第56話 おお~遂に駆逐隊がっ!
前回のお話。彼ことクラリオンは本格的な艦隊を編成する為に着々と準備を進める一方で、不穏な動きがついにオヴェスト・トレンボに向かおうとした。
現在、オヴェスト・トレンボでは・・・。
「さて、久しぶりのミシャロ商会で買い物に来たわけであるが・・」
『どうなさいましたか?』
「いやね、別にどうと言うことではないけど・・・」
彼ことクラリオンは本日はミシャロ商会に来ていた。目的は艦船に必要な素材の買い付けだったのであるが。
「なんで皆も?」
パーティーである与吉、アイ、ミヤちゃんが来るのはいいのだが、他に何故かメルダー達やミルティアも一緒に着いて来たのである。
「え~?だってひまだし、な?」
「うん、やることないし、それに」
「あんたが懲りずにミシャロ商会に行ってくる!なんて言えばこうなるでしょ」
と言うのがメルダー達一行で。
「クラリオン君が「ミシャロ商会で買い物してくるっ!」なんて言うからですよ。これ以上余計な物を買わないように見張るためです。まだ荷物だって残っているんですよ」
工国からお土産と称した大量の荷物が、シルル教会の何部屋かまだ占領したままなのだ。それが改善出来ないのに買い物すると言って物を増やしにいくのだから警戒はするだろう。
「いや~あれでも減らしているし、今は使わないけど将来は確実に使うものを残しているわけで」
「そうやってるから物が減らないんです」
「けど今回はシルル教会に置く物じゃないから心配しなく大丈夫っ!」
しかし信用が無い彼の言葉に誰も信じるはずもなく・・・。
「信じられるとお思いですか?」
「ひどい言われようじゃない?」
「はぁ。それで結局なんでミシャロ商会なんかで何を買いに来たんですか?」
「空船に使う素材。希少金属でミシャロ商会に置いてないかってことだけど、あ。店員さ~ん」
店員を呼び、手元にある幾つかの素材を見せると、店員は悩みながら「あるかな~?」と一旦店の奥へと行った。
「分かっていると思いますが本当に周りに迷惑かけるのだけは駄目ですからね?」
「それは大丈夫。それより今ミヤちゃんが一番迷惑かけそうになってるけど?」
指を差す方向にはミヤちゃんが何だか分からない商品を手に持とうしてるのとそれを阻止しようとするメルダー達の姿があった。
「ミヤちゃん!?」
ミルティアも止めに入る中、その間に店員が戻って来た。
「あるにはありましたけど、在庫はこれだけすっね~」
「ん~、アイこれで足りる?」
『ギリギリですね』
そして店員は。
「こう言う素材って希少と言うより需要が無いんですよね~。使い道が限られているんで」
「それって工房にもあまり置かれてないとか?」
「無いでしょうね~。さっき言った通り使い道なんて限られていますし、自分らでもそう言った物を利用した商品を作って売ったりするから置いてるあるところは置いてますけど、あるのは珍しい方すっよ」
「マジか~」
どうも大量に置かれない物らしいので、近くの支店からあれば送ってもらえるようにした。
「早くて来月か数ヶ月ですかね~?それでも量は少ないと思いますけど、一体何に使うんすか?」
「精密機械?」
『合金や製品部品に活用します。特に合金は腐食性、伝導性、非磁性と色々と重要ですので』
「ん~~、よく分からんすけど商品開発部の人みたいな感じすっね。芸術は爆発だ~、みたいな?」
「本当に爆発するからな~、ここは」
『過敏性火薬でも取り扱っているんですか?』
「アイ、うちらが使ってる火薬もどきはここから来ているんだぞ」
『・・忘れてました。この店自体が火薬庫でしたね』
こうして買い付けは無事終わり・・・。
「さて、今あるだけ買ったけどどの程度できる?」
『旗艦設備は吹雪のみに限定ですね。他は各船体の設備を最小限にすれば駆逐隊は組めるかと』
「駆逐隊って確か4隻編成だっけ?」
『はい。現在、白雪と初雪を建造中。その後深雪を建造予定となっています』
「それが限界か~」
こうして最低限の希少金属を入手したがそれ以外に抱えるべき金属問題があった。
「あとは普通に金属資材がもっとほしいところなんだよな~」
『そうですね、異質過ぎて参ったものです』
