第53話 なに?こんな状況から入れる保険でもあったの?
前回のお話。遂に特型駆逐艦の船体に試験用の砲一門を用意するだけで四苦八苦する彼ことクラリオン。まだまだ先が長いと思う彼とアイであったが・・・。
「まさか昨日の今日で2隻目になるとは・・・」
自動装填装置の有無から数日。予定では自動装填装置を完成させて、艦首の試験用単装砲から史実の12.7cm連装砲(A型)に換装して、艦尾にもあと2基の連装砲を搭載している頃合いであった。
が、今の目の前には2隻目の船体が浮かんでいた。しかもその隣には艦首が吹き飛び、黒こげ模様になった辛うじて浮かんでる船体が横付けされていたのだ。
『感傷に浸るも分かりますがそろそろ作業に移ってはいかがですか?』
そんな様子にお構いなくアイは言葉を掛けるも。
「今、気分が複雑なの。感傷と2隻目の高揚感がせめぎ合って・・何て言うか絶望と希望が融合してカオスオブドラゴン」
『どこのカードモンスターですか・・』
さて、何故こんな事になっているのか言えば事は数日前・・・。
「・・・・よし!こっちOK」
『船体に中身が無いのが幸いでしたね。そうでなければこんな突貫工事出来もしません』
「ホントだよ。おかげで色々試せたし、今後の参考にもなった、しっ!よしこっちも繋がった!回して!」
前回の砲塔に自動装填装置が無い事実に装置を作って取り付けようと彼らは突貫作業を行なっていた。
装填の形はどうするか?マガジン式か?ベルト式か?さらに架砲だったものを砲塔に変更するとなると砲塔下に新たな区画を設ける必要があるなど、する事なす事が多かった。それでもスキルで秒足らずで対応できる作業効率で、サクサクと作業は早く終わらせることが出来たのだ。
『補助機関から動力連結・・。ギヤに接続します。可動部分から離れてください』
ギギギ・・・。
『砲塔の旋回、砲の駆動も問題無し。装置の動作確認を開始します。空砲ですが耳にお気を付けください』
「撃っちゃって~」
ドパァァンッッ!!
ガコンッ!ガチャ・・シューー。ガガ。ガチャ・・。
『自動装填装置、動作不良なし』
「よっしゃぁぁあああーーー!成功だぁ!!」
そして試し撃ちで事件が起こった・・・。
「仰角低くない?」
『自動装填装置の関係で25度しか傾けられません』
「それ駄目じゃない?」
試験動作であらゆることを確認していく。
なお、船体を傾ければ仰角は取れることは取れるらしい。
「あとよ砲塔の旋回速度も遅くなってない?」
『自動装填装置を付ければ重くなるので当然かと』
旋回速度が史実より遅く、自動装填の装填に6秒も掛かった。
満足と言えない結果が続く中ついに・・・。
『先ほどで船体を傾ければ砲塔の仰角や俯角が取れると補足しましたが、傾斜体勢での砲塔旋回がどの程度までかは不明なので確かめておこうと思いたいのですが』
「ああ、そう言えばそうか。よし。確かめるか」
と言うことでわざと船体を傾斜させていったが、ある程度の角度になったら・・・。
ギィィィイイイイーーーーーーー!!!!!
