ささやかなる祝賀会
「はい。では、『優助君の初勝利』と、『怪獣研の存続決定』を祝って……」
『かんぱ~い!!』
『グキュナガァ~!』
大戸島高校・怪獣研究部々長にして、この場にいるメンバーの中で一番の年長者である松宮カナエが乾杯の音頭をとると、その場にいる全員がジュースの入ったガラスのコップを掲げて乾杯する。
ここは大戸島高校の生徒達の憩いの場『怪獣喫茶 キングコング』。
その一角を借りて今、『芹沢優助の怪獣バトル初勝利』と『怪獣研究部の廃部回避』を祝う祝賀会が開かれていた。
メンバーは今日の主役である芹沢優助の他、山根笑子と尾形秀一、怪獣研部長の松宮カナエの計4人、そして各々のパートナー怪獣4体である。
「いやぁ~それにしても、ユー君もティアも凄いよ!本当にあの生徒会長さんに勝っちゃうだもん!」
「キュピピピィ~♪︎」
「いやぁ~そんな……僕は指示出ししてただけで、頑張ったのはティアだから……」
「グガガァ~」
笑子とリトルファルラ(ぬいぐるみサイズ)から称賛され、優助は照れ臭そうに顔を赤らめ、そのすぐ横でティアマト(ぬいぐるみサイズ)は分厚いハンバーガーに齧り付きながら嬉しげに一鳴きする。
ティアマトは体のあちこちに絆創膏や包帯が付けられた痛々しい姿をしていたが、その顔には人間にも分かる勝利の笑みを浮かべていたのだった。
「まぁあれだね!結局は生徒会長さんが優助君とティアを甘く見てたって事だね!」
「ナァ~マァ~」
フレンチトーストを食べていたカナエがそのまあまあ豊満な胸を張りながらどや顔になると、その横でナポリタンを食していたカナエのパートナー怪獣であるナマグラン(人間サイズ)が口の周りをケチャップで赤くしながらカナエの真似をした。
「………調子良いですねぇ、松宮先輩?優助の負けた時に備えて、部室の片付けしていた癖に」
「……ウッ!ゲホゲホッ!」
「ナァ~マァ~」
秀一の皮肉の籠った一言が突き刺さり、カナエはフレンチトーストを変なところに入れてしまってむせてしまい、慌ててナマグランがゲホゲホと咳き込むカナエの背中を擦る。
「ガウガウガウガウッ♪」
そんなカナエの姿を見ながら、秀一のパートナーであるフェンリル(大型犬サイズ)はゲラゲラと笑ったのだった。
「ひ、ひどいなぁ~秀一君!わ、私はただ…その……『万が一の事態』に備えてただけであってだね!」
荒い息を漏らしながらカナエは言い訳染みた弁解を行い、自分のグラスに注がれているメロンソーダを飲む。だが……
「………それってつまり、『ユー君が負ける可能性もあるって思ってた』って事で……『ユー君が勝つって信じてなかった』って事じゃないの?」
「キュピィ~?」
「……ブグッ!」
……笑子の一言とリトルファルラからの疑いの眼差しが鋭い刃となってカナエの心に突き刺さり、カナエは飲んでいたメロンソーダを思いっきり吹き出すしてしまい………
「ナァ~マァ~!!?」
……ナマグランがカナエの吹き出してしまったメロンソーダを浴びて、黒い体を緑色に染めたのだった。
「ま、まあまあ!シューちゃんもえみちゃんもその辺にしてあげてよ!」
カナエとナマグランの惨状をみかねたのか、本日の主役である優助が間に入った。
「別に部長が『僕の負け』を心配するのは仕方ないよ。僕だって、まさか本当に会長さんに勝てるなんて思ってなかったし………それに、僕は今まで連戦連敗ばっかりだったんだし……負けの可能性を考えちゃうのも当たり前だって」
「ゆ、優助く~ん」
優助が助け船を出してくれたのが嬉しかったのか、カナエの目はうるうると涙ぐむ。
『……はぁ~』
一方、笑子と秀一はその光景を見ながら深い深~いため息を漏らす。
「まったく………本当に優助は優し過ぎるというか、なんというか」
「まぁいいんじゃない?そうじゃなきゃユー君らしくないもの。ねぇ~ファルファル~?」
