第51話 う、浮いてる!浮いてるっ!浮上しとるっっ!!
前回のお話。3Dプリンターを作った彼ことクラリオンとアイ。遂に空船建造が間近となる中で、周囲では不穏の影が静かに集まり出す・・・。
人類未踏の地。倉庫前兼工場(仮)・・・。
遂に3Dプリンターを動かす為に来たのだが、来て早々にちょっとした問題が発覚する。
『雨風防ぐ建物を建てたのは聞きましたが、なんで周り全部壁で覆うんですか』
着いた矢先にアイが3Dプリンターの建物を見て、口挟んできたのだ。
『どうやって製作した船や物を出すので?そもそも建物自体が小さすぎてプリンターの可動域の邪魔です。取り壊しですね』
「・・・・・・」
と言うことで記念すべき空船建造の前に建物の取り壊しからやらされるのだった。初っ端から思うようにいかない彼である。
なお後日、アイ考案の建造所の図案を貰って、一ヶ月で工場(仮)から建造所に建て直したとさ。
話しは戻り・・・。
「じゃあ、更地なったことで3Dプリンターの稼動させたいと思います。準備は?」
『問題ありません。いけます』
作るのは以前言っていた吹雪型駆逐艦。既に3Dプリンターには記号式も必要な資材もセットしてあるので、ボタン一つ押せばいつでも動く。
そして念願の建造に気分を入れ替えて意気込みを入れる。
「・・っ、よし!」
呼吸を整え、ボタンを押すと遂に・・・。
ヴォン。
動き出した。この日、記念すべき日となった。
感動と興奮に包まれる中、プリンターは動きを加速させていく。
ゴオォォン。
重低音が空気を揺らし、地面の砂や小石もさざ波ように揺れ動き・・・。
シューーー。
蒸気が噴き出すような音。魔力が流れるラインに光が伸び進み、いくつもの駆動音が合わさり重なり、更に大きな唸りを上げていく。
ヴィーーーン。
甲高い音と主に周囲に光が灯す。幾何学な、人工的な、規則正しい光の線が浮かび上がり、列を成し、数値化された動きを見せる。
それに合わせて光の粒子が舞い、求める形になろうと粒子が繋がり重なり纏まって、船の形に構成されようとしていく。そして・・・。
ガラガラァアアーーー!!!ギィィィイイイイーーーーンンッッッ!!!
精密作業が出す音じゃない音と金属同士の酷い摩擦音の騒音が響きだした。
「ねぇ、これ大丈夫!?爆発とかしないよねっ!?光もなんか強くなっているんだけど!?大丈夫だよね!!?」
途中から不安しかない騒音にアイは。
『どの部品も精密に作られた物ではありませんし、まともな潤滑油も使ってませんし、まあ、予想はしていたので大丈夫です』
「予想してたんかい!」
3Dプリンターを作れたと言っても必要最低限度の資材で作った物。物理的な問題が起きてもおかしくはない。
まあ爆発するんでしたらボタン押した瞬間に爆発でしょうしね。
そんな事を思いつつもアイは口にはしなかった。
「ねえ本当に爆発しない?爆発オチとか嫌なんだけど?」
『してもちょっとした超新星爆発程度ですよ』
「それ、地表で起きちゃいけない爆発っ!!」
だがそれよりもアイはもう一つ思うことがあった。
部品は今後精密な物に変えていけば対応できますが、動作させる為に記号式を分割して動かすとなると・・・。
『やはり時間が掛かりますね』
ギュルルルルヴヴヴヴヴヴーーーーーーーーー!!
