第59話 オヴェスト事変 Part2
前回のお話。遂に始まったアラドス連合艦隊のオヴェスト侵攻。オヴェストに警報の鐘の音が響き渡る。
アラドス連合艦隊。12艦隊から成す連合艦隊であり、その内第1、第2、第3艦隊はオヴェスト・トレンボに迫る。
「そろそろ向こうの射程に入っても良い距離だが・・」
情報通り迎撃兵器の類は無しか。
オヴェスト側は防衛行動をしてる様子は無かった。
「各艦射撃準備は出来ているか?魔力不足で遅れてる艦はいないな?複縦陣から三段雁行に変更するぞっ」
その言葉に艦隊が動きだす。小型で速力浮力があるコルベットは高度を上げて高い位置に飛行し、コルベットより大型なフリゲートはコルベットの下の位置を飛び、戦艦など大型艦はフリゲートの下を飛行する。
陣形が完了すると今度は90度一斉回頭し、艦隊全体が片舷に付けられた魔砲をオヴェストに向けられる。
「正面の艦隊が動いたぞ!くそっ!こっちはまともな武器無いのにっっ!!」
「おいおいおい!!!まずいっ!まずいっ!もう砲撃体勢だっ!早くこっから離れるぞっ!」
高楼の見張りは艦隊が魔砲による光りに急いで高楼から逃げだし、数秒後。
ボオオーーーーンッッ!!!!
高楼に光りが当たり爆発する。
「あっ・・・ぶねっ!」
「バカ!止まるなっ!まだ来るぞ!走れ走れ走れっっっ!!!」
ドゴオオオーーーーン!ドゴオオオーーーーン!ドゴオオオーーーーン!
その瞬間にも逃げた後ろから爆発が起こる。
「ああくっそ!逃げるつってもどこに逃げればいいんだよ!?」
「とにかく砲撃に巻き込まれない場所だっ!」
「早い!もう攻撃が・・。内側砲郭に向かうようには言ったが・・」
衛兵本部も対応してないわけではない。内壁にはモンスターパニックに備えて数多く砲郭があるが・・・。
数が数。牽制にはならんだろうが、せめて市民の避難の時間が増えれば・・・っ。
町中は砲撃音に混乱する人々で多い中、更に難しい状況に追い込まれてる者達がいた。何者かと言うとオヴェストにいるスパイ達である。
「なんだ!?町が攻撃されてるのか!?」
「今、確認中だ。しかしどうする?この状況に応じて教会に行くか?」
「他の組織もこれに便乗しそうだが・・」
そこに1人が焦りながら声を上げた。
「おい!転移記号式が動かないぞ!妨害されてるっ!」
それに周りも驚きと焦りの声が上がる。
しかしリーダー格の人は事を冷静に判断する。
転移が出来ないだと?ピンポイントでうちらを狙うなら分かるが、この状況下でうちらだけを狙うのはあり得ん。だとすればこれは広範囲に渡っての妨害・・・。
「町の外からも妨害入れてるかもな・・。しかもこれが町全体に放っているなら・・町包囲して妨害を放ってる可能性大だ」
「それじゃあ教会の連中を捕らえても逃げるのも隠れるのも難しいぞ。まだ包囲されてないなら自分らだけなら逃げられるんじゃないか?」
それに一息入れてリーダー格は。
「・・作戦は続行だ。だが捕らえるのはシスターのみ。その後は迷宮に篭って本国からの連絡回復を待つ」