「キュピピィッ!」
秀一も笑子も、優助の態度に呆れながらも、内心では『まぁ、優助/ユー君だし』とも思っていた。
幼なじみ故の優助への理解と諦めが混ざった複雑な感情だった。
「………あんた達~、騒ぐのは良いけど、他のお客さんもいるのを忘れるないでよ~?」
『はぁ~い』
『グキュガナァ~』
キングコングの店主であるフェイ・ダロウから注意を受け、優助達怪獣研メンバーと秀一、そして各人のパートナー怪獣達は改めて祝賀会を楽しんでいく………。
その時。
カラ~ン♪という鈴の音と共に喫茶キングコングのドアが開き、新たな客が来店する。
「いらっしゃ………」
フェイは来店した客にいつも通りの接客挨拶をしようとして……その人物の姿を見て呆然となった。
「……あらまぁ~。こんな場末の喫茶店に珍しいお客だねぇ~?」
フェイの反応を目にし、その客は疲れたようなため息を漏らした。
「はぁ~……別に私がどんな店に入ったって勝手でしょう?まったく………次から次にサインや写真をねだられちゃって困ったもんだよ」
そう言って……その女性客は目深に被っていた帽子を脱いだ。
「あぁー!!」
『?』
客の一人が声をあげ、優助達怪獣研メンバーも含めたキングコング中の客が振り向く。
そこにいたのは………
「さ、三枝真希さんだぁ!?」
『えぇー!!』
………そう、新たな来店客の正体は、初代チャンピオン・オブ・モンスターズである三枝真希だったのだ。
正体発覚と同時に優助達も含めたキングコング中の客の視線が真希へと向けられた。
「………えぇ、はいはい。いかにも、三枝真希ですよ~……っと」
客達の反応に真希は五木ひ◯しのモノマネをしながら、そのままカウンター席に腰を下ろす。
空いている隣の席に被っていた帽子を置くと、肩から下げていた水筒の中身をらっぱ飲みした。
「あんたさぁ……『喫茶店に飲み物持ち込んで、注文もしないで持ち込んだ物を飲む』とか、一体どういう神経してんだい?」
「うるさいなぁ~、ほっといてよ。私は『これ』以外の飲み物は、口にしない主義なの」
フェイからの注意を右から左に聞き流し、真希は引き続き自分の水筒の中身をらっぱ飲みする。
しばらくすると、優助達怪獣研メンバーを除いたキングコング中の客達が真希の周囲に集まっていった。
「あ、あの三枝さん………い、一緒に写真撮っても良いですか?」
「ん?あぁ良いよ。でも、ブログとかSNSとかにはあげないでね」
「あ、あの………サイン、貰えますか?」
「あぁ、はいはい……誰宛てに書けば良いの?」
真希はまるで流れ作業のように、記念撮影やサイン等をこなしていく。
かの『初代チャンピオン・オブ・モンスターズ』である三枝真希との記念撮影やサインに客達は嬉しそうにニコニコと笑っていたが、
一方の真希本人はファンサービス中だというのに全くの真顔……いやむしろ、ムスッとしたしかめっ面を浮かべていた。
「はぁ~……流石は『初代チャンピオン・オブ・モンスターズ』だねぇ~。あんなにサインや写真を頼まれてさぁ」
「……しかもそれを、『流れ作業的にこなしてる』っていうのが更に凄いですね」
カウンター席から少し離れたテーブル席から真希と他の客達とのやり取りを眺めていたカナエが称賛のため息を漏らし、秀一もその意見に同意する。
「………」モグモグ……
「………」ズズズゥ……
その一方で、笑子とリトルファルラは真希の方には全く目もくれずにただ黙々と食事を続けていた。
「…………」
「……ググゥッ~?」
そして……優助もまた、サインや記念撮影を続ける真希の姿をただ静かに見つめており、そんなパートナーの姿にティアマトは首を傾げる。
「………」
すると優助は何を思ったか、意を決したような顔で椅子から立ち上がり、サインや記念撮影を受ける真希へと近づいていく。
「………あの、三枝さん」
