表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

怪獣使い『達』の日常

天空の怪獣女神の子供 リトルファルラ

鉱石怪獣 ダイヤザウルス

海草怪獣 ゴブンマ

屍肉食怪鳥 キングヴァルチャー

透明怪獣 ミラージュラス

鮫怪獣 ホージロン

原始暴獣 フェンリル


登場

 一夜明けて翌日、大戸島高校・2年A組の教室にて……


「♪~♪~」


 朝のホームルームが始まる前のあわただしくも静かな時間……優助は教室の隅、すなわち窓際の一番後ろに位置する自分の席に座り、鼻歌混じりにA5判サイズの小さなスケッチブックにシャーペンを走らせて、あるイラストを描いていた。


 優助のパートナーである『古代怪獣 ティアマト』が、口から破壊光線を吐いてバトル相手の怪獣に勝利する場面(シーン)だ。


 ……一応断っておくと、現実ではこんな場面(シーン)が見られた事はただの一度も無い。

 完全な優助の妄想である。


「♪~♪~」


 描いていく中で筆がのってきたのか、優助はノリノリでイラストを書き上げていく。


 イラスト上のティアマトは、まるでヒロイックファンタジーに出てくる聖獣か神獣のような神々しさを伴って描かれていたが、その一方でティアマトに倒されている怪獣は憎らしく……どころか、某暗黒神話に登場する邪神か何かのように禍々しく、そして、おぞましく描かれていた。


 ある程度イラストが書き上がると、優助はシャーペンを置いた。

 しかし、まだ完成した訳ではない。


 優助は続いて、筆箱から細い黒マジックペンを取り出し、シャーペンで描いた『下書き』に『ペン入れ』を行い始めたのだ。


 シャーペンの跡をマジックペンで一つ一つなぞっていくと、それまでうっすらとしていたイラストが力強く紙面に浮かび上がっていった。


 ペン入れが完了すると優助は黒マジックペンを筆箱に仕舞い、代わりにカラーマジックペンやカラーボールペン等を複数本取り出して、イラストに色付けをしていく。


 白黒のイラストに細かく色が付けられていくと、まるでイラストその物に命が吹き込まれていくかのようで、見るものに迫力と臨場感を与えていた。


「……よしっ!」


 優助は満面の笑みを浮かべてペンを置く。

 ついにイラスト(優助・作)が完成したのだ。


 それはヒロイックファンタジーに登場する聖獣のように神々しさが漂うティアマトが、某暗黒神話に登場する邪神のようにおぞましい姿をした怪獣を、破壊光線の一撃でノックアウトする1場面(ワンシーン)だった。


 イラスト下部には『ティア大勝利!!』と、タイトルらしき一文が太い黒マジックペンで添えられていた。


「♪」


 会心の傑作が完成し、優助は嬉しそうに顔をにやけた。

 その時……


「ほほぉ~……願望駄々漏れだねぇ~ユぅ~くぅ~ん?」

「キュピィ~?」

「!?」


 いきなり背後から声をかけられ、優助はまるで石化の呪いをかけられたかのように固まってしまった。


「……」


 優助は額から滝のように冷や汗を流しつつ、まるで錆び付いたロボットのようにゆっくりと首を動かして、自分の後ろを振り向いた。


 そこには……


「……ユー君、おっはー♪」


 優助の幼なじみにしてクラスメートである山根 笑子が、顔にニヤニヤとした笑みを浮かべながら優助の背後に立っていた。


「キュピィ~♪」


 その右肩には手乗りサイズに縮小された彼女のパートナーである『ファルファル』こと『リトルファルラ』が乗っかっており、芋虫似の昆虫型怪獣であるにも関わらず、その顔には笑子同様のニヤニヤ笑いを浮かべていたのだった。


「え、ええええええみちゃん!?い、いつの間に!?」

「う~ん……ユー君が下書きにペン入れしだした辺りから?だよねぇ~?ファルファルぅ?」

「キュピィ!」


 笑子からの問いに、その肩に乗ったリトルファルラは元気よく返事した。


 同時に優助の顔は、熟したリンゴのように真っ赤になっていったのだった。


「いやぁ~……怪獣バトルで全戦全敗だからって『奇跡の逆転勝利』の光景を妄想して、しかもそれを形にするなんてねぇ~……かわいいトコあるねぇ~ユゥ~く~ん?」

「い……いいでしょ別に!ほっといてよ!!」


 ニヤニヤ笑いを浮かべる笑子からからかわれ、優助は顔を真っ赤に染めながらそっぽを向いた。


「いやぁ~ん♡照れちゃってぇ~♡かわいいんだからもう~♪」

「や、やめてよぉ!」


 笑子はニヤニヤ笑いを浮かべながら優助の事をからかい、対する優助は恥ずかしさと怒りが心の中でない交ぜとなって顔を真っ赤に染め上げている……端から見ると、カップルか新婚夫婦がじゃれ合っているようだが、あくまでも二人の関係は