彼らは鉄山と称す鉄塊の山から金属資材を精製して空船建造に回しているわけであるが、そこで取れるベースメタルに偏りがあるのだ。
元素で言うなれば鉄が8割、銅1割、残り1割は錫や鉛に未知の物質(恐らく魔力に付随する物質)が取れている。が、驚くことに不純物が混じって無い。通常鉱床や鉱脈には化合物(酸化物や硫化物など)や他の金属も一緒に採掘されて併産されたりもするが、彼らの鉄山にはそう言ったのが無い。元々鉱床や鉱脈でもないが想定外であったのだ。
錫は微量、鉛は非常に珍しい自然鉛で取れる始末・・。化合物が硫化物であれば硫黄なんかも取れたんでしょうが致し方ありません・・・。
と言うのがアイの心情である。
もちろんミシャロ商会や工房から金属資材を輸入する手もある。しかしt単位での金属が必要となってくる以上は一介の商会や工房でもその規模の量は扱ってないし、多様な金属資材を取り扱ってるわけでもない。微量で済む希少金属ぐらいが限界なのである。
なので彼もアイも現状大量の金属資材の入手はお手上げに近いのである。
『正直ベースメタルも満足な状態じゃないのに巡洋艦や戦艦の展開は無理ですね』
現状は足りてない部分は特に装甲については装甲厚にして対応しているが、おかげで巡洋艦と大差ない装甲厚の駆逐艦を建造しているはめになっている。しかも使ってる素材は鉄のみ(炭素鋼)。装甲としては脆弱で巡洋艦や戦艦には使いたくない。せめて合金装甲の素材としてニッケル、クロム、モリブリテンが欲しいところ。
「まぁ分かってはいるけど・・どっかに鉱床見つけるか、どっかで買い付けあるところに行く、とか?」
『買い付けとなると駆逐艦では積載量に限りがありますよ。ドラム缶でも横付けしてますか?』
「いや、バージ船だっけ?荷物や資材載せて運ぶ船、あれを駆逐艦で曳航させて輸送するとか?」
『なるほど。それなら十分に検討の余地ありかと』
「そうすると資材が売られてる場所とか生産地とか色々調べておいてもいいかもな」
と、色々2人で話しが盛り上がっていく中で・・・。
『それと少し話しは変わりますが、あれはよろしいので?私には何が起きてるか分かりませんが、周りが引いてるようにお見受けしますが』
「ん~今のところ大丈夫なんじゃない?爆発石付いていなかったし」
何を心配しているのか言うとミヤちゃんが今手に持っている物だった。それは小さい球体がアクセントな彫刻の玩具でミシャロ商会で手に取っていた商品で中々離さないので買ったのだが。
「ミヤ、買ってもらったけどそれ大丈夫なのか?」
「なんか火出てるしね」
「本当の火じゃないけど、明らか普通じゃない感じがするのよ」
それを持って魔力を流すと炎ような光が出て操って遊ぶ物らしいのだが、ヤバいんじゃね?と思わせるような動きをミヤちゃんはさせており、身体に纏わせたり、龍のような形をした炎をはべらしたり、幾何学模様ような炎を出したりと凄いのか危ないのか、ミヤちゃんなら何かやり兼ねないところがあるから周りを不安にさせていた。
かく言う彼は、まあ満足してるならいいか。と事なかれ主義で何も言わなかった。
「・・・・つかえる」
そして当のミヤちゃんは何かの参考になっている模様で、穏便にな方向にお願いしたいところである。
現在オヴェスト・トレンボに隠密に向かっている2隻がいた。
「・・・予定より押してるよな?あと何日で到着だっけ?」
「あと5日。遠回りしなければ、ですけど。ですけど隠密航行だと低速になるのは仕方ないとは言え、いくら何でも低速過ぎませんかね?もう少し足早くなってほしいんですが」
「まあ特別船だからな。それに今回大物を載せての帰投になるし、その間に狙ってくるやつがいないかどうか不安だな」
「それに作戦区域到着後はすぐ作戦位置に配置とか大休止なしでとかやめて欲しいですね」
そんな雑談に・・・。
「そこ、通信で雑談するな。いくら通信解除されたとは言え、隠密航行は継続中だ。必要時以外の通信は切れ」
「「っ!失礼しました!!」
「はあ。長期の隠密航行がこれが初とは言え、気がたるみすぎだ。このモニターとガリーナは中央でも最新鋭の船だぞ。自覚が無いのか」
今回の任務の重要度は国家戦略に大きく関わるものだと言うのを理解できていないのかまったく。何としても戦略級魔導石を確保しなければ火種で燃えるのは我々だぞ・・・。