「ん?あ~はいはい。サインかい?それとも写真………」
真希に一声かけた優助は
「ありがとうございました!!」
なんと、真希の眼前でいきなり土下座をし、感謝の言葉を伝えたのだった。
「………えっ?」
『!?!?』
突然目の前で土下座をされて真希は唖然となり、先ほどまで真希にサインや記念撮影をねだっていた客達も騒然となる。
「ち、ちょっと優助君!?」
「ど、どうした優助!?」
「ゆ、ユー君!?」
優助が突然真希に対して土下座した事で、カナエに秀一のみならず笑子まで唖然となる。
「グガグガッ」
「キュピキュピ」
「ナマナマ」
「ガウガウ」
その一方、ティアマトを始めとする各人のパートナー怪獣達はのんきに食事を続けていたのだった。
優助はそんな周囲の反応を気にする事なく………
「せ、先日は!僕ごとき若輩アトレテスに、アドバイスをお送りいただきまして、ありがとうございます!おかげで、生まれて初めて、怪獣バトルで勝利することができました!本当に、いくら感謝しても、足りないくらいです!!本当に……本当にありがとうございました!!」
「…………」
床に土下座したまま、真希への感謝の言葉を口にし続ける優助の姿に、真希はしばらく呆然となっていたが………
「………あぁ!君はあの川原で悩んでて、今日バトルで勝ってた少年か!」
………数分経過してから、ようやく優助が何故自分に土下座しながらお礼を口にしているのかに気がついた。
「………気づくの遅くないですか?」
「ゴメン、ゴメン。普段知り合い以外で私に話しかけてくるのって、『ファン』か『国とか地球以外の星のお偉いさん』ばっかだからさぁ~」
土下座のまま少し恨めしげな視線を向ける優助に、真希は苦笑いを浮かべながら謝る。
「まぁ……とりあえず立ちなよ」
「あ………はい」
真希に促されながら優助は土下座の姿勢から立ち上がり、改めて真希と向き合う。
真希は自身の水筒をいじくりながら、優助に微笑んだ。
「……バトルの勝敗に関して、私にお礼を言うのは間違っているよ?今日君がバトルで勝てたのは、『君』と、『君のパートナー』が頑張ったから。私は何もしてないよ」
「で、でも……三枝さんがアドバイスをくれなかったら……」
「私は、『君の悩みを聞いて、背中を軽く押した』だけ。そこから全力疾走したのは『君自身』の力だよ。じゃなきゃ、最後の最後に大逆転なんてできるわけがないさ」
真希は優助の左肩に右手を置きながら、優助に優しく微笑みかける。
「……初勝利おめでとう!よく頑張ったね!」
「…………はい……はい」
地球上全てのアトレテスの憧れである三枝真希本人から直々に怪獣バトルの勝利を祝福され、優助の両目からは、熱い涙がわき水のように溢れだしていった。
「ほらほら、男の子がそんな簡単に泣いたらダメだろ?こういう時は、笑顔にならないと」
「………」
優助は両目から溢れ出る涙をシャツの袖で拭い取り……
「………はいっ!」
………真希に向けて満面の笑みを浮かべたのだった。
「うん。良い笑顔だね……フェイさん、空のグラスをもらえるかな?」
「……あいよ。できれば、ちゃんと飲み物を注文して欲しいけどね」
多少の愚痴をこぼしながらも、フェイは空っぽのグラスを真希に手渡す。
真希は手渡された空っぽのグラスに、自身の水筒の中身を注いでいった。
それは、牛乳のように真っ白でありながら、水のようにサラサラとした液体だった。
「……はい、どうぞ♪︎」
真希は笑みを浮かべながらその真っ白な液体が注がれたグラスを優助に手渡した。
「あ、あの……どうも」
唐突によく分からない白い液体が入れられたグラスを渡され、優助は頭上に?を浮かべる。
「え、えっと………な、なんですか?これ?」
「私から君への『勝利の美酒』さ♪︎まぁ、『勝利の美酒』って言っても、アルコールは全然入ってないんだけど」
