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怪獣研究部SOS!?

地震怪獣ナマグラン


登場

 太陽が1日の仕事を終えて沈む頃……大戸島高校では全ての授業が終了し、放課後を迎えていた。


 放課後の高校生達の行動は様々だ。

 早々に自宅に帰る者、教室に残って委員の仕事を行う者、友人達とどこかに寄り道する者、部活動に勤しむ者……芹沢 優助と山根 笑子の二人は、その内の『部活動に勤しむ者』だった。


 大戸島高校・校舎4階の隅っこに位置するとある部屋……そのドアには、ゴシック書体の縦書きで『大戸島高校・怪獣研究部』と彫り込まれた木製の看板が掲げられていた。


「お疲れ様でーす」

「でーす♪」


 時計の針が5と6の間を刺す頃、その部屋に二人の生徒が入っていった。

 言うまでもなく、優助と笑子である。


「おぉ~♪お疲れ二人ともぉ~♪」


 部室に入った二人を出迎えたのは、緑がかった長髪をポニーテールでまとめた優助や笑子よりも年上の女子生徒だった。


 ゴシック体で白く『部長』と書かれた黒い卓上ネームプレートが置かれた席に腰掛けながら雑誌を読み、優助と笑子に向けて笑顔で手を振っていた。


「部長、お疲れ様です」

「聞いたよぉ~?また『新種の怪獣探し』でズル休みしたんだってぇ~?」


 優助から『部長』と呼ばれた女子生徒は、ニヤニヤ笑いを浮かべる笑子のからかうような言葉にムッとした顔になった。


「……『ズル休み』なんて言い方ヤメてよ、えみちゃぁ~ん?アタシはねぇ、世界のどこかで図鑑にも載っていない『新種』の怪獣が見つかったって聞くと……こぉ、『自分の目で(・・・・・)』どんな奴か確かめないと、気がすまないんだから~!」

「……でも結局は『ズル休み』じゃん?」

「ウッ……」


 笑子に痛いところを突かれて、部長はぐぅの音も出なかった。


「……ほどほどにしないと、また『ダブり』だよぉ~?気をつけてねぇ~」

「うぅ……」


 笑子からのからかいに部長はしかめっ面を浮かべ、表面に『怪獣 命』と書かれた湯飲みを口にした……が、湯飲みの中はすでに空っぽになっていた。


「……マグー!お茶入れてぇ!」

「ナァァマァァ~」


 部長が湯飲みを高く掲げながら叫ぶと、ナマズに手足を付けて、更に背中に4本の角を生やしたような姿をした怪獣|(等身大サイズ)が返事をし、部長から湯飲みを受け取ると、その中にインスタント抹茶の粉を入れ始めた。


 彼女の名は『松宮(まつみや) カナエ』。


 この大戸島高校・怪獣研究部|(通称・怪獣研)の部長を務める三年生……なのだが、『新種の怪獣が発見された』というニュースを聞くと、そこが地球の裏側だろうが駆けつける悪癖の性で『出席日数不足』の留年を繰り返し、現在の年齢は20歳という『大戸島高校始まって以来の怪獣オタク』なのだ。


 そして、そんなカナエにお茶を入れているナマズのような怪獣は、彼女のパートナー怪獣にして伝説に伝わる『地面の下に住み、地震を起こす大鯰』のモデルとされる『地震怪獣 ナマグラン』(ニックネーム:マグー)なのである。


「ナァァマァァ~」


 ナマグランは抹茶の粉を入れた湯飲みに器用に電気ポットのお湯を注ぐと、木製お盆に乗せてからカナエに手渡した。


「……はいどうもありがと」


 カナエはナマグランにお礼を言いながら湯飲みを受け取り、そのままお茶を飲む。

 暖かいお茶がカナエの口の中いっぱいに広がり、喉を通って胃の中に入ると体の芯から暖まっていくのを感じた。


 カナエはそのまま、読みかけの雑誌に目を向ける。

 カラーページの特集記事は小笠原諸島にある『世界最大の怪獣保護施設』にして『世界最大の怪獣テーマパーク』として名高い『怪獣アイランド』についてだった。


 今年上半期に怪獣アイランドに保護された怪獣達が写真付きで紹介され、同時に怪獣アイランドのオーナーである『Dr.モンスター』こと『鬼小路(おにこうじ) 君彦(きみひこ)博士』のインタビューが記載されていた。