中央国家ならず中央国家に所属する一介の軍人ですら焦りを感じていた。
中央国家または中央国家群。それは大陸における軍事、経済の主要大国を差す。中央国家と何かしらの結び付きがある国は準中央国家。それ以外を中小国家。その中小国家で大きな影響力を持たない国を辺境国家と呼ばれている。
今、彼がいるフェレストリア王国は辺境国家であるが歴史上を類を見ない戦略級魔導石を大量発掘し、そのまま他国に大量売却したことにより中央国家群との差が埋まるのではないかと危惧されていた。その後は過度な売却はしなくなったが、それでも戦略級魔導石の保有数と潜在的な埋蔵量から危惧が去ったわけでもない。
一時的に落ち着きはしたが時間の問題だろう・・。宝の山に対して大した軍事力がない辺境国家では近い内に攻められるのは間違いない。すでに中小国家の一部で物資の動きが活発だ。併合されれば・・認めたくはないが中央国家と相対できるだけの国に成り得る。我々に不満を持つ国は多い。乗じて連合を組まれれば大陸は中央国家と連合の2極化になる・・・。
今は緩やかだが手を打たなければ間違いなく世界大戦にまで発展する・・。
ただ圧力を掛けるだけでは駄目だろう。多少強引でも介入しなくては・・・。
そこで行なわれた作戦、戦略級魔導石の強奪。しかし小手先でどうにかなる問題ではないことぐらい中央国家も分かっている。なので重要なのが・・・。
「オヴェスト襲撃・・。成果はどうあれ各種会議の手続きは終わっています」
「我が国も準備は整え終わった。襲撃後の内容も含めてな」
「しかし大陸国家緊急安全会議の開催か・・。手回しや準備はしたとは言え些かそこまでやる必要があるとは思えんがね」
大陸国家緊急安全会議。
大陸全ての国家や組織の現国王や長または代表が出席する世界会議に近いもので、大陸全土に生物生存の危機が起こる問題が多発するこの世界では、抜本的な解決の為に生まれた会議である。
「何を言ってる。フェレストリア王国に介入の正当性を示すには世界会議が一番ではないか」
「空賊に襲われて戦略級魔導石が大量略奪。そんな連中が魔導石を使って国を襲ったりすれば中小国家なぞ滅亡は目に見えて分かるだろうからな」
大量の戦略級魔導石を持つ賊は国家単位で危険な存在だ。であれば陸国家緊急安全会議なるものの開催は当然だろう。
そして行なわれる議題内容が・・・。
「フェレストリア王国の支援と空賊からの防衛の為に派兵は必要となるだろう」
当然フェレストリア王国の支援活動が表向き。しかし・・・。
「そうなるとインフラ設備もある程度必要だが・・。良い場所が無いな」
「そこは我々が整えるほかないだろう。勿論租借してからだがな」
「我々は候補地の場所に関しては問題ない。意見はある者はいるか?」
「同じくこちらも異論はない」
中央国家の目的は空賊からの防衛と称して軍の中継地として一部土地を租借することで実質的な支配が目的であった。特にオヴェスト・トレンボは重要防衛拠点として租借地として組み入れようと中央国家群同士で画策しているのだ。
「・・異論がある人はいないようで。では租借地の取り分けについてはここまでとして例の子どもについて進展報告や異議がある方はいますか?」
子どもと言う話しに、周りの空気は少し変わる。
「あれか・・。いまだに推測や憶測だけの報告書しか上がらんとはな。しかも素性も不明ときた」
「身体能力では魔力が正に戦略級魔導石の数個に匹敵する数値見込み。行動原理が謎、いや謎と言うより一つの目的に対してやる事が過剰と余剰で理解しがたいものになるというべきか」
「ふっ。最初聞いた時は新種のモンスターの話しかと思ったな」
「笑い事ではない。その子どもがいくつ戦略級魔導石を隠し持ってるかによっては対応も変わってくるのだぞ」
「遠方に往復していることから何かを運んでいるのは推測するも、飛行速度に追い付けず、遥か彼方と言って良いほど長距離移動、しかも人類未踏の地に飛んで行くのだから手に負えん」
言わずとクラリオンのことだが中央国家でも大した情報が得らずにいた。
「偶に天才奇才が現れることはあっても今回はイレギュラーが過ぎる」
「しかも会話もままならない妨害を受けると聞くが本当か?」
