無礼千万!異種族差別は許さない!! 2-A
モルジアンナというお名前のドワーフハーフの商人さんのご好意で次の街まで馬車で同行させてもらう事にした。
師匠のところから出て初めて会った人がとてもとても優しい人でよかったわ。
行きずりの私の身まで心配してくれている。
パンもくれたし。
2コもくれたし。
まぁ宵闇の森で10年間過ごしてきた私に言わせれば、そこまでいうほど危険な場所じゃないのだけど。
ただただ鬱蒼と茂った木々で昼なお暗いってだけ。
普通に過ごしている分にはそうそう魔獣とも会うことはないし、人間の手が入っている側と比べたら水も自然も綺麗なもの。
子供に言い聞かせる昔話では、宵闇の森のドラゴンが人間を食べようと探してるって締められてるけど、実際には森には入っちゃダメだよって教訓だろうし。
あの昔話の肝は最後に「お前だー!! ガオー!!」で脅かして子供を泣かすのが、話のオチだしね。
あ、でも師匠とエンカウントするとろくなことないからやっぱり近付かないほうが無難かも。
……あまり森から来たとは言わないほうがいいのかしら?
私の出自を知られると面倒なことになりかねないし。
昔から人が忌避して寄り付かないからこそ、私はそこに逃がされ生き延びられたのだしね。
「それでモルジアンナさんは次の街で商売を?」
「さんはいらないし、モリーでいいわよ。長くて言いにくいでしょ? 私もリリィって呼ぶからさ」
「じゃあモリー。えーと……フェダだとアクセサリーとか有名ですけどそれを仕入れに?」
「……リリィ。それ何年前の話? フェダがドワーフの細工品で有名だったのってルードレット伯が治めてた頃でしょ? 古すぎない?」
モリーに怪訝な顔をされてしまった。
ふむ。私が師匠に10年間小突き回されてる間に世間は様変わりしているのね。
とりあえず田舎から出てきたばかりだから云々と胡麻化しておいた。
「昔、親から聞いただけの話だったから。今は違うのね」
「フェダは火石の精錬施設があって帝国のやつらがわんさか居るから、色々売れるし買えるのよ。狙い目は中古の武器とか嗜好品とか。あとはお酒なんかが一番の売れ筋よ」
「でも、女性一人で商売って大変じゃない?いくら治安がいいといっても何かと危ないこともあるでしょ?」
「治安かー……そんないいわけじゃないけどね。こーみえて私、結構強いのよ?」
モリーはそう言いながら、腰に帯刀した短剣をすっと抜き放つ。
しばらく指と指の間で短剣をくるくると回すと淀みのない動きで鞘に戻す。
「まぁそれに面倒なのは獣や野盗より……って噂をすればってやつ?」
馬車の行き先に5人ほどの武装した人達が屯しているのを見て、モリーがあからさまに嫌そうな顔をした。
「帝国のゴロツキ共よ。面倒な」