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そして乙女は旅に出る!! 1-A

 正直、私は逼迫した危機にさらされていた。


 過去の名は捨て、今はリリィを名乗る一介の流れ者だが、10年前の5歳の誕生日まではいいトコのお嬢様だった私には兎にも角にも空腹という状態に耐えられないのだ。


 お腹が空くということはとてもとても辛く悲しく寂しいことだ。

 まじ泣ける。


 お世話になっていた師匠のところでは世捨て人みたいな生活ではあったものの、食べる物には困らなかった。

 住処の周りには綺麗な小川が流れ、冷たい水は飲み放題。川魚はぽってりと育って脂のノリが抜群で、煮ても焼いても満足な逸品だった。

 また一歩森に分け入れば季節の山菜や木の実に困らず、ミツバチが貯めこんだ蜂蜜たっぷりの巣なんか見つけた日にはこの世の春かと大喜びしたものだ。


 師匠のところから出立した私は、2日目にして保存食を食べつくし、3日目の本日朝から何もお腹に入れられていない。


 道中の川は鉱山からの排水で茶色く濁り、少なくとも生き物の気配は見受けられず。

 荒れた街道には馬車の轍や蹄鉄の跡はあっても草の一本も生えておらず。

 町の方向を指し示す道標には食べられそうもない羽虫が集って睡眠を取っている。しかも毒々しいカラーリングのやつ。

 空を見やれば大型の野鳥がこちらを餌にせんと行き倒れるのを待っているかのようだ。




 総じて今の艱難辛苦を打破する術が私には見つからない。




 師匠のヤロウ、何が1週間分の食糧だ。


 はなっから「なんか少なくね?」と思ってはいたのだ。

 そんなこと口に出したら「文句があるなら持っていかんでいい」とか言い出すのは目に見えてるから黙って受け取ったが。

 燻製した川魚は7匹程度だったし、乾燥させた山菜をすり潰した粉で作られた餅も20枚あったかどうか。デザートの乾燥フルーツも革袋1包みしかくれなかったんだよね。


 まぁ初日の昼、夜、おやすみ前で半分以上食べてしまったのだが。

 乾燥フルーツは蜂蜜を塗ってから乾燥させたものでとーっても甘くて超美味しいのだ。


 一晩で食べちゃうよね。

 育ち盛りなんだからそりゃ食べちゃうわ、間違いなく。


 2日目はデザート無しの寂しいご飯で、仕方ないから革袋にこびりついた蜂蜜を丁寧に山菜粉餅で拭い取って甘々にして食べた。


 一回で食べちゃうよね。

 育ち盛りなんだからそりゃ食べちゃうわ、間違いなく。


 そして本日に至っては、朝飲もうと水筒の蓋を開ければ中身はすでに空っぽになっていたのだ。

 ついでにデザートを入れていた革袋も舐めてみたが、流石に変な味しかしなくて諦めた。


 あー思い出したらお腹がきゅーって泣きだした。

 日の傾きからもうお昼も回った頃合いだろうし。


 空腹というものはとてもとても悲しいわ。


 何でもいいから食べ物ぷりーず。

 甘いものなら尚よし。


 今の私は蜂蜜漬けフルーツの為なら、国王だろうと魔王だろうと龍王だろうとふるぼっこにした後にもう一回ふるぼっこにする覚悟があるわ。


 もうその辺の魔王はスイーツ持ってかかって来なさい! (錯乱中)

 師匠のくれた防具というか服というか革鎧は煮たら食べたりできないものかしら? (さらに錯乱中)


 もう諦めて師匠の所に出戻ろうかしらん?と早速挫折しそうになる。

 そんなぎゃん泣き寸前の私の視線の先から幌付きの馬車が街道をかっぽかっぽと歩いてきたのは天の救いだったのかもしれない。



 ……馬肉って栄養満点、滋養強壮で何よりとっても美味しいよね?


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