それを聞いた一同は無言で頷く。
そして他のところのスパイは、先ほどの者達同様に作戦を続行するところ、町から撤退するところと分かれ、それぞれ素早く行動に移した。残された時間は短いのだ。
そんな状況にシルル教会では・・・。
「一体外で何が・・・」
外から聞こえる鐘の音と轟音にミルティアに不安が積もる。
「ミル姉だめだっ!煙突も塞がってたし!緊急脱出てい?も動かない!完全に閉じ込められたっ!」
メルダー達もどうにか外に出れるところはないか隅々まで探索するもどこも塞がれていた様子だった。
「やっぱりそうでし・・緊急なんです?今初めて知ったんですが、」
「多分クラが最近作って置いたやつだな。いつの間にかあった」
『ああそれは、一定時間飛行して途中で滑空しながら軟着陸する脱出艇ってロマンだよね、っと言って作ったはいいが燃料作れず仕舞いで放置したやつですね』
そして補足説明をいれるゴーレムだが要は途中で作るのをやめたと言う説明に「はぁ」とミルティアはため息を漏らす。
「けど昨日クラリオン君は何かあるかもって言ってましたけど・・」
大体の騒ぎの原因はクラリオンが起こすのが多々であるが、今回は事の深刻さの違いにもしかしてクラリオン君が原因じゃないかもしれないとも思い始めた。
「いえ、教会に何かやったのは間違いないなくクラリオン君ですが」
すると突然。
ビーー、ビーー、ビーー。
教会全体にアラームが鳴り始める。
「な、何ですか突然!?」
突然のアラームにマルリとクロエもミルティアの元に集まってきた。
「ああもう何なのよ、この音は!?」
「こう言うのって何か危険を知らせる音だと思うけど」
そして全員集まったところで今度は謎のアナウンスが。
『シルル教会敷地内に、無断侵入者、2名。捕捉』
突然の事でミルティアは「え?」と困惑する。すると・・・。
ドドン。
外で何か鈍い爆発音が響く。
『2名。地雷原で停止』
「はいっ!?」
一体外で何が起こっているのか、あと教会に地雷原とは!?色々聞きたいことがあるが、アナウンスはさらに続き。
『無断侵入者、多数捕捉。狙撃』
ドルルルルッッ!!!
『防衛完了』
「何がですっ!?」
慌てて今見える窓からは変わった様子は見受けられないが、何か始まった状況にミルティアは分からず仕舞い。
そんなシルル教会の別サイドでは・・・。
「よしまだ他はたどり着いてないな!」
「ああ、運が良かった。他の奴らと会わなかったり、周辺護衛の冒険者が他と交戦していたお陰で隙があったからな」
「他が来ないうちにすぐやるぞ!まず俺ら2名が裏口から入って退路を塞ぐ。あとは」
「勝手口は私が行こう」
「じゃあ俺らは正面か」
「決まったな。行くぞ!」
最初に難なくどこかの組織がシルル教会に到着し、侵入の手取りを早々に決めて動く。が・・・。
ドドン。
「くそ、気づかれてたかっ!?」
「今ので他の連中にもバレたぞ」
「作戦変更だ。同時に行くぞ!」
鈍い爆破音を聞いた他は恐らく迎撃されたと予測し、作戦を変えてシルル教会の敷地内に踏み込むも。
ドルルルルッッ!!!