 雑誌を読むカナエを尻目に、優助や笑子も席につく……といっても、特に席が決まっている訳ではないので、思い思いの場所に腰を下ろしていった。


 怪獣研の部室は通常の教室の半分程の広さがある部屋で、フィギュアや図鑑、映画のDVDやソフトビニール人形等の怪獣関連グッズが所狭しと飾られており、隅には『今年発見された新種怪獣』というタイトルと怪獣のイラストが表紙に描かれた見るからに手作りなホチキス留め冊子が詰め込まれた段ボール箱が置かれていた。


 しかし……その他には携帯ゲーム機とそのソフト、ペットボトルジュースが入れられたクーラーボックスや大量のスナック菓子の袋といった『それは部活に必要なのか?』としか思えない品物まで大量に置かれていたのだった。


「それで……あの……」


 席に着いた優助がおもむろに手を挙げた。


「……部長、今日は何をしましょう?」

「ん?え~っと……」


 優助からの質問にカナエは一瞬考えるそぶりをしたが……


「……別に」


 ……即答した後、また雑誌を読み始めたのだった。


「……いや、『別に』じゃないですよ部長!」


 明らかにやる気の無いカナエの姿を見て、優助は席から立ち上がった。

 優助の座っていた椅子が音をたてながら倒れる。


「前々から言おう、言おうとは思ってたんですけど……ここ『怪獣研究部』なのに、全然『怪獣の研究』らしい事してないじゃないですか!?毎日毎日……駄弁ってるかゲームしてるかで……こんなんで良いんですか?」

「……そうは言ってもさぁ~」


 カナエは読んでいた雑誌を閉じ、優助の方に気だるげな顔を向けた。


「……『人獣大共生時代(今の時代)』になってから早十数年、『怪獣大戦』が起きてた頃に比べたら怪獣は人間にとって身近な存在になりはしたけど……それでも、アタシらみたいな『怪獣オタク』がニッチでマニアックな存在なのは変わりがないからねぇ」


 カナエはお茶を飲みながら自身のパートナーであるナマグランの頭を撫でる。


「ナァ~マァ~♪」


 カナエに頭を撫でられて、ナマグランはまるで子犬のようなに尻尾を振って喜んだ。


「その『おかげ』なのか……この部の部員も年々減っていく一方で……今じゃあ、真面目に部室に来てくれるのは、アタシを除けば優助君とえみちゃんだけで、あとは名前だけの幽霊部員だからねぇ~……これで真面目に『怪獣の研究』なんて出来る訳ないじゃん?」

「それは……まぁ、確かに……そうですけど……」


 カナエの言葉に優助は何も言い返す事ができなかった。


「まぁまぁ~。真面目に考え過ぎだよぉ~?ユーくぅ~ん?」


 そこへ笑子が話に入ってきた。


「ここは『運動系』じゃなくて『文化系』の部活なんだからさぁ~。別に看板通りの活動を毎日しなくちゃいけない訳じゃないじゃん?ほら、何年か前に流行った『女子校の軽音部が主役のアニメ』じゃあ、練習シーンより駄弁ってお茶してるシーンの方が多かったしさぁ~」

「……いや、あれはあくまでも『フィクション』だから」


 優助は笑子の言葉に細かいツッコミを入れた。


「とにかく、ユー君は真面目に考えすぎだって!そもそもボクもユー君も、ここが『そういう状況』なのを承知の上で入部した訳なんだしさぁ~?今更文句言ったって『後ろのフェスティバル』でしょ?」

