第54話 え?やだ。艦隊組むまでやめられない止まらない
前回のお話。遂に吹雪型駆逐艦完成。ある程度自動化して1人で運航、戦闘も出来るようにと改良を施す。そして見た目も更に吹雪に似せようと見栄えも重視していく彼の姿にうんざりするアイであったが・・・。
シルル教会。
「いない・・」
尻尾を揺らし、教会内を錬り歩く1人の姿。少し苛立ちながら入念に周りを見渡すその少女はミヤちゃん。
「逃げたか・・」
ミヤちゃんは彼ことクラリオンを探していた。
「ミヤ~。多分もう教会にはいないんじゃね?」
「あの磔台がもう一度見ることになりそうなのよ」
「本当にまたやるの?う~ん、でもそうなりそうだね・・」
そんなミヤちゃんにメルダー、マルリ、クロエが声を掛ける。
最近、彼が怪しい行動をしているのは前回のゴーレムのたれ込みで知っていたが、ここ最近は1時間以上行方を暗ませては擦り傷と汚れまみれで帰ってくるのだ。そんで何をしてたかを聞けば言葉濁して今まで彼は追及を躱してきた。
しかし今日という今日はミヤちゃんは遂にキレる。
「釘、用意しないと・・」
「ミヤ?もうそれ処刑だぞ?」
「まああいつの態度次第じゃないかしら?」
「ミル姉に伝えておかないと」
と言うことで今日は彼の命日になりそうだった。
一方、そんな彼は・・・
「あと2日3日あれば完璧だ。ナット跡付けたり、備品の数も増やしたい。あと照明の明かりも調整したい」
『それ毎回そんなこと言ってますが、いつ終わるんですか?』
現在、ミサイルの如く速度でオヴェスト・トレンボ近郊まで帰宅中。今日も適当にいい訳して空船建造してたことを有耶無耶にしようと思っているが、ミヤちゃんが再び磔台を用意してるなんて知る由もない。
「あ~あ~。丸1日時間があればこんなのすぐ終わるのに・・」
『いまでも悠々自適にやっているとは思いますが』
そして今日もシルル教会にひっそり帰宅するも・・・。
「ねえ!何かある度なんで拷問になるのっ!!?話しを、話し合い、あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーっっっ!!!!助けてぇぇーーー皆ーーぁっっ!!」
ミヤちゃんが彼を見つかると問答無用で磔台に縛られ、その様子をシルル教会の皆はそんな彼を見守りながら眺めた。
「クラリオン君。いつものことですが、どうしてこうなったか分かりますか?」
「分からない!けど、プライベートぐらい好きにしていいやろ!男の子は溜まったもんを出す時間ぐらいあってもいいやろ!」
「あ。そう言うのはいいので。この後どうなるかぐらい分かりますよね?」
もうワンパターンなのでミルティアは早く割り切らせる。
「いやじゃああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!悪くない!自分悪くないもんっ!」
「あからさまにこそこそし過ぎなんですよ・・。どうしていつもちゃんと話さないんですか?話せばミヤちゃんも分かってくれるかもしれませんよ?」
しかしミヤちゃんは無言で首を振る。
相変わらずこの2人は折り合いが難しいようだ。
「はい。2人とも同じこと繰り返さないでくださいね~」
そしてミルティアは再度聞き直す。
「やってないとは思いますけど悪いことじゃないですよね?」
何かする度に騒動を起こす有名人。何を言い出すかは分からないがそんな彼の様子はと言うと・・・。
「・・・・悪いことはしてないです」
まあまあ間を空けてからの目を背けての回答。
不信過ぎて早急に聞き出す必要となった。
「クラリオン君っ!?なんでそんな間を空けるんですっ!?正直に言ってくださいね!?」
磔台をがくがく揺らされる。
「まって待って待って!!法律を照らし合わせた結果、犯罪じゃないかどうか整理にするのに時間が掛かっただけで問題ないです」
「法律を犯してなくても悪いことしてるなら大問題です!!今からミヤちゃんけしかけますよっ!」
けしかけると言う聖職者が言うセリフじゃない言葉を投げ飛ばす。
「待って!ほら、自分さ、武器製作やら道具作るでしょっ!?今回その規模が大きいだけで・・」
「その規模ってどのくらいですか?」
それにまた間を空けると・・・。
「戦術規模?」
「ミヤちゃん!!やっちゃっていいです!」
「ん」
「待って!待って!待って!待ーーーーーーーっっ!!!!」
結果。彼はこのあとあっけなく空船を建造していたことを自白したのだった。
それで・・・。
「えーー。こちらが最近になって完成した空船、吹雪型駆逐艦一番艦の吹雪です・・」
彼が空船を建造してるとほざくので半信半疑でミルティア達一同はその現場に向かうことにした。が、まさかボードに乗って移動させられるとは思ってもいなかった。そして町を出て人類未踏の地を飛び、幾つの野を越え山を越え、さらに進めば人工物がポツリと見え、そのまた近くに寄れば彼が言った空船のようなものも見えてくる。
そんな場所に降ろされて、先ほどこれを空船と言い放ったのだ。
「カッコイイとか言ってくれると今後の励みになります」
これに皆は・・・。
「でけええええ!!!」
「おっきいね~」
「本当に空船なのよ・・」
「はぁぁぁああああ・・・」
男子のテンションは高かった。遠目から見えた時点で高かったが、間近となれば最高潮に達した様子に彼もご満悦。それに対してマルリは本当だったのかと驚き、ミルティアに至ってはすっごいため息を吐かれた。
「そうだろう、そうだろう。吹雪は大型駆逐艦だからな。だけどミルティア先生、ため息はやめて。出来映え、性能はどれも確かな仕上がりだから」
本当にこの子は・・っ。どうして毎回こういう事ばかり・・・。
確かに法律が届かない未開拓地なら違法にはならないだろう。が、空船にも車と同じように運用するなら色々と規則や法律があるのだ。それを考えるとどう判断すればいいか分からないし、そもそも空船の規則や法律などミルティアが知ってるわけがない。しかし・・・。
これは個人で許される範囲の代物なのだろうか?