何処からともなく魔弾が飛び交い、踏み入った者を直撃させれば敷地内に吹き飛ばされたのだった。
『防衛完了』
「あのっ!一体外で何が起きてるんですか!?そもそも貴方誰ですっ!?」
謎のアナウンスにミルティアは問いかけたが。
『現在防犯システムは「エクストラ・ホーム・アヴァロン」モードです。泥棒、侵入者、不審者、教会敷地内に入った全ての者にヘッドショットを決めます。また敷地外でも教会に脅威対象がいた場合も可能な限りヘッドショットを入れていきたいと思います』
「いえ、そうじゃなくてっ!え?これクラリオン君が何かした系ですか!?」
『設定を何かした系です。そして補足。教会に向かう複数の集団を確認。数20名以上』
「まっ待ってください!まず教会から私達を出してください!それと外は一体どうなっているんですか!?何が起こっているんですか?」
まず一体何が起きているのか分からないし、とにかく外に出て外の状況を知るのが最優先だ。だが・・・。
『防御記号式を複合展開中の為、通常解除は出来ません。解除するには操作権限があるクラリオン、ミヤ、与吉、アイのうち1人の操作が必要となります』
その説明の中に今教会にいる者の名前が挙がった。恐らくそいつが教会に何かした系だろうと言う言葉にミルティアは・・・。
「与吉く~~ん、ちょっ~~と来てくれませか~~?」
ヂ・・。
低い声で呼ばれ、与吉は瞬時に物影に隠れる。
多分関わっていると知れば碌なことにならないと日頃の彼の様子から察してしばらく隠れることにしたようだ。
『外の様子ですが・・城壁の一角の崩落を確認しました。音響機から町の周囲に大多数の騒音を探知しました』
「崩落!?」
しかしアナウンスで与吉どころではなくなった。
恐らく爆発音は城壁の崩壊で、町の警報もそれだろうとミルティアは推測する。ただその推測の最中にアナウンスが「周囲状況を更新・・。戦術兵装を起動準備、魔力供給開始。20秒後、戦術兵装可動」と物騒な言葉が流れる。
『集団の半数に動きに変化。その場で動きを停止または迷走。残りは依然こちらに進行中』
それを聞いたせいか少し外が騒がしい音が聞こえ始めてきた。
「なあ。ミル姉・・なんか分かんないけど、何かヤバい気がする」
「僕も・・」
「私は少し心臓が騒がしいけど、大丈夫なのよ」
メルダー達は何か危険を感じ取ったのかミルティアは「みんな、大丈夫」と心配させないように声を掛けようするが。
「まあクラとミヤのと比べたら全然大したことないけどな」
「うん、いつも2人の遊びで慣れたからね」
「むしろあいつがミヤにボコボコされるの見ればケガも血も見慣れてるのよ」
「み、みんな・・」
彼とミヤのせいでそこらの大人より肝が太くなったおかげで、この程度で子ども達は動じなくなっていた。
『さらに状況変化。進行集団の一角が速度上げて突出行動。4秒後敷地内に侵入の可能性あり』
「え?」
間もなくと言わんばかりミルティアと子ども達も窓の向こうを覗くと、言葉通りこちらに向かって走って来る集団が見えた。
「あ。なんか手に武器持ってるな」
「ほんとだ。短剣かな?」
「よく分からないの持ってるやつもいるのよ」
そんな集団に子ども達は鋭い観察眼を発揮する。やはり彼とクラの遊びで見慣れたせいか目で追う速度が違った。そしてミルティアは全然気付けず、「え?え?」と何言ってるの?と子ども達を見返すばかり。
『侵入確認。狙撃』
ドルルルルッッ!!!
そして今度は誰もが見える位置で魔弾で撃たれるのを目撃する。
『防衛完了』
魔弾で煙が舞っていたが一瞬でこちらに向かっていた集団が消えていた。
「え?あの?一体どういう事です?さっきの人達は?」
未だ状況を飲み込めないミルティアは戸惑うばかり。だがそこにゴーレムが客観的な分析を口にする。
『恐らくこの騒ぎのどさくさに窃盗しようとしてきた連中では?この教会金目の物多そうですし、私もアンティークながら超高性能ゴーレム。間違いなく私の身体目当てでしょうし』
身体をくねらせるが、そう言われるとこの教会にはクラリオンの私物に金目になりそうな荷物が無駄に多くある。狙われてもおかしくないし、むしろ今まで狙われてなかったのは不思議とも言える。