「は、はぁ………」
「ささ、ぬるくならない内にぐいっと!」
「………」
優助はまだ少し理解が追い付いてないような表情を浮かべながら、手に持つグラス……正確にはグラスの中に入れられている白い液体に視線を向ける。
グラスを鼻に近づけて白い液体の匂いを嗅ぐと、意を決して白い液体を飲んでみた。
「…………グボオォッ!?」
……直後、優助は白い液体を思い切り吹き出した。
「う、ウゲッ!ウゲェッ!?」
優助は白い液体の入っているグラスを手放し、口元を手で覆いながら床にうずくまって咳き込み始めた。
「ゆ、優助っ!?」
「優助君大丈夫!?」
尋常ではない様子の優助の様子に店内は騒然となり、秀一とカナエが床にうずくまりながら咳き込む優助にかけよった
「あぁ~!勿体無いなぁ~」
一方、優助に白い液体を渡した張本人である真希は、優助の様子よりも白い液体がグラスごと床にこぼれてしまった事を残念がり……
「うわぁ~………ユー君かわいそうに」
「キュピィ~………」
……笑子とリトルファルラは、優助に哀れみの視線を向けるのであった。
「優助、大丈夫か!?」
「う、うん………一応……ゲフッ!」
優助は自身の背中を擦ってくれている秀一に『大丈夫』と告げたものの、口の端からはまだ口内に残っている白い液体の一部が垂れていた。
「ほら、これで口拭いて!」
「あ、ありがとうございます部長……」
カナエからハンカチを受け取り、優助は口元を拭いとると、真希に向き直った。
「ハァハァ……さ、三枝さん……な、なんなんですか?あの白いの?」
まだ苦しげな呼吸をしながら、優助は白い液体の正体を真希に質問する。
すると真希は………
「何って………『カルピス』だよ。カルピス以外のなんだと思ったのさ?」
………優助の問いかけに即答した。その顔には『何故そんな事を聞くのか理解できない』とでも言いたげな表情を浮かべていた。
「か……」
『……カルピス?』
優助と秀一、カナエは真希からの返答を繰り返しながら首を傾げた。
「うん。えっと……『カルピス』って言うのは、『アサヒ飲料』っていう日本の会社が販売している乳酸菌飲料で……」
「……いや、カルピスそのものは知ってますよ!そういう事じゃなくて……カルピス?えっ?本当にあれ、カルピスなんですか?」
優助からの言葉に、今度は真希の方が首を傾げる。
「そうだよ?原液から作った奴。味で分からなかった?」
「いや……確かに味の基本はカルピスだったけど………僕の知っているカルピスの味とは『何か』が明らかに違って……」
「………?」
優助の背中を擦りながら二人の会話を聞いていた秀一は、優助の言葉の意味がいまいち理解できなかった。
「………あ」
その時、秀一は優助が持っていたグラスが床に転がっているのに気がついた。
すでに中身の大半は床にこぼれてしまっていたが、グラス内には、まだほんの少しだけ……真希が『カルピス』だと主張している白い液体が残っていた。
「………」
秀一は床に転がっていたグラスを拾い上げ、中に残っていたカルピス(?)を少し舐めてみる………
「………うわぁっ!?」
………すると、秀一はすぐに苦虫を噛み潰したような顔になった。
「な、なんだこれ………?確かに味はカルピスだけど、スゲェー甘ったるい……」
「えぇ?どれどれ?」
今度はカナエが秀一からグラスを受け取り、中のカルピスを舐めてみた。
「………ぶっ!?」
すると、カナエも優助や秀一と同様に即座に吹き出したのだ。
「な、なにこれ……味『濃すぎ』じゃん!ほとんど水で薄めて無いんじゃないの?」
「おぉー。その通り、ご名答だよ」
カナエの口にした『感想』に、真希は嬉しそうにニコニコとした笑みを浮かべ、件のカルピスが入っている自身の水筒を誇らしげに掲げる。