『幼なじみ』で、

『クラスメート』の、

『友達同士』

 であり、それ以上でも以下でもない。

 少なくとも、当人達はそう認識している。


 しかし、周囲の人間も当人達と同じ認識とは限らないのが世の常だ。


「……まぁ~たやってるよ、あの二人」

「グルルルゥ……」


 爽やかイケメン風の男子生徒は、小学生程のサイズに縮小された自身のパートナー怪獣『鉱石怪獣 ダイヤザウルス(背中や手足の関節、そして頭部に宝石のような結晶体がある二足歩行恐龍型怪獣。ダイヤモンドを初めとする地下鉱物が主食)』の背中の結晶体を布で磨きながら優助と笑子の掛け合いを眺めて、呆れたようにため息をこぼし……


「チッ……リア充どもが……」

「ゴブゴブゴブゴブ」


 太めの体型にニキビが浮いた顔をしたオタクっぽい男子生徒は、ぬいぐるみサイズに縮小された自身のパートナー怪獣『海草怪獣 ゴブンマ(全身が昆布のような海藻で覆われている怪獣)』におやつ代わりの昆布の乾物を与えながら、額にいわゆる『怒りマーク』を浮かべて舌打ちを漏らし……


「……死ね」


 前髪を伸ばして両目を隠した見るからに暗そうな男子生徒に至っては、二人に向けて……というか、『優助』個人に向けて、静かに殺意の炎を宿した視線を向けていたのだった。


「クワァァァ!」


 その隣では人間サイズに縮小された彼のパートナー怪獣『屍肉食怪鳥 キングヴァルチャー(黒光りしたクチバシを持ったハゲワシのような姿をしている鳥型怪獣)』が、自身の体の2倍の大きさがある翼を広げて雄叫びを上げていた。


 優助と笑子のじゃれ合いを眺めているのは男子だけという訳ではない。


「まぁったく……笑子ったら、あんなパシリ怪獣使いのどこが良いのかしらねぇ~?」

「キュルルルゥ~」


 笑子の友人らしき女子生徒の一人は、ぬいぐるみサイズに縮小された自身のパートナー怪獣『透明怪獣 ミラージュラス(サザエのような殻から龍のような頭部と2本足が出ているカタツムリかヤドカリのような姿をした怪獣)』の頭を撫でながらため息を漏らし……


「ハハハ!芹沢も運無いよねぇ~!毎日、山根のおもちゃにされた上にバトルでボロ負けしてパシられてさぁ~!」

「シャシャシャシャシャ!」


 ブレザーの制服をだらしなく着崩してギャル風の化粧やアクセサリーをした女子生徒は、子猫サイズに縮小された自身のパートナー怪獣『鮫怪獣 ホージロン(直立した手足のあるホオジロザメのような姿をしている魚類型怪獣)』と共に優助の事を笑っていた。