「ああ、たしかに今までよく狙われなかったよな~」
「あ~うん、たしかに」
「でもガラクタなのよ?お金になるのかしら?」
そんな回答に子ども達は概ね納得。
「ん~~でも・・」
ただミルティアは引っ掛かる。火事場泥棒はあるかもしれないが、だからと言ってこうも狙ってくるものかと。
しかしそんな疑問を持つも束の間。再びアナウンスが流れる。
『第二ウェーブを確認。開始まで恐らく3分』
「あのさっきから全く話しが進んでいませんし、あとウェーブって何ですか?また何か起こるんですか!?」
言葉の意味が分からないミルティア。
「ゔぇ、まだ来るのかよ」
「何か例えがゲームの言葉選んでない?」
「これまだまだ来る感じがずっとするのよ」
子ども達は意味を理解し、徐々にこの状況を慣れ始める。
『では皆さまにも防衛を』
すると今度は皆の前にそれぞれ光る物が現れた。もう成り行きで皆が手をかざすと・・・。
「これは・・」
その光る物を手に取ったミルティアは困惑する。
『ヘッドギアとジョイコンです』
正確に言えばHMDとコンローラである。更に詳しく言えば彼が駆逐艦の操縦の際に周囲を見渡せるように付けているHMDの旧試作型モデルでもある。
「ヘッドギアとジョイコン・・」
しかしそんな事はどうでもよく、外の風景が見えると言うことでお互いの顔を見合いながら半信半疑で付けてみると。
「うおおおおお!なんじゃこりゃーーーー!!?」
メルダーが皆の代弁するかのように驚きの声を上げる。
「何かこう、なんか色々ある!!」
画面と言う物から見えるいつもと違った教会周囲の視点。さらに何かよく分からない数値や地図やチャット欄やら何かのコマンド模様が浮かんでいると言う仕様、要はFPSでありがちな画面になってるのだ。
『ではここのコマンドにジョイコンを使って・・・』
そして勢いそのまま簡易操作説明を始まり、もう皆聞かされる形でやらされる。
それで簡易操作説明が終わると・・・。
『では実戦して行きましょう。そろそろ第2ウェーブです』
「いえっ!さっきから色々聞かされ見せられてばかりで何1つ状況が改善してないんですがっ!?」
教会から出れず、町の様子もよく分からないまま何故かFPSやらされそうになっている状況にやはりミルティアはついていけない。因みに子ども達は順応性が高く黙々と操作が上達している様子。
『来ました』
「来たって・・すっごい数来てるうっっ!??」
『すいません。ゴーレムに合うヘッドギアありませんか?どうしても隙間が空いてしまって上手く被れないのですが』
ゴーグルの言葉を無視し、HMD越しではさっきの倍で押し寄せる集団が見えたのだ。
『それでは先ほど説明した通り、基本は魔弾掃射ですが兵装は変更可能ですので自分にあった兵装で防衛してください』
「え?あの!まっ、操作ってまだ、あ、え、待って待って待ってえええーーーっっ!!!」
今一つ操作が分からず、誤ってスコープ倍率を上げてしまい集団が間近に迫っているように見えてしまう。手で追い払おう仕草をするもジョイコンをを強く握ってボタンを押していたため魔弾を縦横無尽に乱射させまる。
ドゥーーン
「何か変な音しましたぁ!?」
『ヘッドショットが決まると音で知らせるシステムです。スコアも高いです』
「スコア!?」
『スコアボードで点数が確認できます。今はクロエの視界に入った瞬間撃つ、ガン待ちショットガンで高得点です』
クロエ。確実に相手を倒せる手段の最適解を見出す。
他にメルダーはとにかく動く相手に向かって撃ち、マルリは連射速度は遅いもののグレネード弾をそこら中にばら撒く爆弾魔と化す。
そして襲って来る集団からすれば何処からともなく弾幕と爆発で進むことも防ぐことも出来ず襲っていた側が襲われる側と攻守逆転し始めたのである。
何がどうなっているんですか!?そんな心情がミルティアと襲われてる集団が惜しくも一致した瞬間でもあった。
その後シルル教会の圧倒的な防衛力はオヴェスト騒動の最後まで維持し続け、周囲一帯に敵を寄せ付けなかった。そしてオヴェスト事変後、こんな言葉が生まれた。
「危なくなったら教会に向かえ。暴力は駄目だが神の鉄槌(武力)はお許しだから」