「……それを言うなら『後の祭り』ね」

「そうとも言う~♪」

「ハァ……」


 笑子の呑気な姿に優助はため息を漏らした。

 同時に憤る気持ちも失せてしまい、倒れていた椅子を起こして座り直したのだった。


 その時、怪獣研究部のドアが三回ノックされた。


「はぁ~い。開いてますよ~」


 カナエがそのノックに返事をすると……開いたドアからブレザーの制服をキッチリと着た十数人の生徒達が入室したきた。


「えっ……?」

「なに?なに?」

「あ、あのぉ~……」


 突然の事態に優助や笑子のみならず、カナエまで動揺していた。

 入室してきた生徒達は全員怒っているようにも見える硬い表情を浮かべており、左腕に『生徒会』と書かれた腕章を着けていた。


『生徒会』の腕章を着けた生徒達が横2列に整列すると、彼らの前に1人の女子生徒が立った。


 艶のある黒髪を腰まで伸ばし、シワ一つないブレザーの制服をキッチリと着こなした『これぞ、大和撫子』といった雰囲気を漂わせた2年生の女子生徒で、彼女の左腕にも『生徒会』と書かれた腕章が着いていた。


「コホン……」


 先頭に立った女子生徒は咳払いを一つすると、先程から呆気に取られている優助達に向き合った。


「怪獣研究部の皆さんですね?生徒会長の『エミリア神宮司(じんぐうじ)』です。今日は皆さんに、生徒会からのご連絡をしにきましたの」

『……えっ?』


 いきなり部室に生徒会が大挙して……しかも、生徒会長までもが直々に訪問してくるという事態に、3人の頭の中は一瞬真っ白になった。


「え、えぇっと……ここにあるゲーム機やフィギュアは『部員の私物』であって、別に部費で購入した物とかではなくて……」

「……ボクのパパがPTAの集まりに参加できないのは、『IMHPCCO(イムフプッコ)』の活動が忙しいからで……だから、その……」

(注:『IMHPCCO(イムフプッコ)』=『インターナショナル(I)モンスター(M)&ヒューマン(H)ピースフル(P)コーイグジスタンス(C)コントロール(C)オーガニゼーション(O)(国際人獣平和共存管理組織)』の略。怪獣と人間の平和的共存社会の実現の為に旧『共存派』が母体となって結成された国際組織のこと)