突然砲塔から間高く擦れる金属音が響いた。
「何事っ!?」
『やはりトップヘビーでしたか』
「どういうこと!?」
『架砲から砲塔に変更、自動装填装置による砲塔の重量増加によって、浅い角度で可動限界が起きたと言うことです』
ただ問題はそこではなく・・・。
「砲塔が今にも落ちそうな理由はっ!!??」
砲塔がぐらつき始めたのだ。
『そうですね・・。思い返せば突貫作業だったので砲塔の取り付けが浅かったことも相まって、傾斜角度によっては・・』
「よっては?」
『落ちますね』
通常、砲塔は船体に載っかるように設計されていて、落ちないような設計はされてない。しかも砲塔自体が重くなり、取り付けも浅いこともあって極めてバランスが悪いトップヘビーな設計になっていた。つまり・・・。
「『あ』」
ちょっと傾けむければ砲塔が落ちてしまうのだ。
んで、結局どうなったかと言うと・・・。
「綺麗に艦首が吹き飛んだな」
『しかし傾斜40度で砲塔が落ちるとは』
「船って難しいね・・」
砲塔と弾薬が地上に落下して爆発。地上と近い距離で浮遊していたこともあって船体全体に衝撃波と爆炎が襲い、船体に残った弾薬が誘爆。艦首が吹き飛んだ。これが冒頭の艦首が吹き飛んだ黒こげの船体の正体である。
「マジでどうしよう。吹き飛んだ艦首は拾ったけど。くっ付ければいい問題じゃないし」
『根本的に船体設計から見直しでしょう』
さらにある問題も露呈した。船体強度である。全体的に装甲が無いと言っても過言ではない中で船底が爆発によって大きく歪み、亀裂で穴が大きく空いてしまったのだ。いくら駆逐艦といえど致命的すぎる防御力だった。
「これ改修でいけない?追加装甲とかしてさ」
『ボロボロすぎて改修するより造船した方が楽ですよ』
船体内部も色々と亀裂や損傷があるだろうし、海水は入ってこなくても魔力と言う目では分からないものが入ってきたり漏れたりすれば、船体にどんな影響を受けるか分からない。そう考えると新造した方が楽なのだ。
「あぁ~~~うちの吹雪がぁ・・・」
彼もそのことは理解しているが、そう簡単に踏ん切りは付けられない様子。
「やだよ~~。ここまでやっと・・やっとだよ。やっとここまで来たのに・・・」
今までの努力が水の泡ならぬ鉄屑の山になるのは、精神的に辛いものらしく身体を丸めてどんどんアルマジロにような体勢になっていく。
しかし。
『ご心配なく。前々から船体強度不足を否めないブリキ缶と思っておりましたが、火薬に爆発石を使うことになった時点で、あ。もうこの船体は駄目だ。と確信し、対策を模索して既に実行に移していました』
そこはアイ。以前から問題あると対策を考えていたらしく、横たわっていたアルマジロモドキも首を上げる。
「なに?こんな状況から入れる保険でもあったの?」
『残念ながらこんな状況から入れる保険はありません。先ほども言ったように造船した方が楽です。ですので現在2隻目が建造中です』
「・・・2隻目っ!?」
寝耳に水でアルマジロモドキは一瞬で人間に戻った。
『はい。明日完成です』
「明日っっ!?!?」
しかも明日には出来ると言う。
「いやいやいや。あれ動かす時糞うるさい音や光は?流石に気付くぞ」
『お手すきで3Dプリンターを改善をしてまして、もう解決済みです。貴方ほど忙しくしてるわけでもありませんでしたので』
アイ曰く、3Dプリンターで今より精密な3Dプリンターな部品を作っては施してを繰り返し、粗末なプリンターからまあまあなプリンターにはなったらしい。
「確かに付きっきりで作業を手伝ってもらっていたわけでもなかったけど、そんなことしてたのか・・」
なお2隻目はプリンターに動作不良がないか確認するのに建造したもので、試験的なものだったと言うのは秘密にしている。
若干史実とは違う船体サイズなので、言うとうるさいでしょうし、見ても分かりはしないでしょう。
『それとシステムもある程度改善させて建造に掛かる時間も短縮。5日で建造出来るようになりました』