 反応は各生徒ごとに様々だったが……全員共通して『他人事として遠くから眺めているだけ』で、公衆の面前で優助は笑子にからかわれ続けていたのだった。


 そこへ……


「……おい笑子、その辺にしとけよ!流石に優助がかわいそ過ぎるぞ!」


 優助をからかい続ける笑子に、一人の男子生徒が待ったをかけてきた。


 長身でガタイの良い、スポーツマンタイプの少年だ。


「ガウワァッ!」


 その少年の隣には、大型犬程のサイズに縮小された狼とワニを掛け合わせたような外見とオレンジ色の体毛を持つ四足歩行怪獣が並び立っていたのだった。


「あ、シュウちゃん。おはよう」

「シュウちゃんおっはー♪」

「キュピィ」


 スポーツマンタイプの少年に気がついた優助と笑子|(&リトルファルラ)は少年に挨拶をする。


「……『シュウちゃん』は止めろよ、お前らぁ~……」


 一方、優助と笑子から親しげに『シュウちゃん』と呼ばれたスポーツマンタイプの少年は苦い顔をした。


「?『秀一(しゅういち)』って名前なんだから、『シュウちゃん』で問題ないじゃん?」

「そういうことじゃなくてだなぁ……」


 真顔で断言する優助にスポーツマンタイプの少年-秀一は頭を抱えながらため息を漏らした。


 この少年の名は『尾形(おがた) 秀一(しゅういち)』。

 山根 笑子と同じく、芹沢 優助の幼なじみでクラスメートの友人である。


「ガウワァ~」


 そして、秀一の隣に並び立っているのは彼のパートナー怪獣の『原始暴獣 フェンリル』(ニックネーム:リル)である。


「それはそうとだな……」


 秀一は話題を切り替える。


「笑子……いい加減、優助の事をおもちゃにするのは止めろ!毎朝毎朝うざいんだよ!」


 秀一は笑子に向かって注意をした。しかし……


「あれれぇ~?何ぃ~?シュウちゃん、構って貰えなくて焼きもちぃ~?」

「キュピィ~?」


 笑子とリトルファルラは懲りる様子も反省する様子も見せず、ニヤニヤとした笑いを浮かべていた。


「ちっげぇよ!高2にもなって、毎日毎日幼なじみからかっておもちゃにして……恥ずかしくないのかっつてんだよ!?」

「?混ざりたいならそう言えば良いのにぃ?」

「だからちげぇつってんだろ!?」


 秀一はあくまでも真面目に注意をしていたのだが、笑子は『馬の耳に念仏』といった感じでふざけた態度を一切崩さなかった。


「だいたい~ボクがユー君の事おもちゃにしたってぇ~、シュウちゃんには関係ないじゃ~ん?ねぇ、ファルファルぅ~?」


 笑子は反省する様子も見せず、自身の肩の上のリトルファルラの頭を撫でる。


「キュピキュピ♪」


 笑子に頭を撫でられたリトルファルラは嬉しそうな声をあげた。


「お前なぁ……いい加減怒るぞ」


 反省する様子の無い笑子の様子を見て、秀一は額に青筋を浮かべ始めた。


「ガルルルルゥ~……」


 その横では、秀一のパートナーであるフェンリルがお座りの姿勢をしながら、笑子に向けて威嚇の唸り声をあげていた。


 今にも一触即発な雰囲気に、遠目から眺めていたクラスメート達もヒヤヒヤとし始めていた……その時である。


「ちょ、ちょっと!止めてよ二人共!!」


 笑子と秀一の間に挟まれていた筈の優助が、二人を止めに入ったのだ。


「えみちゃんもシュウちゃんも、朝からケンカなんかやめてよ!別に僕はえみちゃんに弄られても、気にしてないからさぁ!」

「ほぉ~ら!ユー君だって、『ボクのおもちゃになって良い』って言ってるじゃん♪」

「いや別にそういう意味じゃないけど」


 笑子の解釈に優助は一瞬、真顔になった。

 秀一は目頭を押さえながら頭を振り、深いため息をついた。


「ハァ……優助、お前が優しいのは分かってるつもりだがなぁ……そうやってお前が甘い顔するから、笑子(コイツ)が付け上がって……あん?」


 そこで秀一は、ふと優助の小さな変化に気がついた。


「……なぁ優助、その首から下げてるの何だ?」

「えっ?……あぁ、これ?」


 秀一に指摘され、優助は自身の首からぶら下がっている物を指で摘まむ形で持ち上げた。


 それは、掌程の大きさの緑色に煌めく鱗のような物を、赤茶色の麻紐のような物でとめたネックレスだった。


挿絵(By みてみん)


「わぁ~かわいいネックレスだねぇ~♪どこで買ったのそれ?」

「いや……その……」


 笑子からの質問に、優助は照れ臭そうに頬を掻きながら答えた。


「父さんが……小包で送ってきたんだ。『アンノウン・ガーデンのゲカト族の人達から貰ったお守り』だって……『絆の鱗』って言うらしいよ」


 優助が説明を終えると、ネックレスに付けられた緑色の鱗が日の光を浴びてキラリと輝いた。


 まるで鱗自身が、笑子や秀一に挨拶しているかのようだった。


「アンノウン・ガーデン……てことは、英四郎おじさん今南米にいるんだぁ~」

「うん……『今年の結婚記念日は帰れそうにない』ってさ。今まで結婚記念日に家に帰ってきたためしなんてないのにさぁ……」


 ため息混じりに笑子に答えると、優助は絆の鱗をベストの内側に隠すように仕舞った。


「……あっ!悪いんだけど、これの事は秘密ね?バレたら先生に没収されちゃうかもしれないからさ?」

「はいは~い♪」

「たく……しょうがねぇなぁ」


 優助からの頼みを笑子は笑いながら、秀一は頭を掻きながら了承した。


「あ……おいっ!先生来っぞ!!」


 教室の前側のドアにいた生徒が教室にいる全生徒に向けて、担任の到着を叫んだ。


『!』


 すると、生徒達は手慣れた様子で自身のアドウェンテスを操作してパートナー怪獣達を収納していき、机や椅子の位置等も正しく直して『何事もなかった』ように席に着いていった。


「……じゃあ、また休み時間ねぇ~♪」

「……はいはい」


 自分の席に戻る笑子に向けて手を振りつつ、優助は苦笑いを浮かべていた。

 そこで秀一は、またしてもため息をついた。


「たく……笑子は幼稚園から全然変わらないなぁ……」

「まぁ、いいんじゃない?『おしとやか』だったり、『引っ込み思案』だったりしたら、えみちゃんらしくないじゃん」

「まぁな……おっと」


 秀一はため息を漏らしながら、ジャケットのポケットから自身のアドウェンテスを取り出した。


「……リル、戻れ」

「ガウワァッ!」


 秀一のアドウェンテス操作により、秀一の隣にいたフェンリルは光球へと変化して、アドウェンテス内へと収納された。


 そのまま秀一は自分の席へと戻っていった。


「……おっと」


 秀一の後ろ姿を眺めていた優助も、慌てて出しっぱなしだったスケッチブックを鞄に仕舞った。

 ちょうど優助がスケッチブックを仕舞い終えると、担任の先生が出席簿を片手に教室に入ってきた。


「きりーつ、礼」


 クラス委員の掛け声と共に、朝のホームルームが開始された。

感想よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