「あ、あの!怪獣バトルの余波で壊しちゃった備品類や教室は、必ず弁償しますから……」


 カナエを筆頭に、笑子も優助もしどろもどろに言い訳染みた弁解をしていく……が、生徒会長のエミリアはそれを手で制した。


「落ち着いて下さいまし。今回は部員一人一人ではなく、この『怪獣研究部』全体に関わる要件でうかがいましたの」

「ぜ、『全体に関わる要件』……?なんですか、それ?」


 エミリアはカナエからの疑問に答える代わりに、一枚の書類を広げた。


「この度の生徒会閣議により……この怪獣研究部の『廃部』が決定いたしましたの」

『えっ!?』


 カナエ、そして優助と笑子はエミリアの言葉が信じられず、エミリアの広げた書類を読む。


 そこには確かに、怪獣研究部の廃部が決まった旨と共に、生徒会長であるエミリアと校長のサイン並びに捺印が記されていた。


「つきましては、部室内にある部員の私物も含めた備品類の片付けと部室の掃除を……」

「ち、ちょっと待って下さいよ会長さん!」


 淡々と話を進めるエミリアに優助が待ったをかけた。


「……あら?なんでしょうか、芹沢優助君?何か問題でもありまして?」


 エミリアは勝者の余裕すら感じさせる笑みを浮かべながら、首を傾げる。

 表情こそ笑顔だったが、その目は全く笑っておらず・・・見る者に無言の圧力を与えていた。


「えっと……あの……」

「そ、そう!」


 エミリアの無言の圧力に言い淀む優助の代わりに、笑子が口を開いた。


「確か校則だと、『部活や同好会の廃部基準は、部員または会員の人数が5人以下だった場合』の筈だよ!部長ちゃん、『怪獣研(ウチ)』の部員数って、5人以上いるよね?」

「!ち、ちょっと待って!」


 笑子からの言葉を受け、カナエは慌てて座っていた机の中を漁り始める。


「……あ、あった!」


 机の中から一枚のA4用紙を取り出すと、エミリアに見せた。


 それは今年度の怪獣研究部の部員名簿であり、部長であるカナエとこの場にいる優助や笑子を含め、約10人分の名前が記されていた。


「ほら!見てよ生徒会長!ウチには10人以上の部員が所属しているよ!全然廃部基準には達していないよ!エイプリルフールでもないのに、変な冗談は止めてよね!!」


 カナエは部員名簿を見せながら勝ち誇るかのような表情を浮かべる……しかし、


「えぇ、確かに……書類の上では廃部基準には達していませんわね……『書類の上(・・・・)』では」


 エミリアは怯む様子を全く見せず、淡々と話を続けていった。


「しかし、今回生徒会で詳しく調査したところ……この名簿に載っておられる生徒の内、今この場にいる芹沢優助君と山根笑子さん以外の部員は全員『名前だけの幽霊部員』であり、実際には他の部活や同好会に所属しているか……もしくは帰宅部であり、『一度も怪獣研の活動に参加していない』事が判明しましたわ」

「……ウッ!」


 淡々と告げるエミリアの言葉が、鋭い刃のようにカナエの心に突き刺さった。


「しかも、その幽霊部員のお一人からの証言によると、『松宮部長に目の前で泣きながら土下座までされて入部を懇願され、断るのも可哀想だから仕方なく名前だけ貸した』……とか」

「……ハウッ!!」


 エミリアの放つ言葉の凶器は、カナエの精神に深々と傷を付けていく。


「更に付け加えると、この部室内にある『部員の私物』とされるモノのおよそ7割は『松宮部長が持ち込んだ物』であり、一部生徒並びに先生方から……更には卒業生の方々からも『部室を自分用のトランクルームの代わりにしている』……という証言も得られていますわ」

「……グハッ!!」


 最後の言葉がトドメとなり、カナエは白目を向いて倒れた。


「ナァ~マァ~!ナァ~マァ~!」


 慌ててカナエのパートナーであるナマグランが駆け寄ったが……カナエは口からブクブクと蟹のように泡を吐きながら両目を×の形にしており、完全に気を失っていた。


「ぶ、部長!?」

「部長ちゃん!しっかり!!」


 優助と笑子も倒れたカナエに駆け寄り、体を揺すったり頬を軽く叩くなりしてみるものの、カナエは両目を×の形にしたまま目覚める事はなかった。


「……お分かりいただけましたわね?」


 エミリアは気絶したカナエや彼女を心配する優助達を気にかける事なく、広げていた書類を仕舞って話を進めていく。


「では、今週中には部室の片付けと完全退去をお願いいたします。人手が足りないようでしたら、生徒会から人員をお貸し……」

「……いい加減にしてよ!」


 淡々と事務的に話を進めていくエミリアに、とうとう笑子が切れた。


「今まで『怪獣研(ボクら)』の活動や部員数に何も言わなかった癖に、何の予告も無くいきなり廃部!?横暴にも程があるよ!普通は前もって『警告』とか出すモノでしょ!?それが生徒会のする事なの!?」


 笑子からの怒りの叫びに、エミリアは宝石のように青い瞳が印象的な目を細くする。


「……むしろ、(わたくし)以前の歴代の生徒会長達が寛容……いえ、『甘すぎた』のですわ。何の成果も結果も出さず、ただ『存在しているだけ』の物など無駄の極み。少なくとも、(わたくし)の在任中は『無駄な物』は全て切り捨てていく所存ですわ」

「な、なにお~!!」

「え、えみちゃん!ちょっと落ち着いて!!」


 今にもエミリアに飛びかかっていきそうな笑子を、優助が制止した。


 優助は少し怯えの混ざった表情を浮かべながら、エミリアに向き直った。


「……会長さん。確かに僕達は大した成果も結果も出していないかもしれないけど……だからって、『無駄』の一言で簡単に切り捨てるのは間違っているんじゃないかな?落ち度があるのならまず、落ち度を改善する『チャンス』を一回だけでも与えてから、それから本当にダメなのか判断するべきなんじゃないかな?お願い……一回だけで良いから、『怪獣研究部(僕達)』にチャンスをくれない?」