「このカルピスはね……原液:8に対して、水:1・氷:1の割合で配合した、この三枝真希専用ブレンドの特性カルピスなのさ!」
『………えっ?』
『………えぇっ!?』
水筒を聖杯か何かのように誇らしげに掲げる真希の発言に、優助達のみならず、フェイと笑子&リトルファルラ以外のキングコング内に居る者達が目を見開いて耳を疑った。
「げ、原液:8に対して水と氷が1ずつって………」
「いやそれ、原液そのまま飲んでるのと変わらないじゃないですか!?」
真希の言う『特製カルピス』の内容に優助はドン引きし、秀一はツッコミを入れる。
だが、真希はそれらを気にすることなくカウンター席から立ち上がり、椅子に片足を乗せながら自身の水筒を高らかに掲げた。
「私、小学生の時から飲み物はこれ一筋!家にいる時はもちろん、出かける時もこうして水筒に入れて毎日欠かさず飲んでるのさ!」
『……………』
堂々ととんでもない発言をする真希に、先ほどまで真希にサインや記念撮影をねだっていた客達も後退りをしてドン引きしていた。
「いや、『毎日欠かさず』って………こんなに濃いカルピスを毎日飲んでたら、体に悪いと思うんですけど………?」
「あぁ、心配はいらないよ」
冷や汗をたらたら流すカナエからの問いかけに、真希はまたしても笑みを浮かべる。
「毎朝、お腹にインシュリンの注射を打っているからね♪」
『いやそれもう手遅れじゃないですか!!?』
某ケーキ店のマスコットの女の子のように舌を出しながら笑みを浮かべる真希に、優助・秀一・カナエの鋭いツッコミが入る。
他の客はほぼ完全にドン引いており、中にはテーブル上に代金だけを残して、顔を青ざめながら早々にキングコングから退店している者すらいた。
真希は改めてカウンター席に腰を下ろすと、寂しげに顔をうつむかせた。
「………まぁ、最近はお医者さんからの指導で、カロリーゼロのカルピスしか飲んでないんだけどね………ハハハ」
「いや、そりゃあそうでしょう?」
「まかり間違えば、早死に間違いなしじゃないすか」
「仮にも『初代チャンピオン・オブ・モンスターズ』なんだから、健康には気をつけないと」
「………」
優助達から当然と言えば至極当然なツッコミを入れられ、真希は少し寂しげに水筒をらっぱ飲みするのだった。
「まぁまぁ~。ユー君達もそのくらいにしときなってっばぁ~」
「キュピィ~」
そこに、それまで騒ぎを遠巻きに眺めていた笑子が、ぬいぐるみサイズのリトルファルラを抱き抱えながら近づいてきた。
「……あれ?笑子ちゃんにファルファルじゃん」
「ヤッホー♪久しぶり~真希姉ちゃん♪」
「キュピィ~♪」
『えっ?』
「なぁ~んだ?君たち、笑子ちゃんの友達だったの?それならそうと、先に言ってくれれば良いのに」
「真希姉ちゃんこそぉ~?こっちに来てたなら、電話かメールかメッセージくらい送ってよねぇ?いきなり校庭に出てきて、ビックリしちゃったよぉ~」
「ハハハ、ゴメンゴメン♪」
『………』
あの初代『チャンピオン・オブ・モンスターズ』三枝真希と、自分達の友達である山根笑子がまるで親戚のお姉さんと従姉妹のように親しげに会話する光景に、優助のみならず、秀一やカナエまでもが呆然となった。
「ち、ちょっとちょっと!笑子ちゃん?」
「ん?なぁ~にぃ~?」
「え、笑子と三枝さんって……知り合いだったのか?」
「ん~………」
まだショックが抜けきれない様子のカナエと秀一からの問いかけに、笑子は顎に人差し指を当てながら少し考える素振りをした後に、満面の笑みで答えた。
「……『ボクの知り合い』って言うよりは、『ボクのパパの知り合い』って言った方が合っているかなぁ~?」
「えっ?……」
「笑子ちゃんの……お父さんの知り合い?」
笑子からの返答に秀一とカナエは理解が追い付かない様子で、頭上に?を浮かべながら首をかしげる。
しかし……
「………あっ、そっか!」