そもそもアイらの3Dプリンターは原始的な機械と言っていても複雑で高度な処理能力を持つプログラムでないと動きはしない。なので元の記号式では並列作業や並列処理の効率重視していた。
しかし分割によって並列作業自体が出来なくなり、一つずつタスク処理していく直列作業となったのだ。
作業過程の違いではありますが、並列作業の方が総合的にも製作時間も短縮できたのですがね。
「ねえ、呑気に何か言ってるけどこの光どうにかならない?さっきから光が増している感じがあるんだけど」
そして何故かどんどん光量が強くなっていく3Dプリンター。
『私には観測できませんね。恐らく魔力の光ではないでしょうか?逆説的に考えると私には魔力は観測できないので超新星爆発の光ではないと思いますよ。ええ、放射線の心配もないかと』
アイ曰く爆発の光ではないらしい。
「なるほど~。じゃあ安心か~~って!なるかボケェェ!もう前が光で見えなくなっているんだよ!停止ボタンは無いのっ!?」
『緊急停止設定は、記号式の魔力消費削減の一環で外しました。安全第二設定で運行しております』
「おいいいいーーーーーっっっ!!!」
なお、無理に魔力を止めればそれこそ超新星爆発が起きる恐れがあるのこと。
また全ての安全装置の設定も全て魔力消費削減で外してるそうな。安全第二どころか最下位設定だった。
因みに光りの方は自然に収まった。原因は魔力消費が想像以上に激しかった事が過剰な光を生み出したような。
あかんな。早急に直さないといけないところが多いぞっ。
そして次に気になるのが。
「改善が追々として・・。これいつ頃完成するぽっい?」
彼も完成までの時間が気になるところ。しかしアイも先ほど思っていた通り予想は難しく。
『まあ30日で建造出来るといいですね』
「さん、じゅっ・・遅、いや早、い?いやでも・・・」
大なり小なり船が30日の建造で終わるのは、早いと言うべきか遅いと言うべきか。
建造時間も改善が必要か・・。
それから時間を飛ばして30日後。そこには・・・。
「出来てるっ・・。船が・・出来てるっっ!あああ゛あ゛あ゛ーーーーっっ!!しゃぁぁああああーーーーっっっ!!!」
全長118m、最大全幅10.3m深さ6.25m。船体は長船首楼。艦橋も付けられ、何より艦首のシアと船体中央まで伸びたフレアが特徴的なそれは間違いなく『吹雪型駆逐艦』であった。
「おおーーーっ!!画像や資料でしか見たことなかったけど、けどっ・・!」
完成された船体に彼は歓喜を上げるここでも一つ気になった。
「武装はっっ!?」
どこを見渡しても砲塔も無ければ魚雷発射管も無かったのである。
『たかがお遊び以下の3Dプリンターではそこまで出来ませんよ。それと前にも言いましたが3Dプリンターは液体の形成が出来ませんので、潤滑油など必要なところは部品一つ一つ作って組み立てないと駄目です』
と言うことで潤滑油が必要な部分は作っていないようだ。なので船体は空洞でスカスカでハリボテに近い。まあ、空船仕様にするから従来の船に必要な設備は必要としないから当然でもあるが。
『それと潤滑油の代用品の方はどうなっていますか?』
「・・・顔見知りの料理店からごま油ならあると言うことで、それを・・」
『その油のチョイスどうにかなりませんか』
稼動の度にいい香りがしそうである。
「ああ・・まだ空船への道のりは遠いな~・・」
『嘆くところすいませんが、そろそろ作業に入りませんか?まだ序盤ですよ?』
そう、これはまだ序盤。あくまで船体の建造しただけで、空船の中核である『浮遊石』を機関部とした設備の設置はこれから。それが終わってようやく空船の完成なのだ。武装なんかは最後の最後である。
因みに3Dプリンターでは未知物質(特に魔力関係の深い物質)は未対応なので、こっからは手作業でもある。
「くっ・・自由時間も圧倒的に足りないっ・・・」
それから一週間・・・。
手作業と言ってもスキルを駆使すれば、重作業も簡単にこなせるので日数はそこまで掛からずに済んだ。
そして本日は空船の中核である『浮遊石』の設置である。既に船体には浮遊石を機関部とした設備の設置は終えて、浮遊石の設置が終われば建造は晴れて完了である。
「それで浮遊石なんだけど・・」
思い出す浮遊石の問題。
記号式の制御が無ければ周囲の重力は荒れ狂い、近づくだけで血の流れが止まったり逆流して手足を青くさせ、記号式で制御する魔力が足りなければ、当然周囲の重力は荒れ狂い、バーバリエ宿屋が浮きかけることをやらかし、つい先日でも空間を歪ます事を起こしている。
「これホント扱い丁寧にしないとヤバいんだよな~」