よぎる不安。どう見ても彼の空船は遊覧船でも貨物船の類でもない。しかも船体は見たこともない鉄鋼船。さらに甲板に砲が置かれてるから武装船であるのも分かる。
ともかく色々と聞かなればならなかった。
「・・クラリオン君、もう一度聞きますが、これ空船なんですよね?」
「そうだよ。吹雪型駆逐艦一番艦の吹雪です」
「ふぶ・・くち?えっと、ふぶきと言うお名前なんですか?」
「愛称はブッキーも可」
「ふぶきですね」
余計な話しは無視して根掘り葉掘りとミルティアは聞きに行く。
「それでどうして空船を作ろうと思ったの?」
「なんか空船見たら作りたいなとふと思いつきで」
嘘をついてる様子もないので、本心なんだろうなと思うと眉をしかめたくなるが何も言わず我慢する。
そんで彼は続けて言う。
「けど思いつきでやるもんじゃないね。ここまで来るのに使った時間と労力が半端なくて、目的忘れたり、一時保留もしたりでやっと一隻だよ」
ため息を吐きたくなったがここも抑えた。
「それで空船を作ってどうするつもりだったの?」
「ん~・・、んーー・・。艦隊組んで写真撮影とか?」
やってる事は大掛かりなのにやる事が浅い・・!
だがワンチャン上手く説得させれば、解体させて無かったことに出来るのでは?と言う期待も出来た。
「けどクラリオン君。この船に沢山鉄を使ってるようだけど、クラリオン君なら色々沢山作れるし、もっとカッコイイの作れると思うんだけどどうかな?船以外なもの作ってみない?」
否定するような言葉は使わずにどうにかやめさせようと誘導するも・・・。
「え?やだ。艦隊組むまでやめられない止まらない」
ここまで来てやめる選択肢は彼は持ち合わせていない。
はぁ。分かっていますよ。簡単にはいかないなんて・・。けど、どうしてこう、本当にこう、こんな我が強いんでしょうか・・。
一方。子ども達は・・・。
『この建造所では複数の3Dプリンターが空船を部分ごとに製作しております。目の前にある3Dプリンターは船体を主に製作しております」
アイが子ども達を引き連れて建造所の見学コーナーを開催していた。
なんであれ大きい機械が動く光景は子どもの好奇心を刺激するようで、いつもなら興味なさそうなマルリやミヤちゃんも長々と眺めるほど。
『奥のブースエリアではこれらの基礎となった試作小型3Dプリンターが置かれております。今でも素材を入れれば動きますので、何か作ってほしい方がいればお気軽に声をおかけ下さい』
その中で製作体験コーナーは好評だった。
チチチ・・・(もしやこれでご飯も・・・)
『見たこともない技術ですね・・。これで貨幣作りませんか?億万長者間違いなしですよ』
与吉もゴーレムも物理的に倫理的に駄目だがそれなりに満足した様子だった。
こんな感じで急なお披露目会となったわけだが、見学と体験コーナーが功を奏したようでメルダー達からは大きな反対意見は出ず、ミルティアの方では・・・。
「・・疲れました」
話しは平行線で終わったようだ。
「どこかに話した方がいいんでしょうが・・・」
自分1人で解決できる問題じゃないので相談したいところだが、この問題を対応してくれるところがあるのか怪しかった。まず場所が人類未踏の地のそのまた奥。領土内の出来事ではないから恐らく憲兵は動かないか動けないだろう。
「ギルドは・・・。はぁ。最近対応悪いし」
ギルドに至っては彼との接触は慎重になっている。忘れてるかもしれないが彼は国家間のパワーバランスを著しく変え、国際情勢を不安定化させた存在なのだ。しかもまだ彼には秘蔵してる戦略級魔導石があるとされ、接触しただけでも何処の誰が次第で国際情勢はピリつくのだ。
だからギルドは彼との関わりには正当化した公文と理論武装も用意しておかないとどこの国から何を言われるかたまったもんじゃない。しかもそんなのに対応できる人材が今のフォレスト・トレンボにはいない。もし空船建造とか不可解な行動を知ったら相当に頭を悩ますのは間違いないだろう。
しかしそんな事情なんか知る由もないミルティア。この事が世間に明るみになれば国際情勢がどうなるか・・。そんな状況であるミルティアが下した決断は・・・。
「・・まあ国の外ですし、誰も対応出来なければ私も対応できないってことですよね?」