「フム……確かに一理ありますわね……」


 優助からの懇願にも近い言葉を受け、エミリアは顎に手を当て何かを思案し始めた。


 そして…・・・


「……良いでしょう。ならば、こういうのはいかがですか?」


 エミリアは何かを思い付いたらしく、静かに顔を上げてある提案を口にした。


「ここは『怪獣研究部』なのでしょう?それなら……『廃部にする』か『存続する』かを『怪獣バトル』で決める……というのはいかがでしょうか?」

「えっ!?」

「か、怪獣バトルで?」


 いきなり怪獣バトルを申し込まれて、優助は目を丸くし、笑子は口をポカーンと開ける。


「う、う~ん……」


 同時に今まで気絶していたカナエがようやく目を覚ました。


 エミリアは続ける。

「……怪獣研の代表と、生徒会長である(わたくし)が一対一で怪獣バトルを行い、(わたくし)が勝てば怪獣研は『廃部』、そちらが勝てば『存続』……どうですか?実に分かりやすいでしょう?」

『……』


 エミリアからの提案に優助達は顔を見合せ、小声で作戦会議的相談を開始した。


「……どう思う?二人とも?」ヒソヒソ

「『どう思う』って……どう考えても怪しいですよ!いきなり『怪獣バトルで白黒付けよう』だなんて……」ヒソヒソ

「だよねぇ~……アタシもそう思うよ。きっと、裏で『悪いこと』考えているんだよ」ヒソヒソ

「でもさぁ、ある意味ボクらに有利な提案なんじゃない?『怪獣バトルの勝敗は恨みっこ無し』で、『負けた方は勝った方の命令を必ず聞く』のが怪獣バトルの公式ルールなんだし」ヒソヒソ

「確かにそうだけど……向こうから提案してきたってことは、よっぽど勝つ自信があるんだよ。きっと」ヒソヒソ

「生徒会長さんのパートナー怪獣ってなんでしたっけ?」ヒソヒソ

「えぇ~っと……確か……『深海龍 ヨルムン……」ヒソヒソ

「いつまでないしょ話をしているつもりですの?」

『!?』


 怪獣研の作戦会議はエミリアによって唐突に終了させられた。


「嫌なら別に断って頂いてもよろしいんですのよ?その代わり、怪獣研はこのまま廃部という事に……」

「わぁ~!!分かった!分かったから!!」


 怪獣研を代表して、部長であるカナエがエミリアに右手を差し出した。


「よーし……分かったよ。怪獣バトルで白黒付けようじゃないの!」

「……提案を飲んで頂いて嬉しいですわ」


 差し出されたカナエの右手をエミリアが握り返し、握手を交わした。


 エミリアは優雅な……いや、『瀟洒(しょうしゃ)』と形容できるような笑みを浮かべていたが……やはり目だけは笑っておらず、見る者に無言の圧力を与えていた。


「それでは、生徒会側の代表は(わたくし)、エミリア神宮司。怪獣研の代表は、部長の松宮カナエさん……」

「おう!」

「ナァ~マァ~!」


 カナエとナマグランは気合いのこもった返事を返した・・・が、


「……ではなく」

「えっ?」


 次にエミリアの口にした言葉に目を点のようにした。


「……部員の、芹沢優助君でお願いいたしますわ」







『ええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???』

「ナマァァァァァ!?」


 数秒の間を置いて優助……のみならず、カナエや笑子、更にはナマグランまでもが、校舎がまるでサ○エさんのエンディングの山小屋のように揺れ動いてしまう程の叫び声を上げた。


 その叫び声は校舎中に響き渡り、校舎に残っていた他の文科系の部活のメンバー……だけではなく、グラウンドや体育館にいた運動部の生徒達までもが固まってしまったのだった。


