はやめて」
「うるせぇな! 口答えすんなって言ってるだろ!!」
見下しているドワーフ種の反抗的な態度が気に入らなかったのか。
先ほどから暴言を吐く兵士の1人が馬車の車輪をがつっと蹴りつけ、威圧してくる。
……
…………
…………あぁん?
あまりにもあまりな高圧的な態度に、私の中で何かぷちっと音を立てた。
◇◇◇
次回!
憲兵とうそぶく傍若無人な帝国兵。
モリーに、いやドワーフ全てに対する無礼な言葉にリリィの怒りが爆発す。
貴様らに語る言葉はもはや無い。この拳で全てを打ち倒す。
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第3話「立ち塞がる悪意! 吠えろ怒りの龍鉄拳!!」
「斗南無敵が龍鉄拳! 拳士リリィ推して参る!!」