これまでの世界、これからの世界
今回はポ○モンの導入部風の世界観紹介です。
暗がりの中……一台の薄型テレビが置かれている。
スイッチを入れるとテレビ画面に光が灯り、数秒の砂嵐の後に一人の人物がスポットライトを浴びている映像が映し出された。
白髪混じりの灰色の髪をオールバックで纏めあげ、白衣を身に纏った50代程の日本人男性だ。
『んっんー……やぁ!全国の怪獣大好きっ子の皆、元気かな?』
画面の向こうの男性は咳払いを一つすると、画面の『こちら側』にいる我々に向かって笑みを浮かべながら語りかけてきた。
『私は巨大生物学者の山根 恭一郎……簡単に言うと、怪獣好きな皆が憧れる『怪獣博士』さ』
男性……山根博士の自己紹介が済むと同時に、テレビの映像が徐々に別のものに切り替わっていった。
『グガアァァァァッ!』
二足歩行の恐龍を思わせる生き物が、口から炎を吐きながら民家を踏み潰し……
『ウガアアアアアッ!!』
ゴリラにもオランウータンにも見える類人猿らしき生き物が、高層ビルに捕まりながら片手でヘリコプターを振り回し……
『ピュキィィィィッ!!』
蝶か蛾の幼虫によく似た昆虫が高層ビルをなぎ倒してサナギになったかと思えば……
『アガオォォォォン!』
『グギャアアアアア!』
直立した亀が、石油コンビナートで翼竜と戦っているときた。
まるで映画のワンシーン集のようだが、どれも加工や編集は一切入っていない本物の映像だった。
『……この世界には、『怪獣』と呼ばれる生き物が存在している』
巨大生物の映像を背景にしながら山根博士が再び姿を現した。
『怪獣はビルのように『巨大な体』と口から炎やビームを吐くといった『特殊能力』を持った普通の動植物とは一線をかくす不思議な生き物で、西暦1954年にその存在が初めて公式に確認されて以来、世界中の人間から『敵』として攻撃されてきたんだ……』
山根博士の後方の映像がまた切り替わった。
今度は怪獣が人間からの攻撃を受けている映像だ。
頭部に角が生え、直立したヒグマのように見える哺乳類型怪獣に向かって戦車の砲弾が雨のように浴びせられる。
戦闘機から発射された大型ミサイルが巨大怪鳥に命中すると共に大爆発を起こす。
装甲車に取り付けられたパラボラアンテナ状の装置からレーザー光線が放たれると、四足歩行の地底怪獣の皮膚を焦がす……まさに映画から抜け出したかのような光景だった。
『怪獣と人間との種の存続を掛けた戦い……『怪獣大戦』が20世紀の半ばに勃発すると、あっという間に世界規模の大戦争へと発展し……ついには地球外文明、いわゆる『異星人』が人間側に協力するようになった……』
憂いをおびた表情を浮かべる山根博士の背後で、銀色の巨人が恐龍型怪獣に向かって組んだ両腕から放たれた光線を浴びせかける映像が流れ、続いて、見るからに宇宙人チックな外見をした生き物とスーツ姿の白人男性が国連会議の席上で握手をしている写真が映し出された。
『友好的な異星人からの協力の下、人間側の科学技術は大いに発展したが……それは怪獣大戦の激化と泥沼化の始まりでもあった』
説明を続ける山根博士の声には、悲哀と後悔の念がこもっていた。
山根博士の背後に巨大人型ロボットが恐龍型怪獣と殴り合いをする映像が流れる。
当初こそロボットの方が優勢だったが、怪獣にトドメを刺そうとした瞬間、左脇からまた別の怪獣が突進してきて、ロボットを突き飛ばしたのだ。
そのままロボットは横転してしまい、2体の怪獣によってそれまでの仕返しとばかりにぼこぼこにされてしまい、勇壮な鋼の巨人はあっという間にスクラップに姿を変えた。
また別の映像では、海からヘドロまみれの怪獣が上陸し、全身からあふれでるヘドロで大都市を丸々死の大地に変える様子が映し出されていた。
『……数十年以上も続いた怪獣大戦によって、人間も怪獣も……いや、この地球その物が疲弊し……このまま戦いが続けば、人間も怪獣も共倒れするのは確実だった……』
目元を押さえて顔を伏せる山根博士の背後に、衛星軌道上から撮影された地球の写真が映し出される。
最初、その地球の写真は鮮やかなカラー写真だったが、徐々に色が消えて白黒のモノクロ写真に変化し、次には白骨化した怪獣の死体が横たわる倒壊した建物と人間の死体ばかりの荒れ果てた市街地の写真へと変わった。
『……しかし、ある転機が訪れた』
顔を伏していた山根博士が喜びの表情を浮かべると、背後に一枚の写真が映し出された。
小学生くらいの少女が怪鳥型の怪獣を抱き締めている写真だ。
山根博士は続ける。
『……当時、小学三年生だった三枝 真希という少女が、怪獣を卵から育て上げて飼い慣らす事に成功し、その怪獣と共に人類軍の援護や救援を行ったのだ!』
興奮の混じる山根博士の背後には、少女……三枝真希が火山が動き出したかのような怪鳥に跨がって戦闘機と並んで飛行する姿や怪鳥が怪獣出現現場に救援物資を運搬する様子などが映し出されていた。
