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怪獣喫茶での一時

ティアマトの詳細情報


登場

『怪獣喫茶 キングコング』。


 大戸島高校から程近い場所に立地するその店は、同校の生徒達から『放課後のたまり場』や『休日のデートスポット』、『手頃な食事処』として慕われている。


 外見はレトロな雰囲気の普通の喫茶店なのだが、店内には怪獣に関する新聞記事の切り抜きや怪獣の姿を写した写真、怪獣のソフビ人形やフィギュアなどの怪獣関連グッズ、映画の撮影で実際に使用された怪獣の着ぐるみに怪獣映画のポスターやパンフレットに脚本……等々、怪獣に関するありとあらゆるアイテムが額縁やガラスケースなどに入れられて所狭しと飾られており、更には店内BGMとして怪獣映画のテーマソングを流しているという、怪獣好きにとって『天国』にも等しい店なのである。




「……ん……ん……ん……ぷはー!」


 そんな『怪獣喫茶 キングコング』のカウンター席の隅で……芹沢優助は『○獣ブー○カ』が描かれたカップでホットココア(1杯400円)を飲んでいた。


「フェイ姐さん!ホットココアお代わり!」


 早速1杯目を飲み干した優助は、口の端からホットココアをこぼしながらカウンターに向かって空になったカップを差し出した。


「はいよ」


 優助の差し出したカップに金髪碧眼の妙齢の女性……この店の店主であるフェイ・ダロウ女史、通称フェイ姐さんがホットココアを注いでいく。


「飲むのは自由だけどさぁ……あんまり甘い物ばっか飲んでると、糖尿病になっちゃうわよ?」

「……ほっといてよ」


 フェイからの忠告に耳を貸す事なく、優助はカップの中のホットココアを口に含んだ。


「ふふ~ん……ユーくん、今日はまた一段と荒れてるねぇ~」


 その一方、優助の隣の席に座っている山根笑子は、表面に怪獣の横顔を象った焼き印が押されたパンケーキ(1皿二枚で650円)を食べつつ、ニヤニヤと笑みを浮かべて優助の様子を眺めていた。


「……どうせまた、バトルで負けたんだろ?全くしょうがないねぇ……」

「フェイ姐さんまでそんな事……」


 優助はホットココアを飲みながら、カウンターの向こう側に立つフェイに向かって恨めしげな視線を向けた。


 とはいえ……フェイの指摘が事実であるのも間違いない。


「ハァ……」


 優助はカップをカウンターに下ろすと、深いため息をついた。


「本当さ……自分でも、もう何回負けたのか覚えてなくて……ていうか、1000回越えた辺りから数えるのがめんどくさくなっちゃって……」

「……それだけ負けてもアトレテス続けてるユーくんも、ある意味凄いよねぇ……いっそのこと、開き直って『世界一連戦連敗しているアトレテス』ってギネス記録にでも挑戦したらどう?」

「ハハハハハハ」


 笑子からの提案に優助は乾いた笑い声を挙げるが、すぐに笑子に向けて恨めしそうな視線を向ける。


「……えみちゃん、殴って良い?」


 小さく呟く優助の声には、冷たい怒りが混ざっていた。


「ご、ごめんごめん!冗談だから!」


 流石にからかい過ぎたと思ったのか、笑子は苦笑いを浮かべながら優助に謝罪した。


「と、ところで!ティアの方は大丈夫なの?」

「えっ?あぁ……」


 笑子が慌てて話題を変えたので、優助はブレザーのジャケットのポケットから自身のアドウェンテスを取り出し、スイッチを入れる。


 アドウェンテスのモニター画面には、2頭身のいわゆる『SD形態』にデフォルメされたティアマトがうつ伏せの状態で顔を青くしながら目を回している姿と、現在のティアマトの状態を円グラフや棒グラフなどで表したデータ類が表示された。


「……一応、バクテリア液の効果は抜けたみたいだけど……まだ体力が回復してないや。今日も頑張ってくれたし、家に帰ったら何か食べさせてあげないと……」


 アドウェンテスに表示されたデータを見ながら、優助は一人ごちる。


 アドウェンテスの内部は怪獣……というか、生き物にとってとても心地好い空間となっており、内部に収納されている怪獣の疲労や負傷を回復させ、ストレスや空腹からも解放させる効果があるという。


 しかし、ゲームやマンガに出てくる回復アイテムや回復ポイントなどとは違い、短時間で全回復!……なんて事は無理なので、怪獣バトルの後には、勝敗に関係無くパートナー怪獣を労ってあげるのが、アトレテス達のルールとなっているのだ。


「えっと……たしか、豚バラ肉と鶏むね肉が300gずつあったっけ……あ、でもティアの奴、牛肉の方が好きだったっけ……でも今月、小遣いピンチだしなぁ……うぅ~ん、どうしよう……」