中央国家はどうにか接触を計ろうとしてきた。今回の一連の原因であり、迷宮から大量の戦略級魔導石の発見と発掘はすべて彼1人から始まった。中央国家も迷宮に人員を派遣するも戦略級魔導石の痕跡も発見出来ず、ならば彼を追跡しようものならタブー破りのモンスター狩りの余波で落盤を起こすなど後を追える者はいなかった。
それ故に未だに彼しか発掘場所を知り得なかった。
他にも勧誘、取引、脅迫、拉致、諸々とあらゆる手段を取ろうとするも他国の間諜や大小様々な勢力も同様に行動を起こすわけで、それで起きたのが互いに牽制するスパイ達の裏合戦が勃発。結果、彼との接触より接触させない方向に対応せざるを得なくなった。
「もはやあの周りには間諜しかいない。例の子に近づけば全ての間諜が動き、工作活動も2重3重スパイがいると疑心暗鬼や欺瞞情報で正直まともな動きはできんだろう」
「確認出来る諜報組織は100を超えているそうだ。大陸主要の諜報機関全て揃っているんじゃないか?」
「軽い会釈をしにいこうとするでも襲われる始末だからな」
「まともに動けない以上はこれ以上情報収集も無理と言うことだ」
僅かな動きの兆しだけでも出る杭は速攻かつ集団で打ってくるのだ。
「やはり襲撃の時に一掃してからではないと接触は難しそうだな」
「あの天馬もあの子を抑えられるのかも不安だが、拘束にはあの執行部の連中がするのであろう?生かして捕縛できるのか?殺してしまわなかが心配だ」
「魔力値が戦略級魔導石並みの子どもだぞ。しかも魔導石も持っていたらそこらの者より適任だろうし、最低限聞き出せる程度生かしていれば問題ない」
「その魔導石を持っているかが気掛かりなのだ。もし執行部が手にしたら何をしでかすか・・」
「鎖は付けてある。そもそも裏切ることはないだろう。あれは我々の手の中でしか生きられん」
「どうあれ執行部しか適任はいない。天馬が駄目であっても生け捕りに出来る者など今回に限ってはそう用意出来る手駒はないしな」
クラリオンに対して穏便ではない手段でしか取れないようであった。
「では引き続きあの天馬が駄目な場合は執行部が対応することで決まりでよろしいですか?」
その言葉にも異論を唱える者はいなかった。
それからしばらく・・・。
『深雪建造終了しました。これで最低限駆逐4編成は出来るようになりました』
「おお~遂に駆逐隊がっ!」
彼らは既に白雪と初雪の建造を終わらせて、次の深雪の建造が終わるのを待っていた。
あとは機関部など諸々設置して試運転で問題無ければ晴れて駆逐4編成が組めるのである。
「あ。そうだ。試運転は4編成で組んで、そのまま通信連携も試して・・・」
ブツブツとあれこれ考える。
『・・何をするかは構いませんが、機関部の設置にはミヤちゃんを置いてからにしてくださいね。短剣取り出して何かしてる辺り、魔力関連で何か起こるか分かりませんので。と言うより何しているんですか?』
彼の背中にはミヤちゃんをおぶっており、そのミヤちゃんは短剣を出しながら何か考えるように振っている。傍らから見れば危ない光景だった。
「なんか最近新しい攻撃の模索らしい。ほら最近迷宮でマジで危険な一歩手前の攻撃してるじゃん」
『尚更ここではやめてほしいですね。と言うよりいつも一歩手前の気がしますが?』
「だってミヤちゃん」
それでミヤちゃんに話しを振ると。
「閃き5歩手前」
『足固定してここで閃かないようにしましょう』
危ないと言うことで機関部設置中はその場で大人しくしてもらった。
その後深雪の試運転は問題なく、駆逐艦4編成での連携も問題なく「今日は充実した日だった」と4隻で飛んだ動きに終始彼はにやけ顔が止まらなかった。
一方では・・・。
「・・・っ!来ました!ドマーニ婦人を確認!艦数は・・2隻!?艦数2隻のみですっ!」
中央国家から派遣された空船の誘導の為に待機させられていたフリゲート艦の見張りから報告が入った。そんな報告に上官は愚痴をこぼす。
「来たかと思えば2隻か。補助艦の類だとは聞いたが、この2隻の為に半年も待たされるとはな。艦隊司令部に連絡にしろ。ドマーニ婦人到着。2隻のみだとな」
だかこれがやっと動く!長かった待機もこれまでだ。
アラドス連合艦隊。遂に動きだす・・。