……優助はいち早く何かに気がついたらしく、右拳で左掌を叩いた。
「えみちゃんのお父さんの山根博士は、旧『共存派』のリーダーだったから、それ繋がりで旧『共存派』結成のきっかけである三枝さんと知り合いなんだ!」
「ピンポォ~ン♪大正解だよユー君♪」
「キュピピィ~♪」
優助の答えに笑子とリトルファルラは嬉しそうに笑いながら人差し指と親指で丸を作った。
「あ、そういえば、笑子ってあの山根博士の娘だったっけ。すっかり忘れてたぜ」
「………私も忘れてたや」
秀一とカナエも優助の言葉に納得すると、真希が付け加えるように説明を始めた。
「私と山根先生は、『怪獣大戦』の終結後も仕事やプライベートなんかで頻繁に顔を合わせていてね。笑子ちゃんとはその縁で、赤ちゃんの頃からの顔見知りって訳さ」
『へぇ~』
真希の補足説明を聞き、優助達は思わず『へぇ~』と呟いてしまった。
「もぉ~、笑子ちゃん水臭いなぁ~?あの三枝真希さんと知り合いだって事を秘密にしているなんてさぁ~?」
「あはは♪多分、ボクから教えても信じなかったと思うよ?」
「あ、確かにそれもそうだね~」
『ハハハハハハハハハッ♪』
カナエと笑子は互いに顔を見合せながら、楽しそうに笑い合った。
「えぇっと、それじゃあ……」
その場にいる怪獣研メンバーを代表するように、本来は怪獣研の正式な部員ではない秀一が居ずまいを正して、カウンター席に腰掛けている真希に向かい合った。
「………改めまして、俺は笑子の幼なじみの尾形秀一です。パートナー怪獣は、原始暴獣フェンリルのリルです。よろしくお願いします」
「うん、よろしく~♪」
秀一は自己紹介を済ませると、真希と軽く握手を交わした。
「あ、私は笑子ちゃんが入っている『大戸島高校怪獣研究部』の部長をやってる松宮カナエで~す♪ちなみにパートナー怪獣は、地震怪獣ナマグランのマグーで~す♪」
「……あぁ!もしかして君かい?『怪獣が好き過ぎるあまりに、ズル休みし過ぎて何年も留年し続けてる先輩』っていうのは?笑子ちゃんからよく聞いているよ」
「………え~み~こ~ちゃ~ん?」
真希から変な認識をされていた事を知ったカナエは、元々の情報源である笑子に恨めしげな視線を送る。
『♪~♪~』
しかし、当の笑子はカナエから顔をそらして、リトルファルラと共にあまり上手とは言えない口笛を吹いていた。
「えっと………改めまして、僕の名前は芹沢優助と言います。パートナー怪獣は古代怪獣ティアマトのティアです」
「………ふぅん」
優助が改めて自己紹介すると、真希は優助の顔を物珍しそうにじろじろと見た。
「……バトルの時の実況を聞いた時から、『よく似た名前だなぁ~』って思ってたけど………もしかして君、怪獣専門カメラマンの芹沢英四郎さんの親戚か何か?」
「……えっ?あぁはい、芹沢英四郎は僕の『父』ですが………?」
優助からの返答を聞き、真希は一瞬呆けたような顔になったかと思うと………
「おぉ!君、芹沢さんの息子さんなの!?通りで最初に会った時から、なんかどっかで見たような気がした訳だよ!」
………嬉しそうに優助の顔や頭を撫で始めたのだ。
「えっ?えぇっ!?えっと、あの………」
突然真希に幼児や子犬にするように顔や頭を撫でられ、優助は目を白黒させる。
「……あ!ゴメンね、いきなり。まさかこんな所で芹沢さんの息子さんに会えるなんて、嬉しくてねぇ~」
「あ、い、いえ……」
慌てて真希は優助を撫でるのを止めるが、優助の顔はほんのり赤くなっていた。
「あの……さ、三枝さんって、僕の父さんの事、知ってるんですか?」
真希が撫でるのを止めると、優助はすぐに疑問を口にした。
「もぉ~、何言ってるのさ?英四郎おじさんはピュリッツァー賞も取った『怪獣専門カメラマン』なんだから、真希姉ちゃんが知ってても全然おかしくないじゃん!」
「そ、それはまぁ……そうだけど……」