 ぶつぶつと呟きながら優助は頭上に?を浮かべて頭を悩ませる。

 その姿はまるで、夕飯のおかずに悩む主婦のようだった。


「別に美味しいものを食べさせてあげるとかじゃなくても、良いんじゃないの?」


 悩む優助に、笑子がアドバイスをしてきた。


「マッサージしてあげるとか、体洗ってあげるとか……そういうのでも労いになると思うよ?」

「いや……ティアはそういうのより、ごはんの方が喜ぶんだよ。本当なら、ドーンッ!とステーキ肉でも買ってやりたいんだけど……僕の小遣いじゃなぁ……ハァ」


 ため息混じりに呟くと、優助はアドウェンテスをジャケットのポケットにしまった。


「本当なら……」


 優助は頬杖をついて遠い目になる。


「本当なら、ティアが連戦連敗するなんてあり得ないんだよ。なんたって、『始まりの怪獣』であるティアマトなんだから……僕がもっと上手く指示や戦術を出せれば……」


 優助の呟きには、負け続ける自分自身への悔しさと不甲斐なさが混じっていた。



 優助の言う通り、『古代怪獣 ティアマト』は『始まりの怪獣』の異名を持つ、特別な怪獣だ。


 西暦1954年、人類の前に初めてその姿を現し、『怪獣』という超常的な生き物の存在とその底知れない強大さを人類に知らしめた最初の怪獣……それが『古代怪獣 ティアマト』(初代)だった。


 元々は太古の時代に生息していた両生類と爬虫類の中間に位置する生物で、太平洋の海底で深い眠りについていたところをアメリカの原水爆実験の影響で覚醒し、日本近海に出現。


 メソポタミア神話の竜の女神の名を取って『ティアマト』と命名され、かつての生息地であった日本の首都・東京に上陸。


 死者・行方不明者1000万人を超える被害を出し、怪獣の存在とその恐ろしさを全世界に知らしめたのだ。


 俗に『初代ティアマト』とも呼ばれるこの最初の個体は、最終的に『平沢(ひらさわ) 明助(めいすけ)』なる科学者が開発した『平等なる死(イコルティー・デス)』なる特殊薬物によって倒されたのだが……その出現をきっかけにして世界各地で同サイズの巨大怪獣が次々に出現するようになった為に、後々に続く『怪獣大戦』のきっかけを作った怪獣として、いつしか人々から『始まりの怪獣』と呼ばれるようになったのである。



 しかし……その同族であるはずの芹沢優助のパートナー・『ティア』の怪獣バトルの戦績は連戦連敗。

 最初こそティアマトというだけで恐れていた同級生達や上級生達も、今では影で馬鹿にしている始末だった。


 そして、優助はそれを『ティアが弱いから』ではなく、『自分の指示判断のミスと戦術の甘さの為』と考え、日々怪獣図鑑で怪獣に関するデータを調べたり、プロ・アトレテスのバトルを写した動画を参考にトレーニングを行ったりと……努力をし続けてはいるものの、未だに芽が出る兆候すら見えなかったのである。


「ハァ……」


 優助が何度目かのため息を漏らすと、優助の席に軽食が盛り付けられた皿が置かれた。


 トロリとしたシロップがたっぷりとかけられ、食欲をそそらせる美味しそうな匂いを漂わせた焼きたてのフレンチトーストだった。


「あれ?……あの、頼んでないんだけど……?」


 注文していない筈の料理が配膳されて、優助は頭を傾げるが、カウンターの向こうに立つフェイは微笑みと共にウィンクを優助に贈った。


「店のおごりだよ。たまにはアンタもココア以外の物を口に入れな」


 それだけ告げると、フェイは優助達から離れて、他の客への対応をし始めた。


「……」


 優助はしばらくフェイの背中を見続けていたが……突然お腹から『クゥ~』という腹の虫の音が響いた。


「あ」

「ハハハハハハ!ナイスタイミング!」

「……」


 優助は恥ずかしそうに顔を赤くし、お腹を抱えて大笑いする笑子に恨めしげな視線を向けたが、すぐに目の前のフレンチトーストに向き直り、フォークとナイフを手に取った。


「……いただきます」


 ……そのフレンチトーストは、優しさが込められているかのように甘くてふわふわで美味しかったという。

『キングコング』の版権はパブリックドメインらしいので、多分使用しても大丈夫……な筈。


初代ティアマトとその顛末はかの『怪獣王』の第一作がモデルです。

名前だけ登場の『平沢(ひらさわ) 明助(めいすけ)』氏の名前は『芹沢(せりざわ) 大助(だいすけ)』博士と芹沢博士を演じた『平田(ひらた) 明彦(あきひこ)』氏の名前を組み合わせた物になります。

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