駆逐艦の建造が30日から5日に大幅短縮。超が付くほどの改善振りである。
「マジかよっ!」
『ただ魔力関連の扱いは無理なので、魔導石を置いて強引に出力を上げました。何故か不規則な振動を繰り返しましたが』
「ちょっと様子見に行っていいですか?」
しかしそう万事上手くいった訳ではなく、オチも用意していたようだった。
魔力暴走の予兆ではありませんように。
こうしてまさかの2隻目が用意されていたわけであった。
そして最初に戻り・・・。
「今、気分が複雑なの。感傷と2隻目の高揚感がせめぎ合って・・何て言うか絶望と希望が融合してカオスオブドラゴン」
『どこのカードモンスターですか・・』
それで本日。その2隻目の建造が終えて、新しく機関部を用意して、載せて、造船所から出したきたところだったのだ。
『それとこれが設計図です。内部構造をこのようにして、こことここにハッチを追加をしてあります』
「わあ。結構いい改良・・」
さて、2隻目だが試験用だったとは言え、船体強度不足は以前から問題視していたこともあって、改良を施したものらしい。
まずは今まで取っ付けの突貫作業で設備を施していたから、配置を見直した船体構図になっており、側舷や船底の一部に開閉ハッチを設置して荷物運搬や移動がよりスムーズになるようにも改善したものなのだ。
設計図に軽く目を通していく中、その前にどうしようか悩むことが彼にあった。
「この一番艦はどうしよう・・」
未だに引きずる一番艦。艦首も取れて黒こげになっていても飛べないわけじゃない。だからこれをどう扱おうか迷っていた。ただそれにアイは彼とは違う見方をしていたようで。
『試験艦ではないのですか?恐らく今建造した船体が基本となり一番艦と言う立ち位置が正しいと思うのですが』
「え?」
『え?』
まあ今後も同型を建造するなら一番艦なのだろうが、同型の建造はもう無いと言ってよく、殆ど試験運用がメインな立ち回りしかしてないのでアイが言う通り試験艦が正しいかもしれない。
だがアイからすればそんなのはどうでもいい話しだが、何か言って彼が拗らせアルマジロになると面倒なので・・・。
『・・では一番艦と(新)一番艦と言う立ち位置でどうでしょう?』
「それだ」
言葉巧みに言い換えて彼を納得させるのであった。
これがチョロいと言うやつですか。
こうして(新)一番艦に色々と施す作業に入るわけだが、
『それと(新)一番艦・・一番艦呼びでいいですね。命名は・・』
「吹雪」
『そのまま吹雪ですね。では吹雪なのですが希少金属の余裕が無いので、それらを使った設備や部品は元一番艦から移さないと運用は難しいです』
「・・・・・」
何事も簡単にいかないのが彼らのお約束である。
そんなこんなの2隻目だが突貫作業から学んだ事もあって作業自体はスムーズ。数日で艦橋、サイドスラスターの設置、砲塔も史実通りの3基の12.7cm連装砲(見た目A型)も付けられた。
『前回の反省から砲塔は改善しましたが更に重たくなりました。旋回速度の低下、速力も支障が』
※速力が低下したと言ってもまだレジプロ機並みの速度は出せる。
「それは仕方ない。見た目は大事だし。それに今は単艦である以上、砲塔全基単装砲と言うわけにもいかないし』
『何処かと戦う訳ではないでしょうに・・・』
砲塔についてだが砲塔は船体が回転しても落下しないようにして、従来の砲塔は俯角を取って撃てる仕組みは無かったのを-8°まで俯角を取れて撃てるようにした。
船体下方の相手に対して砲撃する場合や船体を傾斜させての砲撃で少しでも船体傾斜角度を浅くさせるためである。
ただこういった改善でさらに砲塔は重量を増し、より欠点が大きくなってしまったが。
ついで火薬庫と砲塔区画の室内魔力が一定に保つ作りにしたりと誘爆を起こさないようにも気をつけた。
装甲についてもアイ曰く2隻目は全体装甲(船底も含めて)を施して最低35㎜の2重装甲、バイタルパート部分には最大65㎜の装甲を充てたのこと。おかげで巡洋艦と同等かそれ以上の装甲になった。空中ではどの角度から撃たれるので最低でもこのくらいは欲しかったのこと。