真希少女も怪鳥も、まるで兄弟か親友のようにお互いを信頼しあっているのが写真からも感じられた。
『硬い絆で繋がった一人と一匹の姿に、私を初めとする少なくない人々が『怪獣と人間との共存の可能性』を見いだし、やがて『共存派』というグループを結成するに至ったのだ!』
興奮冷めやらぬ様子の山根博士の姿が画面に大写しになると、次に十数人近くの人間が集まった集合写真のような画像が『共存派メンバー全員が写った記念写真』というテロップと共に紹介される。
その写真には、現在よりも少しばかり若い山根博士と、共存派結成のキッカケである三枝真希少女の姿も写っていた。
『そして、忘れもしないあの日……私達共存派は、地球上全ての怪獣の頂点に立つ『三柱の怪獣の神』と呼ばれる特別な怪獣達との対話を試みた……』
山根博士はかつての光景を懐かしむように目を細める。
画面には古代人が作った石造りの神殿のような場所で、山根博士を筆頭とする共存派の人々が3体の怪獣と対峙している様子を撮した写真が映し出された。
中央には、頭頂部から黄金色の角を生やした黒い二足歩行恐龍型怪獣が共存派の人々を見下ろすような形で仁王立ちしており、その左右には極彩色の蝶を思わせる昆虫怪獣とマッコウクジラに手足を付けたような哺乳類型怪獣が脇を固めていた。
『怪獣の神々と私達共存派との対話によって……ついに、数十年以上も続いた怪獣大戦は平和的な終結を迎える事が出来たんだ……』
山根博士は感極まった様子で涙を流した。
山根博士の背後には、先の怪獣の神の一体である恐龍型怪獣と山根博士が握手をしている……正確には恐龍型怪獣の腕の爪の一本を山根博士が掴んでいる……写真が映し出されたのだった。
『そして……世はまさに、人獣大共生時代!人間と怪獣はお互いを『敵』として『戦い合う』時代を終え、『友』として『共に生きていく』時代を迎えたんだ!』
山根博士の説明とともに現在の街の様子が映し出される。
かつては恐怖の対象でしかなかった怪獣が、堂々と真昼の街中を自動車やバスや電車などと並んで闊歩し、工事現場ではブルドーザーやクレーン車の代わりを務め、公園で遊園地の乗り物のように子供達の遊び相手をしている様子は中々にシュール……もとい、とても微笑ましい光景だった。
『その一助となったのが……これだ!』
山根博士は白衣の内ポケットからあるものを取り出した。
一見するとスマートフォンのようにも見えるが、画面には怪獣の姿と名前、パラメーターのような情報が表示されており、画面の中の怪獣は子犬のように画面の中を跳び跳ねていた。
『怪獣召喚装置『アドウェンテス』!怪獣を生きたまま電子情報に変換して収納し、また自由に召喚させられるこの装置の開発により、今や誰もが自分だけの『パートナー怪獣』を持ち、いつでもどこでも一緒にいることができるようになったのさ!』
山根博士の説明をナレーション代わりにして、アドウェンテスの実演風景の映像が流れる。
アドウェンテスの画面に表示された『SUMMON』と描かれたアイコンをタップすると、アドウェンテス上部から光る球体のようなものが射出された。
アドウェンテスから射出された光る球体は地面に着地すると同時に形を変えていき・・・
『グガアァァァァ!』
二足歩行恐龍型怪獣が実体化した。
次に『RETURN』と描かれたアイコンをタップすると、怪獣は再び光る球体に変化してアドウェンテスに戻っていった。
続いて、パートナー怪獣と人間が仲良くふれあう様子が流れる。
ある少年は雄牛のような角を生やした二足歩行恐龍型怪獣に乗って学校に登校し、
ある少女は白鳥のように美しい鳥型怪獣ともに見事なバレエを披露し、
ある警察官は犬によく似た四足歩行怪獣ともに銀行強盗を取り押さえ、
ある女性歌手は南国を連想させる植物怪獣をステージの代わりにして歌声を披露していた。
場面は移り変わり、今度は2体の怪獣が相対して戦っている映像が流された。
戦い合う2体のすぐそばには、パートナーと思われる人間がそれぞれ指示を出しており、周囲には少なくない観客まで集まっていた。
『そして今!世界中でパートナー怪獣同士を戦わせて強さを競い合わせる『怪獣バトル』がブームとなっている!最高の怪獣と最高の怪獣使いに与えられる称号……『チャンピオン・オブ・モンスターズ』を目指す彼ら彼女らの事を、人々はこう呼んでいる……』
山根博士は一旦言葉を切ると、深く息を吸った後に言った。
『『王者を目指す人々』……『アトレテス』と!』
(アトレテス:ギリシャ語で『王者』の意。より正確な発音は『アトレテース』)
『……さて、私の説明はここまでだ。これから先は……『君たち』自身が、自分で見て、聞いて、感じて、考えてくれたまえ』
山根博士は『我々』を歓迎するように両腕を広げた。
『……怪獣がいる世界へようこそ!君だけのパートナーと共に、最強を目指すんだ!』
そして『我々』はテレビに吸い込まれ……怪獣がいる世界へと旅立ったのだった---。
感想よろしくお願いいたします。