使う浮遊石は一欠けら程度。元々は巨大な浮遊石をスキルで圧縮して3mの正方形の大きさにしたものだ。一欠けら程度が丁度良いと小石程度にスキルで分離させた。
「サイズはこんぐらいでいいか。あとはこれに入れて・・」
浮遊石を機械めいた装置に入れ、安全対策も入念に輸送するボードに浮遊石を制御する記号式も描いて、船体までのルート上にも床に記号式も描いておくなど徹底する。
そして浮遊石を船体の機関室まで運び・・・。
「よし。機関部にセットするぞ」
かつて主機や缶が置かれた機関室の一角には、浮遊石を主機とした機関部とそれらを制御するスイッチやレバーに様々なメーターが設置されていた。そして中にはアイが諸々の準備を済ませて待っていた。
『セットしたならそこのスイッチを。補助魔力(魔導石)装置から魔力供給が開始されすはずです。供給魔力量が一定になりましたら自身の魔力を切って、補助のみの浮遊石を制御してください』
「了解」
スイッチに手を掛け、魔力供給メーターを確認すると。
「・・よし、魔力切り替えるぞ~」
ブォン。ピカ・・。
補助装置の一時的な魔力供給で機関室に明かりが点灯する。
魔力供給は安定・・。重力も・・特に何も起きていない。よし、問題無し。
浮遊石の制御に問題が無いのを確認すると次の工程に移った。
『次は浮力の伝達です。配線でしたか。これに浮力を伝達させて船体を浮かせると』
「モドキ石と言う物を粉末にしたのを竜骨とか肋材、船体全体に付けたり混ぜたりするらしい」
金属に混合や合金にする事も出来るが、あいにく3Dプリンターには未対応な物質な為、今回は彼のスキルで金属と混合した鉄板を竜骨と肋材に張り付けて用意した。
『これで本当に浮かぶのか未だ疑い深いですね』
「いちよ空船の中見て確認したことあるから大丈夫とは思うけど。次はこのレバーを引けばいいんだっけ?」
アイは答えると同時に注意点についても話す。
『はい。浮力出力、浮力供給ラインの設定もお願いします。注意事項として浮力制御には宇宙船の重力制御システムも参考にしており、それがどこまで動作に影響するかは未知数であるので、極端な設定は控えめにお願いします』
「はいはい、気を付けますよ」
そして各種設定も終わらして・・・。
『第二、第一、安全装置のロックを解除。最終安全装置・・ロック解除。機関始動いつでも問題ありません』
「・・ここまでは順調。あとはこのレバーを押すだけ・・だけなんだけど」
握るレバーは配線接続装置。これに主機と配線が接続されて、船体に浮力が行き渡る。
しかしここまでとんとん拍子で物事が進むとどうも不安がよぎる。そう簡単に物事が進まないのが常な彼だから最後に何か起きるんじゃないかと不安になるのだ。だがここまで来てやらないと言う選択はない。
「ええいっままよ!!」
ガチャ・・・!
レバーを強く押し込む。
「・・・・・・」
『・・・・・・』
しかし何も起きない。
「これ浮いてる?」
『船体に高度センサーの類は付いてないので外に出ないと分かりませんね』
すると突如船体が・・・。
グラ・・・・。
「!?」
『揺れましたね』
船体が揺らぐ。そして軋むような音がそこらから響き出した。
「これ浮いてる!?」
『一旦甲板に出ては?』
急いで甲板に出て確認すると・・・。
「う、浮いてる!浮いてるっ!浮上しとるっっ!!」
『成功ですね』
この日遂に吹雪型駆逐艦(空船仕様)の新造が終えた記念すべき日となった。
「やっ・・・!っったたぁぁぁああああーーーっっ!!長年の夢!夢だっけ?まあいい!!出来たぞーーーーー!!!」
『・・・・・・』
そんな中、浮かれている彼と変わってアイはある事気づく。
『ところで少々気なることがあったのですが』
「え?何?どうした?なんか問題あった?」
『これ、いつまで上昇するんですか?』
こうしてる間にも船体は上昇を続けており、このままいけば屋根に激突しそうだった。
「ん?でも確か屋根が開閉できるようにしたじゃん。空船建造所だから空から出入りできるようにって」
『開閉できる設計にはしましたが、操作は手動ですよ?』
「え?遠隔操作とか出来ないの?」
『そんな設定は用意してませんが』
「え、じゃあ操作ってどうやるの?」
『換気ハンドルのところです。換気扇と併用となってます』
「あ~屋根が開けるんだから換気にも・・ってなるかっ!今初めて知ったぞ!」
今知った屋根の開閉操作。だが知った時にはもう遅かった。
『あ。もう屋根です』
「え?あ・・」
こうして少々問題が起きたが、次の日から本格的な試験飛行を行なうようになった。
?????