『正直、装甲以外の防御手段も欲しいのですがね』
「今は無いから諦めよう」
こうして一長一短な強化が成されてるも船体内部ではそのしわ寄せが来ていた。
缶やタービン、燃料タンク(吹雪は4缶タービン2基2軸)の変わりに機関部、補助機関で1缶分のスペース、砲塔化したことで艦首と船尾が砲塔区画となって、全体スペースとしてはかなり潰れており、思ったより広くない中身になったのだ。要は詰め込み過ぎのぼくのかんがえたシリーズに近いものだった。
「まあ見かけは良くなったし、問題にもある程度は対処した!!だが日駆の代名詞と言えば酸素魚雷だが・・・!」
そして魚雷についてなのだが、元々吹雪には61cm3連装発射管が3基が配置されているが、代わりをミサイルやロケット弾なんかを搭載するか話し合っていたが・・・。
「せめて黒色火薬が作れれば・・」
『火薬が作れたのであれば爆発石の火薬なんて使いはしませんよ』
燃料が用意できずに終わった。
まず石油などが無いので代用で爆発石を使った固形燃料とも思ったが、魔力反応が過敏過ぎるから外に出しっぱなしになるロケット弾は爆発の危険が高すぎるので早々に諦め、テルミット反応を使った推進薬も検討したが、アルミも無いから無理だった。と言うよりそもそも酸化剤、添加剤の材料すら無いのにどう頑張っても燃料なんて作れやしないのである。
「現実は厳しい・・」
と言う現実を噛みしめる結果に。結局何も撃てないが発射管(防盾無しの初期タイプ)だけ置くことにした。
彼らにはミサイルやロケット技術なんかは早かったのである。
こうして発射管を用意して載せてついに・・・。
「出来たああああーーーーーー!!!!!」
無事見た目、ほぼ吹雪型駆逐艦が完成したのだ。
時間はあるし魔法もあるし、思いつきで空船を建造しようと今日この日、ここまで来るのは簡単じゃなかった。苦労、挫折、中断して、アイが仲間になってやっと来れた・・。思い付きでやるもんじゃないな。
感無量だった。
『これでもう終わりですね』
アイも彼がやりたかった事はやったとそろそろアイ自身も魔力の観測を本格化させたいと思うところ。だが・・・。
「ん?まだ終わってないぞ?」
しかしこれで終わりでなかった。
『・・まさか艦首にビームやらドリルでも取り付けようとでも?』
一体これ以上何かあるんだと半目で見返すようアイは見つめるが。
「それはまた別の機会でやりたい。だがこっからが一番気を抜いてはいけないところなんだ」
『これ以上何が?』
「それはな・・・・・外見だっっ!!」
『はい?』
それに彼は真面目に説明する。
「いいかい。これはかなり大事だ。船体の基礎や中心を作り、そこから船体性能をカスタマイズしたり、配色、パーツの付属して自分が求めるカッコ良さやロマンを高めていく・・そう言ったことが出来るゲームに人は1時間2時間掛けるのは当たり前なんだよ!!!今!そういう段階にやっと入ったんだ!!」
『ゲームじゃなくて現実ですが』
「現実だからだよ!」
言い返すも一番最初に建造した船体を思い出す。煙突は不要なのに「ないと駄目」と駄々をこね、2隻目は煙突無しで作っていたのに何故か煙突を付けだしていたのだ。これらの行為と彼の言葉にやっとアイも理解した。
『・・つまり装飾ですか。非理論過ぎて考えてもいませんでした』
「いいかい?もう一度言おう。外見は大事だ。キャラクリにしろ船体カスタマイズにしろ自由度が高いとどこまで似せられるかどこまでやれるか試すのが人間だ。しかも現実でそれが可能ならば当然やるに決まっているだろ」
『・・・・・・・』
確かにこの星なら可能だろうがそれが当然と言える思考が一体どんなものか、関心と無関心がアイの中でせめぎ合う。
もうさっさと終わらせましょう・・・。
「よーーしっ!やるぞぉぉぉーーーー!!こっから大事だっ!!」
こうしてまだ作業はちょっとだけ続くのであった。
2024.01.10 一部文修正。




