第5話 後編 …と何かをした男
第5話後編です。
本当に大切なことって何だろうっていうお話です。
ウォーレイ君といつもの部屋に戻ってくると誰もいなかった。
エゥブさんはスタジオに行っているようだ。
ドーレさんは知らん。
「いやー、いい執行でしたねー」
私の機嫌はかなり良い。
なんというか、希望を感じる転生だったといえるだろう。
いや、私はさっきの転生で特に何もできなかったんだけど。
「そうですね!
ボクも大満足です!」
ウォーレイ君もいい笑顔だ。
美少年はどんな表情でもかわいいがやっぱり笑顔が一番だ。
「ウォーレイ君、あれは良かったですよ。
『何もできない人は消えてもいい、なんて教えるんですか』っていうの」
「え?本当ですか?
えへへ…。照れるなあ…。
サトーさんも良かったですよ!」
お互いの健闘をたたえ合う。
いえーいとハイタッチする。
「それに、何ができたか、なんて関係ないんですよ」
ウォーレイ君がにこやかに言う。
「ゴンチさんはあんなこと言ってましたけど、大事なのはそこじゃないんです」
「…というと?」
「ゴンチさんは孤児院の経営がどれだけ苦しくても逃げませんでした。
少しでも子供に多く食べさせるために毎日たくさんの家を回ってお願いしていました。
子供のお墓の前で一晩中泣いて自分の無力を謝り続けていました。
有力者との交渉に至るまで何度門番に追い払われても諦めませんでした」
…それはつまり。
「何もなしえなかったとしても、何もしなかったわけじゃないんですよ、サトーさん」
それさえあればいいんですよ、とウォーレイ君は教えるように言う。
外見こそ子供だが、ウォーレイ君も執行官だ。
ハザマの世界では時間の概念すらあやふやではあるが、私よりいろんな経験を積んできたのだろう。
机の上のお菓子に飛びつくウォーレイ君の背中が大きく見えた。
…そして、今の言葉はきっと私に対しても向けられている。
何ができたか、ではなく、何をしたか。
私も、ゴンチさんのこれからを思って説得をした。
それさえあればいいんですよ、というウォーレイ君の声がもう一度聞こえた気がした。
ウォーレイ君…いや、ウォーレイさん…。
外見で人を判断するなんて、もしかして私は失礼だったのではないか?
今からでも態度を改めるべきではないのか?
「ほへひへふへ」
口いっぱいにクッキーを頬張ったウォーレイ君がさらに告げる。
口にものを含んだまま喋るのはやめましょう。
「ゴンチさんのおかげで、魔王の誕生が阻止できたんですよ」
「………は?」
………は?
「サトーさんに渡した資料には書いてなかったですけど、ゴンチさんの孤児院には将来魔王になる運命の子がいたんですよ」
「……」
「その子はあの世界の醜さに絶望して、すべての人類を滅ぼそうとする存在だったんです」
「……」
「でも、ゴンチさんの下で育つことで、人間の誠実な面に触れ、魔王としての運命から外れたんです」
ゴンチさんが亡くなった後の次期院長として子供を育ててくれる優しいお兄さんに育ちました。
良かったですね!
……。
「……ぇ」
「え?」
「そういうことは先に言ええええええ!」
「えええええ!?」
クッキーを没収する。
「いや、この前サトーさんが魔王っていう人にすごい怯えてたってエゥブさんに聞いたので、もしかして魔王に関連するもの全部だめなのかなって思ったんですよ」
「だから事後報告にしようってか!
魔王関連全部だめってわけじゃねえよ!
それにそれ知ってたら説得だって他にやりようがあったわ!」
クッキーが入った器を頭の上に掲げ、ウォーレイ君が取れないようにする。
ピョンピョンとウォーレイ君が飛び跳ねるが身長差が大きすぎて届かない。
いや、別に魔王の誕生に関して私にできることなんてなかったけど。
それでも、情報の開示って信用にかかわってくることじゃん!
…良かれと思ってやったんだろうけどさあ!
はあ、とため息をついてクッキーを降ろしてウォーレイ君に渡す。
わーい、と喜んでクッキーを再度頬張り始めるウォーレイ君。
「ちゃんと情報は全部開示してください、いいですか?」
「はーい…」
「でもまあ、今回は勉強になりました。
これからもよろしくお願いしますね、ウォーレイ君」
「はい!よろしくお願いします!」
その言ってまたクッキーを口に含むのは子供のようで。
微笑ましいものだった。
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