「現在、作戦地域にて仮装1号から4号艦隊は配置完了。5号、6号は現場から地理的状況から艦隊が視認される恐れがあると配置位置を後方に下げて再展開中であります」
「周囲が山岳地帯と言っても隠す数が多いと言うのも問題だな」
男性は悩ましそうに机に置かれた地図に駒を動かし、現在の状況を確認する。
「仮装7号から9号艦隊も編成完了し、配置に向かっていますが、想定より準備期間が掛かり、物資維持もこれ以上は厳しいかと。すでに各艦隊の士気に影響が出始めております」
「君が言わなくても分かっている。長引かせれば数の優位性が揺らぐことぐらい」
「申し訳ございません。出過ぎた言葉でした」
「構わん。作戦立案がこれなのだ。多少は愚痴りたくもなるだろう」
「しかしいくら中央国家の支援があるとはいえ、こんな作戦・・失敗すれば国家存亡は避けられません、大公や公爵の反対を押し切ってまで・・王は何を考えているのか私には理解しかねません」
「それ以外の言葉は慎みたまえ。今は私しかいないからいいが」
男性は咎めると、再度口を開いた。
「君のいいところは誠実で真面目なところだ。だが世の中全て綺麗ごとで済ませている訳じゃない。近いうちに中央国家との協定会談があるのは知っているだろ」
「小官の記憶では貿易に関する協定だったと・・」
「ああ、そうだ。だがただの協定会議で終わるはずがない。もっと重要な事がある」
「それは・・」
「分からないか?秘密協定だよ。それに絡んでこの作戦があるのだろう。中央国家群もあの時の失敗は起こしたくないはず。流石に今回は何処かの国の協力無しでは作戦も何も無いからな」
フェレストリア王国と中央国家との距離的立地から中継の必要性、どのような作戦にしろ、それなりの物資輸送が生じる以上は空港設備や中継となる国や場所にもそれなりの空船を保有して利用できるところが望ましい。
それに我が国は中央国家との貿易路があり、偽装も容易い。何よりまだ空船の数はフェレストリア王国より質も数も上回っている。即戦力にもなれば支援もしやすいと言うもの。
「それならば何故この作戦が決定に?中央も無謀と思うのでは?」
「むしろこの作戦自体、中央国家から派遣された参謀から提案されたものだと聞いている」
「なっ!?本当ですか!?」
「真相は分からん、だがどう転んでも何か得れる選択肢を用意する奴らだ。成功も失敗も利益が見出せる算段があるのだろう」
「だとしても我々にはリスクが大き過ぎます。そもそも我々にどんな利益が?いいように駒扱いされてるだけではありませんか!?」
「見返りがその分あると言うことだ」
「失敗すれば元の子も無いではありませんか・・・」
まるで現実を分かっていない状況に項垂れた。そんな様子に男性は・・。
「王家の紋章に馬が描かれている由来は知っているかね?」
「それがこの作戦とどういう関係が・・」
「王族しか乗る事が許されない手の付けようがない暴れ馬がいるだろう。あれはな、乱世の時から生きていてな、そいつで出陣すれば勝ち戦で終わる馬だから勝利と栄光を導く馬として描かれるようになったんだ。
だが後にその馬は、ただ長生きの馬ではなかった。
天馬だ。地上に降りた神聖の化身。そいつが玉座の前でこの作戦の通達が行なわれた際に大人しく王の隣で佇んでいたんだよ『戦はまだか』と言いたげに。間違いない、あれは勝利を導く。大公も公爵もその場にいた全員が納得したさ」
2024.02.03 誤字一部修正