「ぼ、僕ぅ~!?」


 優助は自分自身を指差しながら驚きの声を上げる。


「はい。怪獣研の代表は芹沢優助君……あなたですわ」


 エミリアはまるでイタズラの成功した子供のような表情を浮かべながら頷いた。


「そ、そんな……あの……」


 あまりの事に優助の脳内は軽い麻痺状態に陥ってしまい、目と口を大きく開けたまま固まってしまったのだった。


「ち、ちょっと待ってよ!」


 そこへ同じく軽くないショックを受けている笑子が叫んだ。


「生徒会長さん本気なの!?本気でユー君とバトルする気なの!?」

「えぇ、もちろん本気ですわ」


 笑子からの問いにエミリアは即答した。

 その声には迷いも焦りも全く無く、もうすでに勝負に勝ったような余裕だけが存在していた。


「そ、そんなぁ……」


 エミリアの態度に笑子のみならず、カナエすらも戦慄を覚えた。


「ま、まさか……生徒会長さん、優助君が皆からなんて言われているか、知らないの?」

「もちろん、よく存じておりますわ。『怪獣バトルの戦績:連戦連敗中』。『今まで一度も勝った事が無い』、『大戸島高校のパシリ怪獣使い』なのでしょう?全校生徒の情報は全て頭に入れておりますわ♪」


 ここに来てようやく、カナエも笑子も……そして脳が麻痺している優助も、エミリアの口車にまんまとハメられた事に気がついた。


 最初から『正々堂々』とバトルするつもりなど無い。

『怪獣研の部員』であり、『これまで一度も勝った事の無い』優助を叩きのめす事で、怪獣研を『合法的に』潰すつもりなのだ。


「そ……そんな!そんなのズルだよ!卑怯だよ!!」

「そうだよ!ここは偉い者同士で戦うのが筋ってモンでしょ!?ここはアタシが……」

「……いいえ!」


 エミリアは笑子とカナエからの非難の声を一喝した。


「『怪獣研究部の存続は(わたくし)、エミリア神宮司との怪獣バトルで決める』……そして、『怪獣研究部側の代表は芹沢優助君』……これは『決定事項』です!」

『!!』


 エミリアの堂々とした宣言に、もはや笑子もカナエもぐうの音も出せなかった。


「……とは言え、『今すぐにバトルする』というのはいささか可哀想ですし……一週間。一週間の猶予をそちらに贈呈いたしますわ。その間に、特訓なりトレーニングなり修行なりを行えば……あるいは『万が一』という可能性もある、かもしれませんわよ?」


 エミリアは薄ら笑いを浮かべつつ、小馬鹿にするような口調で告げた。


「……それではごきげんよう。一週間後を楽しみにしておりますわ」


 言うだけ言って、エミリアと生徒会役員達は怪獣研の部室を立ち去っていったのだった。


『……』

「ナァ~マァ~?」


 後には呆然としているカナエと笑子、固まってしまった優助とボケッと突っ立っているナマグランだけが残された。


 部室内は台風が去った後のように静まり返っており……


「……はぁあぁ~~~」


 ……カナエは机に手を付いて、深い深いため息をついたのだった。


「……マズイよぉ。超激マズだよぉ~。大丈夫?ユーk……!」


 優助に話しかけようとして、笑子は固まった。

 優助はまるで某『昭和の名作ボクシング漫画』の主人公のラストシーンのように真っ白になっていたのだ。


「お、お~い。ユーく~ん。お~い。しっかり~」


 笑子が顔の前で手を振っても体をゆすっても……優助は真っ白に燃え尽きたまま、全くの無反応だった。


 一方……


「……片付けと掃除した方が良いかな、マグー?」

「ナァ~マァ~」


 カナエはもう敗北してしまったかのような、諦めムードを漂わせていたのだった。

イメージCV:

尾形 秀一:宮野真守

松宮カナエ:ゆきのさつき

エミリア神宮司:田村ゆかり


エミリアの台詞、ちゃんとお嬢様言葉になっているか、少し不安です。


名前だけ登場した『怪獣アイランド』と『IMHPCCO(イムフプッコ)』は、後々本格登場する……予定。

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