ミルティア。黙認に決め込む。聖職者としてどうかと思うが、彼の行動は突拍子がないので仕方ないとも言える。
まあいざとなればミヤちゃんにお願いして止めてもらいましょうか。
こうして彼の空船建造はシルル教会では公になったがこれで終わりと言うわけじゃない。そもそも彼がミヤちゃん達に秘密でこそこそしていたのが問題であって、当のミヤちゃんがお許しが出ない限り許されないのである。
と言うことで彼の一通り彼の行動を理解したミヤちゃんの判断は・・・。
「ギルティ」
とのこと。
「全部正直に話したじゃんっ!?見せたじゃん!有罪ですか!?また磔ですかっ!?」
再度シルル教会で彼は磔台に縛られる。が、勝手に1人で何処かに行かなければ空船建造自体は問題ないようで、一緒にいることが条件で許すとのこと。
結局ミヤちゃんの独占欲と言うか拘束はまだまだ続くようである。
ワイに自由は無いんか・・・。
?????
あの日、突然天命が下った。言葉通りの神からのお言葉を。いや、正確には私には下っていない。下ったのは我が国の建国前から生きていると言う天馬「バリオス」にだ。
何の前触れもなく、分厚い雲に覆われた空に一筋の光がバリオスに降り注いだのだ。言葉では言い表せないそれは神の威光と言ってよかった。そしてそれはバリオスに何かを伝えていた。
私はその光景を偶然見てしまっただけに過ぎないがあれは間違いなく天命だと確信した。
そんな呆けている私に気づいてかバリオスは真っ直ぐ見つめてくるのだ。そして・・・。
『戦だ。戦が始まる。何百年ぶりか・・。急げ。フェニキアの末裔よ。もう舞台は整っている。栄光がもう射しているぞ』
バリオスが私に念話をしてきたのだ。私は更に確信した。
最近中央国家の連中が正体を隠してある話しを持ち掛けてきている。
今、大陸の国家間のバランスが崩れている。その原因は今では有名なフェレストリア王国、その中で特にオヴェスト・トレンボと言われる迷宮都市。
秩序を守るためにも是非貴国の協力が必要だ。共に戦ってくれるなら仲間として準中央国家枠に迎えいれたい。勿論一定の推薦が必要だが、我が国は当然として過半数も貴国ならばと推薦するだろう。
だからどうだろうか?我々も共に戦うし支援も惜しまない。大陸の平穏の為にも迷宮都市を攻略していこうじゃないか。
あまりに馬鹿けた話しで何を血迷ったことを言ってるのかと思った。しかし、あの天命、バリオス。偶然ではない。必然だと。戦とはこの事を言っていると。だから私はあの時から今でも後悔はしていないのだ。
「バリオスの機嫌はどうなっている?」
「よく寝て、よく食べ、常に東の先を見つめております。しかしバリオスが念話してきたことはそれ以来ないそうで」
「そうか」
「しかし念話とは。あり得なくもない話ですが文献にもそのような事が書かれたものはございませでした」
「私自身も信じられないがな。と言うより喋れたのなら喋れと怒りたくもなったな。ここ最近、調教師の骨を折ったり、踏み殺そうとしてきたと聞く。理由があるなら言えばよかろうに」
「ああ、それでしたら巷で擬人化と言うのが流行り、バリオスを題材にした絵を見せたところ、それが激怒した理由だと言われてますな」
「あれか。よくは知らぬがバリオスが雌として認知されていたと。しかし下々の考えは理解出来ないな」
「陛下、擬人化は侮ってはいけませぬ。廃れていた騎兵も活躍の場が増えてクッズ販売も売れて人気も上がり、今年の我が国の予算の1割倍増させるほどです」
「・・その経済効果は認めよう。しかしそれは国の威信として大丈夫なものか?」
「陛下。今はどうあれ資金が必要です。下手をすれば案件で我々が美少女化されてしまいますから」
「そうか、分か、ん?美少女化?」
聞き慣れない言葉につい相手の顔を見返すも。
「それよりも陛下、これからやる軍事会議です。想定より時間が掛かり補給路からの供給も限界が近いです。中央国家と足並みを揃えると言ってもこれ以上は待てませんぞ」
「分かっている。今日は中央の上級将官も来ている。まずは中央がどこまで作戦段階を終えているかでどうかだ。もし遅れているなら我が国アラドスはこれ以上待たぬと言わねばならないこともな」
もうすぐオヴェスト・トレンボに火の手が伸びる。