横から笑子が割り込んでくるが、優助はまだ少し納得がいかない様子だった。
「う~ん……まぁ、確かにそれもあるけど……」
真希は顎に指を当てながら考えるそぶりをしてから、笑顔で答えた。
「……芹沢さんは怪獣大戦の頃、私や山根先生と同じ『共存派』のメンバーでね。カメラマンとして記録係をしていたんだよ。最近はろくに連絡も取り合ってないけどね」
『………えぇえぇっ!?』
真希からの何気ない返答に、優助のみならず笑子や秀一、カナエまでもが驚愕の叫びを挙げ、目を丸くする。
カウンターの向かい側からは、店主のフェイが静かに食器を洗っている音が聞こえていた。
「……あれっ?もしかして、芹沢さんから聞いた事ないの?」
「は、はい……ただの一度も……」
「ボクも今初めて聞いたかも……ねぇ、シューちゃんは?」
「いや……俺も今初めて聞いたぞ?」
「私も初めて聞いた………」
「芹沢さん、『自分はあくまで裏方だから』って、口癖みたいに言ってたからねぇ~……あ、私から聞いたってのは、オフレコで頼むよ?」
真希は唇に人差し指を当てながら、イタズラっぽくウインクする。
一方、突然父の過去を知ってしまった優助は、端から見ても軽くショックを受けているのが見てとれた。
「まぁでも……優助君だっけ?君が芹沢さんの息子なら、私への『答え』にも納得だね」
「………えっ?」
真希の何気ない呟きに、優助は首をかしげる。
真希は優助の顔をまっすぐ見据える。
「ほら、君と最初に会った時に私が『君にとって『パートナー怪獣』ってどんな存在なんだい?』って質問しただろ?そしたらなんて答えたか、君は覚えてるかい?」
「あ……はい。『掛け替えの無い家族』って答えましたけと……」
優助は約一週間前、真希と初めて会った時(※<a href="https://ncode.syosetu.com/n0665fy/8/">第一部第7話『芹沢優助の憂鬱』</a>)を思い出しながら答える。
「芹沢さん……優助君のお父さんはよく言ってたよ。『これからは怪獣と人間が仲良く暮らしていく時代が来る。怪獣と人間は『敵』じゃなくて『友達』だ』ってさ」
「あぁ……それは僕も小さい時からよく聞かされてましたね」
久しぶりに父の言葉を生で聞き、優助の中で懐かしい気持ちが湧いてきた。
「芹沢さんはねぇ、『怪獣と人間が仲良く暮らせる時代』が必ず来るって、そんな世界を自分の子供達に見せたいって……いつも言ってたんだ。そんな芹沢さんの息子なら、私にパートナー怪獣を『掛け替えの無い家族』って答えるのも当然だね」
真希は優助にニッコリと微笑む。優助は顔を赤くしながら照れるのであった。
「…………よ~し!ここで笑子ちゃんや芹沢さんの息子さんに会えたのも、何かの縁だ」
真希はスカートのポケットからがま口の財布を取り出すと、その財布から福沢諭吉をニ十人近く取り出してカウンターに置いた。
「今日は私のおごりだよ!君達だけじゃない、今この店にいる人達全員、好きなだけ食べて飲んで良いよ!」
『えぇ~!?』
真希の発言に優助達のみならず、まだキングコング店内に残っていた客全員が目を見開いて驚いた。
「ほ、本当に良いんですか!?」
「あぁ、怪獣モチロンだとも!」
まだ信じられないカナエに真希はニッコリ笑いながらサムズアップをする。
「おぉ~!真希姉ちゃん、太もも~!」
「キュピィ~!」
「……それを言うなら、『太っ腹』だろ?」
「そうとも言う~♪」
笑子の軽いボケにすかさず秀一がツッコミを入れる。
「よ~し!今日は朝まで食べまくるよ~!!」
『おぉー!!』
『グキュナガァ~!!』
カナエが音頭を取りながら、優助達+パートナー怪獣達は再び食事を再開する。
カウンターに座った真希は、その様子を嬉しそうに眺めていたのだった。
感想よろしくお願いいたします。




