そして乙女は旅に出る!! 1-B
街道で出会った幌馬車は町へ向かう行商人のものだった。
女性の商人さんで、一人で幌馬車を駆って町から町へと卸しては仕入れてを繰り返しながら行商をしているのだという。
人懐こい笑みを浮かべ、私を御者台へと招くと傍らの布袋から取り出したものを手渡してくれた。
なんと飢えた私に乾燥フルーツを練り込んで焼き上げた甘いパンを恵んでくれたのだ。
なんてなんて良い人なんだろう。
馬車を引く馬をよだれを垂らしながらがん見していた変な人相手に、愛想よく声をかけ、あまつさえ自分の昼食用のパンを譲ってくれるなんて。
善人オブ善人とはこの御方のことを言うのでしょう。
「よっぽどお腹が空いてたのねー。なんならもう一個食べる?」
「あなたが女神様か……」
あははと若干呆れたニュアンスの笑い浮かべると、御者台の荷袋からもう一個パンを出して手渡してくれた。
あぁ……もう感涙に咽び泣くとはこのことだ。
彼女の手からノータイムでパンを受け取り口に運ぶ。
彼女の肌は日に焼けたような赤銅色。といっても日焼けではなくおそらくドワーフの血統なのだろう。
体形からして純種のドワーフではなく、人間とのハーフかな。
すらりとした肢体に私より高い身長はドワーフのそれじゃない。
胸はドワーフの特徴を遺憾なく発揮しているのか、いわゆる巨乳さんだ。
なにそれずるい。
うちのクソ師匠なんか出会って3年目くらいまで私の事を男の子だとばかり思ってたとか何とか。
そりゃ幼少期だからぱっと見判らないんでしょーけど。
でも去年の14歳の誕生日に「なんかあまり成長しないな」とか言ったのは一生忘れない。
おっと今は不快な思い出は忘れて、この甘い甘いパンを堪能しなくては。
無意識のうちに師匠への怒りで、むしゃりと噛みちぎったパンの塊は口いっぱいに頬張られ。
そのまま嚥下……しようとしたが無理があった。
んぐっく!
「慌てて食べると喉に詰まるから気を付けて……って早速詰まらせてるじゃない! 水、水……」
パンの塊を呑み込めずに目を白黒させている私に、木製の小さな樽の栓を抜いて押し付けるように水をくれた。
ごっくん。
水で無理矢理流し込んだパンの塊が食道を通って落ちていく感触にぷはーっとため息をついた。
「ありがとうございます……行商の途中で水も貴重なのに……」
「次の町までそんなかからないから大丈夫よ。私はこのまま街道沿いに進んでフェダの街へ向かうんだけど、あなたは?」
「私は特に決めてないんですけど、とりあえず近場の大きな街まで行ければいいかなと。フェダなら探し物も見つかるかも?」
「探し物?」
「書を……探しているんです。とても貴重な書らしいのですが。またその書とは別になりますけど今は活字に飢えてまして……とにかく本が読みたくて仕方ないんですよ」
答えつつもあまり細かく話しても仕方がないと少し濁して伝える。
旅の目的を伝えてしまうと、何かの時に巻き込んでしまうかもしれないしね。
「街に行けば書物にありつけるかと思いまして」
商人さんは確かに、と相槌を打ちつつもちょっと思案顔。
一旦私を上から下へと眺めると、ふむふむと一人頷く。
「うーん、この辺は宵闇の森にさえ近づかなければ危ないことは無いけど……あまり女の子1人で出歩かない方がいいと思うんだよねー。あなたさえ良ければ乗ってく?」
ありがたいお話に涙が出そうです。
やっぱり女神様じゃないかしらん?
◇◇◇
次回!
何処より来たかも判らぬ流浪者リリィ。
ドワーフハーフの商人モルジアンナに拾われて共に次の街へと向かう。
その道すがら現れた者達が悪意を持って魔の手を伸ばす。
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